05/02/2025

インテル(INTC)のファウンドリー事業の将来性とは?Direct Connectイベントの詳細に迫る!

the intel logo is shown on a white cubeウィリアム・ キーティングウィリアム・ キーティング
  • 本稿では、注目の米国半導体銘柄である「インテル(INTC)のファウンドリー事業の将来性とは?」という疑問に答えるべく、足元で開かれたDirect Connectイベントで発表された内容の詳細を詳しく解説していきます。
  • インテルはDirect Connectイベントでファウンドリー戦略の最新動向を発表し、CEOの交代や主要幹部の退任、Intel 4および3ノードの課題が浮き彫りとなりました。
  • 同イベントでは、PDF Solutionsとの連携強化や「Copy Exactly」方式からの脱却など、製造プロセス改革に向けた重要な方針転換が明かされました。
  • アイルランドのFab 34における歩留まり問題や18Aノードへの期待調整など、将来の製造体制に対する不安と新たな試みに注目が集まっています。

インテル(INTC)のDirect Connectとは?

インテル(INTC)は4月29日、「Direct Connect」と題した一連のイベントの最新回を開催しました。今回は、同社のファウンドリーの進捗と計画に焦点を当てた内容で、その詳細はこちらに記載されています。新たに就任したCEOのリップ・ブー・タン(Lip Bu Tan)氏がイベントの冒頭に登壇しました。その後、マイクロンから約9か月前にインテルへ入社したナガ・チャンドラセカラン(Naga Chandrasekaran)氏が登壇し、現在ではインテル・ファウンドリー関連の全てを統括しているようです。

(出所:LinkedIn)

イベントの最後には、インテル・ファウンドリーのGMであり、約2か月前に新たに加わったケビン・オバックリー(Kevin O’Buckley)氏が登壇しました。やや不可解なのは、昨年10月にインテルからアン・ケリハー(Ann Kelleher)氏の長期的な後任として発表されたナヴィド・シャリアリ(Navid Shahriari)氏が、LinkedInにてこのイベントでの自身のプレゼンテーションについて投稿していたにもかかわらず、登壇者のラインアップには含まれておらず、彼が言及していた内容は代わりにチャンドラセカラン氏がカバーしていた点です。

(出所:LinkedIn)

なお、アン・ケリハー氏の長期的な後任の任命については、こちらの記事でも取り上げました。

その記事の中で、次の2点を指摘しています:

「アンはどこにも行きません。技術開発(TD)が非常に重要なため、我々は堅実な長期的後継計画を持っています。」

「私の見解では、インテルはIntel 4とIntel 3のプロセスノードで問題を抱えており、そのためにTSMC(TSM)へのアウトソーシングを続けざるを得ない状況にあるのではないでしょうか。」

「アン・ケリハー氏はどこにも行かない」という話が、今回「インテルを退職する」という発表に変わりました。この件については2025年3月の時点で噂されていましたが、今回のDirect Connect基調講演の中で、チャンドラセカラン氏により正式に確認されました。

経営幹部の退任という点では、インテルは昨日、最高商務責任者(CCO)であるクリストフ・シェル氏の退任も発表しました。詳細はこちらに記載されています。

「2025年4月28日、インテルのエグゼクティブ・バイス・プレジデントであり、最高商務責任者(CCO)、営業・マーケティング・広報部門のゼネラルマネージャーであるクリストフ・シェル氏は、別のキャリア機会を追求するため、2025年6月30日付で退任する意向をインテルに通知しました。」

Intel 4およびIntel 3に関する問題については、先ほどチャンドラセカラン氏の発言から、その懸念が事実である可能性が高くなったように見受けられます。これについては後ほど詳しく触れます。

全体として、今回のイベントは目立った内容は少なく、インテル・ファウンドリーの将来的な可能性をアピールする内容が中心でした。ただし、いくつか非常に興味深い発表もありました。中でも特筆すべき点は以下の通りです:

#1 リップ・ブー・タン(LBT)氏が「PDF Solutions」という企業を紹介し、同社の技術がインテルのプロセス技術の歩留まり向上に向けた立ち上げにおいて、重要な役割を果たすと強調しました。

#2 インテルが名前を公表している外部ファウンドリー顧客(UMC、MediaTek)の両社がイベントに登場した一方で、インテル・プロダクツCEOであり最大の顧客とされるミシェル・ジョンストン・ホルタウス(Michelle Johnston Holthaus、通称MJ)氏の姿が見られませんでした。この理由は何なのでしょうか?

