a close up of a dice with an amazon logo on it
11 - 05 - 2024

アマゾン(AMZN)株価はどこまで上昇?自社カスタムAIアクセラレーターのTrainiumの導入が本格化で株価上昇期待?

ダグラス・ オローリンダグラス・ オローリン
  • 本稿では、注目の米国テクノロジー銘柄であるアマゾン(AMZN)の10月31日に発表された最新の2024年第3四半期決算とTrainium2の可能性に関する詳細な分析を通じて、「アマゾンの株価はどこまで上昇するのか?」という疑問に答えるべく、同社の今後の株価見通しと将来性を詳しく解説していきます。
  • アマゾンはAWSの生成AI用インフラに大規模な設備投資を進め、Trainium2の開発によりAI市場での競争力を強化しようとしています。 
  • アドバンテストとモノリシック・パワー・システムズは、Trainium関連の需要増に対応して生産体制を強化しており、半導体サプライチェーンにも影響を与えています。 
  • マーベル・テクノロジーは通信とデータセンター関連事業の成長が続き、インフラ整備による2025年までの安定した成長が期待されています。

アマゾン(AMZN)の最新の2024年第3四半期決算発表とTrainium2に関して

今週の半導体業界で注目すべきニュースは、Trainiumの導入が本格化したことだと思います。

少し分かりづらいかもしれませんが、この動きがもたらす二次的な影響について順を追って説明し、その後、全体のイメージをお伝えしたいと思います。

まず、出発点から振り返ってみましょう。

アマゾン(AMZN)は10月31日に2024年度第3四半期決算を発表しており、遂に同社が本腰を入れ始めまているように見えます。

最初に、AWS Trainiumとは、Amazon Web Services(AWS)が開発した機械学習(ML)モデルのトレーニングに特化したカスタムAIアクセラレーターです。

このチップは、ディープラーニングや生成AIモデルのトレーニングを高性能かつ低コストで実行するために設計されています。

Trainiumは、PyTorchやTensorFlowなどの一般的な機械学習フレームワークとネイティブに統合されており、開発者は最小限のコード変更で利用を開始できます。

また、AWS Neuron SDKを使用することで、モデルのトレーニングと推論を効率的に行うことが可能です。

そして、SemiAnalysisが指摘した「AmazonがAIの未来を逃す理由」という内容が、ほぼ的中した形です。

AWSはインフラ運営に対して独自の考え方を持っており、その多くはアマゾンの“ベーシック”な商品戦略をAWSの規模で実現するという視点からきています。

この姿勢が、マイクロソフト(MSFT)のAzureが追いつく要因となっているのです。

しかし、ここで新たな変化の兆しを感じます。

アマゾンはAWSとAI向けのインフラ投資を加速しようと、設備投資を増やし始めているようです。

下記は最新の決算説明会における遣り取りの一部です。

(原文)Now turning to our capital investments. As a reminder, we define these as a combination of cash CapEx plus equipment finance leases. Year-to-date capital investments were $51.9 billion. We expect to spend approximately $75 billion in CapEx in 2024. The majority of the spend is to support the growing need for technology infrastructure. This primarily relates to AWS as we invest to support demand for our AI services while also including technology infrastructure to support our North America and international segments.

(日本語訳)次に、資本投資についてお話しします。資本投資は、現金による設備投資と機器のファイナンスリースを合わせたものと定義しています。今年の累計投資額は519億ドルに達しており、2024年には約750億ドルの設備投資を予定しています。その大半は、技術インフラの需要拡大に対応するためのもので、特にAWSのAIサービス需要に応えるための投資が中心です。また、北米や国際部門を支える技術インフラにも投資を行っています。

ここで興味深いのは、アマゾンのCEOであるAndy Jassy氏の具体的な発言です。

彼らは2025年にさらに多くの投資を行う見込みで、その多くが生成AI関連になると見ています。

生成AIは、AWSの規模においても3倍のスピードで成長しており、この発言からも、アマゾンの生成AI推進がいよいよ本格的に始まる「Day 1(第一歩)」にあたると感じます。

(原文)I suspect we'll spend more than that in 2025. And the majority of it is for AWS, and specifically, the increased bumps here are really driven by generative AI.

(日本語訳)2025年にはさらに多くの投資が必要になると考えています。主な投資先はAWSで、特に生成AIの需要増がその大きな要因となっています。

(原文)Our AI business is a multibillion-dollar business. It's growing triple-digit percentages year-over-year, and it's growing 3x faster at its stage of evolution than AWS did itself. We thought AWS grew pretty fast.

