【半導体:Part 3】トランジスタの進化とGAA(Gate All Around:ゲート・オール・アラウンド)の関係とは?
ウィリアム・ キーティング- 本編は、半導体市場における注目のテクノロジー、GAA(Gate All Around:ゲート・オール・アラウンド)の現状と将来性を詳細に分析した長編レポートとなり、4つの章で構成されています。
- 本稿Part 3では、半導体トランジスタの進化とGAA(Gate All Around:ゲート・オール・アラウンド)の関係を詳しく解説していきます。
- トランジスタ技術の進化は、過去70年にわたり革新を重ねながらも、基本的な製造プロセスやツールがほとんど変わらず維持されています。
- インテルが導入した「ストレインドシリコン」や「ハイKメタルゲート」などの技術革新は、業界標準となり、性能向上と微細化を可能にしてきました。
- 今後のGAA技術への移行が、トランジスタ設計において「進化」を超える「革命」をもたらすかが注目されています。
※「【半導体:Part 2】トランジスタとは?GAA(ゲート・オール・アラウンド)を取り巻く背景と共にトランジスタの詳細を徹底解説!」の続き
前章では、「トランジスタとは?」という疑問に答えるべく、半導体トランジスタの詳細とGAA(Gate All Around:ゲート・オール・アラウンド)を取り巻く背景を詳しく解説しております。
本稿の内容への理解をより深めるために、是非、インベストリンゴのプラットフォーム上にて、前章も併せてご覧ください。
トランジスタの進化とGAA(Gate All Around:ゲート・オール・アラウンド)の関係
GAAが半導体トランジスタの基本設計における2回目の大きな変革だと述べましたが、トランジスタは登場以来、多くの重要な改良や調整が繰り返されてきたことも理解しておくべきです。
例えば、2000年代初頭にインテル(INTC)が導入した「ストレインドシリコン」という技術があります(詳細はこちら)。
業界がインテルのストレインドシリコン導入に反応
(日本語訳)テキサス州オースティン発– インテル社が先週、90ナノメートル技術にストレインドシリコンを導入することを発表し、アナリストたちを驚かせ、競合他社も追随する動きを見せています。
(日本語訳)VLSIリサーチ社のアナリスト、ダン・ハッチソン氏は、インテルが90ナノメートル・ノードにストレインドシリコンを導入するという予想外の発表について、IBMが1997年に180ナノメートル技術で銅配線を導入した時と同じくらい大きな影響をもたらすだろうと予測しています。インテルは、来年から3つの工場で300ナノメートル・ウェハーを使ってこの技術の製造に移行する予定です。
(日本語訳)先週、複数の企業の技術責任者たちが、ストレインドシリコンを技術に加えることを決めたか、あるいは専用の研究チームがすでに取り組んでいると話しました。モトローラの技術企画マネージャーであるジョー・モガブ氏は、「業界のほぼ全員が現在、ストレインドシリコンを導入する方向で動いていると思う」と述べています。
(出所:EE Times)
これはシリコン原子を引き伸ばすことで、ゲートに流せる電流を増やそうというものでした(詳細はこちら)。
(原文)In the case of global strain, stress is introduced across the entire substrate. This is done by epitaxially growing a SiGe ‘buffer layer’ on top of the silicon substrate. When silicon is then grown on top of this SiGe layer, the atoms in the silicon layer align with those in the SiGe layer, which has a slightly larger crystalline lattice (since germanium atoms are larger than silicon). This increase in spacing (4% at most) between the silicon atoms produces biaxial strain in the silicon channel, which changes the shape of the energy bands both for electrons and holes. The result is increased mobility and an increase in channel drive current for a given device design, leading to improved performance.
