半導体シリコンウェハー・メーカーのシェアを徹底分析(2024年第2四半期):回復の兆し見えつつも株価は5年ぶりの低水準?
ウィリアム・ キーティング- 本稿では、世界の半導体シリコンウェハー・メーカーの最新の2024年第2四半期のシェアと業績の動向を詳しく解説していきます。
- シリコンウェハー業界は2023年に需要が供給を下回り、在庫の増加と収益性の低下が見られました。そして、主要3社の株価は5年前とほぼ同じ水準に戻っています。
- 2024年第2四半期に回復の兆しが見られ、シリコンウェハーの出荷面積は前年同期比で8.9%減少したものの、前期比で7.1%増加しました。ただし、収益性への影響は依然として継続しています。
- シリコンウェハー業界の収益性の低下の主な原因は、在庫の過剰と大幅な設備投資の増加です。しかし、長期的には売上や営業利益の改善が期待され、投資家にとって魅力的な選択肢となる可能性があります。
半導体シリコンウェハー業界の2024年第2四半期アップデート
半導体業界におけるシリコンウェハー部門は、2023年第1四半期に前年同期比で11.25%の減少を記録し、現在の景気低迷の影響を受け始めました。
(出所:筆者作成)
これは、メモリー部門が10年以上ぶりの最悪の低迷に突入してから約6カ月後のことです。シリコンウェハー・メーカーは、堅固な長期契約に守られ、顧客の需要を大きく上回るウェハーを出荷し続けていました。その結果、ウェハーの在庫が急増していました。この状況については、私は以前のレポートで警告しています。
当時の私の結論は次のとおりでした。
「2023年の需要は供給のわずか86%に過ぎず、過剰供給の状況はここ10年で最悪です。在庫レベルは2023年第1四半期にピークに達したかもしれませんが、需要がそれを通常の水準に戻すにはまだ時間がかかりそうです。特にポリッシュドウェハーについては、2024年後半までは回復が見込めないでしょう。」
そして現在、2024年後半に差し掛かり、最新の決算報告によると、回復がゆっくりと始まっているようです。顧客の在庫は減少し、ウェハーの出荷面積は増えています。しかし、主要3社であるSUMCO(3436)、Globalwafers(6488.TW)、Siltronic(WAF)の株価は5年前とほぼ同じ水準に戻っています。
(出所:Yahoo Finance)
(出所:Yahoo Finance)
(出所:Yahoo Finance)
特にSUMCOの場合、状況はさらに深刻で、7月中旬以降、株価は約45%も下落しています。
いったい何が起きているのでしょうか?回復が見えてきているなら、投資家の関心が高まるはずではないでしょうか。シリコンウェハーは、現在の生成AIブームの土台であり、主要なプレイヤーは今後数年でAIサーバーの成長から大きな利益を得るはずです。それでは、詳しく見ていきましょう。
関連用語
シリコンウェハー:半導体デバイスの製造に使われる薄いシリコンの板。半導体チップを作るための基板として使われ、電子機器の基礎材料となっている。
ポリッシュドウェハーは、シリコンウェハーの表面を非常に滑らかに研磨したもので、デバイス製造に適した状態に仕上げられている。これにより、回路を正確に形成することができる。
まず、シリコンウェハー部門の最新データを見てみましょう。2024年第2四半期のシリコンウェハー出荷面積は3,035百万平方インチ(MSI)で、前期比で7.1%増加しましたが、前年同期比では8.9%減少しました。
四半期毎のシリコンウェハー出荷面積(MSI:百万平方インチ)
(出所:筆者作成)
この前年同期比での減少は、まだ回復には時間がかかることを示しています。ただし、減少幅は徐々に小さくなっており、前期比での大幅な改善と合わせて、状況が着実に良くなっていることがわかります。そして、以下の表がその傾向を明確に示しています。
(出所:筆者作成)
2023年のシリコンウェハー出荷面積は前年同期比で約14%減少しました。2024年前半を2023年前半と比較すると、約11%の減少が見られます。しかし、第3四半期と第4四半期には出荷面積が順調に増加すると予想しており、2024年通年での前年比減少率は約5%程度になると見込んでいます。この予測は、以下のグラフで示されているSiltronicの最新の見通しとも一致しています。
(出所:Siltronicの2024年度第2四半期決算資料)
2024年第2四半期、上位4社のシリコンウェハー・メーカーの売上は前期比で12.3%増の約25億ドルとなりましたが、前年同期比では3%減少しました。
四半期毎のシリコンウェハー業界売上高(USドル)
(出所:筆者作成)
一方、主要メーカーのEBIT(営業利益)を見ると、違った状況が見えてきます。2024年第2四半期のEBITは3億3200万ドルで、前期比では3%増加しましたが、前年同期比では約50%減少しています。
四半期毎のシリコンウェハー業界EBIT(USドル)
(出所:筆者作成)
ここで詳細に入る前に、2つのポイントに触れておきます。
