【投資コラム】チャーリー・マンガーとは?チャーリー・マンガーの投資法と経済的な堀(Economic Moat:競争優位性)を徹底解説!
イアニス・ ゾルンパノス- 本稿では、ウォーレン・バフェット氏の長年のビジネスパートナーとして知られるチャーリー・マンガー氏と、彼の投資法を詳しく解説していきます。
- マンガー氏は、幅広い知識を活用した多面的な投資アプローチを提唱し、合理的な判断を下すための「思考モデル(Mental Models)」や「経済的な堀(Economic Moat:競争優位性)」、さらに、「資本配分(Capital Allocation)」を重視しています。
- マンガー氏は、特に、企業の競争力を維持するために「堀(Moat)」の重要性を強調し、ブランド力やコスト優位性などを通じて企業が市場での地位を守るべきだとしています。
- さらに、効果的な資本配分がマンガー氏の投資哲学の中心にあり、成長機会への再投資やリスクに見合うリターンを目指す投資が、企業の長期的な成長と株主価値向上に寄与するとされています。
チャーリー・マンガー氏とは?
バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)の元副会長であり、ウォーレン・バフェット氏の長年のビジネスパートナーとして知られるチャーリー・マンガー氏は、堅実で合理的かつ多角的な視点を持った投資手法で高い評価を受けています。
バークシャー・ハサウェイといえば、ウォーレン・バフェット氏がよく知られていますが、その成功においてマンガー氏の貢献は計り知れません。彼の影響力は非常に大きく、鋭い知性と論理的な思考でその存在感を示してきました。
本稿では、マンガー氏が重視する投資の基本原則、すなわち「思考モデル(Mental Models)」「経済的な堀(Economic Moat:競争優位性)」「資本配分(Capital Allocation)」について解説します。これらの概念はマンガー氏の投資哲学の核となるもので、現代の投資家がより賢明で合理的な判断を下すための永続的な指針を提供しています。
チャーリー・マンガー氏の投資における重要な概念
チャーリー・マンガー氏の投資戦略は、いくつかの重要な概念を深く理解し、それを実際に活用することに基づいています。多くの投資家が一つの公式や戦略に頼るのに対し、マンガー氏は心理学、経済学、歴史など、さまざまな分野の知識を取り入れた多面的なアプローチを提唱しています。この包括的な視点によって、投資家はより幅広い観点を持ち、客観的で情報に基づいた意思決定ができるようになります。
マンガー氏は投資分析において、さまざまな「思考モデル(Mental Models)」を活用します。思考モデルとは、私たちが周囲の出来事をどのように理解し、動作するかを助ける道具のようなものです。彼が特に重視するモデルには以下のものがあります。
・機会コスト:ある投資の利益を、他の選択肢と比較するという経済原則です。投資家は何を「諦める」のかを考えることで、より合理的な投資判断ができます。
・人間の判断ミスに関する心理学:認知の誤りや心理的な傾向を理解することで、よくある失敗を避けることができます。
・ベイズ的思考:新しい情報を得るたびに意見を修正していく考え方です。最初は仮説を立て、その後の学びを通じてそれを改善していきます。
・逆算思考:マンガー氏はよく逆算的なアプローチを用い、「この投資を成功させるための要因は何か?」と考える代わりに、「この投資で失敗する可能性はどこか?」と問いかけ、リスクや失敗の要因に焦点を当てます。
これらの思考モデルや他の概念を適切に組み込むことで、より包括的で合理的な投資アプローチが可能となり、ミスを減らし、意思決定に役立つ情報が増強されます。
チャーリー・マンガー氏の唱える経済的な堀(Economic Moat:競争優位性)とは?
チャーリー・マンガー氏やバフェット氏が広めた「Moat(堀)」という言葉は、企業が競合他社に対して持つ強力な優位性を表し、まるで城を守る堀のように、その企業が市場での地位や利益を長期間にわたり維持する手助けをします。企業がこの「堀」を持つ要因として、いくつかの重要なポイントがあります。
・ブランド力:強力なブランドは、顧客の忠誠心を高め、プレミアム価格で販売できるようになります。コカ・コーラ(KO)やアップル(AAPL)など、世界的なブランド力を持つ企業は、その強みを競争優位として活かしています。
・コスト優位性:生産コストや運営コストが競合よりも低い企業は、他社よりも安価に商品を提供できるため、市場への新規参入を阻止し、市場シェアを維持します。ウォルマート(WMT)は、このコスト優位性を持つ代表的な企業です。
・ネットワーク効果:製品やサービスの価値は、利用者が増えるほど高まります。メタ・プラットフォームズ(META)などのソーシャルメディアは、ネットワーク効果を享受している企業の例です。
・知的財産:特許や専有技術、著作権、商標、企業秘密、パブリシティ権などの知的財産は、競争優位性の源となり、競合他社が簡単に模倣できない障壁となります。特に製薬業界では、特許が企業を守る大きな要因となっています。
・スイッチングコスト:顧客が他社に乗り換える際に発生するコストが高い場合、顧客は簡単に競合へ移行できなくなります。マイクロソフト(MSFT)などの企業向けソフトウェア会社は、既存のシステムを切り替える負担が大きいため、高いスイッチングコストの恩恵を受けています。
投資家は、こうした「堀(Moat:競争優位性)」を持ち、長期的に競争優位を維持できる企業に注目すべきです。これらの企業に投資することで、競争に強く、高品質な企業で構成されたポートフォリオを築くことができます。
「堀(Moat)」を持つビジネス
(出所:筆者作成)
チャーリー・マンガー氏の唱える効果的な資本配分(Capital Allocation)とは?
