中立クラウドフレア① Part 4:クラウドフレア(NET):2024年1Q決算速報・財務分析と今後の株価見通し(Cloudflare)

- Part1からPart4で構成される今回のクラウドフレア(NET)シリーズの最終回①では、2024年度第1四半期決算と、投資家にとって問題となりうるGAAPベースのEBITの改善の欠如について議論していく。
- また、②では、同社がエンタープライズ(企業向け)・ネットワークセキュリティにより適した新たなGTM戦略を実行せざるを得ない市場におけるダイナミクスについて論じていく。
- そして、③では同社のバリュエーションについて触れており、足元、同社はフェアバリューの範囲内で取引されているが、アップサイドの可能性よりもダウンサイドの可能性の方がはるかに大きいと見ている。
- 同社は2024年度第1四半期決算で、ガイダンスを上回る売上高とEBITを達成したが、CEOの発言に対する懸念から株価が下落。
- 2024年度第1四半期には、10万ドル以上のARR顧客が122社増加し、総数2,878社となり、過去12か月間でARR顧客数が過去最高を記録。
- クラウドフレアのGAAPベースのEBITマージンは依然としてマイナスであり、投資家は将来的な収益性の改善を期待している。
※専門用語の解説に関しては、「① Part 1:クラウドフレア / NET:サイバーセキュリティ銘柄のテクノロジー上の競争優位性(強み)分析と今後の将来性(前編)」をご覧ください。
クラウドフレア(NET)の2024年度第1四半期決算に関して
クラウドフレア(NET)は2024年5月2日に2024年度第1四半期決算を発表しており、事前ガイダンスを大幅に上回る着地となった。
売上高は、ガイダンスの3億7,300万ドル(前年同期比28.5%増)に対し、3億7,860万ドル(同30.5%増)となった。
Non-GAAPベースのEBITは、ガイダンスの3,450万ドル、マージン9.2%に対し、4,240万ドルで、マージンは11.2%となった。
また、FCF(フリー・キャッシュフロー)マージンは11%で、過去数四半期の平均を維持している。
好業績にもかかわらず、市場の投資家がプリンスCEOのマクロ面での不確実性に関する発言に少し懸念を感じたことから、決算翌日の5月3日に同社の株価は13%下落した。
通常、プリンスCEOは、冒頭の発言において、最初の2~3文の中で必ず同社のプラットフォーム上で10万ドル以上のARR(年間経常収益)を利用する大口顧客が(既存または新規で)どれだけ純増したかについて言及する。
さらに、多くのCEOが四半期ごとの決算説明会で新たな案件や進捗を発表する中で、プリンスCEOが選ぶトピックの大半は、エンタープライズ(企業向け)・ネットワーキングとNetSec(Network security / ネットワーク・セキュリティ)における進展に関してである。
彼の見解には、クラウドフレアがゼットスケーラー(ZS)やパロ・アルト・ネットワークス(PANW)と肩を並べる大企業ベンダーになり得ることを世間に証明したいという彼の決意を明確に示しているように見える。
2024年度第1四半期、同社は10万ドル以上のARR顧客(下記の図における「>$100,000 Annualized Revenue」)を122社獲得し、合計で2,878社となっている。
参考までに、同社の10万ドル超の新規顧客数は、2023年第4四半期に206件、第3四半期に198件、第2四半期に196件、第1四半期に114件であった。
10万ドル超の顧客の純増数が前四半期から減少していること(2023年度第4四半期はの206人に対し、2024年度第1四半期は122人)は、季節的要因によるものと思われる。
しかし、10万ドル超の顧客数が前四半期比で減少していることから注意をそらすため、プリンスCEOは過去12カ月間ベースで10万ドル超、50万ドル超、100万ドル超の顧客数が過去最高水準に達していることを指摘している。
(原文)Digging into our largest customers, we added a record number of net new customers year-over-year spending more than $100,000, $500,000 and $1 million on an annualized basis. We are successfully moving upmarket and becoming a larger and more strategic vendor to more and more of our customers.
