12/15/2024

インテル(INTC)の18Aとは?ジンスナー暫定CEOの発言の分析を通じて、同社の18AとAIビジネスの将来性に迫る!

graphical user interface, applicationウィリアム・ キーティングウィリアム・ キーティング
  • 本稿では、インテル(INTC)の「18Aとは?」という基礎的な内容から、ジンスナー暫定CEOのバークレイズ・グローバル・テクノロジー・カンファレンスにおける発言の分析を通じて、同社の18AとAI関連ビジネスの将来性を詳しく解説していきます。
  • インテルは18Aプロセスの重要なマイルストーンを達成しているものの、今後の進捗状況については1月末に更新予定で、透明性を重視した経営スタイルが取締役会から評価されています。 
  • Gaudi 3の採用は予想を下回り、インテルはAI市場における競争力強化に向け、現実的なアプローチと迅速な失敗からの学びを重視しています。 
  • ファウンドリ事業と製品事業の分離が次期CEOの課題となる可能性があり、18Aが成功するかは不透明ながら、インテルの未来が注目されています。

※「インテル(INTC)ジンスナー暫定CEOの発言の分析を通じて、新体制下の製品重視のスタンスとアウトソーシング戦略に迫る!」の続き

前章と本稿では、インテル(INTC)のCEOがバークレイズ・グローバル・テクノロジー・カンファレンスに出席した際の発言を分析しています。

前章では、同社の新体制下での製品重視のスタンス、並びに、アウトソーシング戦略に関して詳しく解説しております。

本稿の内容への理解をより深めるために、是非、インベストリンゴのプラットフォーム上にて、前章も併せてご覧ください。

インテル(INTC)の18Aの進捗状況

インテルの「18A」とは、次世代半導体製造プロセス技術で、回路の線幅が約1.8ナノメートル(18オングストローム)に相当します。

新技術RibbonFET(次世代トランジスタ)とPowerVia(背面電源技術)を採用し、性能向上と省電力を実現します。

2025年量産化を目指しており、TSMC(TSM)やサムスン電子(005930.KS)に対抗するインテルの戦略的技術です。

そして、18Aの進行が順調かどうか尋ねた際、インテル(INTC)の暫定共同CEOであるデビッド・ジンスナー氏から非常に興味深い回答がありました。

それは、重要なマイルストーンに関するものでした。

(原文)Yeah we've hit milestones we've talked about you know hitting milestones in the past on earnings calls we have a couple of milestones that are coming up here in the not too distant future that we're likely to update investors on at the end of January

(日本語訳)はい、これまでの決算説明会でもお話ししてきたように、いくつかのマイルストーンを達成しています。そして、近いうちに控えているマイルストーンについては、1月末に投資家の皆さまにアップデートをお伝えする予定です。

(原文)Early indications are you know things are going well there from a customer perspective you know we've talked about in the prior earnings call we've got a number of RFQs that we're working through over the course of the next few months and my sense is again probably provide some update at January but I think you're going to find us in this kind of a characteristic of Michelle and I we are a little bit more on a say do basis for we're more likely to tell you things as we've kind of accomplished big milestones that are meaningful as opposed to early indications of success so that's going to that's our philosophy

(日本語訳)現時点では、顧客の視点から見ても順調に進んでいるという初期の手応えがあります。以前の決算発表でもお話しした通り、いくつかのRFQ(見積依頼)に取り組んでおり、今後数カ月で進展が見られる見込みです。おそらく1月には進捗について何らかのアップデートをお伝えできると思います。ただ、ミシェルと私の考え方として、どちらかというと「確実に大きな成果を達成してからお伝えする」というスタンスを取っています。つまり、初期段階の手応えを共有するよりも、重要なマイルストーンを達成したタイミングで情報を提供する方針を大切にしています。これが私たちの基本的な哲学です。

また「有言実行(say-do)」というフレーズが出てきましたね!

ここでジンスナー氏が言及しているのは、ゲルシンガー氏が18Aによる累計契約価値について語ることを好む点のようです。

例えば、2024年第3四半期の決算説明会で18Aに関する質問に答えた際のコメントがこちらです。

(原文)So, solid progress on it. Clearly, next year, there's not a lot of financial benefit from it because we're only ramping late in the year. Thus, we'll be giving more qualitative metrics on progress as we go through the year, Ross. We'll continue to update, give LDV updates, lifetime deal value for foundry updates as we go through the year.

