【半導体・AI】マイクロソフトのCoPilot+とインテルの対立、台湾Computex 2024の注目ポイントを徹底解説
ウィリアム・ キーティング- マイクロソフト(MEFT)は2024年5月20日のイベントでCoPilot+のコンセプトを発表し、クアルコム(QCOM)がCoPilot+ PCを搭載する最初の企業と発表している。
- 一方で、インテル(ITNC)のCEO、パット・ゲルシンガー氏は、Computex 2024における基調講演で「CoPilot+」という言葉を避け、「AI PC」と言い続けていた。
- そして、インテルはクアルコムのSnapDragon X Eliteに対して強い対抗意識を示し、Lunar Lakeプロセッサーの優位性を強調していた。
台湾でのComputex 2024の概要
Computex 2024とは、台湾で毎年開催される国際的なコンピュータ展示会であるComputexの2024年度版である。
Computexは世界最大級のICT(情報通信技術)関連展示会の一つで、コンピュータハードウェア、ソフトウェア、IoT、AI、5G、クラウドコンピューティング等、最新の技術と製品が展示される。
そして、Computex 2024を一言で要約するならば、それはCoPilot+だろう。
マイクロソフト(MSFT)は、2024年5月20日の特別イベントの際にこのコンセプトを発表した。
その際、クアルコム(QCOM)をCoPilot+ PCを搭載する最初の企業として指名するという、まさに爆弾発言を行っており、その詳細についてはこちらのレポートで説明している。
表面的には、インテル(INTC)とAMD(AMD)の基調講演はCoPilot+ PCのコンセプトを全面的に支持するものであったが、発言されたこと、そして、実際に発言されなかったことのニュアンスをもう少し掘り下げてみると、まったく異なるピクチャーが浮かび上がってくる。
その異なるピクチャーは、基調講演のステージで誰が誰と一緒になったかによってもさらに鮮明にされる。
また、この1週間のドラマをさらに盛り上げたのは、インテルがクアルコムのPC界への最新進出を高慢な態度で否定したことであった。
そして最後に締めくくりとして、新機能「Recall(リコール)」に対する広範な懸念に対応し、この機能をデフォルトで「オフ」に切り替えることを発表し、マイクロソフトは今週を締めくくった。
AI PC「CoPilot+」の発表にまつわるドラマにもかかわらず、ある企業がもうかり過ぎて笑いが止まらないというのも耳にしているが、この点に関しては、後程触れていきたい。
では、詳しく見ていこう。
インテル(INTC)のCoPilot+に対する反応
マイクロソフト(MSFT)が先陣を切ってAI PCとは何かをハードウェア的に定義し、CoPilot+というブランド名を付けたことは、歴史的に見ても同社らしくないと以前指摘した。
実際、このやり方はインテル(INTC)の常套手段であり、大成功を収めたCentrinoブランド・キャンペーンはその最たる例であると言える。
インテルのパット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)が、先週のComputexの基調講演においても、彼が称するインテルの 「Centrino moment」(セントリーノ・モーメント)に言及し、今、AI PCが同様の機会を迎えていると認識していることとリンクさせたことに、皆さんはお気づきだろうか。
勿論、インテルが独自のAI PCのブランディング/マーケティング・キャンペーンを展開することを念頭に置いていたのは間違いない。
結局のところ、過去5年間で特にAMD(AMD)との競争が激化したにもかかわらず、インテルは未だデスクトップとノートPCの両方で約80%の市場シェアを維持している。
このような背景から、インテルがいかにマイクロソフトに出し抜かれ、窮地に立たされているかがよくわかる。
CoPilot+のブランドを受け入れなければ、自社のAI PCでCoPilot+の機能を利用することはできない。
CoPilot+のブランドを支持すれば、マイクロソフトの支配に屈することになり、ブランドの主導権を失うことになる。
現実には、インテルはマイクロソフトに従うしかないというのが現状であろう。
ただし、だからといって、インテルがCoPilot+を必ずしも気に入る必要はなく、ゲルシンガーCEOの基調講演に注意深く耳を傾けていれば、そのインテルの真意がComputexの場で示されていたことにお気付きかもしれない。
インテルの不満はどのような形で現れていたのだろうか?
