【今年最大の米国IPO:2024年7月25日上場】リネージュ(LINE)の財務分析と今後の株価見通し・将来性を徹底解説!
ドノヴァン・ ジョーンズ- 本稿では、現時点で、2024年度最大のIPO銘柄であるリネージュ(LINE)のIPOに関する詳細、並びに、今後の株価見通しを徹底的に解説していきます。
- 同社は世界的に冷蔵倉庫を所有する大手企業であり、36億ドルの資金調達を目的としたIPOの条件案を提出し、上場予定日は2024年7月25日となっています。
- 同社の財務状況を見てみると、売上高、営業利益、調整後FFOが減少しており、設備投資がかさみ、競合のアメリコールド・リアルティ・トラスト(COLD)と比較して割高なバリュエーションとなっています。
- そのため、私の同社株式に対する見通しは「中立」としています。
リネージュ(LINE)のIPOに関して
米証券取引委員会(SEC)への修正登録届出書によると、リネージュ (LINE)はIPO経由での普通株式の売却を通じて、約36億ドルを調達する条件案を提出しました。
同社は世界各地で冷蔵倉庫を買収・運営している大手企業であり、創業以来急成長を遂げ、この種の事業者としては最大手だが、売上高の伸びは停滞しており、調整後FFOは前年比で低下しています。
※調整後FFO(Funds From Operations:営業キャッシュフロー)とは、不動産投資信託(REIT)の業績を評価するための指標の一つ。FFO(Funds From Operations)を元に、さらに資本的支出や維持費用などの要素を調整して算出される。
IPO時の株価は、競合の中小企業であるアメリコールド・リアルティ・トラスト(COLD)の株価よりも割高であるため、同社のIPOに対する私の見通しは「中立」としています。
リネージュ(LINE)の事業内容
ミシガン州ノバイを拠点とするリネージュ(LINE)は、生鮮品のサプライチェーン・サービスを提供する定温倉庫を世界規模で買収、所有、運営するために設立されました。
同社の経営陣は、創業者で共同経営委員長のアダム・フォルステ氏とケビン・マルケッティ氏が率いており、両氏は2008年の創業以来、同社に参画しています。フォルステ氏は、過去にプライベート・エクイティ会社KKRとモルガン・スタンレーで要職を歴任しており、マルケッティ氏は、プライベート・エクイティ・グループのユカイパ・カンパニーズとモルガン・スタンレーに勤務していました。
また、同社の主な事業内容は以下の通りとなっています。
配送センター(Distribution centers)
公共倉庫(Public warehouses)
生産用倉庫(Production advantage warehouses)
マネージャー倉庫(Manager warehouses)
2024年3月31日現在、リネージュは、BentallGreenOak、D1 Capital Partners、Oxford Properties、CenterSquare Investment Management、Morgan Stanley Tactical Value、Conversant Capital、OP Trust、Choen & Steersなどの投資家から公正市場価値(FMV:Fair Market Value)ベースで62億ドルの出資を受けています。
同社は、様々な冷蔵倉庫物件をリースするサプライチェーンの顧客を有し、2024年3月31日現在、北米で293棟、欧州で82棟、アジア太平洋地域では88棟の倉庫を運営しており、総面積は29億立方フィート、パレット数は980万枚となっています。
リネージュ(LINE)を取り巻く市場環境
Grand View Research社の2023年市場調査報告書によると 、冷蔵倉庫の世界市場は2022年に推定1200億ドルで、2030年には4350億ドルに達すると予測されています。
そして、これは、2023年から2030年までの年平均成長率が17.5%という高い予測に相当しています。
この成長予測の主な原動力は、温度に敏感な製品の生産と保管に関する規制の高まりと、新興国における冷食の小売機会の増加が挙げられます。
また、以下のグラフは、アメリカの冷蔵倉庫市場の過去および今後の成長予測を示しています。
そして、グローバルベースの主な業界プレーヤーは以下の企業となっています。
アメリコールド・リアルティ・トラスト(COLD)
NewCold
US Cold
Interstate Warehousing
