【半導体:Part 2】注目のAI半導体関連銘柄と今後のAI半導体市場の見通し:在庫の増加ペースが売上高を上回っている点には要警戒?
ダグラス・ オローリン- 本編は、注目の半導体セクターの2024年度の振り返りと今後の見通しに関する詳細な長編レポートであり、6の章で構成されています。
- 本稿Part 2では、2024年度のグローバル半導体関連銘柄の株価パフォーマンスの比較を通じて割安に放置されている可能性のある銘柄、並びに、注目のAI半導体関連銘柄と今後のAI半導体市場の見通しに関して詳しく解説していきます。
- 2024年の半導体市場では、AI関連分野が大幅な成長を遂げた一方、AI以外の分野は停滞しており、エヌビディアやブロードコムなどの特定の銘柄が市場を牽引しました。
- バリュエーションの観点からは、割安と判断される銘柄がいくつかあり、特にAMDやモノリシック・パワー・システムズに投資チャンスとして注目しています。
- AI半導体市場は今後も成長が見込まれていますが、過去の勢いを維持するのは難しく、在庫と売上のバランスが重要な課題となる可能性があります。
※「【半導体:Part 1】最新の半導体市場動向:2024年度はAI関連が驚異的な成長を遂げた一方で、AI関連以外の半導体分野は停滞!」の続き
前章では、2024年度末時点のAIやスマートフォン関連等を含む、最新の半導体市場動向に関して詳しく解説しております。
本稿の内容への理解をより深めるために、是非、インベストリンゴのプラットフォーム上にて、前章も併せてご覧ください。
2024年の振り返り
さて、株式市場の話に戻りましょう。皮肉なことに、2024年の半導体セクターは、エヌビディア(NVDA)、クレド・テクノロジー(CRDO)、コヒレント(COHR)、アステラ・ラブズ(ALAB)、ブロードコム(AVGO)、アドバンテスト、マーベル・テクノロジー(MRVL)、TSMC(TSM)、アーム・ホールディングス(ARM)といった銘柄を保有していなかった人にとっては、厳しい年でした。他にも小型株でいくつか挙げるべき企業があるかもしれませんが、全体としてはこの認識で間違いないでしょう。
その裏では多くの苦境がありました。前時代の大きな勝者の一つであるASML(ASML)は横ばいでしたが、サムスン電子(005930.KS)は30%、AMD(AMD)は18%も下落しました。それに続く主要な10社、具体的にはテキサス・インスツルメンツ(TXN)、クアルコム(QCOM)、アプライド・マテリアルズ(AMAT)、アナログ・デバイセズ(ADI)、マイクロン・テクノロジー(MU)、KLA(KLAC)、インテル(INTC)を見ると、大半が低い2桁成長で推移した一方、インテルは驚くべきことに60%も下落しました。このような結果のばらつきは、これまで比較的リターンが安定していたこの業界では非常に珍しいことです。
しかし、今年は状況が変わるかもしれません。AI関連のブームが終わるとは言い切れませんが、今年は「AI経済」の年になると考えています。3桁台のリターンが続く可能性は低く、半導体セクターや市場全体と同程度のパフォーマンスに落ち着くのではないでしょうか。再び驚異的な3桁成長を記録するような年にはならないと思います。
私が特に注目しているのは、企業のバリュエーションを過去の水準と比較する方法です。下記のチャートは、2023年時点と2024年時点のEV/EBITDA倍率における株価バリュエーションの比較を行っています。この分析では、ラインより下にあるものは割安になり、上にあるものは割高になったことを示しています。
割安になりつつも好調だった企業は、投資のチャンスになる可能性が高いです。そのリストには、半導体製造装置関連企業、AMD、モノリシック・パワー・システムズ(MPWR)、メモリ関連企業が含まれるようです。AMDが割安とされるのは納得できますが、シノプシス(SNPS)、BE・セミコンダクター・インダストリーズ(BESI)、ケイデンス・デザイン・システムズ(CDNS)、モノリシック・パワー・システムズが割安になっているのは驚きです。
2023年度のEV/EBITDA倍率(X軸)対2024年度のEV/EBITDA倍率(Y軸)
(出所:SemiAnalysis)