1. 米ドルと日本円の為替レートの変動が、信越化学工業とSUMCOの米ドル換算売上高に大きくプラスに作用しました。この影響は2024年上半期全体にも見られます。特にSUMCOは、2024年最初の9カ月間で営業利益が278億円のところ、為替のプラス効果だけで130億円を見込んでいます。
(出所:SUMCOの2024年第2四半期決算資料)
2. 信越化学工業はシリコンウェハーの売上を「電子材料」セグメントで報告していますが、ここにはフォトレジスト、フォトマスクブランク、希土類磁石の売上も含まれます。そのため、私の信越化学工業のシリコンウェハー売上高はあくまで推定値です。
この収益性の継続的な低下は、SUMCOの過去18カ月の業績からも明らかです。例えば、2023年第3四半期には営業利益が302億円でピークに達しましたが、直近の四半期では122億円まで減少し、今期ではさらに70億円に落ち込む見通しです。
(出所:SUMCOの2024年第2四半期決算資料)
Globalwafersも同じような状況です。粗利益率は2023年第3四半期に43.7%でピークを迎えましたが、その後は四半期ごとに徐々に下がり、2024年第2四半期には32.3%まで低下しました。
(出所:Globalwafersの2024年第2四半期決算資料)
ただし、第2四半期の数字には、同社が報告したサイバー攻撃の影響が含まれています。その影響がなければ、Globalwafersの粗利益率は前期比でほぼ横ばいだったでしょう。
(出所:The Taipei Times)
(日本語訳)先週ハッカー攻撃を受けたGlobalWafersの工場の多くが、今日から出荷を再開へ
(日本語訳)GlobalWafers(環球晶圓)は昨日、先週ハッカー攻撃を受けた同社の工場のほとんどで、今日から出荷が再開される見込みだと発表しました。
(日本語訳)世界第3位のシリコンウェハー・メーカーであるGlobalWafersは、先週の水曜日に一部の工場で運用している情報システムがハッカーの攻撃を受けたと声明で明らかにしています。
(日本語訳)同社によれば、攻撃が検出された際にサイバーセキュリティ機構が自動的に作動し、その後、外部のサイバーセキュリティ専門家にも依頼して防御を強化し、攻撃を受けたシステムの復旧に取り組んだとのことです。
また、ヨーロッパの競合他社であるSiltronicも状況は厳しいままです。2023年はずっとフリーキャッシュフローがマイナスで、2024年もその状態が続くと予想されています。
(出所:筆者作成)
これらを考えると、なぜこんな状況になっているのかという疑問が湧いてきます。結局、これらの企業はほぼすべてのウェハー供給に対して長期契約(LTA)を結んでいますし、各社ともに契約で合意された価格が守られていると強調してきました。以下のSUMCOの決算資料の一部がその点を示しています。
(出所:SUMCOの2024年第2四半期決算資料)
長期契約(LTA)が結ばれ、価格も守られているのに、なぜシリコンウェハー・メーカーの収益性がこのように低下しているのでしょうか?主な理由は2つあります:在庫の過剰と大幅な設備投資の増加です。
在庫の過剰
長期契約(LTA)の影響で、シリコンウェハー・メーカーは顧客が必要としないウェハーを長期間にわたって出荷し続けてきました。その結果、顧客の在庫が過去最高水準に達しています。以下のグラフがその状況をはっきりと示しています。
(出所:SUMCOの2024年第2四半期決算資料)
この状態はしばらく問題ありませんでしたが、やがて顧客側の保管スペースが不足してきました。各四半期で出荷を先延ばしにする合意が行われていましたが、最終的には双方の合意により、出荷量が当初の契約よりも減らされることになりました。同時に、シリコンウェハー・メーカーは徐々に生産量も減らしており、これは上記のグラフの「投入量」で示されています。顧客への出荷量を減らし、生産を抑えることで発生した稼働率低下のコストが、ここ6四半期にわたる収益性の低下の主な原因となっています。
この状況を別の角度から見ると、メモリメーカーは短期間で急速に不況の影響を受けたのに対し、シリコンウェハー・メーカーは長期契約の仕組みによって、同様の影響をより緩やかに、長期間にわたって受けているといえます。
設備投資
収益性の低下のもう一つの要因は、ウェハー業界が歴史的な規模の新規設備投資を行っていることで、これにより減価償却費が増加しています。タイミング的には非常に厳しい状況です。
四半期毎のシリコンウェハー業界資本支出(USドル:10億ドル単位)
(出所:筆者作成)
2021年から2023年にかけて、4大シリコンウェハー・メーカーの設備投資額は3倍以上に増加し、驚異的な53億ドルに達しました。この短期的な影響として、減価償却費が増えたことで収益性が低下しています。SUMCOの場合、2024年前半の減価償却費は前年同期比で45億円増加しています。この額自体はそれほど大きくないように思えますが、同期間のSUMCOの営業利益が208億円であることを考えると、その影響は無視できません。