FreezPak Logistics
Nichirei
Constellation Cold
Conestoga
Congebec
Trinity Rail
DFDS
Wolter Koops
Primafrio
Erb Transport
Midland Transport
リネージュ(LINE)の最近の財務状況
リネージュ(LINE)の最近の業績をまとめると以下のようになります。
トップライン売上高の微減
営業利益の減少
調整後FFOの減少
純損失の増加
そして、以下は、同社の登録届出書から得られた財務関連情報です。
期間 | 総売上高 | 対前年同期比増減率 |
2024年1月1日から3月31日までの3カ月間 | $ 1,328,000,000 | -0.4% |
2023年度 | $ 5,341,500,000 | 8.4% |
2022年度 | $ 4,928,300,000 | |
期間 | 営業利益(損失) | 対前年同期比増減率 |
2024年1月1日から3月31日までの3カ月間 | $ 100,800,000 | -23.6% |
2023 | $ 1,751,700,000 | 20.4% |
2022 | $ 1,455,100,000 | |
期間 | 調整後FFO | 対前年同期比増減率 |
2024年1月1日から3月31日までの3カ月間 | $148,300,000 | -19.1% |
2023 | $562,300,000 | 1.9% |
2022 | $551,900,000 | |
期間 | 調整後EBITDA | 対前年同期比増減率 |
2024年1月1日から3月31日までの3カ月間 | $ 326,600,000 | -2.2% |
2023 | $ 1,278,200,000 | 19.0% |
2022 | $ 1,074,400,000 | |
期間 | 当期純利益 | 対前年同期比増減率 |
2024年1月1日から3月31日までの3カ月間 | $ (48,000,000) | -358.1% |
2023 | $ (96,200,000) | 26.6% |
2022 | $ (76,000,000) |
(出典:SEC)
また、2024年3月31日時点で、同社の現金は9,360万ドル、負債総額は93億ドルとなっており、2023年12月31日までの12ヵ月間のフリーキャッシュフローは4,810万ドルでした。
リネージュ(LINE)のIPO計画に関して
リネージュ(LINE)は、普通株式4700万株を1株あたり76.00ドルの中間価格で売却する予定であり、通常の引受人オプションの売却を除いた総調達額は約35.7億ドルとなります。
また、ノルウェー中央銀行投資管理部(Norges Bank Investment Management)は、IPO価格で最大9億ドル分の株式を購入する非拘束的な意向を示しています。
そして、引受人オプションを除いたIPO時の企業価値は約249億ドルとなり、引受人オプションを行済株式に対する浮動株の比率は約20%となります。
同社のロードショーに関する経営陣のプレゼンテーションは、IPO完了までこちらでご覧いただけます。
未解決の法的手続きに関して、同社の経営陣は、現在、同社が業務や財務状況に重大な悪影響を及ぼすと信じられる法的請求の対象ではないと述べています。
さらに、IPOのブックランナーは、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス、BofAセキュリティーズ、J.P.モルガン、ウェルズ・ファーゴ・セキュリティーズ、RBCキャピタル・マーケッツ、ラボ・セキュリティーズ、スコシアバンク、UBS投資銀行、キャピタル・ワン・セキュリティーズ、トゥルイスト・セキュリティーズ、エバーコアISI、ベアード、キーバンク・キャピタル・マーケッツ、みずほ、PNCキャピタル・マーケッツ、ドイツ銀行セキュリティーズ、HSBC、パイパー・サンドラー、リージョンズ・セキュリティーズ、ブレイロック・ヴァン、カブレラ・キャピタル・マーケッツ、C.L.キング&アソシエイツ、ドレクセル・ハミルトン、グズマン&カンパニー、ループ・キャピタル・マーケッツ、ロバーツ&ライアン、およびR.シーラス&カンパニーです。
※IPOのブックランナー:株式公開(IPO)において、発行企業と投資家の間を仲介する主要な金融機関のこと。
リネージュ(LINE)のバリュエーションに関して
以下の表では、リネージュ(LINE)のIPO時のバリュエーションを示しています。
