アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)今後の株価見通し:最新の2024年第2四半期決算は好調で時間外で株価上昇!

- 本稿では、注目の米国半導体銘柄であるアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の7月30日に発表された最新の2024年第2四半期決算の分析を通じて、同社の株価上昇の理由、並びに、今後の株価見通しと将来性を詳しく解説していきます。
- AMDの2024年第2四半期決算では売上高が58億ドルとなり、特にデータセンターとクライアント部門が前年同期比で大幅な成長を遂げましたが、ゲーム部門は減収となりました。
- 同社は2024年のデータセンターGPU売上見通しを45億ドルに引き上げ、またMI325とMI350シリーズの展開でエヌビディアとの競争に対抗する意欲を示しています。
- 決算発表ではAI市場への長期的な投資が強調され、AMDは今後も成長機会を見据えて、AI分野での進展を図っていく方針です。
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の最新の2024年度第2四半期決算の概要
2024年7月30日に発表された、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の2024年第2四半期決算では、売上高が58億ドル、前四半期比5.5%増、前年同期比9%増で、ガイダンスの中間点を1億ドル上回る結果となりました。GAAPベースの粗利益率は49%で、前四半期比2%、前年同期比3%の改善となりました。予想通り、同社のデータセンター(Data Center)およびクライアント(Client)部門が、それぞれ前年同期比115%および49%の成長を達成したことがハイライトとなっています。
AMDのゲーム(Gaming)部門は最も成績が悪く、売上高は6億4800万ドルで、前四半期比30%減、前年同期比59%減でした。エンベデッド(Embedded)部門は前四半期比ではほぼ横ばいの8億6100万ドルでしたが、前年同期比では41%減少しました。
先を見据えると、AMDはガイダンスにおいて、今四半期である2024年第3四半期決算における売上高を中間点で67億ドルと予測しており、前四半期比で15%増、前年同期比ではほぼ同じと見込んでいます。さらに、AMDは2024年度のデータセンターGPUの予測を5億ドル引き上げ、45億ドルとしました。
※データセンターGPU(Graphics Processing Unit):データセンターにおいて高速な計算能力を提供するために使用される専用のプロセッサ。従来、GPUは主にグラフィックスのレンダリングに使用されていたが、近年ではその並列処理能力が高く評価され、科学計算、機械学習、ディープラーニング、データ解析などの分野で広く利用されるようになっている。
(原文)In summary, customer response to our multiyear Instinct and ROCm road maps is overwhelmingly positive and we're very pleased with the momentum we are building. As a result, we now expect data center GPU revenue to exceed $4.5 billion in 2024, up from the $4 billion we guided in April.
(日本語訳)要約すると、私たちの数年にわたるInstinctおよびROCmロードマップに対する顧客の反応は非常に良好であり、私たちはこの勢いに非常に満足しています。その結果、2024年のデータセンターGPUの売上は、4月にガイダンスで示した40億ドルから45億ドルを超えると予想しています。
全体として、AMDの最新の決算発表は控えめながら予想を上回る結果であり、顧客の季節性に基づいてある程度予測可能なものでした。データセンターGPUの引き上げは好ましいものの、特別なものではありません。また、今の収益シーズンの一般的な市場のセンチメント(感情)を考えると、株価の動きとしてはそれほど素晴らしい反応を期待することはできないかもしれません。それにもかかわらず、AMDの株価は、決算翌日のプレマーケット取引で9%以上上昇していました。なぜでしょうか?その理由に関して詳しく見ていきましょう。
AMDの決算説明会での発表内容の詳細に入る前に、過去数年間のAMDの株価を振り返ることが役に立つと思います。2024年4月初めのピークである227ドルから、現在のAMDの株価は138ドルで、約40%の下落となっています。
これは、2022年初め、約2年半前の水準とほぼ同じであり、生成AIブームのはるか前の水準です。
なお、TSMC(TSM)の状況も非常に似ており、株価は52週間の高値から現在25%下落しています。これは、TSMCの株価が2021年初めの取引水準に近づいていることを示しています。
このTSMCの下落については、同社の最新の2024年度第2四半期決算分析レポートにおいて解説しています。
是非、インベストリンゴのプラットフォーム上より下記のレポートをご覧いただければと思います。
TSMC(TSM)押し目買いのチャンス?2024年2Q決算は好調!株価下落の理由と今後の株価見通し・将来性に迫る!
