【Part 1:後編】スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)とエヌビディアの関係:OEMとODMの特徴を融合したソリューションとは?
コンヴェクィティ- Part 1の後編である本稿では、スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)のユニークな特徴とエヌビディアとの関係性をさらに詳しく解説していきます。
- スーパー・マイクロ・コンピューターはOEMとODMの特徴を融合し、顧客との直接的な関係を重視しながらカスタマイズされたソリューションを提供しています。
- Open Compute Project(OCP)の流れに乗り、柔軟なサーバーカスタマイズを行い、顧客に対して高いパフォーマンスとコスト削減を実現しています。
- しかし、同社の販売後サポートは限定的で、特にカスタマイズや人的サポートが必要な企業には不向きである可能性があります。
※「【Part 1:前編】スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)はどんな会社?足元の株価急落の理由とエヌビディアとの関係について徹底解説!」の続き
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)はOEMとODMのハイブリッド
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)はOEM(自社ブランドで製品を設計し、他社に製造を委託する企業のこと)とODM(製品の設計と製造を担当し、他社ブランドで販売する企業のこと)の特徴を融合させ、独自の強みを持っています。
OEMとの違い:多くのOEMが販売チャネルに頼るのに対し、同社は顧客との直接的なやり取りを重視し、カスタマイズされたソリューションを提供しています。グローバルな販売網を持ちながらも、サポート体制はデル・テクノロジーズ(DELL)ほど充実しておらず、販売前のサポートには力を入れている一方で、販売後のサポートは顧客自身の対応に委ねている部分が大きいです。開発、製造、販売をすべて自社で管理することで、迅速な対応とイノベーションを実現しています。
ODMとの違い:同社はODMのようにOEM向けの製品供給ではなく、最終顧客と直接関わります。アメリカに拠点を置き、ブランド管理、開発、販売、サポートを一貫して行うことで、顧客に寄り添った統合的なアプローチを提供しています。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)のOCPの革命
メタ・プラットフォームズ(META)が主導するOpen Compute Project(OCP)は、サーバー業界に大きな変革をもたらしました。
Open Compute Projectは、データセンターのハードウェア設計をオープンソースで共有し、効率性とコスト削減を目指す取り組みです。メタ・プラットフォームズ(旧Facebook)が2011年に立ち上げ、現在は多くの企業が参加し、データセンターの標準化と革新を推進しています。
グーグル(GOOG/GOOGL)がサーバー設計を非公開にしている一方で、メタ・プラットフォームズはその設計を共有し、オープンな協力体制を促進することでOCPの発展に貢献しています。
OCPの目的はサーバー部品の標準化であり、これによりメタ・プラットフォームズのような企業はOEMを経由せずに直接ODMからサーバーを調達し、コストを削減できるようになりました。ベアボーンサーバー(基本的な構成のみを備えたサーバー)を購入し、必要な部品を別々に調達することで、さらにコストを削減しています。
マイクロソフト(MSFT)、グーグル、アマゾン(AMZN)、メタ・プラットフォームズ、ByteDanceといったハイパースケーラー企業は、現在ODMから直接サーバーを調達し、サポートや保守も自社で行っています。この方法により、OEMのマージンを回避しながら、コストを削減し、カスタマイズ性を高め、運用効率を向上させています。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)のOCPトレンドへの対応
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)はOCPの流れに乗り、OEMやODMにはない柔軟なサーバーカスタマイズを提供しています。その機動力、迅速な市場投入、シミュレーションを活用した設計が評価され、メタ・プラットフォームズはサーバー提供者としてスーパー・マイクロ・コンピューターを選びました。
また、出荷前テストやプラグアンドプレイ対応のサーバーラックといった付加価値サービスにより、導入が簡単になり、顧客は2~3%のプレミアムを支払う価値を感じています。スーパー・マイクロ・コンピューターのサーバーは、コストを10~15%削減しながらも、10~20%高いパフォーマンスを実現しており、クラウドプロバイダーにとって理想的な選択肢となっています。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の強力な販売前サポートと限定的な販売後サポート
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)は販売前のサポートには力を入れていますが、販売後のサポートは最小限にとどまっています。これは、現地で手厚いサポートを提供するデル・テクノロジーズのようなOEMとは異なる点です。このモデルにより、スーパー・マイクロ・コンピューターは運営効率を高め、効果的に規模を拡大することが可能です。しかし、自社内に専門知識がない企業にとっては、スーパー・マイクロ・コンピューターのサポートはOEMに比べて十分でないと感じるかもしれません。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の消費者向けテックとの共通点
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)は、Googleが消費者向けテクノロジーで採用しているトレンドと同様に、手厚いサポートよりも製品の品質に注力しています。Googleはサポートを限定し、ユーザーにセルフサービスを促すことで、製品が直感的で信頼性の高いものになるようにしています。この戦略により、Googleはコスト効率を改善し、収益性を高めてきました。
スーパー・マイクロ・コンピューターも同様に、最小限のサポートでより高い利益率を実現し、従来のOEMよりも優れた成果を目指しています。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)のエンタープライズ分野での課題