(日本語訳)順調に進んでいます。ただし、来年は年末近くに本格稼働が始まる予定のため、財務的な利益はそれほど大きくない見込みです。そのため、ロス、来年を通じて進捗状況については主に定性的な指標をお伝えしていきます。また、生涯契約価値(LDV)やファウンドリにおける契約価値のアップデートも、随時ご報告していく予定です。

ジンスナー氏は、ゲルシンガー氏の成功指標であるLDV(生涯契約価値)が無意味だと暗に指摘しているようです。

さらに、取締役会がMJ氏と自分を暫定的な共同CEOに選んだのは、私たちの透明性が理由だと主張しています。

(原文)I think that's why the board actually chose us to run the interim role because we are so transparent and and operate in that way and I think the investors can expect us to do that as we go through earnings calls and so forth

(日本語訳)だからこそ、取締役会は私たちを暫定的な役割に選んだのだと思います。私たちは非常に透明性を重視し、その姿勢で仕事を進めています。この姿勢は、今後の決算説明会などでも投資家の皆さんにお見せできると考えています。

ここには、取締役会がゲルシンガー氏の「退任」を急いだ本当の理由をうかがわせる興味深いヒントがあります。

インテル(INTC)のAIロードマップ

インテル(INTC)のAIロードマップが混迷しているのは、もはや隠しようのない事実です。

ゲルシンガー氏も2024年第3四半期の決算説明会で、その点を自ら認める発言をしています。

(原文)This quarter, we also launched our Gaudi 3 AI accelerator, which delivers twice the networking bandwidth and 1.5x the memory bandwidth of its predecessor for large language model efficiency. While the Gaudi 3 benchmarks have been impressive, and we are pleased by our recent collaboration with IBM to deploy Gaudi 3 as a service on IBM Cloud, the overall uptake of Gaudi has been slower than we anticipated as adoption rates were impacted by the product transition from Gaudi 2 to Gaudi 3 and software ease of use. As a result, we will not achieve our target of $500 million in revenue for Gaudi in 2024. That said, taking a longer-term view, we remain encouraged by the market available to us.

(日本語訳)今四半期、Gaudi 3 AIアクセラレーターを発表しました。この製品は、前世代と比べてネットワーク帯域幅が2倍、メモリ帯域幅が1.5倍に向上し、大規模言語モデルの効率を大幅に高めます。Gaudi 3のベンチマーク結果は非常に優秀であり、IBMとの提携を通じてIBM Cloud上でGaudi 3をサービスとして展開する計画にも満足しています。しかし、Gaudi全体の採用は予想を下回っており、Gaudi 2からGaudi 3への製品移行やソフトウェアの使いやすさが採用率に影響を与えました。その結果、2024年におけるGaudiの売上目標である5億ドルの達成は難しい見通しです。それでも、長期的な視野に立てば、私たちが参入可能な市場の可能性には引き続き大きな期待を持っています。

インテルがGaudiを生み出したHabana Labsを買収してから、ほぼ5年が経つことを考えると、この現状は驚きを禁じ得ません(詳細はこちら)。

インテル、AIチップメーカーのHabana Labsを買収

(日本語訳)以下は、インテルが発表したHabana Labs買収に関するプレスリリースです。全文はインテルの公式サイトでご覧いただけます。

(日本語訳)【米カリフォルニア州サンタクララ、2019年12月16日】— インテルは本日、イスラエルに拠点を置くデータセンター向けのプログラマブルなディープラーニングアクセラレーターを開発する企業、Habana Labsを約20億ドルで買収したことを発表しました。この買収により、インテルのAI(人工知能)分野のポートフォリオがさらに強化され、急成長しているAI向け半導体市場での事業拡大が加速します。この市場は2024年までに2,500億ドル規模に達するとインテルは予測しています。

因みに、Gaudiは、AI推論・トレーニング用の専用プロセッサ(AIアクセラレーター)です。

特にディープラーニングワークロードに最適化され、データセンター向けに設計されており、エヌビディア(NVDA)のGPUに対抗する製品として注目されています。

インテルのAI戦略が抱える厳しい状況について、MJもその深刻さを理解しており、この件に関する質問への回答では、状況を飾らず率直に述べました。

(原文)Well going back to scratch means I have nothing to learn from and so I look at Gaudi as kind of step one. There's some really good things about Gaudi that we're learning particularly from the software in the platform level but Gaudi does not allow me to get to the masses. It's not a GPU that's easily deployed in systems around the globe and when you think about those that deploy Gaudi you know it's from the largest hyperscalers to you know smaller customers that are you know deploying at the edge and so we really need to think about how we go from Gaudi to our first generation of Falcon Shores which is a GPU

(日本語訳)「ゼロからやり直す」ということは、何も学ぶものがない状態を意味しますが、私はGaudiを最初のステップと見ています。特にソフトウェアやプラットフォームレベルにおいて、Gaudiから学べる優れた点はいくつかあります。しかし、Gaudiは大衆市場への対応が難しいのが現実です。世界中のシステムに簡単に展開できるGPUではありません。Gaudiを採用しているのは、大手のハイパースケーラーからエッジで展開している小規模な顧客まで幅広いですが、私たちはGaudiから次のステップであるFalcon Shores第1世代GPUへの移行を真剣に検討する必要があります。

では、Falcon Shoresがこの状況を改善できるのでしょうか?