(日本語訳)グローバルストレインでは、基板全体に応力を加えます。まず、シリコン基板の上にSiGe(シリコン・ゲルマニウム)のバッファ層をエピタキシャル成長(特定の基板上にその基板と同じ結晶構造を持つ薄い層を成長させる技術。主に半導体製造に使用され、基板の原子配列に合わせて新しい材料の原子が整然と並ぶため、欠陥が少なく、高品質の結晶層を形成出来る)で形成し、その上にシリコンを成長させます。SiGe層の結晶格子はシリコンよりもやや大きいため(ゲルマニウム原子がシリコン原子よりも大きいため)、シリコン層の原子がSiGe層に合わせて配置され、シリコン原子間の間隔が広がります(最大で4%程度)。これによりシリコンチャネルに二軸ストレインが発生し、電子とホールのエネルギーバンドの形状が変化します。その結果、移動度が向上し、デバイス設計でチャネルの駆動電流が増加し、性能が向上します。
20年前、ストレインドシリコンは非常に画期的な技術であり、インテルがどのように実装したかの詳細は長年にわたり厳重に秘匿されていました。
(日本語訳)現在でも、Intelはその実装に関する詳細をほとんど公開していません。
(日本語訳)Intelのヒルズボロ開発施設でプロセス統合とアーキテクチャのディレクターを務めるマーク・ボー氏によると、Intelはドライブ電流を10〜20%向上させるストレインドシリコン技術を開発しましたが、加工済みウェハーのコスト増加はわずか2%に抑えられています。Intelはこのストレインドシリコン技術を量産に導入する初の企業になる予定だと、ボー氏は述べています。
(日本語訳)「シリコンの結晶構造を調整することで電子の流れを速める方法を見つけ出しました。シリコンの間隔を1%変えることで、ドライブ電流を10〜20%向上させることが可能です。Intelの技術は、ショートチャネル効果や接合リークの劣化を起こさずにこれを実現できる点が独自の特徴です」とボー氏は語っています。
(出所:EE Times)
インテルがその「秘伝の技術」を明かさなかったにもかかわらず、ストレインドシリコンはすぐに業界標準となり、現在でも広く採用されています。
同様に重要な革新として、インテルが導入した「ハイKメタルゲート」トランジスタもあります。
(日本語訳)ハイKメタルゲート革命
(日本語訳)従来の半導体デバイス材料が限界に近づく中で、インテルはトランジスタ製造における過去40年で最大の変革を発表しました。同社は、ハイKメタルゲート技術と総称される複数の材料革新を実現し、性能を向上させつつプロセッサのさらなる微細化を可能にしたのです。この新技術の導入により、半導体デバイスの性能が向上し続けるというムーアの法則が今後も続くことが示唆されました。
(出所:インテルのHP)
この2つの技術革新は同時に導入され、「ハイKメタルゲート」としてまとめて呼ばれることが一般的です(詳細はこちら)。
(原文)Intel made a significant breakthrough in the 45nm process by using a "high-k" (Hi-k) material called hafnium to replace the transistor's silicon dioxide gate dielectric, and by using new metals to replace the N and PMOS polysilicon gate electrodes. These new materials (along with the right process recipe) reduced the NMOS gate leakage by >25X and PMOS gate leakage by more than 1000X while simultaneously delivering improved drive current and improved circuit performance.
(日本語訳)インテルは45ナノメートル・プロセスで大きな進展を遂げ、トランジスタのシリコン酸化膜ゲート絶縁体を「ハイK(Hi-k)」素材であるハフニウムに置き換え、さらにN型(半導体の種類で、負の電荷を持つ電子が主に流れる性質を持っている)およびPMOS(正の電荷が主に流れるP型半導体のMOSトランジスタ)のポリシリコンゲート電極(トランジスタのゲート部分に使用される多結晶シリコン素材の電極)を新しい金属に変更しました。この新素材と適切なプロセスにより、NMOS(負の電荷が主に流れるN型半導体のMOSトランジスタ)のゲートリーク電流(トランジスタのゲート部分から微量に流れる不要な電流)は25倍以上、PMOSでは1000倍以上削減され、同時に駆動電流と回路性能も向上しました。
ハイK誘電体はリーク電流を大幅に低減
(出所:インテルのプレゼンテーション資料)
これらの革新もまた、すぐに業界標準となり、現在でも広く利用されています。
こうした技術革新とは別に、インテル(および他の企業)も、各プロセスノードにおいて絶えず技術を改良し続けています。例えば、インテルは最初に導入した14ナノメートル・プロセスをさらに3回も改良したことで知られていますが、これは10ナノメートル・プロセスの稼働が難航したための対応でした。
当社史上最大の同一ノード内での性能向上
(出所:インテルのプレゼンテーション資料)
インテルがようやく10ナノメートル・プロセスを稼働させた後も、トランジスタ設計の微調整を続けています。