#3 現在アイルランドのFab 34で量産体制に向けて立ち上げ中のIntel 4およびIntel 3には、問題があるようです。

#4 Intel 18Aについて、チャンドラセカラン氏は「浮き沈みがあった」と述べました。これは私にとっては初耳でした。これまで聞いていたのは「順調に進んでいる」といったポジティブな話だけで、「沈み」について語られたことはありませんでした。全体として、同氏は18Aに対する期待を意図的に下げ、代わりに14Aに注目を集めようとしていた印象を受けました。

#5 私にとって最大の衝撃だったのは、チャンドラセカラン氏がさりげなく述べた一点です。それは、インテルが長年成功の核としてきた「Copy Exactly」方式(開発ファブから量産ファブへ技術を転送する際の厳格な手法)を今後は採用しないという発言でした。彼の発表中に一瞬でも目を離せば聞き逃してしまうような、まるで何気ないコメントのように語られましたが、私の見解では、これは今後のインテルの成功にとって極めて重大な意味を持ちます。なぜインテルは、30年以上にわたって自社の成功を支えてきた方法論を捨てる決断をしたのでしょうか?

この点について、さらに掘り下げていきたいと思います!

インテル(INTC)のCopy Exactly(CE)からの脱却について

前述のとおり、この発表はチャンドラセカラン氏の基調講演の中で、イベント開始から約58分頃にひっそりと挿入されていました。彼の発言は以下のとおりです:

「私たちは現在、PDKと提携し、彼らのソリューションを当社の製造施設にどのように活用できるかを検討しています。これにより、歩留まりの向上や製造性の改善を迅速に実現できるようになります。Copy Exactly方式から脱却し、インテルの工場全体でイノベーションを民主化していく中で、インテルの各工場は、ばらつきの低減、コスト削減、歩留まり向上、信頼性向上に取り組む必要があります。そのためには、エコシステムパートナーとの密接な連携が不可欠です。」

Copy Exactlyとは何か?

詳細はこちらに記載されていますが、以下は1998年の「Intel Technology Journal」からの抜粋です。

(出所:Intel Technology Journal)

この手法は1980年代半ば、クレイグ・バレット氏によって初めて導入されました。当時、インテルの工場ネットワークは急速に拡大しており、新しい工場を早期に高歩留まり・高量産体制へ移行させることが急務でした。Copy Exactly方式は、こうした課題を克服するために非常に効果的であり、その後、業界全体で模範とされる成功モデルとなりました。

では、なぜインテルは今、このCopy Exactly方式から離れる決断をしたのでしょうか?

この件に関しては、実質的に説明は一つしかありません。オレゴン州にある技術開発(TD)用のファブでは、プロセスを高歩留まりかつ大量生産体制にまで立ち上げることができない、もしくは少なくとも、インテルが提示している製品ロードマップに間に合うスピードでは達成できていないのです。これは、Intel 4およびIntel 3のプロセスノードがFab 34に導入された際にもまさに当てはまりました。当時の状況については、私は上記の分析レポートにおいて下記のように取り上げています。

「インタビュー全体としては、Intel 4が非常に順調に進んでいるという強い印象を与えました。しかし、これは同じFab 34が、2024第2四半期の決算発表で注目を集めた理由でもあります。AI PCの生産を加速させた結果、Fab 34の粗利益率が約5%低下したためです。これは、おそらくIntel 4(もしくはIntel 3)の歩留まりが予想を大きく下回っていたことを示唆しています。」

