05/19/2025

リー・オート(LI:Li Auto ADR)の将来性と今後の株価見通しに迫る!

architectural photograph of lighted city skyコンヴェクィティ  コンヴェクィティ
  • 本稿では、前編の続きとして、リー・オート(LI:Li Auto ADR)の競争優位性とバリュエーション分析を通じて、同社の今後の株価見通しと将来性に関して詳しく解説していきます。
  • リー・オートは、自社開発のSiCパワーモジュールや高性能UX設計によって、他社にはない快適性と実用性を兼ね備えたEVを展開しており、中国や中東など高級市場で存在感を高めています。
  • 同社は、20%超の高い売上総利益率を維持しつつ、現金155億ドル・無借金という健全な財務基盤と、自社内製による垂直統合モデルで高い競争優位性を築いています。
  • 自動運転技術の規制強化が進む中で、リー・オートの堅実な技術開発と安全性重視の姿勢はむしろ追い風となっており、今後も成長性と利益性の両立を期待できる企業です。

※「リー・オート(LI:Li Auto ADR)とは?テスラ(TSLA)との比較を通じて同社の魅力に迫る!」の続き

前章では、注目の中国電気自動車(EV)企業である「リー・オート(LI:Li Auto ADR)とは?」という疑問に答えるべく、同社のテクノロジー上の強みに関して詳しく解説しております。

本稿の内容への理解をより深めるために、是非、インベストリンゴのプラットフォーム上にて、前章も併せてご覧ください。

リー・オート(LI:Li Auto ADR)に対する結論:異なる哲学、異なる“堀(競争優位性)”

リー・オート(LI:Li Auto ADR)とテスラ(TSLA)は、いずれも高度なドライバープラットフォームを構築していますが、それぞれ異なる強みに賭けています。LIの強みは、センサーの冗長性、実用的なアーキテクチャ、そして現実環境に最適化されたドライビングスタックにあります。一方、TSLAの優位性は、スケールと垂直統合された「データ・フライホイール」にあります。

TSLAは独自開発の推論チップとDojoスーパーコンピューターによって、学習プロセス全体を自社で制御しており、これは他社が容易に真似できない「堀」となっています。一方でLIは、NVIDIAの最先端チップ、自社開発の推論ハードウェア、そして何百万本もの多様な中国国内ドライブ映像で訓練されたマルチセンサーモデルを組み合わせることで、すでに現実の道路上でその実力を証明しています。

どちらの企業も、まだ完全な完成形には至っていませんが、本格的なシステム構築を着実に進めています。投資家にとっての核心は、「どちらが最初に完全自動運転を実現するか」ではなく、「その道のりにおいて、誰がスケーラブルで持続的な優位性を築けるか」にあります。

リー・オート(LI:Li Auto ADR)のパワートレイン効率:SiCと限界効率の追求

AIや認識技術だけでなく、LIとTSLAは「ボンネットの下」、特に電力変換の効率にも注力しています。現在の高性能EVでは標準となった炭化ケイ素(SiC)チップは、バッテリーの電力を電動モーターに供給するインバーターで中心的な役割を担っています。この変換効率が高ければ、高い航続距離、素早い加速、そして熱損失の低減といったメリットが得られます。

LIは最近、自社でSiCパワーモジュールの内製を開始しました。これにより、システム効率を向上させるとともに、外部サプライヤーへの依存を減らすことを目的としています。このチップは、同社の次期BEVモデルにおける電動ドライブユニットに直接組み込まれています。一方、TSLAは数年前からSTマイクロなどの既存サプライヤーからSiC部品を調達しつつ、周辺のインバーターアーキテクチャは社内で独自設計してきました。

SiC技術は現在ではEV業界の“標準装備”ですが、実装の巧拙が成否を分ける要素となっています。LIの内製SiCは、コストや性能調整の面でより高度な制御を可能にしますが、これは伝統的な意味での“堀”ではなく、効率という限界利益を争うレースに近いものです。つまり、これが勝敗を決めるわけではありませんが、各社の性能にわずかな差をもたらす可能性があります。

デザインで勝つ高級感:リー・オート(LI:Li Auto ADR)のUX重視の強み

多くのEVメーカーが性能スペックや自動運転機能の約束に注力する中、LIは異なる道を歩んでいます。それはむしろ、Appleに近い戦略だといえるでしょう。LIは創業当初から、「ユーザー体験」と「車内空間ファースト」の設計思想に基づき、快適さ・直感性・高級感のある機能を備えたライフスタイル製品として車を定義してきました。

たとえば、同社の主力モデル「Li L9」は、中国で約6万7,000ドル(日本円で約1,050万円)で販売されています。これはTesla Model X(約8万5,000ドル)よりも約2万ドル安く、しかもMercedesやBMWが10万ドル超の上位モデルでしか提供しないような装備を標準搭載しています。具体的には、マッサージ・換気・ヒーター機能付きのスパ級リアシート、後席向けエンタメシステム、温冷両用の車載冷蔵庫、そして連続可変制御(CDC)付きのエアサスペンションなどです。重要なのは、これらすべてがオプションではなく標準装備であるという点です。

