【マクロ経済】アメリカのリセッション(景気後退)確率とは?FRBのパウエル議長は量的緩和(QE)を否定も、他の手段で流動性を供給?

- 本稿では、「アメリカのリセッション(景気後退)確率とは?」という疑問に答えるべく、私が米国経済の温度感を測るために使用している「マクロ・マトリックス」の各項目の足元の最新状況を踏まえて、今後の米国経済と米国株式市場の見通しに関して詳しく解説していきます。
- 先週の米国株式市場は、インフレの継続や流動性の低下により軟調に推移しました。FRBのジェローム・パウエル議長は量的緩和(QE)を否定しましたが、他の手段で流動性を供給する可能性があると見ています。
- FRBは、貸出窓口の活用や規制緩和、財務省一般勘定(TGA)の調整など、QE以外の手段で市場の流動性を高めることができます。これらの施策により、金融市場の安定が期待されます。
- 米国株式市場のテクニカル分析では、ドルや金利が天井圏にあり、ナスダック100は調整局面にあるものの、最終的には上昇基調に戻る可能性があると見ています。
はじめに
先週、米国株式市場は軟調に推移しました。その背景には、さまざまな要因があります。
✅ インフレは依然として頑固に続いている
✅ トランプ氏もまた、頑固な姿勢を崩していない
✅ そして最も重要なのは、流動性が壁にぶつかっていることです
そのため、市場の流動性が低下し始めている明確な兆候が見られるため、FRBの介入が必要な状況になっているように見えます。
FRBのジェローム・パウエル議長はすでに量的緩和(QE)について問われていますが、彼はこれを強く否定しました。しかし、FRBにはQE以外にも経済を刺激する方法が多くあります。
私の見解では、これらの措置の一部が今後数カ月以内に実施されると考えています。さらに、金利の低下やドルの弱含みと組み合わさることで、市場にはまだ上昇余地があると見ています。
💡本稿の内容
✅ なぜ足元、米国株式市場とビットコインが軟調に推移しているのか
✅ FRBはどのようにQEなしで流動性を増やすのか
✅ どのタイミングで押し目買いをすべきか
✅ リセッション(景気後退)の兆候?マクロ指標の最新動向
現在の市場において、マクロ要因は最も重要な価格変動要因のひとつです。そのため、私は常に流動性の変化と最新のマクロデータを追い続けています。
これにテクニカル分析を組み合わせることで、市場を一歩先取りし、ポートフォリオを守る最善の方法になると考えています。
では、早速本題に入っていきましょう!
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なぜ米国株式市場は売られているのか?
米国株式市場ではリスク回避の動きが強まり、厳しい状況が続いています。堅調な決算にもかかわらず、S&P 500は足踏みし、高ベータ株が売られ、暗号資産もそれに追随する形で下落しています。流動性環境の悪化がリスク資産に影響を与えている状況です。
また、インフレ率が予想を上回り、FRBの利下げ期待が後退しました。
インフレーションの推移
(出所:Investing.com)
さらに、翌日物リバースレポファシリティの資金が枯渇しつつあり、今後の債務上限問題も市場のボラティリティを高める要因になっています。
翌日物リバースレポ取引:連邦準備制度が一時的な公開市場操作で売却した米国債
(出所:FRED)
特に、債務上限交渉が迫っており、市場の不安定さを助長していると考えています。
しかし、それでも私は強気に考える理由があると見ています。
✅ インフレは頑固に続いているものの、安定に向かう可能性がある
✅ 関税の影響で成長期待が抑制され、インフレ圧力が和らぐ可能性がある
✅ プライベート市場が流動性を支えている
✅ 金利とドルは天井圏にあるように見える
これまでのマクロ分析では最初の2つのポイントについて取り上げてきました。今回は、残りの2つに焦点を当てます。
米国プライベート市場のレバレッジ回復
プライベートクレジット(民間部門の信用供与)は実際に増加しており、以下のチャートからもその傾向が明確に確認できます。
消費者向け分割払いローンの貸し出しに積極的と回答した国内銀行の純割合
(出所:FRED)
上記のチャートは、銀行の消費者向け貸し出し意欲を示しており、増加傾向にあります。
さらに、企業部門においても、信用供給が回復しつつあることが報告されています。
加えて、財政政策の面でもまだ十分な刺激策が維持されています。
米国連邦政府の支出額推移
(出所:Forbes)
一時的に米国の政府効率化省(DOGE)が市場に影響を与える可能性はありますが、トランプ氏は1期目において大規模な財政支出を行ったことを考慮すると、再び赤字拡大へと向かう可能性が高いと見ています。
こうした点を踏まえると、金融政策がなくとも、流動性は依然として支えられる可能性があると考えています。
しかし、仮にそれだけでは不十分だったとしても、最終的にはFRBが介入し、流動性供給に動くと予想しています。
「非QE的QE」の時期が来たのか?