そして、その時の私のTSMCに対する結論は以下の通りでした。
「これらの2つの要因がなければ、TSMCは決算発表後にそれなりの上昇を記録していたと考えるのは妥当でしょう。ただし、最終的には、それはあまり重要ではありません。道中には常に困難がつきものです。重要なことは、TSMCが全力で稼働しており、これらの足元の下落が賢明な投資家にとって押し目買いの機会となり得ることです。現在、TSMCは私のポートフォリオ内の最大のテクノロジー銘柄となっていますが、もし今回の下落により同社の株価が再度150ドルを下回るようであれば、押し目買いも検討する予定です。では、今後の様子を楽しみに見ていきましょう!」
このTSMCに関するレポートを7月20日に公開して以来、TSMCの株価は継続して下落していました。しかし、AMDの決算報告を受けて、TSMCの株価はプレマーケット取引で4.4%上昇しています。
いずれにせよ、この背景を考えると、AMDやTSMCの株価の下落が十分な水準に達しており、そこそこの決算報告と見通しがあれば、投資家たちは再び買い戻す姿勢を見せているようです。これが、AMDの一見平凡な決算発表に対する株価の反応を説明していると言えます。
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の最新の2024年度第2四半期決算の主なハイライト
決算発表とQ&Aセッションで注目を引いた点をいくつか見ていきましょう。後者では、主にアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)のデータセンターGPUの進捗状況と見通しに関する質問が多く、特にMI300の展開とそのロードマップに焦点が当たっていました。
※MI300:AMDによって開発された最新世代のデータセンター向けGPU(グラフィックス処理装置)。MI300は、特にAI(人工知能)や機械学習、大規模データ解析などの高度な計算タスクに対応するために設計されている。
以下は、CEOのリサ・スー氏による進捗状況の要約です。
(原文)So, I would say overall, very pleased with the progress, and really continuing right on track to what we expected from the capabilities of the product. As we go into next year, I mean, one of the important things that we announced at Computex was increasing and expanding our road map. I think we feel really good about our road map. We're on track to launch MI325 later this year, and then next year, our MI350 Series, which will be very competitive with Blackwell solutions.
(日本語訳)全体として、進捗に非常に満足しており、製品の能力に対する期待通りに進んでいると思います。来年に向けて、重要なことの一つは、Computexで発表したロードマップの拡大と強化です。我々は、自社のロードマップに非常に自信を持っており、今年後半にはMI325を、来年にはMI350シリーズを発売する予定です。これらはBlackwellのソリューションと非常に競争力があるでしょう。
※Computex(コンピュテックス):毎年台湾の台北で開催される国際的なコンピュータおよびテクノロジー関連の展示会。世界最大級のIT見本市の一つとして知られ、ハードウェア、ソフトウェア、ICT(情報通信技術)業界の最新技術や製品が一堂に会する場となっている。
※MI325・MI350:AMDのデータセンター向けGPUシリーズの一部。これらのモデルは、AIトレーニングやディープラーニング、科学計算、大規模データ解析などの高度な計算タスクに対応するために設計されている。
※Blackwell:エヌビディア(NVDA)の次世代GPUアーキテクチャのコードネームです。このアーキテクチャは、データセンターやハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)向けに開発されている。
決算発表全体を通じて、AMDは即時のAI成長に対する期待を抑え、長期的な視点に焦点を当てているようでした。例えば、リサ・スー氏は全体的なAI市場について「非常に楽観的である」と述べています。
(原文)So, I think, overall, we remain quite bullish on the overall AI market. I think the market continues to need more compute. And we also feel very good that our hardware and software solutions are getting good traction, and we're continuing to expand that pipeline.
(日本語訳)全体として、AI市場に非常に楽観的です。市場は引き続きコンピューティング能力を必要としています。また、我々のハードウェアおよびソフトウェアソリューションが良い反応を得ており、パイプラインを拡大し続けていることに非常に満足しています。
この発言は明確な支持とは言えず、来月エヌビディアのジェンセン・フアンCEOから決算発表の際に聞かれるであろう発言とは異なると思われます。しかし、リサ・スー氏の発言は、静かに自信を持ち、現実的なものであると思います。そして、市場が引き続きコンピューティング能力を必要とするという予測に異議を唱える人はいないでしょう。
同様のトーンは、AMDのInstinct製品の展開と初期のEPYCサーバーCPUの発売に関するアナリストの非常に鋭い質問にも見られました。
※Instinct:AMDが提供するデータセンター向けのGPU製品ラインのブランド名。これらのGPUは、AIトレーニングやディープラーニング、高性能計算(HPC)などの用途に特化して設計されている。
※EPYC:AMDが提供するサーバー向けの高性能CPUブランド。これらのプロセッサは、データセンターやエンタープライズサーバー、クラウドコンピューティング環境での利用を目的として設計されている。
(原文)I wanted to maybe draw a parallel between the Instinct portfolio that your company is rolling out now and what you guys did five or six years ago with EPYC. And I remember when the Naples product launched, there was a lot of, I would say, reaction positively and negatively and sort of sentiment around where your road map might go to relatively small perturbations in what the volumes were.
