【投資コラム】ROIC・WACC・ROC・ROEとは?各指標の違いとは?バリュー投資において不可欠な財務指標を徹底解説!
イアニス・ ゾルンパノス- 本稿では、バリュー投資を理解する上で不可欠な4つの指標(ROIC・WACC・ROC・ROE)の基本的な概念、さらに、各指標の違いについて詳しく解説していきます。
- チャーリー・マンガー氏は、資本配分が投資家や経営者にとって最も重要な責任であり、シンプルで高リターンを生む投資判断が長期的成功の鍵と説いています。
- 資本リターンが高い企業が、その利益を再投資し続けることで、持続的に成長し優れたリターンを生むことができるとしています。
- マンガー氏とウォーレン・バフェット氏は、資本再投資が少なく、持続的な競争優位性を持つ企業を所有することで、優れた長期リターンを得られると強調しています。
バリュー投資家のチャーリー・マンガー氏の唱える資本配分(Capital Allocation)の重要性とは?
バリュー投資家であるチャーリー・マンガー氏は、資本配分(Capital Allocation)の重要性を強調し、シンプルで高いリターンが期待できる投資や、経験に基づいた判断が長期的な成功と資源の効率的な活用に繋がると説いています。
“Proper allocation of capital is an investor’s number one job.”
「資本を適切に配分することは、投資家の最重要任務です。」
マンガー氏は、投資家や経営者にとって資本配分が最も重要な責任であると強調しています。この見解は、資源を効果的に活用することが、企業の長期的な成功を決定づけるという考えに基づいています。
例: ホットドッグ屋の場合
あなたがホットドッグ屋を経営しているとして、利益をどう使うか決める必要があるとします。材料をさらに購入するべきか?新しい店舗を開くべきか?それとも、利益を貯めるべきでしょうか?
それぞれの選択肢によるリターンは、将来の利益を最大化するためのオーナーの判断に基づいて決まります。これは基本的に、投資のリターンがコストを上回るかどうかを判断する「正味現在価値(NPV:Net Present Value)」のプロセスを通して決定されるものです。
マイケル・モボーシン氏とダン・キャラハン氏は、NPVテストを次のように簡潔に定義しています。
「NPVテストに合格するということは、ビジネスに1ドルを投資することで、市場での1ドル以上の価値を生み出すことを意味する。」
つまり、わかりやすく言えば、投資はコスト以上の価値を生み出す必要があるということです。
チャーリー・マンガー氏の唱える高い資本リターン(High Returns on Capital)とは?
“It’s obvious that if a company generates high returns on capital and reinvests at high returns, it will do well.”
「企業が高い資本リターン(High Returns on Capital)を生み出し、それを高リターンで再投資すれば、成功するのは当然の結果です。」
マンガー氏は、投資評価におけるシンプルさを推奨しています。彼とバフェット氏は、学問的アプローチに見られる複雑さを批判し、資本リターンに焦点を当てたシンプルな分析を好んでいます。
例: 小さなカフェの成長
例えば、あなたが小さなカフェを経営していて、最初に10万ドルを投資したとします。最初の年に15万ドルの売上があり、5万ドルの利益を上げた場合、50%の投資収益率(ROI)を達成したことになります。
ここで、オーナーは資本配分に関する決断を迫られます。カフェを拡張するか、利益を貯めて新しい店舗を開くかです。
既存店舗の拡張: 5万ドルの利益を再投資して店舗を拡張すれば、売上と利益が毎年25%増加する可能性があります。これにより、年間利益は1万2500ドル増えて、合計6万2500ドルになります。ただし、再投資によるROIは25%にとどまります。
新しいカフェの開店: 2年間の利益を貯めて10万ドルを使い、新しいカフェを開く選択肢もあります。新店舗も同様に50%のROIを生むとすれば、年間5万ドルの利益を追加でき、2店舗の合計年間利益は10万ドルに達します。
意思決定: マンガー氏の原則に従うなら、オーナーは最も高い資本リターンが得られる選択肢を選ぶべきです。この場合、25%のROIの店舗拡張よりも、50%のROIが見込める新店舗の開店が有利であると言えるでしょう。
チャーリー・マンガー氏の唱える資本配分(Capital Allocation)における経験とは?
“Most bosses rise to the top because they have excelled in an area such as marketing, production, engineering, administration, or sometimes, institutional politics.”
「多くの上司は、マーケティングや生産、エンジニアリング、管理、時には組織内の政治といった分野で成功を収めた結果、トップに昇進します。」
チャーリー・マンガー氏は、多くのCEOが資本配分の経験を欠いていると指摘しています。彼らはしばしば財務に関連しない役職を通じて昇進しており、資本配分に熟練するためには、実際に経験を積み、失敗から学ぶことが必要だとしています。
チャーリー・マンガー氏の唱える集中型の意思決定とは?
