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06 - 08 - 2024

中立
クラウドフレア
中立
現在の同社の株価はフェアバリューの範囲内で取引されていると見ているが、可能性としては、現水準からのアップサイドよりもダウンサイドの方が遥かに大きいと見ているため、同社の株価に急激な調整が見られるまでは引き続き様子見スタンスを継続したい。
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③ Part 4:クラウドフレア(NET):2024年1Q決算を踏まえた財務・バリュエーション分析&今後の株価予想・将来性

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  • ③ではクラウドフレア(NET)のバリュエーションについて深堀りしていく。
  • 同社は、SASE市場での成長が堅調であり、今後6年間の年平均成長率は45%と予測されている。
  • 同社の2029年度の売上高は、SASEの成長により42億ドルに達すると見込まれているが、さらに51.5億ドルを上回る可能性もある。
  • ただし、足元、同社はフェアバリューの範囲内で取引されており、現在の株価水準からのアップサイドの可能性よりもダウンサイドの可能性の方が遥かに大きいと見ている。

※「② Part 4:クラウドフレア(NET):GTM(市場進出)/マーケティング戦略とSASE市場における競争力&競合分析」の続き

※専門用語の解説に関しては、「① Part 1:クラウドフレア / NET:サイバーセキュリティ銘柄のテクノロジー上の競争優位性(強み)分析と今後の将来性(前編)」をご覧ください。

クラウドフレア(NET)のバリュエーションに関して

弊社のクラウドフレア(NETのDCFを用いたバリュエーションに関する詳細は、こちらよりご覧いただきたい。

また、セルB6、H7、B9、B11、B15のパラメータはお好みで変更していただければと思う。

クラウドフレアの直近過去12カ月間の売上高は15億ドルに迫る勢いだが、同社は第2のS字カーブ(Act 2 / 第2幕 / SASE)を描いており、成長見通しは引き続き堅調である。

現在、SASE(Secure Access Service Edge)が同社の直近過去12カ月間の売上高1億3,800万ドルの25%に寄与していると推定すると、SASEによる売上高は約3億4,600万ドルとなる。

今後6年間のSASEのCAGR(年平均成長率)を45%と推定すると、SASEは約29億ドル(3億4,600万ドル * 1.45 ^ 6 - 3億4,600万ドル = 28億7,000万ドル)寄与することとなる。

2023年度の売上高13億ドルに29億ドルを加えると、6年後の2029年度には同社の売上高は42億ドルになる。

Act 1(第1幕)のCAGRが1桁台前半で、Act 3(第3幕)が勢いをつけるにはあと2年かかると仮定すると、上述の2029年会計年度の42億ドルの想定と冒頭の弊社バリュエーション・モデルで示された2029年会計年度の51.5億ドルの差は、Act 1とAct 3で埋め合わせることができると見ている。

クラウドフレアのSASEからの売上高の割合が現在25%よりかなり低い場合、おそらく6年間のCAGRは、より低い収入ベースからのスタートとなるため、より高くなると思われるため、調整が必要であろう。

しかし、下記のグラフのガートナー社のSSE(Security Service Edge / セキュリティ・サービス・エッジ)Magic Quadrant(マジック・クアドラント)の「Ability to Execute(実行能力)」(市場シェアを示す上での代理)軸でクラウドフレアの位置づけを見てみると、5億ドルから15億ドルの売上高を上げているゼットスケーラー(ZS)、パロアルトネットワークス(PANW)、Netskopeよりはかなり低いものの、SASEまたはSSEの売上高が1億ドル未満であろうSkyhighやLookoutなどよりはかなり高いため、上述の想定はある程度正確な試算であると考えている。

いずれにせよ、成長予測の背後にある論理は、やや楽観的ではあるが、ある程度理にかなっていると考える。

さらに、Act 3は同社の売上高に対して、これからの1~2年後に意味のある貢献を始める可能性が高く、高い成長率で総売上高に対して最大で約10%を占める可能性があり、その結果、2029年会計年度の売上高は51.5億ドルをはるかに上回る可能性がある。

お分かりのように、2029年会計年度までに50億ドル超を達成するための総売上高のCAGRは25%超である。

2024年会計年度のガイダンスが27%の成長率に相当することを考えると、これは高いと感じる人もいるかもしれないが、今後5年間の予想CAGRを〜27%と想定する市場のアナリスト予想よりは若干低い水準となっている。

これは、20億ドル以上の売上高を持つ企業向けソフトウェア・ベンダーが経験する典型的な成長鈍化を回避できるというクラウドフレアの能力に、市場の投資家が強気の賭けをしていることを示している。

弊社としては、今後、5~6年の間に、クラウドフレアの成長率が25%以下に減速するダウンサイド・サプライズ、或いは、この成長率を超えて再加速するようなアップサイド・サプライズの両方があり得ると見ている。

仮に、同社がダウンサイド・サプライズを経験する展開となった場合には、株価がEV/S(企業価値 / 売上高倍率)で10台前半の倍率まで下落するまで、我々は喜んで待っているだろう。

