AMDの今後の見通し:株価急落の理由とは?最新の2024年第3四半期決算分析を通じて今後の株価見通しに迫る!

- 本稿では、注目の米国半導体銘柄であるアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の10月29日に発表された最新の2024年第3四半期決算の分析を通じて、同社の株価急落の理由、並びに、今後の見通しと将来性を詳しく解説していきます。
- AMDの2024年第3四半期決算では、売上高が68億ドルと予測を上回り、データセンター部門が前年同期比122%成長を達成しましたが、ゲーミング部門は売上減少が目立ちました。
- 企業向けセグメントでもEPYCプロセッサの需要が拡大し、5四半期連続で前年同期比2桁成長を記録しており、今後も成長が期待されています。
- 2024年のデータセンターGPU売上高は50億ドル超を予測しており、長期的にはエンタープライズ市場とAI市場での成長機会が見込まれていますが、競合エヌビディアの優位性が依然として強調されています。
アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)の最新の2024年第3四半期決算発表に関して
アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)は10月29日に2024年第3四半期決算を発表し、売上高を68億ドルと報告し、予測中央値を1億ドル上回りました。
四半期ベースで17%増、前年同期比で18%増と、四半期としては過去最高の売上を記録しており、これは2022年第2四半期の記録である65億ドルを大きく上回る結果です。
AMDの四半期別売上高(Revenue)と純利益(Net Income)の推移
(出所:筆者作成)
また、粗利益率は50%で、前四半期比1ポイント、前年同期比3ポイント上昇しました。
(出所:AMDの2024年第3四半期決算資料)
セグメント別に見ると、データセンター部門(上記の図:Data Center)の売上は35億ドルに達し、前年同期比122%、前四半期比25%の成長を記録しました。
これはAMD Instinct™ GPUの出荷増加とAMD EPYC™ CPUの売上成長が貢献しています。
クライアント部門(上記の図:Client)は19億ドルで、前年同期比29%、前四半期比26%の増加しており、主な要因は「Zen 5」AMD Ryzen™プロセッサーの需要の強さです。
一方、ゲーミング(上記の図:Gaming)と組込み部門(上記の図:Embedded)は低調でした。
ゲーミング部門の売上は4億6200万ドルで、前年同期比69%減、前四半期比29%減と、主にセミカスタム製品の売上減が影響しています。
組込み部門の売上は9億2700万ドルで、前年同期比25%減でしたが、いくつかのエンド市場で需要が改善し、前四半期比では8%増加しました。
今後の見通しとして、AMDは次の四半期の売上を75億ドル±3億ドルと予測しており、中央値では前年同期比で約22%、前四半期比で約10%の成長を見込んでいます。
決算発表の前日にはAMDの株価が約4%上昇していたものの、発表後の時間外取引で急落し、現在は52週レンジの中間あたりで推移しています。
(出所:Yahoo Finance)
この決算で株価が下落したのは、今の市場にとって驚きではないでしょう。
収益の上振れも予想も控えめで、2025年の大胆な予測もありませんでした。
エヌビディア(NVDA)が主導する市場の期待を考えると、この結果では満足されなかったということです。
しかし、AMDの長期投資家であれば、事前コメントやQ&Aの中に実は好意的な要素が含まれていたことに気付いているでしょう。
それでは、内容を詳しく見ていきましょう。
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アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)の最新決算の詳細
アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)への投資には、心の準備が必要です。
同社がここ5年以上にわたりインテル(INTC)に対してシェアを着実に奪ってきたことは明らかですが、株価の動きはここ数年で波乱が続いています。
例えば、2022年初頭のピーク時に投資していた場合、損失を回収するまでに丸2年かかったことでしょう。
現在の株価は、2021年11月中旬の水準とほぼ同じです。
当時は、今や年間50億ドル規模に成長したデータセンター向けGPU事業がまだ存在していなかった頃です。
この株価の推移は、少なくとも一部には、2022年初頭までの2年間に急上昇したことが影響していると言えるでしょう。
AMDへの投資で心得ておくべきは、インテルに対する巻き返しを果たすまでの成長は常に長期戦であり、短期の勝負ではないということです。
これは5月に執筆した下記のレポートにおいても読者の皆さんにお伝えしたことでした。
もし、下記のレポートに関心がございましたら、インベストリンゴのプラットフォーム上よりご覧いただければと思います。
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の将来性:時間外で株価急落!最新の決算分析を通じて今後の株価見通しに迫る!
