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10 - 28 - 2024

インテル(INTC)の株価下落理由とは?技術開発責任者アン・ケリハー氏の突然の後任発表が同社の将来性に与える影響とは?

ウィリアム・ キーティングウィリアム・ キーティング
  • 本稿では、足元でリークされた技術開発責任者アン・ケリハー氏の後任発表を詳細に分析することで、インテル(INTC)の将来性に迫ります。
  • インテルの技術開発責任者であるアン・ケリハー氏の後任に、設計エンジニアリング部門を率いるナビド・シャリアリ氏が選ばれましたが、ケリハー氏の在任期間は明らかにされていません。 
  • この後任発表はインテルの製造部門従業員に送られたメールを通じてリークされ、正式なプレスリリースがなかったことが注目されています。 
  • ケリハー氏はインテルの「5N4Y」戦略を主導してきた重要人物で、今回の後任発表はインテルの技術開発状況が厳しく見直されている可能性を示唆しています。

インテル(INTC)の技術開発責任者のアン・ケリハー博士の後任

2024年10月24日、Oregonian紙に掲載されたこちらの非常に珍しい記事によると、インテル(INTC)は技術開発責任者のアン・ケリハー博士の「長期的な」後任を選定したことが明らかになりました。

インテル、技術開発責任者およびオレゴン州の最高幹部の「長期的な」後任を選定

(出所:The Oregonian)

この記事によれば、

(原文)CEO Pat Gelsinger said Kelleher’s successor is Navid Shahriari, who jointly runs Intel’s design engineering operation from Arizona. Gelsinger didn’t say how much longer Kelleher will remain with the company.

(日本語訳)CEOのパット・ゲルシンガー氏は、アン・ケリハー氏の後任としてアリゾナ州でインテルの設計エンジニアリング部門を共同で率いているナビド・シャリアリ氏を指名したと述べています。ただし、ケリハー氏がインテルにどのくらいの期間残るのかについては触れられていません。

このニュースは、製造部門の従業員に送られたメールで共有されたもので、Oregonian紙にリークされたようです。

その後、インテルの広報チームに確認が取られ、事実上その内容が認められました。

この記事から得られたその他の情報は次の通りです。

(原文)Ann isn’t going anywhere. Given the importance of TD (technology development), we have a robust long-term succession planning process,

(日本語訳)アンはどこにも行きません。技術開発(TD)が非常に重要なため、我々は堅実な長期的後継計画を持っています。

面白いことに、Tom’s Hardwareはこのニュースをポジティブに取り上げ、インテルが自社ファブを諦めていない証拠だとしています。

インテル、プロセス技術開発責任者の「長期的な」後任を指名

これは、インテルが自社の工場を諦めていないことを示す素晴らしい表現です。

(出所:Tom's Hardware)

正直言って、どうしてそういう結論に至ったのか少し理解に苦しみます。

後継者計画自体は特に目新しいものではなく、どの企業でも頻繁に行われています。

ただ、こうした内容が公にされることは少なく、通常は裏で進行します。

さらに、こういった話は、通常は従業員と上司の間で行われ、パフォーマンスレビューやフォーマルな開発計画の中で話し合われるものです。

役職が上位であればあるほど、その詳細は公にされません。

インテルの中でもケリハー氏は、最も重要な役割を担っている人物と言えるでしょう。

彼女はゲルシンガー氏の「5N4Y」戦略(インテルが掲げた「5ノードを4年間で達成する」という目標)の実行を任されており、この戦略は来年、A18(インテルが開発している次世代の半導体製造プロセス)が量産体制に入ることで最終的な成果が見込まれています。

そんな状況の中で、ケリハー氏の後任が「リーク」されたというニュースは非常に異例であり、特に以下の点で疑問が残ります。

1. タイミング。なぜこの時期に発表されたのか?

2. 伝達手段。なぜプレスリリースではなく、次回の決算説明会で触れられなかったのか?

3. 以前から後任は決まっていたのか?そうだとすれば、その人物は誰で、何があったのか?そうでないなら、なぜ今まで決まっていなかったのか?

ここで本当は何が起こっているのでしょうか?

詳しく見ていきましょう!

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インテル(INTC)を取り巻く背景

ケリハー氏の後任計画を分析する前に、ここ4年間、彼女が果たしてきた役割について振り返ることが大切です。

前述のように、技術開発部門の責任者として、インテル(INTC)のプロセス技術ロードマップ、いわゆる「5N4Y」戦略を策定し、それを実現する責任を負ってきました。

この戦略の最も大きな目標は、2025年までにインテルがトランジスタ(電流の流れを制御する電子部品の一つ)のワットあたりの性能で再びリーダーシップを取り戻すことです(詳細はこちら)。

(原文)In 2021, Intel set out to regain process technology leadership and laid out our five nodes in four years journey (5N4Y) with a series of aggressive milestones. The 5N4Y roadmap focuses on regaining technical leadership and demonstrating consistent execution through careful and measured risk-taking. It is also about propelling the entire industry forward – as we transform the company to offer the breadth of our design, packaging and manufacturing capabilities to foundry customers.

(日本語訳)2021年、インテルはプロセス技術のリーダーシップを取り戻すため、4年間で5つのノードを達成するという大胆な目標(5N4Y)を掲げました。この5N4Yロードマップは、技術的な優位性を取り戻し、慎重かつ計画的にリスクを取りながら、安定した実行力を示すことを目的としています。また、これにより業界全体の発展を促進し、インテルが設計、パッケージング、製造の多様な技術をファウンドリー顧客に提供する体制を整えることも狙っています。

(出所:インテルの投資家向けプレゼンテーション資料)

この計画は非常に野心的で、現在も進行中です。

ゲルシンガー氏は「5N4Yを提案したとき、多くの人が『クレイジーだ』と言った」「誰も実現できるとは思わなかった」とたびたび言及しています。

このロードマップの重要なマイルストーンの一つが、2024年6月中旬にアイルランドのFab 34で行われたIntel 3のローンチです(詳細はこちら)。

(原文)In summary, Intel 3 technology provides the ultimate family of FinFET process nodes and delivers a full generation of performance and 10% better density than the Intel 4 node.

