05/28/2024

クアルコム(QCOM)がインテルとAMDを抜き、40TOPS以上のNPU搭載のマイクロソフトCoPilot+ PCを開発

a close up of a computer board with a logo on itウィリアム・ キーティングウィリアム・ キーティング
  • マイクロソフト(MSFT)は、強力なAI機能と高度なハードウェアを備えた、新しいカテゴリーのWindows PC「Copilot+ PC」を発表。
  • 「Copilot+ PC」は、40TOPS以上のNPUを搭載し、AIモデルの迅速な実行や音声翻訳などの機能を提供するが、プライバシーやセキュリティへの懸念も聞こえている。
  • その中で、クアルコム(QCOM)は、マイクロソフトの新しいPCカテゴリー向けのプロセッサを提供する唯一の企業であり、さらに、他の主要OEMメーカーもこの新しい設計を採用している。

マイクロソフト(MSFT)のCoPilot+の発表とクアルコム(QCOM)への影響

2024年5月20日の専用イベントで、マイクロソフトはWindows PCの新しいカテゴリーであるCoPilot+を発表した

(原文)Today, at a special event on our new Microsoft campus, we introduced the world to a new category of Windows PCs designed for AI, Copilot+ PCs.  

(日本語訳)本日、マイクロソフト(MSFT)の新キャンパスで開催された特別イベントで、AI向けに設計された新しいカテゴリーのWindows PC、Copilot+ PCを世界に紹介しました。

(原文)Copilot+ PCs are the fastest, most intelligent Windows PCs ever built. With powerful new silicon capable of an incredible 40+ TOPS (trillion operations per second), all–day battery life and access to the most advanced AI models, Copilot+ PCs will enable you to do things you can’t on any other PC. Easily find and remember what you have seen in your PC with Recall, generate and refine AI images in near real-time directly on the device using Cocreator, and bridge language barriers with Live Captions, translating audio from 40+ languages into English. 

(日本語訳)Copilot+ PCは、これまでで最も高速でインテリジェントなWindows PCです。驚異的な40+TOPS(1秒間に40兆回の演算)を可能にする強力な新シリコン、終日のバッテリー駆動、最先端のAIモデルへのアクセスを備えたCopilot+ PCは、他のPCではできないことを可能にします。Recallを使ってPCで見たものを簡単に検索して記憶したり、Cocreatorを使ってほぼリアルタイムでAI画像を生成してデバイス上で直接改良したり、Live Captionsを使って40以上の言語の音声を英語に翻訳して言語の障壁を取り除いたりできます。

一言で言えば、マイクロソフトは、既に存在するクラウドベースのCoPilotのコンセプトを、「+」ブランドで示されるローカルPCレベルでネイティブに動作するように展開しようとしているのである。

その過程で、マイクロソフトは独自のAI PCの定義を打ち出しており、Tom's Hardwareはそれを見事に要約している。

(原文)To be considered a Copilot+ PC, a PC must have at least 16GB RAM, 256GB storage, and crucially an on-board NPU that's capable of 40 TOPS (trillions of operations per second, typically 8-bit integer instructions). NPUs are a different type of computing core that's separate from CPUs and GPUs. They're based exclusively around performing AI computations more efficiently than GPUs.

(日本語訳)Copilot+ PCと見なされるためには、PCは少なくとも16GBのRAM、256GBのストレージ、そして重要な点として40TOPS(1秒間に40兆回の演算、通常は8ビットの整数命令)の処理能力を持つNPUを搭載していなければなりません。NPUは、CPUやGPUとは別のタイプのコンピューティング・コアです。NPUは、GPUよりも効率的にAI計算を実行することに特化しています。

なぜマイクロソフトが、通常はインテル(INTC)のスタイルである、新しいPCカテゴリーの定義に関与しているのかについては後述する。

当イベントに話を戻すと、イベント後に最も注目を集めたのは、Recallのコンセプトに対する批判であった。

ネット上では、主にプライバシーやセキュリティへの懸念に焦点を当てた反応が相次いでおり、以下はTom's Hardwareにおける例である。

(原文)Recall drawing regulatory scrutiny in the UK — Microsoft's AI Copilot+ feature a 'privacy nightmare'

(日本語訳)英国で規制当局の監視を受けるRecall - マイクロソフトのAI「Copilot+」機能は「プライバシーの悪夢」

(原文)The UK governmentt is "making enquiries" with Microsoft.