さらに、AMDが現在の道のりを歩んでこられたのは、優れた実行力と幸運の両方があってこそです。
まず、インテルがプロセス技術とアーキテクチャのリーダーシップで失敗したことで、競争のチャンスが大きく広がりました。
そして、グローバルファウンドリーズ(GFS)が7ナノメートル・プロセスを断念したことで、AMDはTSMC(TSM)と手を組むことができたのです。
また、今月でリサ・スー氏がAMDのCEOに就任して10年が経ちます。
彼女はこの10年を振り返り、スピーチの最後で次のように語りました。
(原文)Taking a step back, this month marks my 10th anniversary as AMD's CEO. In the last 10 years, we have successfully completed multiple arcs. First, by turning the company around and setting the solid financial and operational foundation required for sustained growth. And then by transforming AMD into the high-performance and adaptive computing leader. While I'm incredibly proud of what we've accomplished, I'm even more excited about the unprecedented growth opportunities in front of us. Looking out over the next several years, we see significant growth opportunities across our Data Center, Client and Embedded businesses driven by the nearly insatiable demand for more compute.
(日本語訳)振り返ってみると、今月でAMDのCEOに就任してから10年になります。この10年間で、私たちはいくつもの重要な節目を乗り越えてきました。まず、会社を立て直し、持続的な成長のための確かな財務・運営基盤を築き上げました。そして、AMDを高性能で柔軟なコンピューティング分野のリーダーへと成長させることができました。これまでの成果には誇りを感じていますが、それ以上に、これからの前例のない成長機会にワクワクしています。今後数年にわたり、データセンター、クライアント、組み込み事業のすべてにおいて、計算需要の高まりが成長を後押しすると確信しています。
本当に驚くべき道のりだったと私も感じています。
おそらく今世紀最大のテクノロジー企業の復活劇といえるでしょう。
しかし、その過程は決して早いものではなく、慎重に、時には苦しみを伴いながら進んできたものでした。
AMDがインテルを凌駕するプロセッサを開発し始めた時点で、すぐに圧倒的な優位に立てると期待していましたが、インテルは必死に反撃し、今でも既存勢力としての強みを持ち続けています。
また、インテルはパンデミックによる追い風にも恵まれました。
減少傾向にあったPC市場が2022年から2023年にかけて急成長し、過去最高の売上を記録したのです。
この追い風がなければ、インテルの現在の苦境が当時から顕著になっていたはずだと私は考えています。
サーバー市場も同様です。
ここでAMDはPC市場よりもさらにシェアを拡大しましたが、それは優れた製品と巧妙な戦略のおかげです。
特に、最初にエンタープライズ市場(企業や法人を顧客とする市場)ではなくハイパースケール市場(クラウドサービスプロバイダーや大規模なデータセンターを運営する企業を中心とする市場)に集中するという戦略が功を奏しました。
このアプローチは、ハイパースケーラーでの受注を得るまでに時間がかかるものでしたが、一度軌道に乗るとその努力が大きな成果に繋がりました。
限られたリソースを最大限に活用し、AMDはエンタープライズ市場よりも速いスピードでハイパースケール市場での規模を拡大することができました。
今回の決算発表で、私が特に注目したいのはこの点です。
アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)のエンタープライズ市場での進展
アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)はハイパースケーラー市場という「抜け道」からサーバー市場に参入し、大成功を収めてきましたが、ここ4四半期ほどは市場シェアが伸び悩んでいます。
そこで、ハイパースケーラーに加えてエンタープライズ市場にも注力する時が訪れたと言えます。
そして今期、その取り組みが確実に成果を上げ始めたことが明らかになりました。
実際、エンタープライズ向けの売上はこれで5四半期連続で前年同期比「力強い2桁成長」を達成しています。
下記は最新の決算説明会における遣り取りの一部です。
(原文)In the Enterprise, sales grew by a strong double-digit percentage year-over-year for the fifth straight quarter as EPYC CPU adoption accelerated and sell-through momentum grew. Dell, HPE, Lenovo and others have expanded the number of fourth-gen EPYC platforms they offer by 50% in the last year.
