史上最高値に迫る株価。投資家は買い、消費者は買わない。失業保険継続受給者数は2021年11月以来に


- 市場と実体経済の乖離
株価は史上最高値に迫るも、経済の7割を占める個人消費は冷え込んでいる。市場の楽観と実体経済の乖離に警鐘を鳴らす内容です。 - 今後の懸念材料
関税の一時停止延長への期待が株価を押し上げています。しかし、経済成長の鈍化と消費の弱さが、今後の株価上昇を阻む可能性があります。 - 消費と雇用の悪化
経済成長率が下方修正され、個人消費はパンデミック以来の低水準に。失業者の再就職も困難になっており、景気の先行きに暗雲が漂います。
史上最高値に迫る米国株、しかし消費者は財布の紐を固く締めている
あと一歩届かず!S&P 500種株価指数は取引時間中に史上最高値を更新する水準まで上昇しましたが、取引終了の数分前にその水準を下回って引けました。市場では、FRB(米連邦準備制度理事会)が年内に少なくとも2回の利下げに踏み切るとの期待から、長期から短期まですべての金利が低下しました。ドルは下落を続け、今や3年ぶりの安値水準です。ほんの3ヶ月前まで市場を揺るがしていた恐怖は消え去り、ボラティリティ(価格変動の度合い)は急速に低下しています。イランとイスラエルの紛争も、もはや過去のものとなりました。投資家たちは、米中間の貿易摩擦は緩和し続け、関税がインフレや経済全体に与える影響は最小限にとどまると確信しているようです。
(出所:Finviz)
市場の楽観ムードに潜む懸念
私の懸念は、市場が長期的な価値を決めるファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)をあまりにも先取りしすぎていることです。今週の株価上昇は、7月8日に期限が切れる相互関税の一時停止措置が、さらに90日間延長されることへの期待感によるものだと考え続けています。その期待が現実になったとしても、市場がさらに上昇を続けるためには、新たな起爆剤が必要になるでしょう。
経済見通しへの自信を反映してバリュエーション(企業の価値に対して株価が割安か割高かを示す指標)が歴史的に高い水準まで上昇する一方で、経済の成長率は危険なほど低い水準まで減速しています。投資家は株を買っていますが、私たちの経済生産の約70%を占める商品やサービスを、消費者はそれほど買っていないのです。
(出所:Bloomberg)
減速する個人消費が経済の足かせに
2025年第1四半期の経済成長率は、2度目の改定でマイナス0.2%からマイナス0.5%へとさらに下方修正されました。関税を回避するための輸入急増による貿易不均衡がマイナス成長の主な理由ですが、経済成長率に最も影響を与える要素に、憂慮すべき修正がありました。
経済の要であるPCE(個人消費支出)の伸び率が、1.2%からわずか0.5%へと下方修正されたのです。これは主にサービス部門の支出の鈍化が原因で、貿易戦争が始まる前のパンデミック期以来の低い伸び率です。
第2四半期に入り、消費者は関税による価格上昇を先取りしようと支出を増やしたため、当初の成長率予測は4%と高かったものの、その後は着実に低下し、現在は1.9%と見積もられています。今朝発表される5月の個人消費の統計を見れば、この数値はさらに引き下げられると私は考えています。景気サイクルの中盤で成長率が鈍化するのは予想されることですが、現状はあまりにも弱すぎます。
(出所:Federal Reserve Bank of Atlanta)
労働市場にも陰りが見え始めた
貿易戦争が消費者心理を傷つけ、それが消費の重荷となっている一方で、労働市場も新たな懸念材料となりつつあります。先週の新規失業保険申請件数は1万人減の23万6,000件でしたが、4週移動平均は24万5,000件で横ばいでした。
問題は失業保険継続受給者数にあり、これは197万人に増加しました。この数字は、一度職を失った人々が新しい仕事を見つけるのがより困難になっていることを示唆しており、2021年11月以来の最高水準です。
失業保険継続受給者数
(出所:TradingEconomics)
今後の企業業績と株価の見通し
第2四半期の企業利益予測は、通常の四半期に見られるよりも大きく引き下げられていますが、それでも前年同期比ではプラス成長となる見込みです。しかし、より重要になるのは、今年後半の企業ガイダンス(業績見通し)でしょう。
もし私の予測通り経済成長率が悪化し続けるのであれば、S&P 500構成企業の収益と売上高の成長が加速するという市場の期待に応えるのは非常に困難になります。この「ネガティブな変化率」は、2月19日につけた史上最高値を更新した後、主要な株価指数の上昇余地を限定的なものにする可能性が高いでしょう。