チャーリー・マンガー氏の投資哲学の中心にあるもう一つの重要な考え方が、効果的な資本配分(Capital Allocation)です。資本配分とは、企業の経営陣が現金、信用、人材、商品などのリソースをどのように活用して事業を強化し、成長を促すかを指します。これには、利益の再投資や、配当や自社株買いを通じたオーナーへの還元、さらには買収といった意思決定が含まれます。
マンガー氏は、優れた資本配分者を株主にとって大きな価値を生む存在と見なしており、資源を効率的に活用するための巧みな意思決定の重要性を強調しています。彼はバークシャー・ハサウェイをその好例として挙げ、バフェット氏と自らの手腕で資本配分の有効性を実証していると述べています。
資本配分(Capital Allocation)を評価する指標
1. 投下資本利益率(ROIC)
・概要:ROICは、企業が投資した資本をどれだけ効率よく使って利益を生み出しているかを測る指標です。税引後営業利益(NOPAT)を平均投資資本(負債+株主資本)で割って算出されます。
・重要性:ROICが企業の加重平均資本コスト(WACC)を上回っている場合、効率的な資本配分と価値創出が行われていることを示します。例えば、ROICが12%でWACCが8%の場合、その企業は資本コストを4%上回るリターンを生み出しており、良い投資対象であると言えます。
資本配分は、企業が成長し、長期的にその地位を維持するために不可欠な要素です。これに加えて、重要なのが「追加資本利益率(Incremental Return on Capital)」です。これは、企業が新たに投資した1ドルごとにどれだけの利益を生み出せるかを示す指標です。追加資本利益率は、企業が稼いだ利益をどれだけ効率的に再投資して、さらなる成長を実現できるかを測るための重要な指標となります。
2. 資本利益率(ROC)
・概要:ROCは、事業に投入された全資本に対する収益率を示す指標で、企業が総資本(負債と株主資本を含む)をどれだけ効率よく活用して利益を生み出しているかを測定します。
・重要性:ROCは、企業がすべての資本リソースを効率的に活用できているかを判断するための指標で、企業全体の収益性を把握する上で役立ちます。
ROCとROICの違い:ROCは総資本を対象とし、ROICは投資された資本に焦点を当てます。ROICは資本の効率性を評価するために使われ、ROCは企業全体の収益性を測る指標です。
3. 自己資本利益率(ROE)
・概要:ROEは、株主の自己資本を使って企業がどれだけ効率的に利益を生み出しているかを示す指標です。純利益を自己資本で割って算出します。
・重要性:ROEは、株主の投資に対してどれだけのリターンが得られているかを示すもので、高いROEは自己資本を効率的に活用していることを示しています。株式投資家にとって重要な指標です。
例えば、企業が500万ドルの純利益を上げ、5000万ドルの株主資本を持っている場合、ROEは10%になります。この指標は、株主の視点から企業の収益性を把握する際に役立ちます。
4. 加重平均資本コスト(WACC)
・概要:WACCは、企業が負債と株主に対して支払う資金調達コストの加重平均を表します。これにより、資本の調達にかかるコストを把握することができます。
・重要性:WACCは、投資判断の際にハードルレートとして使用されます。新たな投資がWACCを上回るリターンを生み出す場合、その投資は価値があると判断されます。例えば、企業のWACCが8%であれば、すべての投資やプロジェクトは理想的には8%以上のリターンを生み出す必要があります。これにより価値の創造が確保されます。
さらに、チャーリー・マンガー氏の資本配分における基本的な考え方には、以下のようなものがあります。
・高リターンを目指す機会を狙う:リスクに見合う最大のリターンを生み出せる投資機会を狙います。このアプローチでは、期待されるROICと他の選択肢とを比較して投資の価値を評価します。
・利益を再投資して成長を促進する:高いリターンが期待できる成長機会を持つ企業は、利益を事業に再投資すべきです。これにより成長が促進され、株主価値が向上し、長期的な成長が実現されます。逆に、成長機会が限られている企業は、配当や自社株買いを通じて資本を株主に還元するべきです。
・忍耐と規律を持つ:資本配分においては、忍耐と規律が非常に重要です。マンガー氏は、慌てて投資に飛び込むのではなく、適切な機会を待つことを投資家に勧めています。
資本配分と株主価値
(出所:筆者作成)
日本語訳
ROIC (Return on Invested Capital) = Net Operating Profit after Tax Divided by Invested Capital (Debt and Equity):ROIC(投下資本利益率) = 税引後営業利益 ÷ 投下資本(負債と株主資本)
WACC (Weighted Average Cost of Capital) = Weighted Average of Cost of Equity and Cost of Debt:WACC(加重平均資本コスト) = 株主資本コストと負債コストの加重平均
アナリスト紹介:イアニス・ゾルンパノス
イアニス・ゾルンパノス氏は、詳細なビジネス分析を通じてデューデリジェンス・プロセスを向上させることを目的とした株式市場調査プラットフォーム、「イアゾウ・キャピタル・リサーチ」の創設者です。
以前はデロイトとKPMGで外部監査と内部監査、並びに、コンサルティング業務に従事しておりました。ゾルンパノス氏は、公認会計士資格を保有し、ACCAグローバルのフェロー・メンバーでもあります。更に、英国の一流ビジネススクールで学士号と修士号を取得しております。
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