ハードウェアだけではありません。LIの音声アシスタントは、BMWやMercedesのような「チェックボックス的な音声操作」を大きく超えるレベルにあります。ウェイクワード不要で、自然な会話にも反応し、「窓を開けて」と言えば、誰が話しているかを認識して該当の窓だけを開けることができます。「エミネムを再生して、エアコンつけて、座席のベンチレーターもオンにして」といった複数指示も一度で処理できます。「私も欲しい」といった曖昧なフォローアップにも文脈理解で対応し、適切な席に反映されます。こうしたシームレスな操作性は、自動車UXの中でも極めて稀有であり、LIがユーザーの「ストレスのない操作」に徹底的にこだわっている証しです。空調からエンタメ、走行モードに至るまで、すべての操作系は直感的に設計されています。結果として、LIの運転・乗車体験は、「エンジニアリングされた車」ではなく、「丁寧に設計された空間」として感じられるのです。

このUX中心の発想は、単なる利便性に留まりません。LIは派手な機能を“見せる”ことよりも、スティーブ・ジョブズのiPhone戦略のように、まずユーザー視点で設計し、必要な技術を統合することに主眼を置いています。たとえば、多くの自動車メーカーがスマートフォン向けのAndroidアプリをそのまま車載システムに移植するのに対し、LIはNetEase Musicのような中国の人気アプリに対して専用UIを開発しています。その結果、より滑らかで安全かつ直感的な操作が可能となり、「車内体験」を深く理解している企業であることが表れています。

リー・オート(LI:Li Auto ADR)は高級感はそのまま、価格は抑えて

この思想がさらに力を持つのは、LIが従来の高級自動車メーカーよりも価格を抑えつつ、装備では凌駕しているという点です。中国市場では、Li L9はBMW X7やMercedes GLSといったICE(内燃機関)フラッグシップと競合しますが、価格はそれらの半額以下です。テスラとの比較では価格差はそこまで大きくないものの、インテリア体験では圧倒的に上回っており、特にファミリー層で「後部座席が購入意思決定の中心」となっている中国市場においては強力な訴求力を持ちます。

驚くべきことに、LIはこれほどの競争力を持ちながらも利益率をしっかり確保しています。売上総利益率は常に20%以上を維持しており、TSLA(約17〜19%)、NIO(約10%)、Mercedes-Benz Cars(約18%)を上回っています。それも、TSLAよりはるかに小規模な生産規模で実現しているのです。

その理由は構造的なものです。中国における低コストな労働力とサプライヤー体制、製品構成の戦略的設計、さらに半導体(AI推論チップ)・電力電子(SiCモジュール)・ソフトウェア(ADASやVLMモデル)といった垂直統合を進めていることが挙げられます。LIは単に「高級車を売っている」のではなく、利益率を前提に設計されたフルスタック型EV企業を構築しているのです。

リー・オート(LI:Li Auto ADR)の新たな高級市場への足がかり

LIのUX重視のアプローチは、中国国内にとどまらず成果を上げています。長らくドイツの高級・高性能ICE車ブランドが支配してきたドバイ市場でも、LIのモデルの存在感が高まっています。その理由は明白です。確かにブランドネームの信頼性はいまだ重要ですが、ドバイの消費者は、より優れた価値とスペックを提供する新興ブランドにも積極的に目を向け始めています。テスラの代替としてPolestarが評価を得ているように、LIはまったく異なる価値を提供しています。それは、より広く、快適で、ファミリー志向のEV SUVでありながら、テクノロジーや高級感を一切損なうことなく、より低価格で手に入るという点です。

ここで浮かび上がってきているのは、従来のブランド主義とは異なる、新しいラグジュアリーの形です。それは「バッジ(エンブレム)」ではなく、機能性、テクノロジー、快適性に根ざした高級感であり、LIはまさにこのセグメントを、中国国内だけでなく、今後は価格感度の高い他の高級市場でも狙おうとしています。

リー・オート(LI:Li Auto ADR)のバリュエーション

LIは一見すると「自動車メーカー」と分類されるかもしれませんが、そのバリュエーションプロファイルは、高品質な成長株と資本効率の高いテック企業の中間に位置しています。これは非常に稀有な領域であり、投資家にとっては大きな上昇余地を示しています。

まず基本情報から確認します。LIは2024年末時点で約155億ドルの現金を保有し、負債ゼロという極めて健全なバランスシートを維持しています。これにより、外部資本に依存することなく、R&D、半導体開発、自社充電ネットワークへの投資を継続できる体制が整っています。事業面でも成長は継続中です。2025年4月の納車台数は前年同月比+31.6%となり、年初来累計では約12.7万台(前年比+19.4%)を達成しています。これに対し、TSLAは2025年第1四半期の納車台数が前年比▲13%となり、成長曲線の成熟を示しています。

