Part 1:インテル(INTC)の株価はなぜ上昇?米国政府から30億ドルの助成金とAWSとの戦略的協力拡大等、株価急騰の理由に迫る!
ウィリアム・ キーティング- 本稿では、インテル(INTC)の足元の株価が大幅に上昇している理由と同社の将来性に関して詳しく解説していきます。
- インテルは2024年9月16日に3つのプレスリリースを同時発表し、米国政府から最大30億ドルの資金提供(助成金)、AWSとの戦略的協力拡大、取締役会の内容に関する社員への公開書簡を発表しました。
- この発表によりインテルの株価は、日中、さらに、時間外でも急騰しましたが、米国政府との協力は過去にも行われており、今回の発表が業績に意味のある影響をもたらすかは不透明です。
- AWSとの協力拡大については、すでに存在している取引の延長であり、目新しいものではない可能性が高いようにも見えます。
インテル(INTC)が2024年9月16日に3つのプレスリリースを同時発表
インテル(INTC)は昨日、立て続けに3つのプレスリリースを発表しました。最初の発表では、米国政府から最大30億ドルの資金提供(助成金)が決定されたことに触れています。詳細はこちらです。
(出所:インテルのHP)
2つ目の発表は、AWSとの「戦略的協力拡大」について詳しく述べたものです。詳細はこちらをご覧ください。3つ目はインテル社員への公開書簡(レター)で、先週の取締役会の内容をまとめたものです。詳しくはこちらです。
最初のプレスリリースが発表された後、インテルの株価は午後の取引で6%以上上昇しました。続く2つのリリースは市場が閉まった後に発表され、時間外取引でさらに約8%の上昇を記録しました。
(出所:Yahoo Finance)
これらの3つのプレスリリースが市場からこれほど好意的な反応を得た理由は何だったのでしょうか?では、詳しく見ていきましょう。
バイデン・ハリス政権、インテル(INTC)に「最大30億ドル」の助成金を発表
(原文)SANTA CLARA, Calif.--(BUSINESS WIRE)-- The Biden-Harris Administration announced today that Intel Corporation has been awarded up to $3 billion in direct funding under the CHIPS and Science Act for the Secure Enclave program. The program is designed to expand the trusted manufacturing of leading-edge semiconductors for the U.S. government.
(日本語訳)カリフォルニア州サンタクララ--(ビジネスワイヤ)-- バイデン・ハリス政権は本日、インテル社が「CHIPSおよびサイエンス法」に基づき、「セキュアエンクレーブ」プログラムに対して最大30億ドルの直接資金を受けることが決まったと発表しました。このプログラムは、米国政府向けに信頼性の高い最先端半導体の製造を強化することを目的としています。。
実は、インテル(INTC)が米国政府と半導体関連で協力するのはこれが初めてではありません。約3年前にも大きな発表がありました。
(原文)The U.S. Department of Defense, through the NSTXL consortium-based S2MARTS OTA, has awarded Intel an agreement to provide commercial foundry services in the first phase of its multi-phase Rapid Assured Microelectronics Prototypes - Commercial (RAMP-C) program. The RAMP-C program was created to facilitate the use of a U.S.-based commercial semiconductor foundry ecosystem to fabricate the assured leading-edge custom and integrated circuits and commercial products required for critical Department of Defense systems. Intel Foundry Services, Intel’s dedicated foundry business launched this year, will lead the work.
(日本語訳)米国国防総省は、NSTXLのS2MARTS OTAを通じて、インテルに対して商業ファウンドリーサービスを提供するための契約を結びました。この契約は、「Rapid Assured Microelectronics Prototypes - Commercial(RAMP-C)」プログラムの第一段階であり、米国内の商業半導体ファウンドリーエコシステムを活用して、国防総省が必要とする最先端のカスタムおよび統合回路を製造することを目的としています。今年立ち上げられたインテルの専用ファウンドリービジネスである「Intel Foundry Services」が、この取り組みを主導する予定です。
しかし、この3年間でこの契約がもたらした影響はほとんどありません。その後の話題もほぼ皆無です。
そして、今回の「セキュアエンクレーブ」プログラムは、3年前の契約を引き継ぐものです。
(原文)The Secure Enclave program builds on previous projects between Intel and the Department of Defense (DoD) such as Rapid Assured Microelectronics Prototypes - Commercial (RAMP-C) and State-of-the-Art Heterogeneous Integration Prototype (SHIP).