(日本語訳)大口顧客を掘り下げると、年率換算で10万ドル以上、50万ドル以上、100万ドル以上の正味新規顧客数が前年比で過去最多となりました。我々は、より多くの顧客にとって、より大規模で戦略的なベンダーとなり、市場規模を拡大することに成功しています。
プリンスCEOはまた、大企業からの売上高における貢献が67%と、前年同期の62%から増加したことをアナリストに伝えており、この点はここ数四半期では指摘していなかった内容である。
おそらく我々は深読みしすぎているのかもしれないが、全体として見ると、同社のエンタープライズ・セグメントへの浸透は改善しているように見える。
これは、SASE(Secure Access Service Edge)の採用に関する我々の分析結果や、2024年度第1四半期決算の決算説明会において、市場のアナリストが同社がSASEの勢いを増している点を確認したことと一致している。
さらに、これは、ガートナー社のSSE (Security Service Edge)のMagic Quadrant(マジック・クアドラント)やフォレスター社のWave for Zero Trust(ゼロ・トラスト・ウェーブ)において、最近ポジションが向上したことでも裏付けられている。
しかし、クラウドフレアがチャネル・エコシステムにとって主力のエンタープライズ・ネットワーキングおよびサイバーセキュリティ・ベンダーになるまでには、まだ長い道のりがあるように見える。
後ほど、同社が移行を続ける際の市場におけるダイナミクスについて説明する。
同社の現在進行中のGTM戦略(市場進出戦略)における改革について説明する前に、同社 の過去数四半期の業績推移を見ていきたい。
同社がバリュエーションにおけるマルチプル(倍率)を拡大、あるいは維持するためには、特に成長が減速するにつれて、市場の投資家は最終的に同社のGAAPベースの収益性が改善することを望むだろう。
現在のところ、投資家はFCFマージンの改善に満足しているようだが、GAAPベースのEBITマージンとの乖離が拡大していることは、FCFの改善が業務効率によるものではないことを示しているため、少し懸念が残る内容となっている。
損益計算書における各項目の対売上高に対する比率を見ると、EBITマージンは依然としてマイナスのままであることが分かる。
2022年度第1四半期(2022年3月)のFCFマージンとGAAPベースのEBITマージンの差は-10.6%であり、FCFマージンがGAAPベースのEBITマージンより低く、よりマイナスとなっていた。
2023年度3月期の第1四半期には、FCFマージンが大幅に上昇し、その差は22.8%に達している。
そして直近の2024年度第1四半期(2024年3月)においては、その差は25.4%に拡大している。
GAAPベースのEBITマージンの改善とともにFCFマージンが改善し、販管費比率が低下していれば、投資家にとってはより心強い内容であると言える。
しかし、残念ながら、上述の通り、販管費は60%以上に高止まりしている。
そして、その代わり、FCFマージンの増加は、さまざまなソースからのわずかな貢献によるものであり、そのうちの幾つかのソースは営業外収益となっている。
例えば、2022年第1四半期以降のFCF/EBITマージンの乖離に関しては、投資収益が約5%(上の損益計算書に記載)、のれんの減損が約1%(下のキャッシュフロー計算書に記載)寄与している。
また、運転資本、繰延収益の変動、売上高に占める設備投資の割合もわずかながら寄与している。
さらに、SBC(株式ベースの報酬)はFCFを増加させるものではないが、FCFとEBITの乖離に影響を与える。
そして、クラウドフレアのSBC(%)は、過去12カ月間ベースで、数々の買収により、2022年度第1四半期の13%から2024年度第1四半期には20%に増加している。
つまり、同社は、GAAPベースのEBITマージンの改善で示されるはずの中核事業要素からの効率性を享受していないのである。
同社は、トップダウンでのチャネルを重視したサイバーセキュリティの営業アプローチを含むGTM戦略における変革を続けており、S&M比率とG&A比率はしばらくの間上昇し続けることになることから、中期的にこの状況が変わることはないと見ている。
私たちの意見では、この流れは株価にとって良いことではなく、遅かれ早かれ、市場の投資家はより良い同社のGAAPベースでの数字を見たいと思うことが予想される。
※続きは「② Part 4:クラウドフレア(NET):GTM(市場進出)/マーケティング戦略とSASE市場における競争力&競合分析」をご覧ください。
その他のクラウドフレアに関するレポート
1. ① Part 1:クラウドフレア / NET:サイバーセキュリティ銘柄のテクノロジー上の競争優位性(強み)分析と今後の将来性(前編)
2. ① Part 2:クラウドフレア / NET:SASEにおける同社の強み&競合分析・比較(PANW、FTNT、ZS)(前編)
3. ① Part 3:クラウドフレア / NET:エッジ・コンピュート分野における同社のテクノロジー面での強み&競争優位性
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