03/11/2025

【マクロ経済】トランプ関税は誰が払うのか?消費関連株の急落と「トランプ・トレード」の巻き戻しが示唆することとは?

a person flying through the air on a cloudy dayローレンス・ フラーローレンス・ フラー
  • 本稿では、「トランプ関税は誰が払うのか?」という疑問に答えるべく、足元で加速する消費関連株の急落と「トランプ・トレード」の巻き戻しが米国株式市場において何を示唆しているのか、並びに、今後の米国株の見通しを詳しく解説していきます。
  • トランプ大統領の貿易政策が市場の不確実性を高め、主要株価指数が今年最悪の下落を記録しました。特に懲罰的関税の導入とその修正が市場心理を悪化させています。
  • 景気後退(リセッション)への懸念が高まる中、投資家はディフェンシブなセクターや海外市場に資金を移動しています。特に消費関連株は低・中所得層への影響から大きく下落しています。
  • 関税の影響で製造業や農業にも悪影響が及び、政策の見直しを求める圧力が高まっています。市場心理が悪化しているものの、今後の政策次第で回復の可能性があります。

トランプ大統領による関税の米国株への影響とは?

私がこれまで目にした中でも最も厳しい経済政策の否定の一つとして、米国株式市場の主要指数は昨日、今年最悪の下落を記録しました。この3週間ほど、市場の不安は高まり続けていました。トランプ大統領が最も重要な貿易相手国や同盟国に対して懲罰的な関税を進めたかと思えば、数日後にはその内容を修正し、延期するという動きを見せたからです。この不確実性の高まりと市場心理の悪化は、当然の流れと言えます。

さらに追い打ちをかけるように、週末のインタビューでトランプ氏は、経済が「移行期間」を迎える可能性があると示唆し、景気後退(リセッション)を否定できないとも発言しました。景気後退?関税の恩恵を得るために、不況という試練を耐えなければならないなど、消費者や投資家には誰も警告していませんでした。

(出所:Finviz

今や明らかになったことは、ウォール街から一般投資家まで、多くの投資家がトランプ大統領の貿易政策を、経済の成長や国の富の増大に繋がるものとは見なしていないという事実です。もしそうであれば、投資家たちは大統領選挙後の数カ月と同じように、恩恵を受ける分野の株を買い進めるはずです。

しかし実際には、この1カ月で最も景気に敏感なセクターが大きく下落し、資金は防御的なセクターや成績の良い海外市場へと移動しています。特に消費関連株の打撃は大きく、これは懲罰的な関税によって最も打撃を受けるのが低・中所得層であり、彼らこそが輸入品を多く購入する層だからです。

関税や景気不安で消費関連株が急落

(出所:Bloomberg

トランプ大統領が株式市場の動向を、かつてのように重視していないのではないかという懸念があります。彼は第一期の際、株式市場を自身の実績を示すリアルタイムの通信簿のように扱っていました。しかし、それが本当かどうかはまだ分かりません。というのも、大統領選後に急騰したビットコイン(BTCUSD)、テスラ(TSLA)、マグニフィセント・セブン、そして消費関連株、いわゆる「トランプ・トレード」は完全に巻き戻されてしまったからです。

米国株式市場の期待は、規制緩和や減税、新たな投資によって、かつてない成長と富の創出が訪れるというものでした。しかし、少なくとも今のところ、実際に起きているのは財政緊縮と関税という形での消費税のような懲罰的な負担ばかりです。これは連邦政府の財源を潤すかもしれませんが、その代償として米国の消費者や企業が負担を強いられています。市場のセンチメントが最悪な状態にあるのも、そのような政策を期待していたわけではないからです。現在、政権に対して、あらゆる方面から政策転換を求める圧力が高まっています。