“We have extreme centralization at headquarters where a single person makes all the capital allocation decisions.”
「我々は本社で資本配分を極端に集中させており、すべての決定は一人が行います。」
バークシャー・ハサウェイでは、資本配分の意思決定は全て本社で行われ、ウォーレン・バフェット氏の専門知識を最大限に活用しています。この手法により、最も有能な人物が重要な決定を下すことが保証されています。
チャーリー・マンガー氏の唱える資本の保持と配分のバランスとは?
“In allocating Berkshire’s capital, we ask three questions: Should we keep the capital or pay it out to shareholders? If pay it out, then you have to decide whether to repurchase shares or issue a dividend.”
「バークシャーの資本配分にあたっては、次の3つの問いを考えます:資本を保持すべきか、それとも株主に還元すべきか?還元するならば、株式を買い戻すべきか、それとも配当を出すべきか?」
チャーリー・マンガー氏は、利益を保持して再投資するか、株主に配当として還元するかを決定する際に重要となる要素を解説しています。
資本配分(Capital Allocation)指標の評価方法に関して
1. 投下資本利益率(ROIC)
概要: ROICは、企業が資本をどれだけ効果的に活用して利益を生み出しているかを示す指標です。税引後営業利益(NOPAT)を平均投下資本(負債+株主資本)で割って算出されます。
重要性: ROICがWACC(加重平均資本コスト)を上回る場合、企業が効率的に資本を運用して価値を創造していることを示します。たとえば、ROICが12%、WACCが8%であれば、コストを4%上回るリターンが得られ、良好な投資先といえます。
資本配分は、企業が成長し続け、長期的に競争力を維持するために不可欠です。特に重要なのは、追加投資によって得られる「追加投資に対する資本リターン(Incremental Return on Capital)」です。これは、企業が追加投資でどれだけ効率的に利益を生み出せるかを測るもので、企業の成長を加速させる鍵となります。
ウォーレン・バフェット氏は、史上最も成功した投資家の一人ですが、この考え方を非常に重視しています。そして、彼は次のように述べています。
“The ideal business is one that generates very high returns on capital and can invest that capital back into the business at equally high rates.”
「理想的なビジネスとは、非常に高い資本リターンを生み、その利益を同じ高いリターンで再投資できるものです。」
“Imagine a $100 million business that earns 20% in one year, reinvests the $20 million profit, and earns 20% of $120 million in the next year.”
「例えば、1億ドルの企業が1年で20%のリターンを得て、2,000万ドルの利益を再投資し、翌年には1億2,000万ドルに対して20%のリターンを稼ぐようなビジネスです。」
“But there are very, very few businesses like this.”
「しかし、このような企業は非常に少ないというのが実情です。」
高い追加投資に対する資本リターン(Incremental Return on Capital)は、企業が借入や株式発行に頼らずに成長を加速させ、株主価値を大きく向上させる力をもたらします。コカ・コーラ(KO)はその好例で、高いリターンで利益を再投資し続け、長期的な成長と高い収益性を保証しています。
2.資本利益率(ROC)
概要: ROCは、企業が投入した全資本からどれだけの利益を生み出しているかを示す指標です。事業に投入された資本全体に対する収益性を測定します。
重要性: ROCは、企業が負債や株主資本を含めた全ての資本をどれだけ効率的に活用しているかを示す、企業全体の資本運用効率を把握するための指標です。
ROCとROICの違い
・ROCは総資本を評価するのに対し、ROICは投下資本に焦点を当てます。
・ROICは資本使用効率を評価する際によく使用され、ROCはより広範な収益性の測定に用いられます。
3. 株主資本利益率(ROE)
概要: ROEは、企業が株主の資本をどれだけ効率的に活用して利益を生み出しているかを測る指標です。純利益を株主資本で割って計算されます。
重要性: ROEは、株主の投資に対してどれだけのリターンが生み出されているかを示します。高いROEは、株主資本が効率的に利用されていることを示し、株主にとって非常に重要な指標です。たとえば、企業が500万ドルの純利益を上げ、株主資本が5000万ドルの場合、ROEは10%となります。この指標は、株主の観点から企業の収益性をある程度評価するのに役立ちます。
4. 加重平均資本コスト(WACC)
概要: WACCは、企業が負債や株主に支払う資本コストの加重平均を表す指標です。企業が資金調達を行う際のコストの上昇を説明します。
重要性: WACCは、投資判断における基準として使用されます。新しい投資は、WACCを上回るリターンを生まなければ、価値があると見なされません。たとえば、企業のWACCが8%であれば、投資やプロジェクトは理想的には8%以上のリターンを生む必要があります。
銘柄選び vs ビジネスの購入:バフェット流投資成功の秘訣とは?