最も明白な兆候は、ゲルシンガーCEOが基調講演のPCセグメントを通じて、CoPilot+という言葉を頑なに使わず、代わりに「AI PC」と言い続けたことであろう。
実際に、ゲルシンガーCEOはCoPilot+について一度だけ言及している。
これは、マイクロソフトのサティア・ナデラCEOが短いビデオクリップでゲスト出演した直後のことである。
ナデラCEOは、インテルのLunar Lakeプロセッサーが80台以上の新しいCoPilot+ PCに搭載されるという事実を特に強調し、まるでゲルシンガーCEOにCoPilot+のブランドを使い始めるよう念を押したかのようであった。
また、ゲルシンガーCEOの基調講演のスライドには、CoPilot+ブランドに関する言及は一つも見当たらなかった。
ゲルシンガーCEOがCoPilot+の仕様を非難したと思われるもう1つの箇所は、40TOPS以上のNPU(Neural Processing Unit / ニューラル プロセッシング・ユニット)の要件に関連していた。
ここで少し文脈を整理しておくと、マイクロソフトからの要請がなければ、インテル(あるいは、AMD)が次世代NPUを40TOPS(約4倍の性能向上)に引き上げるつもりはなかったと思われる。
なぜなら、そのような強力なNPUのユースケースが極めて不明確だからである。
さらに、40TOPSを超えるNPUはダイ面積がはるかに大きくなるため、製造コストが高くなる。
AI PC「CoPilot+」の発表にまつわるドラマのために、もうかり過ぎて笑いが止まらないという企業は、どの企業のことか、もうお分かりいただけただろうか?
これについては後ほど詳しく説明する。
また、ゲルジンガーCEOは先週のComputexでLunar Lakeを発表する機会を得た。
このプロセッサはMeteor Lakeに続くもので、同社初のPC市場向けディスアグリゲーション/チップレット設計となっている。
ゲルジンガーCEOはスピーチの中で、NPUの重要性をやや不器用に軽視するような発言をしている。
私には、一部の人々が「NPUだけが唯一必要なものである(the NPU is the only thing that you need)」と言っているという考えを、彼がどこから持ってきたのか分からないし、そんなことを言う人は聞いたことがない。
さらに彼は、「私たちが関わっているISV(独立系ソフトウェア・ベンダー)のうち、NPUだけを使用しているのは30%に過ぎない」と述べた。
この発言は本当に奇妙な統計であり、彼がなぜこのようなコメントをしたのか、私は理解することが出来ない。
私の解釈では、マイクロソフトがLunar LakeにNPUを搭載することを望んだからといって、40TOPS以上のNPUをLunar Lakeに搭載しなければならないことに彼は不満を感じているのだと思う。
インテルの話題が出たついでに、ゲルシンガーCEOがクアルコム(QCOM)のSnapDragon X Eliteについて語った内容を見てみよう。
予想通り、彼はあまり褒め称えておらず、実際には、彼は真っ向から否定的であったように見える。
(原文)“Now, since there’s been some other talk about some X elite chip and its superiority to the x86, I just want to put that to bed right now, ain’t true. Lunar Lake outperforms X Elite on the CPU, on the GPU, and on AI performance, delivering a stunning 120 TOPS of overall AI performance. And its compatible, so you don’t have any of those compatibility issues, you know this is x86…. this is a no brainer”
(日本語訳)さて、X Eliteチップとx86に対する優位性については、他にもいくつか話題になっているが、それは真実ではなく、今すぐそれを整理しておきたいと思います。Lunar Lakeは、CPU、GPU、AI性能においてX Eliteを凌駕し、AI性能全体で120TOPSという驚異的な性能を発揮しています。そして、互換性があるため、そういった互換性の問題は一切なく、皆さんもこれがx86であることを知っているはずです。これは当然です。
基調講演全体を見たくない場合は、SnapDragonへの言及はビデオの52分20秒から始まる。
彼がX Eliteをばっさり切り捨てるボディランゲージは一見の価値がある。
そして、私はChat GPT 4oに下記の質問をすることにした。
(原文)Could you give me some recent quotes that Intel CEO Pat Gelsinger has made regarding the competitive threat from Qualcomm's SnapDragon X Elite processors?
(日本語訳)クアルコムのSnapDragon X Eliteプロセッサの競争上の脅威について、インテルCEOのパット・ゲルシンガーが最近述べた言葉を教えてください。
すると、次のような回答が返ってきた。
(原文)Intel CEO Pat Gelsinger has addressed the competitive threat posed by Qualcomm's Snapdragon X Elite processors in several recent statements, reflecting both confidence in Intel's future products and a dismissive attitude towards the challenge from Qualcomm.