トランプ相場の短い歴史

選挙後に急騰した銘柄が完全に巻き戻し

(出所:Bloomberg

これらの関税が導入される理由として、政府支出の削減によって失われる公務員の雇用を、高賃金の製造業の雇用に置き換えるという説明がなされています。しかし、その効果を裏付ける証拠はほとんどありません。例えば、国内の自動車産業を活性化するとしてカナダやメキシコに課された25%の関税は、米国の自動車メーカー自身の要請によって即座に撤回されました。トランプ氏は、この関税を30日間一時停止すると発表し、理由として「米国の自動車メーカーを守るため」と説明しました。しかし、本当に米国の自動車産業を支援し、製造業の雇用を増やすはずの関税を、なぜ遅らせる必要があるのでしょうか?おそらく、何十年にもわたる国境を越えたサプライチェーンを一夜にして再構築するのは、不可能であり、非現実的だからです。実際、それは起こり得ないでしょう。だからこそ、私はこのカナダ・メキシコからの輸入品に対する関税は、延期から撤廃へと移行し、4月2日までには完全に取り消される可能性もあると考えています。

農業分野でも同じ状況が進行しています。すでに農家は、米国の主要な貿易相手国から報復関税の標的にされています。それに加えて、米国国際開発庁(USAID)の閉鎖により、大きな打撃を受けることになります。USAIDは人道支援プログラムの一環として、毎年20億ドル以上の農産物を購入していました。トランプ大統領の第一期政権下で導入された関税を振り返ると、そこから得られた収益のほぼ半分が、輸出収入を失った農家への補償として支払われました。結果的に、この政策はゼロサムゲームに陥っているように見えます。

また、鉄鋼とアルミニウムの輸入に対する25%の関税が、明日から適用される予定です。これにより、自動車や家電製品、その他の金属を使用する製品の製造コストが上昇することは明白ですが、それ以外に経済にどのような影響を与えるのでしょうか。アルミニウムメーカーであるアルコアのCEOは先週、この新たな関税が米国内で2万の製造業の雇用を奪い、さらに関連産業で8万の雇用が失われる可能性があると述べました。また、この関税によって自社の国内生産を増やす意欲は湧かないとも語っています。つまり、支援すると謳われている企業や産業を、むしろ傷つける結果になっているということです。この発言が、業界のトップ自らの口から出たことは重く受け止めるべきでしょう。

過去2週間の感情的な売りが、景気後退(リセッション)の懸念を煽っていますが、今のところ経済指標にはその兆候は見られません。FactSetが3月7日に発表した最新の第4四半期決算データによると、企業の決算発表時のカンファレンスコールで「リセッション」という言葉が言及された回数は13回でした。これは、過去10年の平均である60回を大きく下回っています。現在の不安は、あくまで市場心理の問題にすぎません。しかし、4月2日までに明確な方向性と、より理にかなった貿易政策が打ち出されれば、心理的な要因による市場の流れは一変する可能性があります。

S&P500企業の決算発表で「景気後退」に言及した件数(過去10年)

(出所:FactSet

市場の変動性は、今回の調整が終わりに近づいていることを示唆する水準に達しています。投資家の恐怖感を測る指標とされるボラティリティ・インデックス(VIX)は、昨日27を超えました。これは、長期平均である19.5を1標準偏差上回る水準であり、市場における恐怖感が相対的に高まっていることを意味します。もし2標準偏差となる35以上に達すれば、完全なパニック状態といえます。過去のデータを見ても、このような恐怖感の高まりは市場の底値と一致する傾向があります。

(出所:Stockcharts

また、今回の調整局面において、現在の投資家心理が2022年の弱気相場以来、最も悲観的な状態にあることも、市場が底に近づいているサインの一つです。極端な恐怖と悲観は、株価が底を打つ際の重要な要素となります。

悲観ムードが上昇

個人投資家の弱気姿勢、2022年以来の高水準に迫る

(出所:Bloomberg

私は、トランプ大統領や政権関係者が語る貿易政策に関する発言を無視しています。なぜなら、現状のままでは維持できないからです。最も強固な支持者だった人々が、その政策を最も厳しく批判するようになれば、その政策が見直されるのは時間の問題です。政策が完全に実施される以前の段階でさえ、市場心理や相場に深刻な影響を与えていることを考えれば、より負担の少ない方向へ修正される必要があります。

私は最終的に、見た目は強硬ながら、実質的な影響が限定的な相互関税制度に落ち着くと考えています。これは、大規模な政策ミスから最も優雅に撤退する方法であり、ソフトランディングを実現し、米国株式市場の強気相場を継続させる道筋となるはずです。


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