実際に、同社が市場の期待通りの成長を維持する可能性は低いかもしれないが、同社は、隣接市場への参入、TAM(獲得可能な最大市場規模)の拡大、優れた製品提供の実行力により、持続的な高成長を実現できる数少ない企業の1つであると見ている。

したがって、2026年会計年度から2029年会計年度までのデフォルトの年平均成長率を25%に設定することは、やや楽観的ではあるが、妥当であるように思われる。

また、バリュエーションのもう1つの主要パラメータは、クラウドフレアのターミナル・FCF(フリー・キャッシュフロー)マージンである。

Act 1Act 2Act 3にはそれぞれ異なる収益性プロファイルがあるため、このパラメータをデフォルトに設定するのは難しい。

同社が最終状態に達した時、Act 2(SASE)が最終的に売上高の大部分を占めるとすれば、同社のターミナルFCFマージンは、パロアルトネットワークス、フォーティネット(FTNT)、チェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズCHKP)、シスコ・システムズCSCO)等、他の成熟したNetSec(Network security / ネットワーク・セキュリティプレーヤーと同様の35~40%になるはずである。

しかし、Act 3が売上高の大部分を占めるようになれば、ターミナルFCFマージンは低下する。

なぜなら、エッジ・コンピュートには価値があるが、それはIaaS(Infrastructure as a Service)であるため、NetSecを提供するよりも付加価値が低いからである。

これが、我々がデフォルトのターミナルFCFマージンを30%とした理由である。

良いニュースとしては、クラウドフレアのFCFマージンが現在から最終段階に至るまで、Act 2が事業全体に占める割合が大きくなるにつれて着実に上昇することである。

この理由は、よりコモディティ化したAct 1が事業に占める割合が小さくなることを意味するからである(参考までに、アカマイ・テクノロジーズAKAM)のFCFマージンは20%~25%であり、成熟したリバースプロキシ企業と考えられている)。

また、クラウドフレアの売上総利益率は75~80%であり、これは高水準のターミナルFCFマージンを生み出す余地を十分に与えているようにも見える。

もちろん、これらは、同社が成熟状態に達した後、販管費比率とG&A比率をどれだけ引き下げられるかにかかっている。

以下に示すクラウドフレアの長期オペレーティング・モデル・ガイドは、かなり保守的であり、数年後にFCFマージン30%で市場の投資家に衝撃を与え、株価に大きな話題を巻き起こすというサンドバッグのような設定にも見える。

また、ターミナルSBC(Stock Based Compensation / 株式ベースの報酬)の%の選択もバリュエーション上重要である。

同社が売上高100億ドルを超える巨大ハイテク企業になると予想するならば、SBCの%は10%を下回ると予想される。

これを2.5%刻みで変えると、1株当たりの価値は~10ドル影響するため、これは考慮すべき重要なパラメータである。

ご参考までに、セールスフォース(CRM)の売上高が100億ドルだった頃、SBCの%は約10%となっていた。

売上規模が大きい企業では、SBCの%は5%に近くなる傾向があるため、クラウドフレアの売上高が150億ドル以上に達することを想定するなら、デフォルトの7.5%が適しているのかもしれない。

つまり、このデフォルト・パラメーターの選択に基づくと、以下のようになる。

ターミナルFCFマージン30%、ターミナルSBCの%は7.5%、2026年会計年度から2029年会計年度までの年平均成長率は25%で、一株当たりのクラウドフレア株式の価値は79ドルとなり、本稿執筆時点の株価より約12%高い水準がフェアバリューとなる。

そしてこれは、EV/S(企業価値 / 売上高倍率)が21倍というかなり割高な水準に相当する。

ターミナルFCFマージンとSBCの%をそれぞれ35%と5%に変更すると、1株当たりの価値は108ドルに上昇するが、EV/Sが29倍となり、本質的価値(フェアバリュー)として信じ難い水準である。

つまり、これらのデフォルト・パラメーターは、クラウドフレアによる完璧なGTM戦略の実行と市場の失望がゼロであることを前提に、同社の価格設定を行っているように見える。

そのため、現在の同社の株価はフェアバリューの範囲内で取引されていると見ているが、可能性としては、現水準からのアップサイドよりもダウンサイドの方が遥かに大きいと見ているため、同社の株価に急激な調整が見られるまでは引き続き様子見スタンスを継続したい。

その他のクラウドフレアに関するレポート

1. ① Part 1:クラウドフレア / NET:サイバーセキュリティ銘柄のテクノロジー上の競争優位性(強み)分析と今後の将来性(前編)

2. ① Part 2:クラウドフレア / NET:SASEにおける同社の強み&競合分析・比較(PANW、FTNT、ZS)(前編)

3. ① Part 3:クラウドフレア / NET:エッジ・コンピュート分野における同社のテクノロジー面での強み&競争優位性

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