03/17/2025

【マクロ経済】トランプ関税は勘違い?関税引き上げのデメリットと米国株式市場への影響を徹底解説!

A newspaper sitting on top of a metal dishwasherローレンス・ フラーローレンス・ フラー
  • 本稿では、「トランプ関税は勘違い?」という疑問に答えるべく、関税引き上げのデメリットと関税引き上げが与え得る米国株式市場への影響を詳しく解説していきます。
  • S&P 500は、過去2年間で20%以上の上昇を記録した後、10%の調整が発生しました。歴史的にも調整は年1回程度起こるため、今回の下落は避けられないものでした。
  • トランプ大統領の関税政策が市場のセンチメントを悪化させ、CEOカンファレンスでは多くの経営者がこの政策に否定的な見解を示しました。特に、関税が経済に悪影響を及ぼすことへの懸念が高まっています。
  • 消費者センチメントはリーマン・ショック以来の低水準ですが、経済指標は依然として安定しています。貿易政策の緩和が進めば、市場の回復につながる可能性があります。

トランプ大統領の関税政策への期待は勘違いなのか?

S&P 500が2年連続で20%以上の上昇を記録した後に、10%の調整が発生するのは、振り返ってみれば驚くことではありません。歴史的に見ても、10%以上の調整は年に1回程度の頻度で発生しており、直近では2023年10月に起こっています。今回の調整は遅かれ早かれ避けられないものでした。ただ、今回の調整が特に目立つのは、そのスピードと引き金となった要因です。なぜなら、S&P 500はわずか3週間前に史上最高値を更新したばかりであり、売りの原動力となったのは主に「恐怖」だったからです。

この恐怖は、消費者や企業、投資家のセンチメントを大きく悪化させましたが、今のところ、それが現実経済に不可逆的なダメージを与えるほどには至っていません。私は、この恐怖を和らげ、センチメントを回復させるための猶予期間は、4月2日まで開かれていると考えています。この日は、トランプ大統領が世界中で一斉に関税を発動する予定の日です。

(出所:Edward Jones)

私の見解では、今回計画されている関税は、アメリカの企業や消費者に対して極めて厳しいものであり、それがあらゆる分野でのセンチメントの急落を引き起こしました。現在のセンチメントは、過去の弱気相場の終盤やリーマン・ショック時と同じようなレベルにまで低下しています。

先週、100人以上のCEOがワシントンに集まり、イェール大学のCEOカンファレンスに参加しました。この会合では、新たな経済環境をどのように乗り切るかが議論されました。イベントのホストであるイェール大学のジェフリー・ゾネンフェルド教授によると、参加者の60%が共和党支持者だと自認していたものの、大統領の政策が経済にとって悪影響を及ぼすという点で、意見はほぼ一致していました。驚くべきことに、85%の参加者が関税政策に反対し、その影響を否定的に捉えていました。その結果、92%の参加者が景気後退を懸念しているという状況になっています。

S&P500の下落幅がピークから10%に拡大

(出所:Bloomberg)

トランプ大統領、ハワード・ルットニック商務長官、スコット・ベセント財務長官は、株式市場の調整や消費者・企業のセンチメントの低迷について懸念していないと公言していますが、私は、彼らが実際には非常に懸念していると考えています。

彼らは、現在の状況を沈静化し、貿易相手国と再交渉する方法を模索しているはずです。なぜなら、トランプ大統領が提案している極めて厳しい関税を全面的に実施すれば、確実に大きな混乱を引き起こすことを、彼ら自身も理解しているからです。もちろん、彼らがこれを公の場で認めることはありません。貿易戦争によって消費者や企業が懸念している事態が現実となれば、経済政策全体にとって何のメリットもありません。その責任は彼らに降りかかり、2026年の中間選挙では壊滅的な結果を招く可能性があります。ここまで愚かであるはずがありません。

個人の財務見通しが過去最悪の水準に

調査結果:政策・経済・市場への不透明感が拡大

個人の財務見通しに関する期待

(出所:Bloomberg

私が関税に反対するのは、政治的な理由ではなく経済的な理由です。この点について、1987年4月にレーガン元大統領が関税に関して行ったスピーチを引用したいと思います。


最初に「外国からの輸入品に関税をかけよう」と言うと、それがアメリカの産業や雇用を守る愛国的な行為に見えることがあります。確かに、短期間だけはうまくいく場合もあります。しかし、それは一時的なものに過ぎません。やがて起こるのは次のような事態です。