現在インテルが進めているように見えるのは、本来であればTDファブで解決されるべき歩留まりの問題を、大量生産用のファブ側に責任転嫁するという方針です。そしてこれを、巧妙に「インテル全工場におけるイノベーションの民主化」と表現しているのです。

「インテルの全工場におけるイノベーションを民主化する中で、ばらつきの低減、コスト改善、歩留まりの向上、信頼性の向上に向けた取り組みが求められます」

この方針により、インテルは例えば「18Aプロセスは製造準備が整っており、大量生産工場に技術移転された」と主張することができます。18Aの場合、その工場はアリゾナ州に位置しています。このようにして、アリゾナのエンジニアたちは、18Aプロセスを許容可能な歩留まりで大量生産体制に移行させるという重大な責任を負うことになるのです。

たしかに、インテルの工場は常にプロセスパラメータの改善に責任を持ってきました。しかし、それと「初期段階で利益が出る最低限の歩留まりを達成する責任」を負うこととはまったく異なります。この動きは、極めて重大な懸念を示す赤信号といえます。今後の展開に注視する必要があります。

インテル(INTC)とPDF Solutions

インテル(INTC)の新CEOであるLBT(リップ・ブー・タン)氏の基調講演は、インテル・ファウンドリーに対する公のコミットメントから始まりました。

「リップ・ブーさん、インテル・ファウンドリーにコミットしていますか?」 「はい。インテル・ファウンドリーを成功させることにコミットしています。今後のロードマップ、パートナーシップ、そして実行力を強化する決意があります。我々の前には多くのチャンスがあると見ています。」

この発言を受け、インテル・ファウンドリーを正式に分社化する動きは、当面はないものと思われます。

その後、LBT氏は主に、同社のEDA(電子設計自動化)パートナー企業4社のCEOを次々とステージに招きました。これには2つの目的があったようです。1つ目は、彼らがいかに親しい関係であるかを示すことでした。4人とも、一般的な握手ではなくハグを交わして登壇しました。

2つ目は、インテル・ファウンドリーに対する支援を表明することでした。ステージに登場したEDA企業は、Synopsys、Cadence、Siemens EDAの3社に加え、もう1社は私にとって初耳だったPDF Solutionsという企業でした。同社は1991年設立で、時価総額はおよそ7億2,000万ドルと、他の3社に比べて規模は非常に小さいです。

PDF Solutionsの創業者であるジョン・キバリアン氏とLBT氏は親しい友人関係にあり、しばしば一緒にハイキングに出かけるそうです。同社の主な事業は、半導体の歩留まりおよび製造性を高めるための設計支援にあります。PDF Solutionsは、すでに4年前からインテルと協業しているとのことです。

以下は、LBT氏がキバリアン氏との短いやり取りの中で述べたコメントです:

「Design for Yield(歩留まりを意識した設計)。PDF Solutions。4年前、インテルはPDFの導入を始めました。設計とR&Dは最初から共同最適化されなければなりません。製造に設計情報を取り込む必要があります。PDFは顧客を支援するユニークな立場にあります。コラボレーション。世界で最も統合された製品群。統合分析。インテルが顧客とより緊密に連携できるよう、触媒となる存在を目指します。」

PDF Solutionsがこれまでに、あるいは今後どれほどの支援をインテルに提供できるのかは、現時点では明確ではありません。

(出所:Yahoo Finance)

ただし、確かなのは、同社の株価が現在、20年前にNASDAQに上場した当時の水準とほぼ同じであるという点です。

LBT氏のプレゼンテーションには他にもさまざまな内容が含まれていましたが、特に注目すべき点はそれほど多くありませんでした。そのため、それ以外の内容についての私のメモとスクリーンショットは、本レポート末尾の付録に回すことにします。