(日本語訳)英国政府はマイクロソフト社に「調査中」である。

個人的には、リコールに対する一部の反応は不当であると見ている。

結局のところ、我々は長い間ブラウザの履歴をコンピュータに記録してきた過去がある。

しかし、発表後に見過ごされそうになった注目すべき点は、クアルコム(QCOM)がマイクロソフトのスペックを満たすプロセッサーを持つ唯一の企業であり、いわゆるCoPilot PCの第一陣、すなわちSnapdragon® X EliteとSnapdragon® X Plusを動かすことができるということが明らかになったことである。

つまり、インテルとAMD(AMD)からは何も提供されていないのである。

それだけでなく、マイクロソフト(SurfaceおよびSurface Pro向け)や主要なラップトップOEMメーカー各社も、クアルコムの最新プロセッサを搭載した新しいデザインを続々と発表している。

これは驚異的な展開であり、世界が10年以上も待ち望んでいたアーム(ARM)・ベースのWindows PCの変曲点となる可能性が非常に高い。

では、実際に何が起こっているのかを詳しく見ていきたい。

PCのスペックを定義するマイクロソフト

では、なぜマイクロソフト(MSFT)はPCのスペックを定義するビジネスに参入しているのだろうか?

結局のところ、このようなことは通常インテル(INTC)が行うことであり、例えばその昔、彼らはCentrinoラップトップがどうあるべきかの仕様を定め、OEMメーカーにそれに従って納品するよう強制していた。

これが2006年当時のスペックである

このスペックを満たさないOEMは、史上最も成功したテクノロジー・ブランディング・コンセプトのひとつであるCentrinoブランドの使用を許されなかった。

考えてみれば、一見して思うほど奇妙なことではないだろう。

マイクロソフトは、自社のOSを動かすのに最低限必要なハードウェアの仕様を常に発表してきた。

例えば、下記は2024年3月に発行されたウィンドウズ11の最新スペックである。

現在、マイクロソフトは上記に加えて、PC上でCoPilotをネイティブに実行するために必要なものを考慮する必要があり、それは40TOPS以上のNPUである。

ちなみに、インテルのMeteor Lakeは10TOPSのNPUを搭載し、AMD(AMD)の同等のプロセッサーは16NPU TOPSを搭載している。

そして、インテルとAMDの両社は、次のロードマップとして40TOPS以上のNPUを約束しており、インテルはLunar Lake、AMDはStrix Pointを予定している。

つまり、彼らは明らかに、マイクロソフトのCoPilot+ PCの流行に乗りたいのだろう。

40TOPS以上という要件は、インテルとAMDが現在提供しているものと比較すると、大きな飛躍が求められることは明らかである。

では、なぜマイクロソフトはこれ程までにハードルを高く設定するのだろうか?

その答えは、そもそもなぜマイクロソフトがCoPilotをPC上で直接実行することにこだわるのか、ということに尽きると考えている。

もしかすると、読者の皆様は、ユーザーがクラウドからCoPilotを使おうが、PCから直接CoPilotを使おうが、マイクロソフトは同じように喜ぶべきだと主張する方もいるかもしれない。

なぜなら、いずれのパターンにせよ、マイクロソフトにとっては勝利であることには変わりはないはずだからである。

しかし、マイクロソフトにとって問題なのは、CoPilotが大成功を収めれば、同社のデータセンターからのコンピュート・リソースの需要が急増することであると見ている。

その場合に備えて、消費者に独自のAIアクセラレーション・ハードウェアを購入させ、マイクロソフトのクラウドサーバーへの負荷を減らすことは理にかなっており、賢い戦略であると思う。

なぜクアルコム(QCOM)が先なのか?

先週のマイクロソフト(MSFT)のCoPilot+発表で最も意外だった点は、クアルコム(QCOM)だけが現時点で同社の新しいPCカテゴリー向けに準備ができているという事実だろう。

当初、我々は、インテル(INTC)とAMD(AMD)はこのイベントから除外されていると考えていたのだが、実際に、各社がこのイベントで一度しか言及されていなかったことを考えると、それは妥当な推測だったと言える。

(原文)We look forward to expanding through deep partnerships with Intel and AMD, starting with Lunar Lake and Strix Point. We will bring new Copilot+ PC experiences at a later date. In the future we expect to see devices with this silicon paired with powerful graphics cards like NVIDIA GeForce RTX and AMD Radeon™, bringing Copilot+ PC experiences to reach even broader audiences like advanced gamers and creators. 