(日本語訳)「セキュアエンクレーブ」プログラムは、インテルと国防総省(DoD)がこれまでに手がけた「Rapid Assured Microelectronics Prototypes - Commercial(RAMP-C)」や「State-of-the-Art Heterogeneous Integration Prototype(SHIP)」といったプロジェクトを基に展開されています。
では、インテルの役割とは何なのでしょうか?
(原文)As the only American company that both designs and manufactures leading-edge logic chips, Intel will help secure the domestic chip supply chain and collaborate with the DoD to help enhance the resilience of U.S. technological systems by advancing secure, cutting-edge solutions.
(日本語訳)インテルは、最先端のロジックチップを設計・製造する唯一の米国企業として、国内のチップ供給網を確保し、国防総省と協力して、米国の技術システムの強靭性を強化するために、安全で先進的なソリューションの開発を行います。
一見すると素晴らしい話に聞こえますが、現実は異なります。国防総省が求める半導体には非常に特殊な要件がありますが、必要なプロセス技術はインテルではなく、テキサス・インスツルメンツ(TXN)やアナログ・デバイセズ(ADI)で見つかる可能性が高いです。ちなみに、テキサス・インスツルメンツとアナログ・デバイセズの両社には航空宇宙・防衛に特化した事業部がありますが、インテルにはありません。
この「受賞」はインテルにとって広報的には良い話かもしれませんが、具体的なスケジュールや詳細は一切示されていません。そのため、今後のインテルの業績に意味のある影響をもたらす可能性はほとんどないと考えています。
関連用語
CHIPSおよびサイエンス法: 米国の半導体産業と科学技術の研究開発を促進するための法律です。国内の半導体製造を強化し、先端技術の開発に資金を提供することを目的としています。
Rapid Assured Microelectronics Prototypes - Commercial(RAMP-C): 米国国防総省が推進するプログラムで、国内で最先端のカスタム半導体を迅速に製造するための取り組みです。インテルなどの企業と協力し、国防システムに必要な信頼性の高い半導体を確保します。
State-of-the-Art Heterogeneous Integration Prototype(SHIP): 異なる種類の半導体技術を統合する最先端のプロトタイプを開発するプログラムです。国防総省が主導し、複雑なシステムに対応するための高性能チップを作り出すことを目指しています。
インテル(INTC)のAWSとの戦略的パートナーシップ拡大
(原文)SANTA CLARA, Calif. & SEATTLE--(BUSINESS WIRE)-- Intel Corp. (INTC) and Amazon Web Services. Inc. (AWS), an Amazon.com company (NASDAQ: AMZN), today announced a co-investment in custom chip designs under a multi-year, multi-billion-dollar framework covering product and wafers from Intel. This is a significant expansion of the two companies’ long standing strategic collaboration to help customers power virtually any workload and accelerate the performance of artificial intelligence (AI) applications.