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)のアプローチは、Googleの例とは異なり、カスタマイズや人的サポートが必要な企業には向いていない可能性があります。特に複雑な業界では、デル・テクノロジーズのように手厚いサービスを提供し、カスタマイズやサポートに対して追加料金を支払う企業に対応する必要があります。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の長期的な優位性
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)は技術を重視し、自動化によってコストを削減し、労働集約的なサービスよりも効率的なアプローチを採用しています。AIを活用して製品の問題をシミュレーションし、構成を最適化し、故障を最小限に抑えています。サービスを抑えながらもカスタマイズ可能な同社の製品は、AI主導の自動化が進む将来において非常に適していると言えます。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の運営効率を高めた付加価値
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)はソフトウェアの自動化と事前に構成された製品により、人的介入を減らすことに注力しています。プラグアンドプレイ(ハードウェアを接続するだけで自動的に認識され、設定不要で使える機能のこと)のラックスケールソリューション(データセンター向けに設計された、サーバーラック全体を一つのユニットとして管理・運用するソリューション)に加えて、エネルギー効率の向上にも力を入れ、高い電力使用効率(PUE)を目指しています。
同社の顧客の多くはESG(環境・社会・ガバナンス)基準を求められるクラウドサービスプロバイダーであり、業界のニーズと合致しています。また、低TCO(総保有コスト)と優れたPUEの実績を持つ同社は、AIサーバー分野でも有利な立場にあるように見えます。
また、予測保守やサーバー管理ソフトウェアは、同社にとって非常に重要です。数百万台のユニットを監視し、テレメトリデータを活用することで、故障の予防に努めています。特に液体冷却システムでは、1つの故障が重大な結果を招く可能性があるため、こうした取り組みは不可欠です。
さらに、従来のOEMは運営が複雑であるため、ソフトウェアソリューションの導入に苦労しています。一方、ODMは顧客との直接的な関わりが少ないため、予測ツールへの投資に対する動機が乏しく、主にハードウェアの生産に注力しています。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の予測保守とAIの成長
AIの拡大に伴い、予測保守の重要性がますます高まっており、GPUやシステムの故障はますます許容されなくなっています。スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の統合ソフトウェアと予測機能は、AIサーバークラスターの信頼性と効率を高めることで、大きな戦略的優位性をもたらしています。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)はエヌビディアからの信頼を失いつつあるのか?
ここ数四半期、スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)にとって大きな懸念は、AIブームによるエヌビディア(NVDA)の急成長に伴い、エヌビディアとの関係がどうなるかという点です。特に、デル・テクノロジーズやヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)がエヌビディアの優先パートナーになりつつあるのではないかとの懸念が出ています。
この懸念は、エヌビディアが主催するGTC 2024イベント(最新のテクノロジーや製品、AIや機械学習に関するイノベーションを発表する場)でジェンセン・フアンCEOがデル・テクノロジーズを強調したことから生まれ、投資家の間でスーパー・マイクロ・コンピューターが支持を失ったのではないかという憶測が広がりました。
しかし、私たちはこの状況はもっと複雑だと考えています。エヌビディアはエンタープライズの生産環境やクラウドでAIを成功させることを目指しており、多くのAIデータセンターは、ハイパースケーラーやクラウドプロバイダーによるトレーニングに重きを置いています。これらがエヌビディアの最大の顧客です。ハイパースケーラーは、エヌビディアのチップに代わる選択肢を模索し、独自のカスタムAI ASIC(AI処理専用に設計された集積回路)に投資を進めています。
ハイパースケーラーの支出の大部分はモデルトレーニングに向けられており、エンタープライズAIの導入における直接的な投資対効果(ROI)はあまり見込めません。生産現場でのAI導入を広げるためには、エヌビディアはフォーチュン500企業の協力が必要です。これらの企業はテクノロジーにあまり精通しておらず、規制が多い業界に属しているため、オンプレミス(企業や組織が自社内にサーバーやネットワーク機器を設置して運用する形態)のソリューションが必要とされ、デル・テクノロジーズのエンドツーエンド(システムやプロセスの開始から終了までを一貫して管理・提供すること)のサービスが適しているのです。現在のAIのROIに対する懸念を考えると、Dellの選択は理にかなっています。
一方で、スーパー・マイクロ・コンピューターは技術に精通した顧客に注力し、その強みを生かしています。同社のクラウドとエンタープライズの顧客構成は50:50から60:40に変化し、将来的には70:30に達する可能性があります。クラウド顧客はエヌビディアの最大の購入者であり、スーパー・マイクロ・コンピューターのクラウド重視の姿勢は有利に働いています。また、Blackwellチップ(エヌビディアが開発した次世代のGPUアーキテクチャの名称)の継続的な割り当てやエヌビディアとの協力関係を考慮すると、デル・テクノロジーズが同社の地位を奪うことはないと考えています。
その他のスーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)に関するレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、マイクロソフトのページにアクセスしていただければと思います。
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