12/27/2024

【半導体】インテル(INTC)の株価はなぜ下落?18AはHPC用途に適している一方、モバイル市場や幅広いエコシステムには対応不可?

a group of different types of computer partsウィリアム・ キーティングウィリアム・ キーティング
  • 本稿では、注目の米国半導体銘柄であるインテル(INTC)の「株価はなぜ下落しているのか?」という疑問に答えるべく、UBSグローバルテクノロジーカンファレンスにおける同社役員による発言を詳しく分析していきます。
  • インテルの18A(次世代半導体プロセス技術の一つ)技術は進展しているものの、量産開始や市場投入に向けたマイルストーンが多く残されており、課題が依然として存在しているように見えます。 
  • 18AはHPC用途に適している一方で、モバイル市場や幅広いエコシステムには十分対応できていないことが明らかになっています。 
  • インテルは製造部門の文化変革が必要であり、顧客中心の姿勢や継続的改善の意識を強化することが、成功への鍵とされています。

※「【半導体】インテル(INTC)業績悪化理由の真相とは?UBSグローバルテクノロジーカンファレンスにおける同社役員の発言を徹底分析!」の続き

前章では、インテル(INTC)の足元の業績悪化理由を探るべく、UBSグローバルテクノロジーカンファレンスにおける同社役員の発言の分析、特に同社の資本政策に関する発言に関して詳しく分析しております。

本稿の内容への理解をより深めるために、是非、インベストリンゴのプラットフォーム上にて、前章も併せてご覧ください。

インテル(INTC)の18Aに関する発言

今年初め、インテル(INTC)のパット・ゲルシンガー元CEOが「会社の未来を18A(次世代半導体プロセス技術の一つ)に賭けた」と語ったのは記憶に新しいところです。

しかし、18Aはその期待に完全には応えられない可能性が浮上しています。

18Aの進捗状況について問われた際、チャンドラセカラン氏は次のようにコメントしました:

(原文)When Pat mentioned the defect density of less than 0.4, that was at a point in time. It gives an indication that we are progressing as expected. If I look at it today we are progressing, there's several milestones that we have met and there are still many milestones ahead for the technology development and if I wear my technology development hat for a minute there's always challenges when you're introducing new technologies and there's ups and downs but what I would say is there's nothing fundamentally challenging on this node.

(日本語訳)パット氏が欠陥密度が0.4未満だと言及したのは、その時点での状況を示していました。これは、計画通りに進んでいることを示すものです。現時点でも順調に進んでおり、いくつかの重要なマイルストーンを達成しています。一方で、技術開発にはまだ多くの課題が残っています。技術開発の観点から見ると、新しい技術を導入する際には必ず困難が伴い、進捗には浮き沈みがあります。しかし、このノードに関して言えば、根本的な問題は特に見受けられません。

(原文)Now it is about going through the remaining yield challenges, defect density challenges and continuing to improve it, improving process margin and getting it ramped. Will there be challenges? There will be but I think we are progressing and next year as I look at it primarily the first task will be getting the engineering samples into our customers hands and getting the feedback and starting a ramp in Oregon and in the second half of 2025 certifying the node getting it ramped in Arizona and getting the product on the shelves so that customers can buy it. So that's the milestones and we are working towards meeting all those milestones over the next year. It's very critical for us.

(日本語訳)これからは、残された歩留まりや欠陥密度の課題を克服し、さらに改善を重ねることが重要です。プロセスマージンの向上や量産体制の確立にも取り組む必要があります。課題はあるでしょうが、確実に前進していると感じています。来年の最優先事項は、まずエンジニアリングサンプルを顧客に提供し、フィードバックを得ることです。そして、オレゴンでの量産開始を進めます。2025年後半には、このノードの認証を完了し、アリゾナで量産を立ち上げ、市場に製品を供給して顧客が購入できる状態にする予定です。これらが達成すべきマイルストーンであり、今後1年間はこれらの目標に向けて全力で取り組んでいきます。これは私たちにとって非常に重要な課題です。

ゲルシンガー氏が18Aは「ほぼ完成した」と示唆しているのとは対照的に、チャンドラセカラン氏は、成功と見なされるにはまだ多くのマイルストーンを達成しなければならないという、より慎重な見解を示しています。

懸念しているのは、そのマイルストーンを達成する際に伴うリスクだけではありません。

実際、18Aはスマートフォンなどではなく、HPC(高性能コンピューティング)向けにしか適していないことが判明しています。

(原文)18A, to the second part of your question when we said we are going to be foundry 10-7 was way past and then Intel 3 also has several decisions already made and even 18A to some extent decisions were made so you're absolutely right there are certain aspects of 18A that's extremely powerful for compute applications especially the backside power it's going to be very beneficial for compute applications.