もう一つの視点として便利なのが、このクアドラントチャートです。右下に位置する銘柄が「最良」とされます。これらは、バリュエーションが割安になりながら、業績予想が上昇した企業です。今年の場合、スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)、マイクロン・テクノロジー(MU)、シーゲイト・テクノロジー・ホールディングス(STX)、SKハイニックス(000660.KS)、インピンジ(PI)、ウエスタン・デジタル(WDC)、オント・イノベーション(ONTO)、ACMリサーチ(ACMR)、シノプシス(SNPS)、AMAT(AMAT)、クアルコム、ディスコ、ケイデンス・デザイン・システムズ(CDNS)、ラムリサーチ(LRCX)、クレド・テクノロジー(CRDO)、ファブリネット(FN)などが該当します。
2025年の変化率(%):EBITDA(X軸)対 EV/EBITDA倍率(Y軸)
(出所:SemiAnalysis)
他の見方としては、業績予想が下方修正されたものの、長期的な成長性や競争優位性(いわゆる「モート」)を持つ企業を注目する方法があります。一方で、業績予想が上方修正されているにもかかわらず、基礎的な改善がまだ十分に評価されていない企業も、投資対象として非常に魅力的だと言えるでしょう。
全体的に見て、今年は一部の特異な銘柄がバリュエーションを押し上げたことで、業界全体が平均的に割高になっています。私はいつも、割安で市場の関心が薄れているものの、改善の兆しが見える銘柄が好きで、今後もそういった銘柄を探していきたいと思っています。
現時点における今後12カ月先ベースのEV/EBITDA倍率
(出所:SemiAnalysis)
それでは、各セグメント毎に市場の状況と、来年の見通しについてお話ししていきたいと思います。
注目のAI半導体関連銘柄3選とAI半導体市場の2025年度以降の見通しとは?
現在の半導体市場は、非常に強気な局面にあります。AI半導体市場は典型的な成長期に入り、在庫と売上高が四半期ごとに増加しています。過去のサイクルを振り返ってみると、2020~2022年や2016~2018年の成長期と同じような力強い成長が見られます。ただし、在庫の積み上がりには注意を払う時期に差し掛かっている可能性があります。
AI関連半導体銘柄の売上高(X軸)対在庫成長率(Y軸)
(出所:SemiAnalysis)
注目すべき点として、在庫の増加ペースが売上高を上回っています。特に、エヌビディア(NVDA)がこの市場で大きなシェアを占めていることを考えると、これはBlackwellシリーズの立ち上げに向けた準備として妥当な動きと言えるでしょう。
気になる点は、収益と在庫が拡大する「トップ右側の象限」にこれほど長くとどまることが、非常に稀であるということです。今後も特にGB200を中心にAI市場の成長を信じていますが、過去と比べると少し慎重な姿勢が必要かもしれません。通常、この象限にとどまる期間は約8四半期ですが、現在の上昇局面はすでに6四半期目に入っています。
O3がエヌビディアに対して非常に強気な見方をさせる一方で、成長率のピークはすでに過ぎている可能性が高いと感じています。AI半導体市場は今後も堅調で、収益と在庫が拡大する「トップ右側の象限」にとどまると予想されますが、好調なサイクルは永遠には続きません。現時点で特に懸念すべき兆候は見当たらないものの、半導体市場がサイクル性を持つという歴史的教訓を忘れるべきではないと考えています。
支出の変化があればサイクルが転換する可能性もありますが、現在、AI半導体企業はどれも理想的なポジションにいます。来年も引き続き好調が期待されますが、過去2年間ほどの勢いには届かないかもしれません。注目している企業としては、エヌビディア、マーベル・テクノロジー(MRVL)、ブロードコム(AVGO)が挙げられます。バリュエーションの拡大に伴い、収益予測も上方修正されています。特に、マーベル・テクノロジーには大きな成長のチャンスがあると見込んでおり、エヌビディアのGB200の立ち上げも来年の重要な成長機会になるでしょう。
次章以降では、自動車、メモリ、モバイル、半導体製造装置、PC、そして私の「注目のアイデア」について詳しく解説していきます。
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※続きは「【半導体:Part 3】自動車・産業用半導体市場、メモリー市場、モバイル・スマートフォン関連半導体市場の今後の見通しを徹底解説!」をご覧ください。
アナリスト紹介:ダグラス・ オローリン / CFA
📍半導体&テクノロジー担当
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