正直に言えば、できないと考えています。

(原文)I'll tell you right now its not going to be wonderful. No, but it is a good first step in getting the platform done learning from it understanding how all that software is going to work how the ecosystems going to respond so then we can very quickly iterate after that ….

(日本語訳)正直に言えば、素晴らしい結果にはならないでしょう。でも、プラットフォームを構築する上での重要な第一歩です。この過程で学び、ソフトウェアがどのように機能するのか、エコシステムがどのように反応するのかを理解することで、その後、迅速に改良を進めることができるようになります…。

(原文)AI is not going away obviously training is you know the focus today but there's there's inference opportunities and other places where there will be different needs from a hardware perspective and so I'll be focused as well on where and how can we be competitive where can we get our first foothold in that market and then how can we grow from there but also be very honest with you, I will be very pragmatic about how we do it we're not going to throw hundreds of millions and billions of dollars at things that don't get traction. We need to fail quickly, learn and iterate

(日本語訳)AIがなくなることはありません。現在はトレーニングが中心ですが、推論や他の分野でもハードウェアの視点から異なるニーズが生まれる機会があります。そのため、どこでどのように競争力を発揮できるか、この市場で最初の足場を築ける場所はどこか、そしてそこからどのように成長させるかをしっかりと考えていきます。ただし、正直に申し上げると、私たちは非常に現実的なアプローチを取ります。成果が見込めないものに対して、何億ドル、何十億ドルも投資するつもりはありません。迅速に失敗を見極め、そこから学び、改良を重ねていくことが必要です。

MJが状況を率直に伝えたことは高く評価できます。

しかし、結論として、インテルのAI戦略には実質的な中身がないのが現状です。

エヌビディア、AMD(AMD)、ブロードコム(AVGO)など、他の多くの企業が得ている成果をインテルが享受する可能性は、極めて低いと言わざるを得ません。

インテル(INTC)に対する結論

インテル(INTC)の暫定共同CEOたちの話を聞くたびに、ゲルシンガー氏の「退任」の真の理由や、同社の現状がより明らかになってきます。

迅速なROIC(投下資本利益率)の改善、透明性の向上、明確な目標設定、無意味なマイルストーンの廃止、そして進捗を測るための「有言実行」という新しいアプローチ――これらが、現在の経営における重要なテーマとして全面に打ち出されています。

これは確かに進展ではありますが、時期を逸しています。

こうした取り組みは、ゲルシンガー氏の就任当初に必要だったものであり、それが実現しなかったのが現状です。

そして、次期CEOが最初に取り組むべき課題は、ファウンドリ事業と製品事業の完全分離になる可能性が非常に高いように思われます。

この分離によってファウンドリ事業が直面する問題が解決されるわけではありませんが、製品事業にはまだ生き残るチャンスが与えられるかもしれません。

クライアント分野では依然として強い市場支配力を持ち、サーバー分野でも一定のポジションを維持しています。

一方、独立したファウンドリ事業は、10年以上前にグローバルファウンドリーズGFS)が直面したのと同じような厳しい課題に直面するでしょう。

18Aが救世主となる可能性はまだ残されているものの、これまでの実績や過去の経験を踏まえると、個人的には懐疑的です。

今後どうなるか、見守るしかありません…。

また、直近、ゲルシンガー氏の退任に伴い、下記の分析レポートも執筆しておりますので、インテルへの理解を一層深めるために、インベストリンゴのプラットフォーム上より併せてご覧いただければと思います。

次期CEOに関して

次期CEOが直面する課題

加えて、インベストリンゴのアナリストであるダグラス・ オローリン氏も、Part 1からPart 5までの5部作の下記の長編レポートにおいて、ゲルシンガー氏のCEO退任の影響とインテルの今後の見通しに関する詳細な分析を解説しております。

そこで、こちらもレポートも併せてご覧いただければと思います。

その他のインテル(INTC)に関するレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、インテルのページにアクセスしていただければと思います。

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