(日本語訳)私たちのAI事業はすでに数十億ドル規模に成長しており、前年比で三桁の成長率を達成しています。進化の段階においても、AWSがかつて達成したスピードの3倍で成長しており、当時のAWSも非常に速い成長を遂げていましたが、それを上回る勢いです。

(原文)And so the thing to remember about the AWS business is the cash life cycle is such that the faster we grow demand, the faster we have to invest capital in data centers and networking gear and hardware.

(日本語訳)AWS事業で重要なのは、キャッシュのライフサイクルです。需要が急速に伸びるほど、データセンターやネットワーク機器、ハードウェアへの資本投資が速やかに求められるという点です。

これは投資が加速していることを示しているように思います。半導体の良いところは、サプライチェーン全体がこうした動きをすぐにキャッチするところです。

Trainiumの立ち上げについては、アドバンテスト(6857)とモノリシック・パワー・システムズ(MPWR)という2つの大手企業で確認しました。

アドバンテストには驚かされましたが、これは予想を大きく上回る加速で、30%も上振れしていました。

おそらく、これはTrainium用のテスト装置の生産増強だと思われます。

ご存知のとおり、アドバンテストは特にAIデバイス向けのSoC市場に注力しています。

・アドバンテストの半導体および部品の売上高 :1455億(StreetAccount予想:1103.1億円)

決算説明会では、特定の顧客向けに供給を急速に拡大していると話していました。

これまでは主にエヌビディア(NVDA)のシステム向けの供給でしたが、今回のコメントはTrainiumの時期やアマゾンの発表と合致しているように思います。

以下は、アドバンテストが供給を急速に拡大していると述べたコメントです。

(原文)I would say that in terms of our discussions with customers, since July, we are working to accelerate to our procurement to meet customer demand and expand our production. And for HPC/AI demand, we are -- we have expanded our supply capabilities in a very short period of time. And we think that our second quarter demonstrates our efforts, which is why our second quarter number was very strong.

(日本語訳)お客様とのやり取りの中で、7月以降、需要に応えるために調達を加速し、生産体制も拡充してきました。特にHPCやAI向けの需要に対しては、短期間で供給能力を大幅に強化しました。その結果、第2四半期の業績が非常に良好なものとなったと自負しています。

また、アマゾンは製造パートナーに対し、追加供給の依頼を何度か行っていると述べています。

(原文)And we have a lot of customer interest. We have gone back to our manufacturing partners a couple of times now to produce a lot more Trainium than we anticipated. Some of that, for sure, is due to the fact that we have very large demand, and we want more capacity and supply to be able to provide them.

(日本語訳)お客様からの関心が非常に高く、当初の想定を超える量のTrainiumを製造するために、これまでに製造パートナーに何度か追加生産を依頼しています。これには大きな需要が背景にあり、より多くの生産能力と供給を確保したいと考えているためです。

テスト工程は通常、チップの量産開始の1四半期前に行われるため、生産能力拡大のタイミングともぴったり一致しています。

また、他にも興味深い情報がありました。モノリシック・パワー・システムズが「独自のテンソルプロセッサユニット」を持つ顧客が増産を始めたと述べていましたが、これはTrainium2のことだと考えられます。

(原文)We have other ones like SoC side of the market segments that hasn't really ramped up yet or started ramping. And the other ones like other hyperscales company, cloud computing companies and their own SoCs and their own TPUs, they call it the tensor processors. And those one is still small, and we're ramping in the next few quarters, okay? And as Bernie said, MPS, in the past, we always emphasize diversity. And we will not be known to be an AI power supply company.

(日本語訳)他には、まだ本格的に立ち上がっていないSoC関連の市場セグメントもあります。また、他のハイパースケール企業やクラウドコンピューティング企業が自社のSoCや「テンソルプロセッサ」と呼ばれる独自のTPUを持っていますが、これらはまだ小規模で、今後数四半期にわたって増産を予定しています。そして、バーニーが言ったように、MPSはこれまで常に多様性を重視しており、「AI専用の電源供給会社」として見られるつもりはありません。

