12/16/2024

米国株はバブルなのか?バリュエーションは高止まりも、控えめな信用取引残高が意味することとは?

a stack of twenty dollar bills sitting on top of each otherジェームズ・ フォードジェームズ・ フォード
  • 本稿では、米国株式市場のバリュエーションが高止まりする中で、「米国株はバブルなのか?」という疑問に答えるべく、信用取引残高の水準を含む、様々な経済指標の分析を通じて、今後の米国経済、並びに、米国株式市場の見通しを詳しく解説していきます。
  • 米国経済はインフレ率が低下し、雇用動態も堅調で「ソフトランディング」の可能性が高いと見られるが、CPIの住居費の影響や雇用の構造的変化に注視が必要です。 
  • 信用取引残高は市場のピークやバブルを示す重要な指標とされ、現在は慎重な投資姿勢が続いているものの、今後の動向次第で市場リスクが高まる可能性があります。 
  • 私が開発した「マクロマトリックス」に新たに追加された指標を活用することで、市場の転換点を予測し、経済の動向をより精緻に把握することが可能です。

今後の米国経済&米国株見通し

マクロ経済データが次々と発表されており、今のところ順調な流れが続いています。

インフレ率は落ち着きを見せ、住宅関連を除けばすでに目標を下回っています。

一方で、雇用統計は堅調な結果を示したものの、失業率は先月やや上昇しました。

現時点ではデータはおおむね良好と言えるでしょう。

私は自身で作成した「マクロマトリックス」という方法を用いてアメリカと世界経済の動向を追跡していますが、今日、新たな指標をこの「マクロマトリックス」に追加しました。

この指標は市場のピークを予測するうえで非常に有効であることが証明されており、現在の示唆内容に驚かれるかもしれません。

本稿で分かることは下記の通りです:

・インフレがすでに目標を下回っている理由

・雇用統計がソフトランディングの可能性を示している理由

・市場のピークを予測する方法、この指標の活用術

・今後の米国経済についての私の見解

では詳細に入っていきましょう!

CPI(消費者物価指数)の結果と住居費について

11月のCPIは前月比で0.3%上昇し、食品とエネルギーを除いたコアCPIも同じく0.3%上昇しました。

これを年率に換算すると、それぞれ2.7%と3.3%に相当します。

住居費(主に賃料の変動を反映)は前年比で4.7%上昇しており、全体のCPI上昇分の40%を占めています。

ただし、この計算には新規の賃貸契約だけでなく、既存のすべての賃貸契約が含まれています。

例えば、10カ月前に締結された前回より5%高い契約も、先月の価格が下がった契約と同じようにCPIに影響を与えます。

古い契約が更新され、新しい賃貸契約に置き換わるにつれて、住居費によるインフレは今後さらに緩やかになると予想されています。

リアルタイムの住居費データについて

もし労働統計局(BLS)がリアルタイムの賃貸データ、たとえばApartment Listの推定による0.6%の減少を反映していたなら、CPI(消費者物価指数)はすでにFRB(連邦準備制度)の目標である2%を下回っていたでしょう。

FRBの政策担当者はこのギャップを認識しており、これが9月の利下げ開始の判断に影響を与えた可能性があります。

今後、CPIの他の項目が2%を超えるペースで上昇する可能性はあるものの、住居費は現在のCPIにおける最も大きな要因であり、その減少傾向はこれからも続くと見込まれています。

全国賃料指数の年間変化率(2019年以降)

(出所:Apartment List)

インフレ期待について

連邦準備制度(FRB)は、CPI(消費者物価指数)と同様に、消費者のインフレ期待を重要視しています。

良い兆候として、1年先と3年先の生活費増加に対する消費者の見通しがパンデミック前の水準に戻っており、インフレ期待が安定していることが示されています。

ほぼ安定化

FRBの調査によれば、消費者の予測がコントロールされつつあることが明らかに

(出所:Bloomberg)

実質賃金と個人消費について

今回のインフレ報告で特に注目すべき点は、消費者の購買力への影響です。

2023年に余剰貯蓄が減少する中で、インフレ率が名目賃金の伸びを下回り、消費者にとって実質賃金が増加しました。

この動きは経済の「ソフトランディング」シナリオを支える重要な要素となり、実質個人消費を下支えしています。

インフレ調整後の賃金が引き続き成長を続ける限り、経済拡大は持続すると考えられます。

しかし、インフレが賃金の伸びを上回るような状況に陥れば(現在、賃金の伸びはやや鈍化しています)、経済拡大には大きなリスクが生じる可能性があります。

昨年、平均賃金の伸びがインフレ率を上回り、消費を支えました。この傾向は2025年も続くと見込まれます。

(出所:Bloomberg)

結論は?

このデータを見る限り、大きな懸念はなさそうです。

経済は引き続き堅調で、インフレも低下しています。

ただし、FRBが利下げを急ぎすぎている可能性はないでしょうか?