多くの投資家は、投資成功の要因として銘柄選びに焦点を当てがちです。しかし、ウォーレン・バフェット氏の成功は、単に良い銘柄を選ぶだけでなく、質の高いビジネスを購入する能力によるものです。彼の投資哲学は、持続可能な競争優位性と高い資本リターンを持つ企業を取得することに重きを置いています。
チャーリー・マンガー氏はこれを次のように説明しています:
“We’ve really made the money out of high-quality businesses… Over the long term, it’s hard for a stock to earn a much better return than the business which underlies it earns. If the business earns 6% on capital over 40 years and you hold it for that 40 years, you’re not going to make much different than a 6% return—even if you originally buy it at a huge discount. Conversely, if a business earns 18% on capital over 20 or 30 years, even if you pay an expensive looking price, you’ll end up with one hell of a result.”
「私たちが稼いだのは、本当に質の高いビジネスからです。長期的には、株のリターンはその基礎となるビジネスのリターンを超えることは難しい。例えば、ビジネスが40年間で6%の資本リターンを生み出すなら、その株を持ち続けても6%しか得られないでしょう。一方、ビジネスが20〜30年間で18%のリターンを生むなら、最初に高値で買ったとしても素晴らしい結果が得られるでしょう。」
資本配分の選択: 資本集約型(Capital-Heavy) vs 資本軽量型(Capital-Light)とは?
企業は大きく分けて「資本集約型(Capital-Heavy)」と「資本軽量型(Capital-Light)」に分類されます。チャーリー・マンガー氏が好むのは、追加の投資をほとんど必要とせず、非常に高い資本リターンを生み出す資本軽量型(Capital-Light)ビジネスです。
マンガー氏は次のように説明しています。
“There are two kinds of businesses: The first earns 12%, and you can take it out at the end of the year. The second earns 12%, but all the excess cash must be reinvested – there’s never any cash. It reminds me of the guy who looks at all of his equipment and says, ‘There’s all of my profit’. We hate that kind.”
「ビジネスには2種類あります。1つは12%のリターンを生み、その利益を年末に取り出せるビジネス。もう1つは12%のリターンを生むものの、すべての余剰現金を再投資しなければならず、現金が残らないビジネス。『これが利益のすべてだ』と設備を見て言うようなビジネスは、私たちは嫌いです。」
ウォーレン・バフェット氏は、追加の資本再投資をほとんど必要としないビジネスを非常に高く評価しています。これには、少ない資本で運営できる消費財ビジネスや、固定投資を抑えられるサービス業が含まれます。
負の資本配分(Negative Capital Allocation):高リターン企業の秘密とは?
ウォーレン・バフェット氏は、資本をあまり必要としないビジネスの魅力を強調しています。こうした企業は、初期のキャッシュフローを迅速に生み出し、継続的な大規模な資本投資を必要としません。コカ・コーラ(KO)はその典型的な例です。バフェット氏は次のように述べています。
“You could run Coca-Cola with no capital. There are a number of businesses that operate on negative capital. Great magazines operate with negative capital. Subscriptions are paid upfront; they have limited fixed investments. There are certain businesses like this.”
「コカ・コーラは資本をほとんど使わずに運営できます。資本をほとんど必要としないビジネスは他にもあります。たとえば、優れた雑誌は前払いの購読料で運営され、固定投資が限られています。このようなビジネスは少なからず存在します。」
資本配分(Capital Allocation)に関するまとめ
長期的な成功には、資本配分(Capital Allocation)が鍵となります。高い追加投資に対する資本リターン(Incremental Return on Capital)を生み出し、その利益を同様に高いリターンで再投資できる企業は、非常に例外的な存在です。
ウォーレン・バフェット氏とチャーリー・マンガー氏は、その投資哲学を通じて、持続的な競争優位性と低い資本要件を持つ企業を所有することで、優れた長期リターンを得られることを示しています。
以上より、市場の投資家は、持続可能な成長の見込める企業のビジネスの基礎に注目すべきと言えるでしょう。まずは、高い追加投資に対する資本リターン(Incremental Return on Capital)を生み、再投資が少ない企業に集中することが、優れたリターンを得て、持続的な富を築く鍵となります。
(出所:筆者作成)
アナリスト紹介:イアニス・ゾルンパノス
イアニス・ゾルンパノス氏は、詳細なビジネス分析を通じてデューデリジェンス・プロセスを向上させることを目的とした株式市場調査プラットフォーム、「イアゾウ・キャピタル・リサーチ」の創設者です。
以前はデロイトとKPMGで外部監査と内部監査、並びに、コンサルティング業務に従事しておりました。ゾルンパノス氏は、公認会計士資格を保有し、ACCAグローバルのフェロー・メンバーでもあります。更に、英国の一流ビジネススクールで学士号と修士号を取得しております。
ゾルンパノス氏のその他の配当関連のレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、ゾルンパノス氏のプロフィールページにアクセスしていただければと思います。
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