【市場分析】「心配の壁」の頂点に立つ米国株、史上最高値の先にあるリスクとは?


- 高値圏での警戒感
株価は急上昇の末、高値への警戒感が漂う「心配の壁」の頂点に。パウエル議長の発言も不安心理を煽っています。 - 歴史的な株価の割高感
現在の株価は歴史的に割高な水準にあり、特にハイテク株が牽引。これはファンダメンタルズ悪化時の下落リスクを高めます。 - 迫りくる夏の調整局面
経済指標に悪化の兆候が見られ、楽観的すぎる業績予想も懸念材料。史上最高値更新後に調整局面が訪れる可能性があります。
「心配の壁」の頂上から見える景色
「心配の壁」を登っている最中ではなく、その頂上に座っているとき、下を見下ろす景色は少し怖いものです。昨日の株式市場が伸び悩んだのは、まさにこの心理が働いたからでしょう。投資家たちは、ごく短期間で株価がいかに大きく上昇してきたかを認識し始めたのです。
パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が上院銀行委員会で行った2日目の議会証言も、市場の追い風にはなりませんでした。彼が「関税のコストは一体誰が支払うのか?」と問いかけたからです。さらに、「そのコストがどの程度インフレに反映されるかを事前に判断するのは非常に難しい」と続けたことで、前日の証言では投資家たちが無視していた不確実性が、再び市場の見通しに影を落としました。
とはいえ、これはS&P 500の上昇モメンタムを一時的に失速させたに過ぎず、今後数日のうちに史上最高値を更新する運命にあるように見えます。そして、史上最高値を更新すれば、バリュエーション(株価評価)に対する懸念が再び高まることは避けられないでしょう。
(出所:Finviz)
高すぎるバリュエーションが示す「リスク」
バリュエーションは、相場のタイミングを計るツールとしては全く役に立ちません。この2年間、バリュエーションを根拠に弱気な見通しを支持してきた人々が、痛い目に遭ってきたことからも明らかです。
では、バリュエーションが何を示してくれるかというと、それは「リスク」です。特に、企業や市場のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)が悪化し始めたときに、市場、セクター、あるいは個別株がどれだけ下落する可能性があるかという潜在的な危険性を示してくれます。
今日の市場が歴史的に見て割高な水準にあることは間違いありません。S&P 500の予想PER(株価収益率)は22倍で取引されています。これは、企業の将来の利益予想に対して株価が22倍まで買われていることを意味します。一つ注意すべき重要な点は、この割高感の大部分がハイテクセクターによるものだということです。それでもなお、株価指数全体のリスクは高まっており、特にファンダメンタルズの「変化率」が悪化し始めると、その危険性は増大します。
経済指標の「変化率」に見る悪化の兆候
(出所:Bloomberg)
私の経済・市場分析の焦点は、この「変化率」にあります。そしてここ数ヶ月、経済データに悪化の兆候が見え始めているため、私は慎重な姿勢を崩していません。
もちろん、その悪化はソフトランディング(景気後退を避けつつ経済成長が穏やかに減速すること)や、現在のブルマーケット(上昇相場)が続くという私の見通しを覆すほど深刻なものではありません。しかし、この夏、市場全体が再び意味のあるプルバック(一時的な調整下落)を経験するには十分な理由となります。どうやら、市場は史上最高値を更新してからでないと、その調整局面を迎えられないようです。
昨日も議論しましたが、大統領が7月8日に相互関税を延長的に停止、あるいは撤廃する可能性が、しばらくの間の相場の天井を示すシグナルとなるかもしれません。そしてそのタイミングは、第2四半期の決算発表シーズンが始まる時期と重なります。
楽観的すぎる業績予想に潜む矛盾
(出所:FactSet)
私は、今年後半の利益予想は楽観的すぎると考えています。なぜなら、現在すべての輸入品に課されている10%の関税が、連邦政府に月間250億〜300億ドルの歳入をもたらしているという事実を考慮に入れていないからです。これは輸入を行う米国企業の売上原価を増加させ、利益率を圧迫します。
その一方で、ウォール街のコンセンサス(市場関係者の一致した見方)は、経済成長率の鈍化を予測するエコノミストたちのコンセンサスにもかかわらず、第2四半期以降、売上と利益の成長が加速すると見ています。何かがおかしいのです。そして、その矛盾を解消するのが「関税の撤廃」であるとは、私には到底思えません。
- 2025年第3四半期について、アナリストは7.2%の増益と4.7%の増収を予測しています。
- 2025年第4四半期について、アナリストは6.2%の増益と5.2%の増収を予測しています。
- 2025年暦年について、アナリストは9.0%の増益と5.0%の増収を予測しています。
- 2026年暦年について、アナリストは13.7%の増益と6.3%の増収を予測しています。