FRBのジェローム・パウエル議長は、QE(量的緩和)は金利がゼロの時にのみ選択肢となると述べています。しかし、FRBは正式にQEを再開せずとも、金融システムに流動性を供給する手段をいくつか持っています。
1️⃣ 貸出窓口(ディスカウントウィンドウ)の活用
FRBは、銀行に対してディスカウントウィンドウの利用を促す、または義務付けることで、国債を担保に流動性を提供できます。
これにより、FRBが資産を直接購入せずとも、銀行システムに準備預金が供給されることになります。
2️⃣ 規制変更(SLRの適用除外)
補完的レバレッジ比率(SLR)の計算から国債および準備預金を除外すれば、銀行はより多くの国債を保有し、信用供与を拡大できるようになります。
3️⃣ 財務省一般勘定(TGA)の活用
財務省がTGA(財務省一般勘定)を減少させると、銀行は預金を受け取り、それが準備預金の増加につながり、金融システムの流動性が向上します。
ただし、これは一時的な措置であり、効率的とは言えません。なぜなら、財務省は後に債券発行によってTGAを補充する必要があるからです。
4️⃣ 銀行タームファンディングプログラム(BTFP)の活用
BTFP(銀行タームファンディングプログラム)は、銀行が長期資産を満額で準備預金と交換できる仕組みであり、流動性ショックを防ぐ役割を果たしていました。
FRBは、これと類似したプログラムを別の名称で再導入する可能性があります。
5️⃣ 翌日物リバースレポ(ON RRP)施設の調整
FRBがマネーマーケットファンド(MMF)がON RRPに資金を預けるインセンティブを低下させれば、より多くの流動性が銀行システムに流れることになります。
これらの施策を通じて、FRBは「正式なQEなし」で市場に流動性を供給できる可能性があります。
米国株式市場のテクニカル分析:金利、ドル、ナスダック、S&P 500
ドルインデックスの推移
(出所:TradingView)
ドルはすでに天井をつけた兆候を見せており、下降トレンドが継続しています。週間MACDは弱気シグナルに転じており、この流れが続けば新たな安値を更新する可能性が高いです。
米国10年物国債利回りの推移
(出所:TradingView)
一方で、金利も天井圏にあり、直近の高値を更新できずにいます。週間MACDも弱気シグナルに転じており、下落が続く可能性があります。
S&P500指数の推移
(出所:TrendSpider)
ではS&P 500(SPX)はどうでしょうか?