(日本語訳)エンタープライズ市場では、EPYC CPU(AMDが開発したサーバーおよびデータセンター向けの高性能プロセッサシリーズ)の採用が進み、販売の勢いも強まっていることから、売上は5四半期連続で前年同期比の力強い2桁成長を記録しました。この1年で、デル・テクノロジーズ(DELL)、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)、レノボなどが提供する第4世代EPYCプラットフォームの数も50%増加しています。
現在、AMDは200種類以上のEPYCソリューションを展開しており、幅広いエンタープライズやエッジ向けのワークロードに対応しています。
そして、今期は、エンタープライズ分野での数多くの成功事例も紹介されました。
(原文)We are building strong momentum with large enterprise customers, highlighted in the third quarter by wins with large technology, energy, financial services, and automotive companies in the quarter, including Airbus, Daimler Truck, FedEx, HSBC, Siemens, Walgreens, and others.
(日本語訳)私たちは大手エンタープライズ顧客との関係を強固にしており、第3四半期には、エアバス、ダイムラー・トラック、フェデックス(FDX)、HSBC、シーメンス、ウォルグリーン(WBA)など、テクノロジー、エネルギー、金融サービス、自動車業界の大手企業との契約が進展しました。
AMDは、エンタープライズ向けの受注が加速したことでサーバー向けCPUの市場シェアを拡大したと主張しており(これは納得のいくものです)、この状況は明日のインテルのデータセンター部門の決算にとって厳しいものとなりそうです。
(原文)Turning to the segments. Data Center segment revenue increased 122% to a record $3.5 billion. We believe we gained server CPU share in the quarter as enterprise wins accelerated
(日本語訳)セグメント別に見てみましょう。データセンター部門の売上高は122%増の過去最高、35億ドルに達しました。エンタープライズ向けの受注が加速したことで、今期はサーバー向けCPUのシェアを拡大できたと考えています。
エンタープライズ分野でのこの進展は、以前から待ち望んでいたものでしたが、アナリストのハーラン・サー氏がこのセグメントについて質問した際に触れられました。それに対するリサ・スー氏の回答は以下の通りです。
(原文)And I think as we think about our opportunities going forward, the Enterprise business is a place where we have been underrepresented. I think our portfolio has strengthened. So the platforms that are being offered by the OEMs have broadened with not just Zen 4, but also with the Zen 5 portfolio launch. And so I think those are opportunities for us in 2025.
(日本語訳)今後の成長機会を考えると、エンタープライズ事業はこれまで手薄だった分野です。しかし、現在では製品ポートフォリオが強化され、OEM各社が提供するプラットフォームもZen 4に加えてZen 5シリーズの展開によりさらに拡大しています。これが2025年に向けた大きな成長のチャンスになると考えています。
実際、ハイパースケーラー市場と同様に、一度エンタープライズ顧客に採用されると、その関係は非常に「粘り強く」続きます。次回のアップグレード時にも自然と選ばれることになり、継続的な採用が期待できます。
アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)のデータセンターGPU市場規模と2024年の売上高見通し
今月初めに開催された「Advancing AI Day」において、アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)のCEOであるリサ・スー氏は2028年のAIアクセラレーター市場規模予測を再び引き上げ、4500億ドルから5000億ドルと更新しています。
そして、この市場は年間成長率60%で成長すると見込まれています。
ちなみに、2023年の時点ではこの予測はたった450億ドルにすぎませんでした。
また、最新の決算発表では、2024年のデータセンターGPU売上高見通しが50億ドルに更新されました。
(原文)We have built significant momentum across our data center AI business with deployments increasing across an expanding set of cloud, enterprise, and AI customers. As a result, we now expect Data Center GPU revenue to exceed $5 billion in 2024, up from $4.5 billion we guided in July and our expectation of $2 billion when we started the year.
(日本語訳)データセンター向けAI事業は、クラウド、エンタープライズ、AI顧客への導入が加速し、大きな成長を遂げています。その結果、2024年のデータセンターGPU売上高は、7月時点の予測であった45億ドルをさらに上回り、年初の20億ドルの見込みから大幅に増え、50億ドルを超えると予想しています。
この数字は、年初の予測であった20億ドルから大幅に上方修正されています。
しかし、Q&Aセッションであるアナリストは、この成長機会についてエヌビディア(NVDA)の方が優位だと捉える見方を示しました。
(原文)In the coming year, let's say, 2025, your key competitor will take most of the TAM of the AI market, the GPU market, rough count, they'll take in something like $50 billion, $60 billion, you'll get another $5 billion to $10 billion, call it. So the question is, what do you think is the major hindrance? You've got chip level compatibility. So does it boil down to the fact that you're just earlier in the game.