雇用関連

11月の非農業部門雇用者数は22万7,000人増加し、予想を上回る結果となりました。

これにより、高金利や経済の不透明感といった逆風にもかかわらず、雇用創出の強さが示されています。

一方で、予想値にばらつきが見られることから、市場のアナリストたちは慎重な見方を崩していません。

これは、ハリケーンの影響やその他の特殊要因がデータにノイズをもたらしている可能性があるためです。

非農業部門雇用者数

(出所:TRADING ECONOMICS)

セクター別の動向

製造業の雇用者数が大幅に回復し、ここ数カ月続いていた減少傾向を反転させました。

この回復には、ボーイングのストライキの解決など、一時的に雇用を押し下げていた要因の解消が寄与しています。

このようなセクター特有の動きは、一時的な混乱が全体の統計データに与える影響を浮き彫りにしています。

失業率の動向

失業率は4.1%から4.2%にわずかに上昇しましたが、未調整の数字を見ると4.3%に近い水準にあったことが分かります。

一見するとこの上昇はネガティブな印象を与えるかもしれませんが、これは構造的な変化を反映している可能性もあります。

具体的には、一時的な解雇から恒久的な解雇への移行が進んでいることが挙げられます。

恒久的な解雇は、労働市場におけるより深い調整を示しており、一時的なショックとは異なり、短期間での回復が難しい特徴を持っています。

結論

雇用者数の堅調な増加と抑えられた賃金の伸びは、FRBの「ソフトランディング」シナリオ、つまり失業率を急増させずにインフレを鈍化させる目標と一致しています。

要約すると、雇用動態は、労働市場の強さとゆっくりとした構造的変化が複雑に絡み合い、経済成長やFRBの政策に対する期待を形作っていることを示しています。

また、現時点では、インフレも雇用も安定しています。

ただし、この2〜3カ月でいずれも上昇傾向が見られる点には注意が必要です。

では、2025年に何か懸念すべき事態が待ち受けている可能性はあるのでしょうか?

私のレポートを日々ご覧いただいている読者の皆さんは、私が米国と世界経済の健康状態を追跡するために使っている「マクロマトリックス」をご存じでしょう。

もし、このレポートが初めてという方は、インベストリンゴのプラットフォーム上より、「マクロマトリックス」に関する下記のレポートをご覧いただければと思います。

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この「マクロマトリックス」は当初10の指標でスタートしましたが、精度と信頼性を高めるため、さらに指標を追加しています。

その目的は、経済、そして株式市場が転換するタイミングを正確に見極めるための指標を作り出すことです。

そして今日、新たな指標をリストに加えました。

この指標は、市場のピークを予測する上で非常に強い相関性を持っています。

(出所:MacroMicro)

この指標は、2000年と2008年の景気後退を事前に警告しただけでなく、十分な猶予を持ってその兆候を示しました。

指標(赤色)が急激に低下し始めた時点で売却しても、市場の高値付近で取引を終えることが可能だったでしょう。

では、この指標についてさらに詳しく見ていきましょう。

バブルを示す指標としての信用取引残高

信用取引残高は、市場のセンチメントや投資家が投資のために借り入れる意欲を測る重要な指標です。

過去の事例では、信用取引残高が高水準に達したとき、個人投資家の熱狂や株式市場のバブル形成の兆候であることが多く見られました。

この現象は「靴磨きの少年効果」と呼ばれることもあり、投機的な動きの増加が市場の過大評価を示している可能性を示唆しています。

米国 - FINRA信用残高比率

(出所:MacroMicro)

信用取引残高急増のリスク

信用取引残高が急増する場合、市場が過剰にレバレッジをかけ、小口投資家が株式に過度に集中していることを示していることが多いです。

このような状況は、しばしばバブル崩壊の前触れとなります。

信用取引残高が高水準から急激かつ継続的に減少することは、これらの投機的ポジションが解消されつつあることを示し、大幅な市場調整につながる可能性があります。

過去の事例

・ドットコムバブル(2000年代初頭): 信用取引残高が急増し、テクノロジー株への投機的熱狂と重なり、最終的にバブルの崩壊を招きました。

・世界金融危機(2008年): 過剰なレバレッジが同様に観測され、その後の市場の大幅な下落に対する警戒が必要でした。

現在の状況

現在、株式の評価額は依然として高い一方で、信用取引残高を利用した資金調達は控えめな水準にとどまっています。

これは、小口投資家の間に慎重な姿勢が続いていることを示しており、直近でバブルが発生するリスクは低いと考えられます。

この慎重な動きは、過去の投機的熱狂が見られた時期とは対照的です。

信用取引残高と市場センチメントの監視

注目すべき重要な指標の一つが、「FINRAの信用残高を流通通貨量で割った比率」です。

この比率が上昇し始めた場合、投資家の熱狂が高まり、市場リスクが増加している可能性を示唆します。

また、信用取引残高がピークから減少に転じた場合、それは過去のデータに基づけば市場調整の始まりを示すサインとして特に注意が必要です。

まとめ

現在の状況では、直ちにバブルが発生する兆候は見られませんが、信用取引残高の動向を注意深く監視することが欠かせません。

信用残高の大幅な増加と小口投資家の活発な動きが同時に見られた場合、それは市場リスクや過剰評価の警告サインと考えられます。

この指標を、先週アップデートした「マクロマトリックス」に追加しました。

現時点での結論は変わらず、「ソフトランディング」が最も可能性の高いシナリオと見られます。

ただし、私は市場が8月のような急落(フラッシュクラッシュ)を再び経験する可能性があると考えています。

そのような下落が起きた場合、私見では買いの好機となるでしょう。

ただし、この見解は今後のマクロデータの進展次第で変わる可能性があります。

引き続き注目してください!

加えて、米国株の2025年の見通し、並びに、プロの機関投資家の米国株式市場への見通しを探るべく、最新のフォーム13Fに関して下記のレポートを執筆しておりますので、併せてご覧いただければと思います。

米国株の2025年の見通し

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アナリスト紹介:ジェームズ・ フォード

📍米国マクロ経済&テクノロジー担当

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