ただし、LIには製品ミックスの変化が見られます。成長は堅調であるものの、L6のような低価格モデルが販売を牽引する一方で、プレミアムモデルのL9はHuaweiのAito M9との競争激化により、Q1で▲46%減少しました。この傾向は短期的には売上総利益率に下押し圧力をかける可能性がありますが、今後登場する新型BEVやADASの機能拡張により、2025年には引き続き18〜20%のユニット成長が見込まれており、プレミアムMPV、SUV、初期輸出市場を含むTAM(潜在市場規模)の拡大も期待されています。

特に注目すべきは相対的なバリュエーションの違いです。我々が採用している「Rule of X(成長率、フリーキャッシュフロー、資本効率の複合評価)」では、LIはスコア44を記録し、TSLAのスコア6を大きく上回っています。また、EV/(FCF−SBC)倍率でも、LIはわずか21倍であるのに対し、TSLAは231倍と大きな乖離があります。この差は極めて示唆的であり、LIがより高い成長率と健全なフリーキャッシュフローを維持しながらも、遥かに割安に取引されていることを意味します。

もちろん、TSLAの評価には、ロボタクシー、Optimus、Dojoのような将来的オプションが織り込まれています。とはいえ、このバリュエーションの差は、LIが本業で優れた成長トラックを持ちながらも、より保守的な価格で評価されているということを際立たせています。

当社独自のDCF(割引キャッシュフロー)モデルでもこの評価は裏付けられています。現在のガイダンスと保守的な前提(TSLAが15%とされる終端FCFマージンを、LIではわずか5%に設定)を用いても、LIは本質価値の2倍の上昇余地があると見積もられます。対照的に、TSLAのバリュエーションには、まだ収益を生んでいないロボティクスやFSDライセンス、Dojoなどのベットが含まれています。これらが成功すれば大きな変革をもたらしますが、リスクもあります。

LIは高成長・高品質・高収益性の事業モデルでありながら、短期的な不確実性(BEV立ち上げとREEV競争の激化)によって過小評価されています。一方TSLAは、「大胆な未来」に対して高く評価されているのです。

以下のリンクより、LIおよびTSLAのDCFバリュエーションをご確認いただけます。評価額はスプレッドシートの最右列に記載されています。

https://docs.google.com/spreadsheets/d/1YBZ7_DnYViK86gY51V0h5Hml1hjByb4ck5P3YTHVFv0/edit?usp=sharing

(出所:筆者作成)

すでに述べたとおり、LIの売上総利益率は一貫して20%以上を維持しており、TSLA(約17〜19%)、NIO(約10%)、Mercedes-Benz(約18%)を上回っています。それもはるかに少ない生産台数での実績です。これは部分的には構造的要因(中国における人件費・部品コストの低さ)によるものですが、それ以上に戦略的要因が大きくなっています。

LIは、AI推論チップ、SiCパワーモジュール、独自ソフトウェアの内製化を推進することで、垂直統合をさらに進めています。また、コストに対する意識も文化的に根付いており、創業初期の資金難を背景に、オフィスや店舗でも豪華なカフェやソファ、花やギフトといった装飾的な要素は排除しています(これは、NIOのような競合とは対照的です)。

LIは、ユーザー体験と利益率の両立を追求しており、それが数字にも反映されています。

要するに:

LIは、ラグジュアリーなブランドポジション、豊富な資金、テクノロジーを活かした成長可能性という稀有な組み合わせを持ち合わせており、将来のEVグローバルリーダー候補として、非常に魅力的な評価水準で取引されている企業です。

現時点での最大のリスクは、中国のEV普及率が50%に近づく中での価格競争の激化ですが、LIは他社よりも高い粗利率のバッファを持っており、積極的な競争にも耐えうる体力があります。

中国の規制強化――リー・オート(LI:Li Auto ADR)にとってはむしろ追い風に

中国では、Xiaomi(シャオミ)のEV市場参入後に発生した悲惨な事故を契機に、自動運転に関する規制が大幅に強化されました。事故では、Xiaomiのセダン「SU7」が高速道路上の工事区間を検知できず、衝突・炎上し、車内にいた大学生3名が命を落としました。衝突時にドアがロックされ、脱出できなかったことも大きな社会的批判を呼びました。問題視されたのは、技術的成熟度を欠いた状態で自動運転機能を過剰に宣伝していた点です。

これを受け、中国政府(特に工業情報化部)は、自動運転機能に対する包括的な新規制を導入しました。今後は、ADAS(先進運転支援システム)をOTA(無線アップデート)で配信する前に、詳細な技術データを提出し、認可を得ることが義務化されました。また、マーケティングにおいて「自動運転」という表現の使用が禁止され、ADAS機能付き車両にはドライバー監視システムの搭載が必須となりました。

LIやHuaweiのような技術基盤が強固な企業にとっては、こうした新規制はむしろ「フィルター」として作用します。規制対応によって開発スピードやコストが一時的に増す可能性はあるものの、参入障壁が高まり、実力のない新興企業が排除されることになります。よって、我々はこの環境変化をLIにとっての追い風と捉えています。


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