(日本語訳)サンタクララ(カリフォルニア州)&シアトル--(ビジネスワイヤ)-- インテル(INTC)とAmazon Web Services(AWS、Amazon.comの子会社、NASDAQ: AMZN)は本日、数年間にわたる数十億ドル規模の共同投資を発表しました。これは、インテルの製品とウェハーに関するカスタムチップ設計を対象としたものです。これにより、両社の長年にわたる戦略的な協力関係がさらに強化され、顧客がさまざまなワークロードを処理し、AIアプリケーションのパフォーマンスを向上させることが期待されます。
そして、今回の協力拡大には、インテル(INTC)が18Aプロセスで製造するAWS向けのAIファブリックチップと、インテル3プロセスで製造するカスタムXeon 6チップの2つが含まれています。
(出所:インテルのHP)
確かに、言葉だけ聞けば素晴らしい話のように思えます。「数年にわたる数十億ドル規模の契約」ですからね。しかし、ここに最初の問題があります。実際、AWSはすでにインテルのデータセンター部門で最大の顧客の一つです。つまり、すでに「数年にわたる数十億ドル規模」の取引が存在しているということです。
詳細についてですが、「AIファブリック」チップとは言っても、かなり幅広い意味を持つ可能性があり、おそらくネットワーク関連のコンポーネントでしょう。それほど目新しいものではありません。そしてカスタムXeonチップについてですが、インテルはすでに10年以上前からハイパースケーラー向けにカスタムサーバーチップを製造しています。確か一時期は、インテルのサーバープロセッサの30%ほどが、市販品のカスタムバージョンだったこともありました。ですので、私の見解では特に目新しいことではないというのが本音です。
次章では、インテルのCEOであるパット・ゲルシンガーから社員に向けた公開書簡の詳細と、同社に対する私の見解を詳しく解説していきます。
※続きは「Part 2:インテル(INTC)の株価の今後の見通しは?パット・ゲルシンガーCEOから社員に向けて書かれた最新の公開書簡を徹底分析!」をご覧ください。
関連用語
カスタムチップ: 特定の顧客や用途に合わせて設計・製造された半導体チップのことです。通常の汎用チップと違い、特定のニーズに最適化されています。
18Aプロセス: インテルが使用する半導体製造技術の一つで、非常に微細な回路を形成することができます。数字が小さいほど、より高性能で省電力なチップを作ることが可能です。
インテル3プロセス: インテルの3nm(ナノメートル)プロセス技術のことで、18Aプロセスよりも少し大きい微細化技術です。これも高性能で省電力なチップを製造するための技術です。
カスタムXeon 6チップ: インテルのXeon(ジーオン)プロセッサの特別なバージョンで、特定の顧客や用途に合わせてカスタマイズされたものです。通常のXeonチップよりも特定のニーズに最適化されています。
ハイパースケーラー: 大規模なデータセンターを運営し、大量のサーバーを用いてクラウドサービスを提供する企業のことです。例として、アマゾン、アルファベット、マイクロソフトなどがあります。
カスタムサーバーチップ: ハイパースケーラーや特定の用途に合わせてカスタマイズされたサーバー用の半導体チップです。標準的なサーバーチップと比べ、特定のパフォーマンスや機能が強化されています。
アナリスト紹介:ウィリアム・キーティング
ウィリアム・キーティング氏は、インテル、AMD、サムスン、アップル、マイクロン・テクノロジー等の企業の製品、ロードマップ、技術、および、それらの企業の主要な装置サプライヤーである、ASML、AMAT、キヤノン、ニコン等を専門とする半導体 / テクノロジー・リサーチ・コンサルティング会社、Ingenuity (Hong Kong) Ltd.の創立者兼最高経営責任者(CEO)です。
キーティング氏は、半導体業界において重要性の高いニッチなテーマを専門としています。具体的には、ムーアの法則の将来性、特にムーアの法則(EUV、SDA、NanoImprint)を維持するためのリソグラフィの重要性、音声、画像、パターン認識、暗号通貨マイニングのためのディープラーニング(ニューラルネットワーク)などの特殊なアプリケーションにおけるGPUやその他のカスタムアーキテクチャの役割と成長などが挙げられます。また、メモリの将来、特に3D NANDの台頭と新しいメモリ技術の出現について、定期的にクライアントとのディスカッションを開催しています。
Ingenuity (Hong Kong) Ltd.を設立する以前は、1992年から2014年までインテル・コーポレーションに勤務していました。当初はAIシステムのスペシャリストとして採用され、その後、同社の最先端の300mmファクトリーネットワークをグローバルにサポートするファクトリーオートメーションシステム(ロボット、データベース、ネットワーク、サーバー、クライアント等)の責任者となりました。2000年には、社内にITコンサルティング・グループ(IT Flex Services)を設立し、500人規模のグローバルチームに成長させ、同グループは現在もインテルのIT部門の中核を担っています。2005年には、APAC、中国、日本担当のIT部門のディレクターに任命され、同地域にあるインテルの全オフィスと製造施設のITシステム(インフラ、ネットワーク、データセンター、ERP、セールス、マーケティングシステム、ビジネスインテリジェンスなど)を統括していました。
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