(日本語訳)来年、つまり2025年には、主要な競合がAI市場やGPU市場の大半を占め、ざっと見積もっても500億〜600億ドルの収益を上げると予想されます。一方で、御社の収益は50億〜100億ドルほどにとどまる見込みです。そこで質問ですが、主な課題は何だとお考えでしょうか?チップレベルでの互換性はありますが、やはり市場参入が遅れたことが影響しているのでしょうか?
そして、これに対して、リサ・スー氏は次のように述べています。
(原文)If you remember, Harsh, and I think you do, our EPYC ramp from Zen 1, Zen 2, Zen 3, Zen 4 we had extremely good product even back in the Rome days, but it does take time to ensure that there is trust built, there is familiarity with the product set. There are some differences, although we're both GPUs, there are some differences, obviously, in the software environment. And people want to get comfortable with the workload ramp. So from a ramp standpoint, I'm actually very positive on the ramp rate.
(日本語訳)Harshさん、ご存じのとおり、当社のEPYCプロセッサはZen 1からZen 4に至るまで非常に優れた製品を提供してきました。Romeの時代から、信頼関係を築き、製品に慣れてもらうには時間がかかるものです。確かにGPUとしては同じカテゴリーですが、ソフトウェア環境には違いがあり、ユーザーもワークロードの増加に慣れる必要があります。その点で、成長スピードには非常に前向きな見方をしています。
私はこれは納得のいく回答だと思っています。
AMDはまだこの分野での取り組みを始めたばかりですが、エヌビディアは長年にわたり顧客と関係を築いてきました。
そのため、投資家が注目すべきは、2028年には5000億ドル規模の市場が見込まれている点です。
AMDがその10%を獲得できれば、2024年の年間売上高の2倍以上に相当します。
顧客はアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)に対して非常に前向き
細かい点かもしれませんが、アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)のQ&Aセッションで私が注目したのは下記の点でした。
(原文)And as we get into the MI400 series, we think it's an exceptional product. So -- all in all, the ramp is going well, and we will continue to earn and -- earn the trust and the partnership of these large customers. What I will say is customers are very, very open to AMD. And we see that everywhere we go, everyone is giving us a very fair shot at earning their business, and that's what we intend to do.
(日本語訳)MI400シリーズに移行する中で、この製品は非常に優れたものだと自負しています。全体として成長も順調で、大手顧客の信頼とパートナーシップをこれからも築いていきたいと思います。顧客の皆さまがAMDに対して非常に前向きであることも実感しています。どこへ行っても、公平にビジネスのチャンスをいただいており、それにしっかり応えていくことが私たちの目標です。
AMDを応援している顧客層が広がっていると言っても過言ではありません。
インテルやエヌビディアに対する選択肢があることは業界にとってプラスであり、顧客が「AMDに非常に前向き」であるという事実は、今後の追い風となるでしょう。
アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)に対する結論
生成AI時代において、アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)の進展がエヌビディア(NVDA)やOpenAIと同じペースにはならないかもしれませんが、それを悲観的に見る必要はありません。
AMDは計画通りに成果を出し続けており、特にデータセンター分野でインテル(INTC)から確実に市場シェアを奪っています。
今後、四半期ごとの予測で多少物足りない数字が出る可能性もあります。
特に2025年度第1四半期の見通しには注意が必要です。
クライアントPCの需要は季節的に落ち込み、AMDの売上高に大きく影響するからです。
また、組み込みシステムやゲーム分野も、期待に届かないか、それほど大きな成長は見込めないかもしれません。
さらに、決算発表でも触れられたように、データセンター向けGPUの契約は変動が激しく、予測が難しい側面もあります。
最後に、データセンターGPUの「金鉱」が見つかる前と同じ価格で今もAMD株を購入できるのは、非常に魅力的だと考えています。
さあ、明日はインテルの発表です!
彼らが何を語るか、楽しみにしましょう!
さらに、その他のアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)に関するレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、アドバンスト・マイクロ・デバイスのページにアクセスしていただければと思います。
アナリスト紹介:ウィリアム・キーティング
📍半導体&テクノロジー担当
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