【マクロ経済】トランプ大統領に対する各国の報復関税が米国株に与える影響とは?

- 本稿では、「トランプ大統領に対する各国の報復関税が米国株に与える影響とは?」という疑問に答えるべく、足元の各国の対応と今後の米国株式市場の見通しを詳しく解説していきます。
- トランプ大統領の貿易政策が市場に混乱をもたらし、米国株は低迷する一方、中国や欧州の市場は回復傾向にあります。
- 市場はトランプ政権の政策転換を期待しており、関税撤回の可能性が投資家心理を支えています。
- 米国経済の減速が懸念される中、FRBの利下げ観測やエネルギーコストの低下が市場の下支え要因となっています。
米国株は調整入り?
もしこれがポーカーのゲームなら、トランプ大統領は2カ月前までロイヤルフラッシュを手にして世界の貿易テーブルに座っていたと言えるでしょう。株式市場は過去最高値を更新し続け、ドルは急速に強さを増し、高頻度経済指標も次々と予想を上回る好結果を示していました。一方で、世界の主要な貿易相手国はといえば、市場の低迷、通貨の下落、経済成長の鈍化に苦しみ、せいぜいフェイスカードを手にしている程度でした。
しかし、トランプ大統領が貿易相手国すべて、友好国であろうと敵対国であろうと、無差別に関税を仕掛けるという拙速な「電撃戦」に踏み切った結果、状況は一変しました。賭け金は引き上げられ、大統領の手札は大きく弱体化しています。世界各国は彼のブラフを見破り、市場は今すぐ「降りるべきだ」と警告を発しているのです。
(出所:Finviz)
今年、米国市場は世界で最も好調だったはずが、一転して低迷し、今や主要市場の中でも最悪の成績を記録しています。一方で、中国の株式市場は20%以上も急騰し、ユーロSTOXX 50は11%上昇、メキシコ市場も10%近く値上がりしています。ドルは急落し、インフレを伴う関税の悪影響を相殺するはずだった購買力が失われつつあります。さらに、中国と欧州は財政刺激策を講じて経済を活性化させようとしているのに対し、米国は緊縮政策を進めています。こうして、わずか数週間のうちに、トランプ大統領の手札はロイヤルフラッシュから「ツーペア」へと一気に悪化し、今や最も信頼すべき同盟国ですら彼のブラフを見抜いているのです。
こうした状況を受け、ついにトランプ大統領は、自身の貿易政策が行き過ぎていることを間接的に認める初めての一手を打ちました。それは、カナダとメキシコからの自動車輸入に対する関税を1カ月延期するという決定です。この措置は、皮肉にも、本来関税によって保護されるはずの米国の大手自動車メーカーの要請によるものでした。この発表を受けて、株式市場は急反発しました。テクニカル的にも反発のタイミングではありましたが、市場はこれを「今後さらなる関税撤回が続くかもしれない」という期待の兆しと受け取ったのです。
トルドー首相の強気な対応と米国株式市場の反応
カナダのジャスティン・トルドー首相は、米国の方針転換を見越し、正式な発表前に米国側へ「大統領の関税がすべて撤廃されない限り、カナダも報復関税を解除しない」と通告していました。これは単なるブラフではなく、むしろメキシコや中国、EUに対しても、米国の保護主義的な貿易政策に対抗する姿勢を強める後押しとなるでしょう。
トランプ政権は貿易摩擦を緩和するための追加措置を何も講じていないため、市場は昨日の上昇分をすぐに吐き出す展開が予想されます。
一方で、米国の経済指標は短期的に減速傾向を示し続けており、これがドルの弱さを助長し、リスク資産の価格を圧迫する要因となっています。トランプ大統領が、強気の姿勢を保ちつつも軌道修正を図る方法を見つけるまでは、この流れが続く可能性があります。
昨日発表された2月の民間雇用者数は、市場予想を下回る7万7,000人の増加にとどまり、昨年7月以来最も小幅な伸びとなりました。ADPリサーチによると、悪天候の影響もあった可能性があるものの、企業は消費の鈍化や政策の不透明感から採用に慎重な姿勢を取っていると指摘されています。
(出所:TradingEconomics)
やや良いニュースもありました。S&Pグローバルおよび供給管理協会(ISM)が発表したサービス業の購買担当者景気指数(PMI)です。S&Pグローバルの速報値ではPMIが50.0を下回り、景気縮小の領域に入ったとされましたが、最終的な数値は51.0となり、引き続き拡大基調を維持しました。
また、ISMが発表したPMIは予想の52.5を上回る53.5へ上昇し、より健全な成長を示す結果となりました。
(出所:Seeking Alpha)
ただし、両調査とも、重要なサービス業部門が依然として緩やかな拡大を示しているものの、その勢いは弱まっています。S&Pグローバルのチーフエコノミストであるクリス・ウィリアムソン氏によると、サービス業の生産成長率は年初から大幅に減速しているとのことです。「サービス提供者は、需要成長の鈍化や、新たな政府政策の影響に対する不透明感をますます懸念しており、生産成長の見通しを大幅に引き下げています。これには、関税や貿易政策、さらには連邦予算の削減といった要素が含まれます」と同氏は指摘しています。
結論として、米国経済は急速に弱まっており、貿易相手国はそのことをよく理解しています。米国は個々の国と比較すれば依然として強い立場にありますが、世界全体の経済状況を踏まえると、そうとは言えません。各国はそれを認識しており、そのために強気の姿勢を取っているのです。各国が明確に連携しているわけではないかもしれませんが、米国に対抗する立場に立つことで互いに自信を深めています。
最終的に、これがトランプ政権に関税をさらに撤回させ、開始した貿易戦争を緩和させる方向へと追い込むことになると考えます。金融市場はそれを求めており、資本家層が政策変更なしに耐えられる痛みには限界があるのです。
米国株の調整局面の終息は近い可能性?
この米国株の調整局面が終息するのは、思ったよりも早いかもしれません。今後数日から数週間の間に、経済指標の悪化が和らぐことを前提とすれば、市場が反発する十分な理由があるはずです。市場の中でも特に投機的な領域では、多くのリスクがすでに取り除かれています。
S&P500は長期移動平均線と再び交わり、下のチャートからも分かるように、私が先週読者と共有した予想レンジ内に収まっています。この水準は、今後数カ月間維持される可能性があります。なぜなら、議会は3月から4月にかけて予算案と債務上限問題の解決に向けて動くため、市場もそれを見極めようとしているからです。
S&P500の推移
(出所:Stockcharts)
市場の下落を抑制する要因はいくつかあります。例えば、長期金利の低下、FRBによる利下げ観測の高まり、そしてエネルギーコストの急落です。現在の景気減速は、輸入活動の異常な変動によって第1四半期のGDP予想が歪められている点を除けば、中期サイクルの減速として想定された範囲内と言えます。
残念ながら、現在の状況を招いたのは「言葉」であり、状況を改善するためにも「発言のトーンの変化」が必要です。市場はその方向へと動こうとしており、政策の修正を促しているのです。
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トランプ関税
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