バリュエーション指標 | 値 |
希薄化後時価総額 | $18,297,176,244 |
企業価値(EV) | $24,901,276,244 |
株価売上高倍率(PSR) | 3.43 |
株価純資産倍率(PBR) | 3.12 |
企業価値 / 売上高 | 4.67 |
企業価値 / EBITDA | 19.59 |
過去12ヶ月間ベースの実績EPS | -$3.01 |
調整後FFO | $ 562,300,000 |
一株当たり調整後FFO | $2.34 |
レバレッジ比率(純負債 / EBITDA) | 10.05 |
DCF法による理論株価 | $0.00 |
IPO価格レンジの中間値 | $76.00 |
(出典:SEC)
参考までに、下記の表において、リネージュ(LINE)と上場企業であり競合他社の1つであるアメリコールド・リアルティ・トラスト(COLD)とバリュエーション指標の比較をしています。
バリュエーション指標 | LINE | COLD | 差異 |
株価売上高倍率(PSR) | 3.43 | 2.98 | 13% |
株価純資産倍率(PBR) | 3.12 | 2.25 | 28% |
企業価値 / 売上高 | 5.27 | 4.33 | 18% |
企業価値 / EBITDA | 22.11 | 21.5 | 3% |
過去12ヶ月間ベースの実績EPS | -$3.01 | -$1.16 | 61% |
(出典:SECおよびナスダック)
リネージュ(LINE)のIPOに関する見解
リネージュ(LINE)は、米国の株式市場からの出資を求めており、その資金で債務を返済する予定です。
同社の財務状況を見てみると、前年比でわずかに減少する売上高、減少する営業利益および調整後のFFOに加え、純損失の増加といった内容を示しており、2023年12月31日に終了した12か月間のフリーキャッシュフローは4810万ドルでした。
同社は現在、REIT課税所得の少なくとも90%を毎年配当として分配する計画を持っており、経営陣は「調整後FFOのおよそ50%を株主に毎年配当することを長期目標」としています。
同社の最近の資本支出は、営業キャッシュフローの割合として大規模な資本的支出を行っていることを示しています。
経営陣は同社を「長期的な観点から」管理すると述べているため、今後も大規模な資本的支出を続けることが予想されます。
冷蔵倉庫および関連サービスの市場機会は大きく、今後数年間で強い成長率が期待されているため、同社には業界の成長トレンドが有利に働いているようにも見えます。
同社がIPO後の上場企業としての見通しに対するリスクには、冷蔵倉庫業界への集中が含まれ、これは少なくとも現在のところ、いくつかの地理的な地域に集中しています。
バリュエーションに関しては、IPOのバリュエーションを見てみると、最も類似している上場企業であり競合企業であるアメリコールド・リアルティ・トラスト(COLD)に比べて割高であるように見えます。
2023年のリネージュの調整後FFOは5億6230万ドルであり、これを2337万株の総株式およびOPユニットで割ると、1株あたり約2.41ドルの調整後FFOになります。
※OPユニット:REITの運営パートナーシップへの持分で、後でREITの普通株式に交換できるもの。配当も受け取れ、税務上の利点がある。
一方、アメリコールド・リアルティ・トラストの現在の株価である28.50ドルに対する1株あたり調整後FFOは1.27ドルであり、これは約4.5%の調整後FFO利回りになります。
そして、リネージュの1株あたり調整後FFOは2.41ドルで、提案されたIPO価格の中間地である1株あたり76.00ドルに対する調整後FFO利回りは約3.2%になります。
これは、リネージュのバリュエーションがアメリカールドに対して割高であることを示すもう一つの材料と言えます。
総括すると、リネージュのIPO時のバリュエーションは、より小規模な競合企業であるアメリコールド・リアルティ・トラストのバリュエーションよりも割高であるため、その理由から私は同社のIPOに対して中立的な立場を取っています。
上場予定日:2024年7月25日
※米国株式投資、並びに、IPOに関連する用語集に関しましては、こちらのリンクより、ご確認いただければと思います。
アナリスト紹介:ドノヴァン・ ジョーンズ
📍IPO&テクノロジー担当
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