(日本語訳)我々は、Lunar LakeとStrix Pointを皮切りに、インテルとAMDとの深いパートナーシップを通じて拡大していくことを楽しみにしています。我々は後日、新しいCopilot+ PC体験を提供する予定です。将来的には、このシリコンを搭載したデバイスがNVIDIA GeForce RTXやAMD Radeon™のような強力なグラフィックスカードと組み合わされ、上級ゲーマーやクリエイターのようなさらに幅広いユーザーにCopilot+ PC体験を提供することを期待しています。

しかし、我々は時間をかけて当イベントのビデオの記録を見た中で、クアルコムのクリスティアーノアモンCEOに加えて、インテルのパット・ゲルシンガーCEOとAMDのリサ・スーCEOからの録音済みのメッセージを発見した。

3人のメッセージは基本的にすべて同じことを言っており、CoPilot+ PCの登場を歓迎していた。

実際、3つのビデオは終盤で混ざり合い、この新興エコシステムにおける、3社の対等な関係にあり、等しくハッピーなプレーヤーであるかのような印象を与えているが、真実は大きく異なるだろう。

一方で、なぜクアルコムがCoPilot+ PCを動かすのに必要なハードウェアを最初に市場に投入するのかについては、何とも言えないというのが本音である。

ただし、クアルコムが最初にSnapdragon® X Eliteを発表したのは2023年10月のことであり、実に印象的であった。

(原文)The Snapdragon® X Elite platform features the custom integrated Qualcomm Oryon™ CPU – the new CPU leader in mobile computing – and delivers up to 2 times faster CPU performance versus the competition, matching competitor peak performance with one-third of the power.

(日本語訳)Snapdragon® X Eliteプラットフォームは、モバイル・コンピューティングの新たなCPUリーダーであるカスタム統合型クアルコムOryon™ CPUを搭載しており、競合他社に対して最大2倍高速なCPU性能を実現し、競合他社のピーク性能に3分の1の電力で匹敵します。

(原文)Built for AI, Snapdragon X Elite is capable of running generative AI models with over 13 billion parameters on-device and continues to expand Qualcomm’s AI leadership with 4.5 times faster AI processing power than competitors.

(日本語訳)AI向けに構築されたSnapdragon X Eliteは、130億を超えるパラメータを持つ生成AIモデルをオンデバイスで実行でき、競合他社よりも4.5倍高速なAI処理能力により、クアルコムのAIリーダーシップをさらに拡大します。

(原文)PCs powered by Snapdragon X Elite are expected from leading OEMs starting mid-2024.

(日本語訳)Snapdragon X Eliteを搭載したPCは、2024年半ばから大手OEM各社から発売される予定です。

昨年の10月には、クアルコムの新プラットフォームで発売されるOEMが誰なのかまったく分からなかったが、先週のマイクロソフトのイベント後、同社はこのプレスリリースでいち早く知らせてくれている。

(日本語訳)Snapdragon Xシリーズは、今日、Copilot+搭載の次世代Windows PCを駆動する唯一のプラットフォームです。

実際、この見出しは「Exclusive(唯一)」というワードが文末の「Today(今日)」で修飾されている点で、少々皮肉であるようにも聞こえるのは気のせいだろうか。

しかし、いずれにせよ、この見出しはとても目を引くものであり、且つ、同社にとって素晴らしい成果であると言える。

そして、これが、Snapdragon X Eliteチップを契約するOEMのリストである。

このリストは驚異的な展開であり、ソフトローンチではない。

これは、マイクロソフトがSurfaceとSurface Proラップトップという形で主導する、x86ベースのWindows PCに対する全面的な正面攻撃である。

PCクライアント市場におけるx86の牙城を崩そうとするアーム(ARM)ベースの新興企業による試みは、Windows RTが発売された2012年までさかのぼれば何度もあったというのが事実であるが、どれも成功していない。

それはなぜだろうか?

簡単に言えば、x86用に何十年もかけて開発された膨大なコードベースは、アーム上でネイティブに実行できなかったからである。

コードはエミュレーターの上で実行することができたが、それは面倒で遅く、信頼性が低かった。

しかし、特に過去2年の間に、状況は徐々にアームに有利に変化してきている。

この記事では、アーム上のWindowsの歴史を概観し、2022年半ばまでの進歩について比較的最近の展望を述べている。

(原文)The other option is for the apps to be emulated, which can cause serious performance issues. Over the years, this chicken-or-egg problem has come back to haunt Microsoft time and time again — starting with the initial release of Windows 8 and the Surface RT.