(日本語訳)ご質問の後半についてお答えします。私たちがファウンドリーとして10nmや7nmを目指していた時期はすでに過ぎ去り、Intel 3に関してもいくつかの重要な決定がすでに下されています。18Aについても、ある程度の方向性が決まっています。確かにおっしゃる通り、18Aにはコンピューティング用途において非常に優れた特性があります。特に、背面電源技術はコンピューティング用途において非常に大きなメリットをもたらすでしょう。

(原文)It can benefit mobile depending on how the designs are done but because the customer engagement is later it doesn't address the full TAM. For 18A our biggest customer for the next two three years is still Intel Products which goes back to what Dave was saying.

(日本語訳)設計次第ではモバイル向けに活用できる可能性もありますが、顧客との連携が遅れているため、TAM(総アドレス可能市場)全体を網羅することはできません。18Aについては、今後2〜3年間の最大の顧客は引き続きインテル製品であり、この点はデイブが指摘していた内容と一致します。

これはこれまでに聞いたことのない視点であり、18Aを通じてインテルが目指すものに大きな影響を与える内容です。

実際、18Aについての詳細な回答を締めくくる際に、チャンドラセカラン氏はむしろ14Aに注目すべきだと示唆しているように感じられます。

(原文)The Intel products we know the demand, we know what needs to happen and our focus is to ramp it and continue to get more customers on 18A but all this learning is getting implemented into 14A. Plus when 14A comes in there will be a broader market that 14A will address including compute and mobile and other applications and also how the PDKs are done so that it's not just for with Intel focus but it's also focused on the broader ecosystem taking 14A and applying it to their designs

(日本語訳)インテル製品については、需要や必要な対応を十分に把握しており、現在は18Aの量産を加速させ、さらに多くの顧客を獲得することに注力しています。ただし、18Aで得られた知見はすべて14Aに反映されています。加えて、14Aが導入される際には、コンピューティングやモバイルを含む幅広い市場に対応することが可能となります。また、PDK(プロセスデザインキット)の設計も、インテル製品に限らず、エコシステム全体で14Aを活用した設計が行えるよう配慮されています。

PDKに関するコメントにお気づきでしょうか?

これは非常に重要な点です。

要するに、18AのPDKはまだインテル製品に強く特化しており、広範なファウンドリーエコシステムには十分対応していないということです。

正直、これは驚きでした。

これらの独自仕様に関するPDKの問題は、もうとっくに解決されているものだと思っていましたが、そうではないようです。

さらに、チャンドラセカラン氏は、インテルでの3か月間で自身が観察したことについても語ってくれましたが、その内容は非常にショッキングなものでした。

(原文)Yeah I and I didn't address the last part of your question on it which is what I’ve observed is there's a significant cultural change that needs to happen within Intel Foundry to transition from being IDM 1.0 to becoming a foundry and even not just a foundry but to be successful in semiconductor there's different aspects how TD and manufacturing work together. TDs technology development I see that's there's four laps or how many, and it doesn't matter how one does in a individual lap, the real result is who wins the race and it doesn't matter what happens in TD or in manufacturing it's the continuity all the way to how we deliver to our customers and that's a change that we want to drive.

(日本語訳)そうですね、質問の最後の部分についてまだ触れていませんでしたが、私が気づいたのは、インテルファウンドリーがIDM 1.0からファウンドリーへと移行するため、そして単なるファウンドリーではなく半導体業界で成功を収めるためには、文化的に大きな変革が必要だということです。特に、技術開発(TD)と製造がどのように連携するかという点で、多くの改善が必要だと感じています。技術開発(TD)は複数のステージに分かれており、それぞれのステージでどのような結果を出すかも重要ですが、本当に大切なのは「最終的にレースに勝つこと」です。TDや製造のそれぞれの段階で何が起きるかに注目するのではなく、顧客に製品を届けるまでの全体の流れが一貫していることが成功のカギです。この全体最適の考え方を浸透させることが、私たちが目指している変革です

このテーマをさらに掘り下げて、彼はインテルの製造部門には「継続的改善」の意識が十分に根付いていないと指摘しました。

(原文)Part of what I see happening today is TD is driving the technology but manufacturing doesn't have the mindset of continuous improvement year over year changes constant innovation. Innovation doesn't mean it's only backside power but small changes in process and equipment that drives cost reduction, performance improvements. That mindset is not there as a company. When we had a monopoly and we were IDM 1.0 we were building to inventory but now we have to change ourselves to order . That's a very different mindset.

(日本語訳)現在私が感じている課題の一つは、技術開発(TD)が技術をリードしている一方で、製造部門には「毎年継続的に改善し、革新を続ける」という意識が十分に浸透していないことです。革新とは、背面電源のような大規模な変化だけではなく、コスト削減や性能向上を実現するプロセスや設備の小さな改良も含まれます。しかし、こうした意識が会社全体として欠けているのです。かつて、私たちが独占状態にあったIDM 1.0の時代には、需要を予測して在庫を積み上げる形で製造を行っていました。しかし、現在は受注生産へとシフトする必要があります。この変化には、これまでとは全く異なる考え方が求められます。

これは十分に問題ですが、さらに深刻なのは、インテルがこれまでの過剰な生産能力を抱える戦略から、無駄をなくし、必要な分だけの生産能力を確保する戦略に切り替える必要があるという点です。

(原文)The other mindset that I am seeing is they are very driven towards no wafer left behind. That means you cannot miss any demand. You are ok to have built out extra capacity believing that there is going to be some demand and in a monopoly that's okay but now you have to go to no capital left behind where you're eking out every wafer out of a tool and trying to drive the efficiency further. That's a cultural change that needs to happen.