Intel 4/3に関する問題

チャンドラセカラン氏は基調講演の中で、同社の主要な3つの大量生産向けウエハーファブ、すなわちイスラエル、アイルランド、アリゾナにおける状況について簡単に触れました。

インテル・イスラエルについては、以下のスライドを提示しました。ただし少々ややこしいのは、Intel 7とIntel 10の両方を記載しており、Intel 10はかつてのIntel 7の旧名称です。なぜこのような表記をしたのかは不明です。

このスライドでは、インテル・イスラエルが「非EUV工場スペースにおいて100%稼働している」と述べており、これは最近の決算説明会で触れられた、同社がRaptor Lakeの生産において供給制約を受けているという話と一致します。

「前回も述べたように、粗利益の上振れ要因はRaptor Lakeに対する予想を上回る強い需要が主因でした。この製品は2022年10月にリリースされたもので、つまり2年半前の製品であり、Meteor Lakeの前身であり、インテルの7nmプロセスで製造されています。」

また、講演では「成熟した歩留まり(mature yield)」という表現や「イスラエルではマイルストーンを一度も逃したことがない」という発言もあり、これについては特に強調していました。

次にインテル・アイルランドについては、以下のスライドを使用しました。

ここでは「成熟した歩留まり」やそもそも歩留まりに関する言及が一切なく、「アイルランドがマイルストーンを一度も逃していない」といった評価も見られません。また、稼働率についても触れられていません。興味深いことです。彼が述べたのは以下のとおりです:

「歩留まりと信頼性の継続的な改善に注力している。品質への意識を高める必要がある。インラインでの特性評価への投資を強化する必要がある。歩留まり改善に向けて、より迅速な対応が求められている。」

「Intel 3の改善を継続中です。」

「Intel 3には、ノード開発の経緯により設計ルールがやや厳しいという課題があります。Intel 3に関心のある顧客と連携し、このノード上で新たな提案を開発したいと考えています。ファウンドリ・ノードとしてこれを可能にするため、顧客との協業を進めていく方針です。」

「ばらつきの低減、コスト改善、歩留まり改善、信頼性向上に向けて、インテルの各工場に取り組んでもらう必要があります。」

また、「今後数年間でIntel 4/3の生産量を増加させる予定」という発言もありましたが、これはあまり前向きな表現とは言い難いものです。同様に、インテル・イスラエルを称賛し、アイルランドをそうしなかったことから、Fab 34で物事がうまく進んでいないことを暗示しているようにも受け取れます。そもそもIntel 3は当初から外部向けのファウンドリ・ノードとして位置付けられており、最近になって急に始まった話ではありません。実際のところ、Intel 4/3は当初の期待に応えられていないのです。

考えれば考えるほど、インテルは前四半期にIntel 4/3から意図的にフォーカスをそらし、イスラエルで旧世代のIntel 7を用いたRaptor Lakeの生産に軸足を戻したのではないかという思いが強くなります。

Fab 34でのIntel 16は、インテルがMediaTekに提供しているプロセスです。チャンドラセカラン氏は、同社がインテルにファウンドリー・ビジネスについて教えてくれていることに対して、非常に高い評価を述べていました:

「MediaTekはIntel 16上で製造しています。ばらつき制御について我々に教えてくれており、顧客の要求に迅速に対応する方法についても学ばせてもらっています。」

インテルは2024年1月にユナイテッド・マイクロエレクトロニクスUMC)とのパートナーシップを発表しており、私もその件について下記のレポートで取り上げました:

UMCによる、提携開始から1年経過時点でのインテルに対するコメントは次のとおりです:

「インテル・ファウンドリーとの取り組みは、非常に前向きな経験となっています。」

次章では、インテル(INTC)の18Aに対する期待の引き下げ、並びに、14Aのプロモーションに関して詳しく解説していきます。

※続きは「インテル(INTC)の18Aはいつローンチされるのか?18Aに対する期待とは?」をご覧ください。


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