(日本語訳)もう1つの選択肢は、アプリをエミュレートすることだが、これは深刻なパフォーマンスの問題を引き起こす可能性があります。長年にわたり、この「鶏が先か卵が先か」の問題は、Windows 8とSurface RTの初期リリースを皮切りに、マイクロソフトを何度も苦しめてきました。

(原文)Today, it’s almost become a non-issue. As tested on the ThinkPad X13s, you’ll be hard-pressed to find an app that doesn’t run as you’d expect it to. With Windows 11, 64-bit app-emulation was now included in Windows 11 right out of the box. Through the Windows Insider program, Microsoft has optimized plenty more of its apps for ARM, including the Edge web browser, Microsoft Teams, Visual Studio, and the popular tool PowerToys — all run natively without emulation.

(日本語訳)現在では、ほとんど問題にならなくなっています。ThinkPad X13sでテストしたところ、期待通りに動かないアプリを見つけるのは難しいでしょう。Windows 11では、64ビットのアプリ・エミュレーションが箱から出してすぐに搭載されました。Windows Insiderプログラムを通じて、マイクロソフトはEdgeウェブブラウザ、Microsoft Teams、Visual Studio、人気ツールPowerToysなど、多くのアプリをアーム向けに最適化し、これらはすべてエミュレーションなしでネイティブに動作します。

そして、先週のマイクロソフトの発表イベントでは、同社はアームベースのWindows PCに関するこれらの歴史的な問題に正面から取り組んでいた。

(原文)Windows now has the best implementation of apps on the fastest chip, starting with Qualcomm. We now offer more native Arm64 experiences than ever before, including our fastest implementation of Microsoft 365 apps like Teams, PowerPoint, Outlook, Word, Excel, OneDrive and OneNote. Chrome, Spotify, Zoom, WhatsApp, Adobe Photoshop, Adobe Lightroom, Blender, Affinity Suite, DaVinci Resolve and many more now run​ natively on Arm to give you great performance with additional apps, like Slack, releasing later this year. In fact, 87% of the total app minutes people spend in apps today have native Arm versions.[6] With a powerful new emulator, Prism, your apps run great, whether native or emulated.

(日本語訳)Windowsは現在、クアルコムを始めとする最速のチップに最高のアプリを実装しています。Teams、PowerPoint、Outlook、Word、Excel、OneDrive、OneNoteなどのMicrosoft 365アプリの最速実装を含め、これまで以上に多くのArm64ネイティブ体験を提供できるようになりました。Chrome、Spotify、Zoom、WhatsApp、Adobe Photoshop、Adobe Lightroom、Blender、Affinity Suite、DaVinci Resolveなど、多くのアプリがArm上でネイティブに動作するようになり、今年後半にリリースされるSlackなどの追加アプリでも優れたパフォーマンスを発揮します。実際、今日、人々がアプリに費やす総時間数の87%がArmネイティブ版となっております。強力な新しいエミュレータであるPrismを使えば、ネイティブであろうとエミュレートされたものであろうと、アプリは素晴らしいパフォーマンスを発揮します。

これは非常に心強く聞こえるが、私にはなぜ今なのかという疑問が残るというのが本音である。

なぜマイクロソフトはこのタイミングでクアルコムという代理人を通じてアームに全面的に乗り出すのだろうか?

まず第一に、マイクロソフトとクアルコムのパートナーシップは、インテルとの関係が衰退しつつある中で、ここ数年着実に強まっている。

例えば、Surface Pro 9 SQ3 5Gバージョンのプロセッサは、2022年にクアルコムとの提携で製造されている。

私には、マイクロソフトがクアルコムという手応えのある熱心なパートナーを見つけ、両者の利害が近年ますます一致し、双方にとってこれまで以上に良い結果をもたらしている可能性が高いと思える。

また、マイクロソフトが生成AIの波に乗って急速に有名になったという点も挙げられる。

マイクロソフトの時価総額は3兆ドルを超え、インテルの1300億ドルという時価総額を大きく凌駕している。

つまり、今、主導権を握っているのはインテルではなくマイクロソフトなのである。

もしマイクロソフトがアーム・ベースのPCのドアを開けたいのなら、そのドアは彼らのために開かれており、今回の最新の動きはまさにそれを実現しようとしていることを示していると見ている

クアルコム(QCOM)に関するまとめ

私にとってクアルコム(QCOM)は、「一生懸命働けば働くほど幸運に恵まれる」という古くからの格言を体現しているように見える。

クアルコムは、10年以上にわたってアーム(ARM)・ベースPCの門を叩いてきた。

そして、インテル(INTC)と共に、彼らは手強い既存プレイヤーを退かせてきた。

インテルが長年の失策で大きく弱体化した今、クアルコムの星はマイクロソフト(MSFT)の星と一直線に並び、新たなPC王国への扉が開かれたように見える。

もちろん、まだ始まったばかりであるが、私はこれが歴史的に重要な変曲点であることを強く感じている。

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