Trainiumの増産は予想以上の規模になると思います。

アマゾンはついに生成AI競争に本腰を入れ、カスタムシリコンを使った大規模な取り組みを始めました。

Trainium1は期待通りではなかったものの、今回のTrainium2は市場に向けた本格的な再挑戦と言えるでしょう。

この展開は非常に興味深いものであり、今後の展開には注目していきたいと思います。

アマゾンの成長はエヌビディアの業績にはまだ織り込まれていないと思いますが、それでもエヌビディアのGb200はTrainium2より優れた製品だと思います。

しかし、エヌビディアの予測はいつも少し控えめで、「ピーク収益」への懸念が背景にあるようです。

私にとって、Trainiumは「ピーク収益」のリスクとして注目に値する初の新しい要素だと思っています。

顧客が他のプラットフォームに移行する可能性はリスクですが、これまではエヌビディアとTPU(Googleが開発した機械学習モデルの処理に特化したカスタムアクセラレータ)のみだった高ボリュームのトレーニングプロセッサ市場に、新たな第3の選択肢が加わり、生産も拡大しています。

市場はこれに対して過剰に反応し、エヌビディアに対する懸念が増す可能性もあります。

Trainiumが大規模モデルのトレーニングでどこまで成功するかは不明ですが、いくつかの企業にとっては確実に大きな収益源になると思います。

さて、主な恩恵を受ける企業について話しましょう。

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マーベル・テクノロジー(MRVL)

常連の読者にはお馴染みですが、またしても私が注目するマーベル・テクノロジーMRVL)について話していきたいと思います。

今年、マーベル・テクノロジーについて何度も取り上げました。

以前、同社の株価が120ドルまで上昇する可能性があるという点を指摘しましたが、これはその一環です。

とはいえ、いくつかの懸念もあります。

同社はヘッジファンドの銘柄であり、多くのファンドが好調を見込んでいます。

そのため、皮肉にも優れた業績が逆に売り材料になることもありますが、長期的にはロングで臨むことが良いように見えます。

具体的な数字はわかりませんが、アドバンテストの四半期毎の成長が30%である一方で、マーベル・テクノロジーのセグメント売上は四半期で15%増の予測にとどまっています。

(出所:Bloomberg)

Trainium以外のデータセンター事業も好調で、売上は1200~1400億に近い可能性があると考えています。

これまでのところ、通信インフラ分野では四半期で20~30%の成長が見られ、合計で200~250億ほどの売上超過が期待できそうです。

営業費用が増えず、粗利益率が50%を維持できれば、売上高の増加が見込まれます。

ちなみに、モノリシック・パワー・システムズも通信インフラの急成長に注目している点が興味深いですね。

下記はモノリシック・パワー・システムズの最新の2024年第3四半期決算説明会における遣り取りの一部です。

(原文)Communication revenue was up 65% from the prior quarter, reflecting new product ramps for Wi-Fi, optical, networking and router solutions.

(日本語訳)通信関連の売上は前四半期比で65%増加しました。これは、Wi-Fi、光通信、ネットワーク機器、ルーター向けの新製品の立ち上げによるものです

では、その背景には何があったのでしょうか?

(原文)Well, the optical is a data converter -- data communications within the data centers, so within your reps, okay? And that's a portion of it. But that's not all of them. Other one is the new Wi-Fi format and it start to ramping up, okay?

(日本語訳)光通信はデータセンター内でのデータ通信、つまりリピーター間の通信を指しており、これが一部の要因です。しかし、それだけではなく、新しいWi-Fi規格も導入が進んでいます。

これらはいずれもマーベル・テクノロジーにとって好材料で、今期はインテル(INTC)もNEX部門(ネットワークおよびエッジコンピューティング向けの製品とソリューションを提供する事業部門)で好成績を収めました。

特に注目すべきは、2025年前半まで通信分野での成長が続くと見られる点です。

ZRやネットワーキングも、Trainium2と同様に急成長しています。

(原文)Generally, after you have a big initial stocking in the quarter with a new revenue ramp, it tends to tail off for a quarter. But we see sustainable growth in Communications through the first half of '25.

(日本語訳)通常、新しい収益が立ち上がると、その四半期で大きく在庫が積み上がり、次の四半期には一旦落ち着く傾向があります。しかし、2025年前半までは通信分野で安定した成長が続くと見ています。

短期間ではありますが、マーベル・テクノロジーの3つの主要事業であるカスタムシリコン、データセンターネットワーキング、そして通信が同時に動き出します。

そのため、この株に注目しており、マーベル・テクノロジーのCEOであるMatt Murphy氏には株価を120ドルに引き上げる意欲があるようです。

同社の決算発表は2024年12月5日に予定されているので、結果を楽しみに待ちたいと思います。

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アナリスト紹介:ダグラス・ オローリン / CFA

📍半導体&テクノロジー担当

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