この設備投資の急増には、もう一つの影響があります。それは、2027年まで消化しきれない過剰な生産能力を生むことです。そして、それは以下のSUMCOのグラフに示されている通りです。
(出所:SUMCOの2024年第2四半期決算資料)
このグラフを簡単に説明すると、赤い実線の上にある部分が現時点の予測に基づく余剰生産能力を示しています。つまり、業界は2027年まで過剰供給の状態にあるということです。
一見悪い状況に思えますが、実は良い面もあります。シリコンウェハー・メーカーは顧客からの前払い金や各国政府からの補助金など、多くの支援を受けています。例えば、SUMCOは昨年、日本政府から5億3000万ドルの補助金を受ける予定だと報じられました。
(出所:Reuters)
(日本語訳)日本政府、SUMCOに530億ドルの補助金を提供:ウェハー生産能力拡大へ - 日経報道
(日本語訳)ロイター2023年7月11日 午前11:10 GMT+8 (1年前更新)
(日本語訳)東京(ロイター) - 日本政府は、シリコンウェハー大手のSUMCO(3436.T)に対し、国内の半導体産業を強化する一環として、最大750億円(約5億3,000万ドル)の補助金を提供する方針だと、日経新聞が火曜日に報じました。
(日本語訳)SUMCOは工場建設や設備投資に2,250億円を計画しており、経済産業省(METI)からの補助金がその費用の3分の1を賄うことになると報じられています。
(日本語訳)この発表を受け、SUMCOの株価は8%上昇しました。これは、信越化学(4063.T)と共に、世界のウェハー市場の約半分を占める背景があります。一方、日経平均株価指数(.N225)は0.8%の上昇にとどまりました。
同様に、Globalwafersもアメリカやイタリアでの新規投資に対して、同様に大規模な補助金を受けています。
(出所:GlobalwafersのHP)
まとめ
主要なシリコンウェハー・メーカーの株価は、過去最低水準で推移しています。その理由は明確です。ウェハーの出荷量が減少(2023年は前年比14%減、2024年もさらに5%減が予想)、稼働率の低下、そして過去2年間にわたる大規模な設備投資による減価償却費の増加が、収益性に影響を与えています。
しかし、悪い時期はすでに過ぎたと言えるでしょう。今後の数四半期で売上や営業利益が徐々に改善していくことが期待されます。最近のピークに戻るまでには4〜6四半期ほどかかるでしょう。その間、半導体業界の将来に注目している投資家にとって、シリコンウェハー・メーカーは魅力的な選択肢となる可能性があります。では、今後の動向に注目していきましょう!
アナリスト紹介:ウィリアム・キーティング
ウィリアム・キーティング氏は、インテル、AMD、サムスン、アップル、マイクロン・テクノロジー等の企業の製品、ロードマップ、技術、および、それらの企業の主要な装置サプライヤーである、ASML、AMAT、キヤノン、ニコン等を専門とする半導体 / テクノロジー・リサーチ・コンサルティング会社、Ingenuity (Hong Kong) Ltd.の創立者兼最高経営責任者(CEO)です。
キーティング氏は、半導体業界において重要性の高いニッチなテーマを専門としています。具体的には、ムーアの法則の将来性、特にムーアの法則(EUV、SDA、NanoImprint)を維持するためのリソグラフィの重要性、音声、画像、パターン認識、暗号通貨マイニングのためのディープラーニング(ニューラルネットワーク)などの特殊なアプリケーションにおけるGPUやその他のカスタムアーキテクチャの役割と成長などが挙げられます。また、メモリの将来、特に3D NANDの台頭と新しいメモリ技術の出現について、定期的にクライアントとのディスカッションを開催しています。
Ingenuity (Hong Kong) Ltd.を設立する以前は、1992年から2014年までインテル・コーポレーションに勤務していました。当初はAIシステムのスペシャリストとして採用され、その後、同社の最先端の300mmファクトリーネットワークをグローバルにサポートするファクトリーオートメーションシステム(ロボット、データベース、ネットワーク、サーバー、クライアント等)の責任者となりました。2000年には、社内にITコンサルティング・グループ(IT Flex Services)を設立し、500人規模のグローバルチームに成長させ、同グループは現在もインテルのIT部門の中核を担っています。2005年には、APAC、中国、日本担当のIT部門のディレクターに任命され、同地域にあるインテルの全オフィスと製造施設のITシステム(インフラ、ネットワーク、データセンター、ERP、セールス、マーケティングシステム、ビジネスインテリジェンスなど)を統括していました。
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