(日本語訳)もう一つ感じているのは、「ウエハーを一枚たりとも無駄にしない」という考え方が強く根付いていることです。つまり、需要を逃さないために、将来的な需要を見越して余剰の生産能力を構築するのを良しとしているのです。独占状態にあった頃はそれで問題ありませんでしたが、今では「資本を一円たりとも無駄にしない」という考え方に切り替える必要があります。具体的には、設備を最大限に活用し、一枚でも多くのウエハーを生産し、効率を徹底的に向上させることが求められます。これは、文化的な変革を必要とする課題です

加えて、チャンドラセカラン氏は、製造部門が「顧客中心の姿勢」を持つ必要があると考えています。

(原文)So lot of changes where the team operates as one team continuous improvement and a big focus on customers that's another change that needs to happen is having a mindset of customer focus

(日本語訳)チーム全体が一丸となって継続的に改善を進めること、そして顧客を最優先に考える姿勢を持つことが重要です。特に、「顧客志向のマインドセット」を確立することが、必要とされる大きな変革の一つです

この話に聞き覚えがあると感じるなら、それは以前にも耳にしたことがあるからでしょう。

実際、この話題はちょうど2年前の2023年12月5日、同じUBSグローバルテクノロジーカンファレンスで取り上げられました。

その際にこれを指摘したのは、デイビッド・ジンズナー氏です。

つまり、インテルの製造部門における課題が特定されてから2年が経過しているにもかかわらず、状況は全く改善されていないことがここで明らかになりました。

これは経営管理の重大な欠如を示しており、ほぼ4年にわたるCEO職を経て、ゲルシンガー氏が退任を余儀なくされた理由を物語るものです。


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インテル(INTC)に対する結論

まず評価すべき点として、UBSのティモシー・アルクーリ氏はインテル(INTC)の幹部に対し鋭い質問を投げかけ、その結果、チャンドラセカラン氏から率直で誠実な回答を引き出したと感じました。

一方で、ゲルシンガー氏が就任後に必要とされるファブの生産能力を見誤っていたというストーリーが浮かび上がってきます。

表向きの理由として挙げられたのは、PCの出荷台数が2021年の水準で維持されると想定していたというものでしたが、それは信じがたい話です。

本当の理由は、ゲルシンガー氏がファウンドリーの偉大なビジョンを実現するために、どんなコストを払ってでも新しいファブを建設したかったからだと思われます。

そして取締役会もそれを理解していながら、彼の設備投資(CapEx)の要請を承認していたのです。

ゲルシンガー氏は、「グローブ流の執念深い実行力」でインテルを再生すると約束しましたが、実際には根本的な問題が解決されることはありませんでした。

これは2022年と2024年のUBSカンファレンスを比較すれば一目瞭然です。

また、別の問題も浮かび上がってきています。

それは、18Aが外部顧客にはあまり適していないということです。

PDKがインテル製品に特化しすぎており、HPC用途には適しているかもしれませんが、モバイル向けには十分ではありません。

進捗は見られるものの、2025年後半の量産に向けて達成すべきマイルストーンがまだ多数あり、依然としてリスクの高い取り組みであることは否めません。

これらの点は、投資家にとって驚きではないはずです。

数か月前に執筆した下記のレポートでも述べたように、インテルは2023年の年次報告書で自社の状況を率直に明らかにしていました。

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これは冗談ではありません。

この年次報告書をインテルの取締役会(BoD)の必読書にするべきです。

たまに目を通すだけでも多くを学べるはずです。

本稿は以上となります。

2025年以降も、引き続きインテルの動向を注視し、分析レポートを通じて皆さんにアップデートしていきます。

また、その他のインテル(INTC)に関するレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、インテルのページにアクセスしていただければと思います

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さらに、足元では、下記のレポートにおいて、ジンスナー暫定CEOのバークレイズ・グローバル・テクノロジー・カンファレンスにおける発言の分析を通じて、インテルの新体制下での製品重視のスタンスとアウトソーシング戦略、並びに、18AとAI関連ビジネスの将来性を詳しく解説しております。

新体制下での戦略に関して

18AとAI関連ビジネスの将来性

インテルに対する理解を深めるために、是非、これらのレポートも併せてご覧いただければと思います。


アナリスト紹介:ウィリアム・キーティング

📍半導体&テクノロジー担当

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