(日本語訳)現在御社が展開しているInstinctポートフォリオと、5、6年前に行ったEPYCの展開を比較したいと思いました。Naples製品が発売されたとき、肯定的な反応も否定的な反応も多くあり、販売量の比較的小さな変動に対して、ロードマップがどのように進むのかについての様々な意見があったことを覚えています。
※Naples:AMDのEPYCサーバーCPUシリーズの初代製品で、正式にはEPYC 7000シリーズとして知られている。この製品は、データセンターやエンタープライズサーバー向けに設計されており、2017年に発表された。
(原文)Super early, but if I remember back to that, what was the most important was that was the toehold into the market for long-term engagement, both on the software side and the hardware side with your customers two, three, four generations forward. So, is that an accurate parallel to where you guys are with MI300?
(日本語訳)非常に初期の段階でしたが、振り返ると、最も重要だったのは、ソフトウェアとハードウェアの両面で、2世代、3世代、4世代先の顧客との長期的な関係を築くための市場への足掛かりを作ることでした。MI300に関しても同様の状況と言えるでしょうか?
そして、この質問に対するリサ・スー氏の回答は示唆に富んでいました。
(原文)Yeah, absolutely, Matt. So, look, as I said earlier, we're very pleased with the progress that we're making on the Instinct road map. This is absolutely a long-term play so absolutely, you're correct. It has a lot of parallels to the EPYC journey, where you really have to -- you gain more opportunities, broader workloads, larger deployments as you go from generation to generation.
(日本語訳)ええ、全くその通りです。先ほど申し上げたように、Instinctロードマップの進捗に非常に満足しています。これはまさに長期的な取り組みであり、EPYCの道程と多くの共通点があります。世代を重ねるごとに、より多くの機会を得て、幅広いワークロードや大規模な展開が可能になります。
(原文)So, we are playing the long game here. Our conversations with our customers, so I would start with first, in the near term, we had some very key milestones that we wanted to pass this year. And as I said, they related to getting hardware in volume in multiple hyperscalers as well as large Tier 2 customers. We've done that.
(日本語訳)我々は長期的な戦略を取っています。今年は非常に重要なマイルストーンをいくつか達成する予定です。複数のハイパースケーラーおよび大規模なTier 2顧客に対して大量のハードウェアを提供することに成功しました。
上述のリサ・スー氏の回答の通り、AMDは長期的な戦略を取り、長期的な視点で取り組んでいます。AMDの復活を追い、投資してきた人々にとって、これは非常に馴染み深い言葉です。データセンター市場シェアを再獲得し、売上高ベースで30%を超えるまでの道のりには約6年かかりました。MI300ファミリーのAIアクセラレータでエヌビディアから市場シェアを奪うのにも同じくらいの時間がかかるでしょう。
※AIアクセラレータ:人工知能(AI)および機械学習(ML)アルゴリズムの実行を高速化するために設計された専用のハードウェアデバイスまたは回路のこと。これらのアクセラレータは、通常の汎用プロセッサ(CPU)よりも効率的に特定の計算タスクを処理するように最適化されている。
また、同様のテーマは、AI投資の収益化とそれにおけるAMDの役割に関する質問に対するAMDの回答にも見られました。そこでの主なメッセージは、業界全体がまず投資しなければならないということでした。
(原文)Yeah, sure, Vivek. Well, I mean, I think you talk to a lot of the same people that we talk to. I think the overall view on AI investment is we have to invest. I mean, the industry has to invest.
(日本語訳)ええ、もちろんです、ビベック。私たちが話しているのと同じような人々とあなたも話していると思います。AI投資に関する全体的な見解としては、投資しなければならない、つまり、業界全体が投資しなければならないということです。
さらに、AMDの役割については、リサ・スー氏は、顧客との緊密なパートナーシップを通じて複数のソリューションが進化するという見解に賭けています。
(原文)The potential of AI is so large to impact the way enterprises operate and all that stuff. So, I think the investment cycle will continue to be strong. And then relative to the various choices for the size of the market, I firmly believe that there will be multiple solutions, whether you're talking about GPUs or you're talking about custom chips or ASICs, there will be multiple solutions. In our case, I think we've demonstrated a really strong road map and the ability to partner well with our customers.