(原文)What Ms Brain is stating here is that Intel has achieved a roughly 20% performance improvement with this enhanced FinFET, similar to a full-node migration. This enhanced FinFET is to be called "SuperFin" and used to label the incremental improvement to the 10nm process. A further enhancement of the SuperFin transistor design will result in another 10nm migration called "Enhanced SuperFin"
(日本語訳)Ms Brainがここで述べているのは、インテルがこの改良型FinFETにより、フルノードの移行に匹敵する約20%の性能向上を達成したという点です。この改良型FinFETは「SuperFin」と呼ばれ、10ナノメートル・プロセスの段階的な改良を表す名称として使用されます。さらに、SuperFinトランジスタの設計を強化した「Enhanced SuperFin」が導入され、次の10ナノメートルへの移行として位置付けられる予定です。
プロセス・テクノロジー・ロードマップ
(出所:インテルのプレゼンテーション資料)
こうした背景から、過去70年にわたるトランジスタの歴史は、絶え間ない技術革新の積み重ねであることがわかります。
各革新が、電力効率、性能、面積コストといった側面で改善をもたらしてきました。
そして、アプライド・マテリアルズ(AMAT)ではこれを「PPACt」と呼んでいます(詳細はこちら)。
(原文)The Internet of Things, Big Data and artificial intelligence (AI) demand rapid, dramatic improvements in chip performance, power, area, cost and time to market (PPACt). This materials engineering challenge is the force behind our industry’s new playbook.
(日本語訳)IoTやビッグデータ、AIの進展により、チップの性能や電力効率、面積、コスト、そして市場投入までのスピード(PPACt)の飛躍的な向上が求められています。こうした材料工学の課題が、業界の新しい指針を生み出す原動力となっています。
(原文)Applied Materials is committed to accelerating this new PPACt playbook for our customers and partners. We have the broadest and deepest portfolio of products for delivering materials engineering innovations to the market. This portfolio includes the ability to create and deposit, shape and remove, modify, analyze, and connect materials and devices in new ways.
(日本語訳)アプライド・マテリアルズは、この新しいPPACt戦略をお客様やパートナーと共に加速させることに注力しています。当社は、材料工学の革新を市場に届けるための豊富で多様な製品ポートフォリオを持ち、材料やデバイスの生成、成膜、成形、除去、修正、分析、接続を新たな方法で実現する技術を提供しています。
この70年にわたる技術革新があったにもかかわらず、トランジスタの製造に使われる基本的なツールやプロセスはほとんど変わっていません。
確かに、これらの革新を支えるためにツールは格段に高度化・複雑化しましたが、成膜、エッチング、リソグラフィー、イオン注入などの基本的なプロセスは依然として同じです。
これは理にかなっています。
半導体製造はおそらく地球上で最も複雑な作業であり、一度確立した手法やエコシステムを維持することは合理的です。
改良を重ねつつも、基礎部分に大きな変更を加えると、全てを一から再構築する必要が出てきてしまいます。
こうした背景から、トランジスタ技術の発展は「革命的」というより「進化的」と捉えるのが適切でしょう。
ただし、GAAへの移行において「進化的」を超える「革命的」な要素があるかどうかは、引き続き確認する価値があります。
次章では、GAA(Gate All Around:ゲート・オール・アラウンド)構造における主な変更点に関して詳しく解説していきます。
※続きは「【半導体:Part 4】GAA(Gate All Around:ゲート・オール・アラウンド)構造における主な変更点とは?」をご覧ください。
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さらに、足元では、下記のレポートにおいて、ジンスナー暫定CEOのバークレイズ・グローバル・テクノロジー・カンファレンスにおける発言の分析を通じて、インテルの新体制下での製品重視のスタンスとアウトソーシング戦略、並びに、18AとAI関連ビジネスの将来性を詳しく解説しております。
新体制下での戦略に関して
18AとAI関連ビジネスの将来性
インテルに対する理解を深めるために、是非、これらのレポートも併せてご覧いただければと思います。
アナリスト紹介:ウィリアム・キーティング
📍半導体&テクノロジー担当
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