(日本語訳)簡潔にまとめると、Intel 3技術はFinFETプロセスノードの中で最高性能を提供し、Intel 4ノードに比べて性能が1世代向上し、密度も10%増加しています。

(原文)The Intel 3 node reached manufacturing readiness in the fourth quarter of 2023 and is now in high-volume manufacturing for the Intel Xeon 6 processor family. We are delivering on our promise of consistent execution against our 5N4Y plan and paving the way for our transition to RibbonFET and the angstrom era with the Intel 20A and Intel 18A process nodes being introduced over the coming year.

(日本語訳)Intel 3は2023年第4四半期に製造準備が整い、現在はIntel Xeon 6プロセッサファミリーの大量生産に使用されています。我々は5N4Y計画に沿った安定した実行を果たしており、Intel 20AとIntel 18Aプロセスノードを来年にかけて導入し、RibbonFETとエングストローム時代への移行を進めています。

Fab 34は、2023年9月にゲルシンガー氏とケリハー氏の出席のもと、盛大にオープンしました。

その際の建設過程を紹介した短いタイムラプスビデオがYouTubeで公開されていますので、興味のある方はぜひご覧ください(リンクはこちら)。

オープン時には、ケリハー博士がDr.イアン・カットレス氏とのインタビューに応じ、当時Fab 34で稼働していたIntel 4について多くの質問に答えました(リンクはこちら)。

このノードはインテルが初めてEUVを使用したプロセスノードで、EUVの導入について彼女は「非常に成功した」と述べ、Intel 4の製造性も「非常に良好」と評価しました。

また、オレゴンからFab 34へのプロセス移行について、「この2年間、私の元にエスカレーションされた問題はゼロでした」と、少し変わったコメントをしています。

2年間も問題が報告されないというのは、どう解釈すべきでしょうか?

インタビュー全体としては、Intel 4が非常に順調に進んでいるという強い印象を与えました。

しかし、これは同じFab 34が、2024第2四半期の決算発表で注目を集めた理由でもあります。

AI PCの生産を加速させた結果、Fab 34の粗利益率が約5%低下したためです。

これは、おそらくIntel 4(もしくはIntel 3)の歩留まりが予想を大きく下回っていたことを示唆しています。

私の見解では、インテルはIntel 4とIntel 3のプロセスノードで問題を抱えており、そのためにTSMC(TSM)へのアウトソーシングを続けざるを得ない状況にあるのではないでしょうか。

インテル(INTC)の後任発表のタイミング

インテル(INTC)の取締役会は、インテルのプロセスノードの現状にこれまで以上に注目し始めた可能性が高いです。

この4年間、ゲルシンガー氏とケリハー氏からの発信は常に前向きで、楽観的なものでした。

問題や遅れもなく、すべてが順調に進んでいるように伝えられていました。

しかし、今はその成果を示す時期です。TSMC(TSM)への外注を減らし、「ウエハーを自社に戻す」ことが求められています。

しかし実際には、これが全く進展せず、むしろTSMCへの外注が増え、粗利益率が低下し、20Aプロセス(2ナノメートルの技術プロセス)のキャンセルなど、状況は悪化しているようです。

おそらく、インテルの技術開発部門の状況が厳しく精査されることになり、その結果として今回の後継者計画がリークされたのだと考えています。

インテル(INTC)の今回の後任発表の伝達方法

今回の件がプレスリリースを伴わなかったという事実は、インテル(INTC)にとってこれは慎重に計画された戦略の一環ではなく、困難な状況に対応するための反応的な対応であることを示しています。

おそらく、今週の決算発表でこの件が触れられ、質疑応答でも話題に上ることになるでしょう。

インテル(INTC)のケリハー氏には後継者候補はいたのか?

シャリアリ氏がケリハー氏の後継者として指名されたことから、以前の後継者は誰だったのか、そしてその人物に何があったのかという疑問が生じます。

私の見立てでは、ケリハー氏にはこれまで正式な後継者がいなかったのだと思います。

前述の通り、後継者計画は通常、非常に内密に進められるものであり、今回のように公に発表されることはありません。

今回の発表は、技術開発部門に「ツー・イン・ア・ボックス(Two-in-a-box)」体制を導入するためのものだと私は考えています。

「ツー・イン・ア・ボックス」とは、インテルで(INTC)よく使われる管理体制で、2人が同じ役割を担うものです。

最も有名な例は、ブライアン・クルザニッチ氏がインテルのCEOに就任した際、レネ・ジェームズ氏が「社長」として彼と共に業務を行っていたケースです。

インテルがこの体制を取る理由には、いくつかのパターンがあります。

1. 役割が非常に複雑で、一人では対応しきれないため、二人で役割を分担する場合。

2. 現職のパフォーマンスに懸念があるものの、解任が難しい状況で、もう一人を配置して監視役にし、報告させる場合。

3. シニアパートナーとジュニアパートナーの体制で、ジュニアがシニアから学ぶという教育的な役割を果たす場合。

今回のケースにどのパターンが当てはまるかは、皆さんの判断に委ねます。

ちょうどハロウィンに予定されている決算発表でどのような情報が出てくるのか、興味深いところです。

では、来る決算発表を楽しみに待ちましょう!

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