まず、国内産業が高い関税という政府の保護に依存し始めます。競争力を失い、世界市場で成功するために必要な革新的な経営改革や技術革新を怠るようになります。そして、この間にさらに悪いことが起こります。高関税は必然的に外国からの報復を招き、激しい貿易戦争を引き起こします。その結果、関税は次々と引き上げられ、貿易障壁が高まり、競争が減少します。すると、非効率やずさんな経営を助長する関税によって価格が不自然に高くなり、消費者は買わなくなります。

そして、最悪の事態が訪れます。市場は縮小し崩壊し、企業や産業が次々と閉鎖し、何百万もの人々が職を失うのです。こうした事態が1930年代に起こったことを思い出し、私はワシントンに来たとき、アメリカ国民を繁栄を破壊する保護貿易政策から守ることを決意しました。


この警告は1987年当時と同じように、今もなお真実味を帯びています。そして、この1カ月間の出来事は、まさにレーガン元大統領が述べた通りの展開になっています。それにもかかわらず、今回だけは異なる結果になると考える人がいることに、私は驚きを隠せません。

関税の効果がいかに乏しいかについては、トランプ大統領の最初の任期での事例からも明らかです。彼は2018年3月にアルミニウムの輸入に対して10%の関税を課し、国内投資を促進し生産拡大を目指しました。しかし、現在この関税は25%に引き上げられています。それでは、この業界は2018年以降どのようなパフォーマンスを示しているのでしょうか。実際には、生産能力は32%も減少し、2024年の生産量は2017年当時よりも少なくなっています。

逆風に抗う

昨年の米国の一次アルミニウム生産量は、トランプ政権が最初の25%関税を導入する前の2017年よりも少なくなりました。

(出所:MishTalk

センチメントに関して唯一の救いは、これ以上悪化することはないという点です。ミシガン大学の消費者センチメント調査では、個人の財務見通しが過去最低を記録していますが、投資家の心理もリーマン・ショック以来の水準にまで悪化しています。先週、米国個人投資家協会(AAII)は、弱気派の割合が55%を超えた週が3週連続で続いていると報告しました。この現象が最後に見られたのは2009年3月4日が終了する週でした。当時、それからわずか1週間後に、1929年以来最悪の弱気相場が終わりました。逆張りの観点から見れば、これは極めて好材料といえます。

このように極端に悪化したセンチメントにもかかわらず、私が追跡している高頻度の経済データには、まだ深刻な悪影響は見られません。若干の鈍化は確認されていますが、貿易戦争が始まる前に予測していた景気サイクル中盤の減速を超えるものではありません。実質賃金は依然として成長しており、週間の新規失業保険申請件数は過去3年間の平均値に近い水準を維持し、個人消費の伸びも安定しています。今後、データがさらに鈍化する可能性はありますが、景気拡大はまだ継続しているように見えます。本日発表される2月の小売売上高は、貿易問題による消費者の負担が数字に現れる最初の主要な指標となるかもしれません。しかし、私は、センチメントが示唆するほど悲観的な結果にはならないのではないかと考えています。

AAII会員は今後6か月の株式市場の方向性をどう予想しているのか?

(出所:AAII)

したがって、対立的な発言が和らぎ、貿易政策が緩和されれば、センチメントの改善とリスク資産の価格上昇につながるはずです。なぜなら、ファンダメンタルズは依然として健全に見えるからです。このため、今回の調整による下落は、ほぼ、あるいは完全に終わった可能性が高いと考えています。

もっとも、今後も引き続き、消費支出、企業活動、労働市場の変化率が悪化していないか注視することが重要です。もし、私が期待している通りの沈静化や政策緩和が4月2日までに実現しなければ、状況は悪化する可能性があります。残された期間はあと2週間です。

市場の底打ちを示す最初の前向きな兆候として、金曜日に株式市場が大幅に上昇したことが挙げられます。これは、消費者センチメントの調査結果が非常に悪かったにもかかわらず起こった動きです。このことから、市場はすでに多くの悪材料を織り込んでいると判断できます。

米国経済カレンダー

今週は、2月の小売売上高の発表から始まります。投資家は、ネガティブなセンチメントが消費支出のデータに表れ始めているかどうかを注視するでしょう。また、今週はFOMC(米連邦公開市場委員会)も開催されます。市場関係者は、経済見通しを示す「経済予測サマリー」において、FRB当局者がどのような見解を示すのか関心を持っています。なお、今回は利上げや利下げの変更は見込まれていません。

(出所:MarketWatch


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