(日本語訳)AIの潜在能力は非常に大きく、企業の運営方法などに影響を与えます。したがって、投資サイクルは引き続き強力であると思います。そして、市場の規模に関するさまざまな選択肢に対して、GPUやカスタムチップ、ASICなど、複数のソリューションが存在すると確信しています。私たちの場合、非常に強力なロードマップと顧客と良好にパートナーシップを築く能力を示してきたと思います。
※カスタムチップ:特定の目的や機能を実現するために設計された集積回路の総称。これにはASICやFPGA(Field-Programmable Gate Array)などが含まれる。カスタムチップは、特定のアプリケーションや機能に最適化されているため、汎用プロセッサよりも高効率で動作する。
※ASIC(Application-Specific Integrated Circuit):特定のアプリケーションや用途のために設計・製造された集積回路のこと。
加えて、データセンターに焦点が当てられていましたが、クライアント部門、特にAI PCについてもQ&Aセッションで言及されました。
(原文)So, we just actually launched the first Strix-based notebooks over the weekend.
(日本語訳)先週末に初のStrixベースのノートブックを発売しました。
※Strix:ASUS(エイスース)によって展開されている高性能なゲーミング製品のブランド名。主にPCゲーミング市場をターゲットにしており、ゲーマー向けのハードウェアやアクセサリを提供している。
(原文)You may have seen some of the reviews. The reviews are very positive. Our view of this is the AI PC is an important add to the overall PC category. As we go into the second half of the year, I think we have better seasonality in general, and we think we can do, let's call it, above-typical seasonality, given the strength of our product launches and when we're launching.
(日本語訳)レビューをご覧になったかもしれませんが、非常に好評です。私たちの見解では、AI PCは全体的なPCカテゴリにおいて重要な追加要素です。年後半に向けて、全体的に季節性が良くなると思っており、製品発売の強さとタイミングを考えると、通常よりも高い季節性を期待しています。
(原文)And then into 2025, you're going to see AI PCs across sort of a larger set of price points, which will also open up more opportunities. So, overall, I would say the PC market is a good revenue growth opportunity for us. The business is performing well. The products are strong.
(日本語訳)そして2025年に向けて、さまざまな価格帯でAI PCが登場し、さらなる機会が開かれるでしょう。全体として、PC市場は私たちにとって良い収益成長の機会です。ビジネスは順調であり、製品も強力です。
また、AMDがインテル(INTC)に対して持つ強みは、AI PCの発売に対する全体的なPC市場規模(TAM:獲得可能な最大市場規模)の成長に関わらず、インテルから市場シェアを奪うことで成長を続けられる点です。このテーマは、Arm搭載PCによるリスクを考える際にも当てはまります。このトピックに関する質問に対するリサ・スーの回答は以下の通りです。
※Arm搭載PC:Armアーキテクチャをベースにしたプロセッサ(CPU)を搭載したパーソナルコンピュータのこと。Armプロセッサは、主にモバイルデバイスや組み込みシステムで広く使用されていますが、近年ではPC市場でも注目されている。
※Armアーキテクチャ(Advanced RISC Machines):RISC(Reduced Instruction Set Computer)に基づいたプロセッサアーキテクチャのこと。アーム・ホールディングス(ARM)が設計およびライセンス供与を行っており、特にモバイルデバイスや組み込みシステムで広く使用されている。
(原文)You know, look, I think at this point, the PC market is a big market, and we are underrepresented in the market. I would say that we take all of our competition very seriously. That being the case, I think our products are very well-positioned.
(日本語訳)ええ、現時点でPC市場は非常に大きな市場であり、私たちはその市場で十分に代表されていないと思います。競争相手を非常に真剣に受け止めていますが、私たちの製品は非常に良いポジションにあると思います。
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の最新の2024年度第2四半期決算に対する結論
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の2024年度第2四半期決算の結果と今四半期である2024年度第3四半期のガイダンスは良好でしたが、少なくともエヌビディア(NVDA)の基準からすれば驚くべきものではありませんでした。それにもかかわらず、AMDは長期的な視点を強調することに巧みに成功し、長期的な取り組みであることを示しました。この期待の再調整と、最近の高値から約40%の下落が相まって、投資家の懸念を和らげ、一晩で再び投資家を呼び込むことに成功しているようにも見えます。そして、私は今週の金曜日にインテル(INTC)が決算を発表する際にどのような発言をするかに非常に注目しています。
さらに、その他のアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)に関するレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、アドバンスト・マイクロ・デバイスのページにアクセスしていただければと思います。
アナリスト紹介:ウィリアム・キーティング
📍半導体&テクノロジー担当
キーティング氏のその他の半導体関連銘柄のレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、キーティング氏のプロフィールページにアクセスしていただければと思います。