(日本語訳)インテルのパット・ゲルシンガーCEOは、クアルコムのSnapdragon X Eliteプロセッサがもたらす競争上の脅威について最近のいくつかの発言で触れており、インテルの将来の製品に対する自信と、クアルコムからの挑戦に対する否定的な態度の両方を反映しています。
(原文)Gelsinger has emphasized Intel's technological advancements and roadmap, insisting that Intel's upcoming processors will outperform Qualcomm's offerings. He specifically highlighted the capabilities of Intel's Lunar Lake SoCs, claiming they surpass Qualcomm's Snapdragon X Elite in every metric. He labeled the idea that x86 architecture cannot compete with other architectures in terms of power consumption as a "myth" and asserted that Lunar Lake proves this point. Gelsinger also teased the Arrow Lake processors, which will feature in Copilot+ PCs, boasting a substantial performance boost (Enterprise Technology News and Analysis).
(日本語訳)ゲルシンガーCEOは、インテルの技術的な進歩とロードマップを強調し、同社の今後のプロセッサはクアルコムの製品を上回るだろうと主張しています。ゲルシンガーCEOは特にインテルのLunar Lake SoCの能力を強調し、あらゆる指標でクアルコムのSnapdragon X Eliteを上回ると主張しています。ゲルシンガーCEOは、x86アーキテクチャが消費電力の点で他のアーキテクチャに太刀打ちできないという考えは「神話」であるとし、Lunar Lakeがこの点を証明していると主張しています。ゲルシンガーCEOはまた、Copilot+ PCに搭載され、大幅な性能向上を誇るArrow Lakeプロセッサについても予告しました(Enterprise Technology News and Analysis)。
(原文)Furthermore, Gelsinger downplayed the significance of Qualcomm's claims by stating that Intel's products will continue to lead the AI PC race. He projected that over 100 million AI-enhanced PCs powered by Intel x86 processors would be in the market within the next two years (Enterprise Technology News and Analysis).
(日本語訳)さらにゲルシンガーCEOは、インテルの製品がAI PCレースをリードし続けると述べ、クアルコムの主張の重要性を軽視しています。彼は、Intel x86プロセッサを搭載したAI強化PCが今後2年以内に1億台以上市場に出回ると予測しています(Enterprise Technology News and Analysis)。
(原文)While acknowledging the increasing competition from companies like Qualcomm and Nvidia, Gelsinger's confidence in Intel's strategy and upcoming products remains strong. He also pointed out Intel's flexibility and resilience, suggesting that even if Intel faces increased competition from Arm-based CPUs, the company could still succeed as a foundry service provider for other chipmakers (Enterprise Technology News and Analysis) (Enterprise Technology News and Analysis).
(日本語訳)ゲルシンガーCEOは、クアルコムやエヌビディア(NVDA)といった企業との競争が激化していることを認めつつも、ゲルシンガーCEOはインテルの戦略と今後の製品に強い自信を示しています。同氏はまた、インテルの柔軟性と回復力を指摘し、インテルがアーム(ARM)ベースのCPUとの競争激化に直面したとしても、同社は他のチップメーカー向けのファウンドリ・サービス・プロバイダとして成功する可能性があることを示唆しています(Enterprise Technology News andAnalysis)(Enterprise Technology News and Analysis)。
(原文)Overall, Gelsinger's comments reflect a mixture of confidence in Intel's technological edge and a strategic approach to maintaining a competitive position in the face of growing threats from Qualcomm's new processors.
(日本語訳)全体として、ゲルシンガーCEOのコメントには、インテルの技術的優位性に対する自信と、クアルコムの新型プロセッサによる脅威が高まる中で競争力を維持するための戦略的アプローチが混在しています。
個人的には、このChat GPT 4oの反応は悪くなく、ここでのキーワードは「否定的(dismissive)」だと思う。
マイクロソフト自身によるものも含め、x86をWindowsの死の支配から解き放とうとするこれまでの試みが惨めに失敗してきたことはよく知られているが、今回は私には違うように感じられる。
なぜそうなのかについては、今後の記事で詳しく述べることにしよう。
これはあくまでも私の私見であるが、現時点では、ゲルシンガーCEOがSnapDragon X Eliteプラットフォームを完全に否定することは、賢明な対応ではないと思う。
信頼できる競合他社を尊重し、市場に一歩先を行くことを約束するだけでも、はるかに賢明な姿勢といえるだろう。
※続きは「【半導体・AI】台湾Computex 2024:インテルとは対照的にAMDはマイクロソフトのCoPilot+を支持」をご覧ください。
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