20日・50日EMA(指数平滑移動平均線)のサポートを割り込んでいますが、取引開始後のリリーフラリー(短期的な反発)が見られます。
仮にさらに下落した場合でも、5,600ポイント付近にサポートがあるため、そこが意識される展開になるでしょう。
ナスダック100指数先物の推移
(出所:TrendSpider)
一方で、ナスダック100(NDX)は第4波の深めの調整に入る可能性がありますが、それでも第5波を完了させるために、さらに上昇余地があると考えています。
この動きは、今後数週間、テクノロジー株が相対的にアンダーパフォームする可能性を示唆しているかもしれません。しかし、最終的には上昇基調に戻る展開が期待できると見ています。
マクロ・マトリックス最新動向
(出所:筆者作成)
下記では、私が米国経済の温度感を測るために使用しているマクロ・マトリックス(詳細はこちら)の各項目の足元の状況に関して詳しく解説していきます。スコアは、各項目が表すリセッション(景気後退)の可能性であり、合計のスコアの値は低い方が良い(リセッションから遠い可能性が高い)と見ています。
また、各項目の詳細は、以前執筆した下記の分析レポートをご覧ください。
世界 – 半導体販売(3カ月移動平均) — スコア:6/10
(出所:MacroMicro)
半導体の販売は引き続き上昇傾向にあり、特に米国およびアジア太平洋地域での伸びが顕著です。これは、テクノロジーおよび産業部品に対する旺盛な需要を反映しており、経済活動の主要な牽引役となっています。
歴史的に見ても、半導体販売は経済の先行指標として機能しており、受注の増加は将来の成長への信頼感を示すものです。こうした勢いを踏まえると、テクノロジーセクターは堅調であり、ポジティブな見通しが維持されると考えられます。
世界 – シティグループリビジョンインデックス vs. MSCI ACWI指数 — スコア:4/10
(出所:MacroMicro)
企業の利益予想は改善傾向が続いており、アナリストの見通しも世界的に上向いています。これは、企業の収益性を支える環境が整いつつあることを示しており、株式市場の持続的なパフォーマンスに寄与する可能性があります。
また、世界の株式市場を追うMSCI ACWI指数も上昇しており、投資家の利益成長への期待感が高まっていることがうかがえます。ただし、外部リスクは依然として存在しており、今後の動向には注意が必要です。
米国 – サーム・ルール(Sahm Rule)景気後退指標 — スコア:5/10
(出所:MacroMicro)
サーム・ルールは、米国の労働市場が景気後退の閾値に達していないことを示しており、現時点では雇用環境に大きな悪化は見られません。
ただし、雇用の増加ペースは鈍化傾向にあり、今後のリスク要因となる可能性があります。それでも、現在の労働市場の強さが、経済全体の減速懸念に対する一定の防波堤となっていると見ています。
米国 – 深刻な延滞に移行するローンの割合 — スコア:4/10
(出所:MacroMicro)
延滞率はゆるやかに上昇しており、特にクレジットカードや自動車ローンで顕著です。現時点ではまだ深刻な水準ではありませんが、消費者の財務状況に圧力がかかりつつある兆候といえます。
この傾向が続けば、家計のバランスシートにさらなる負担が生じ、経済全体の活動を下押しする可能性があるため、注意が必要です。
世界 – 主要中央銀行のM2マネーサプライ — スコア:3/10
(出所:MacroMicro)
世界的な流動性は依然として制約を受けており、M2マネーサプライの成長率も低迷しています。
主要中央銀行が金融引き締め姿勢を維持しているため、景気拡大を後押しする金融支援は限られています。
この状態が長引けば、信用供給の鈍化を招き、投資や消費の抑制につながる可能性があります。
米国 – 強気投資家の割合(投資家センチメント) vs. S&P 500 — スコア:5/10
(出所:MacroMicro)
投資家のセンチメントは弱気に傾いており、リスク選好が低下しています。
これは市場への信頼感の低下を示していますが、悲観的なムードが過度に広がると、逆に相場の継続的な上昇につながる可能性もあります。
MM 世界景気後退確率 — スコア:6/10
(出所:MacroMicro)
現在のマクロ指標を基にすると、世界的な景気後退の確率は比較的低い水準にとどまっています。
一部の地域では成長懸念が続いているものの、全体としては経済の勢いが維持されています。ただし、外部ショックや金融引き締めの強化によって見通しが変化する可能性もあるため、引き続き注視する必要があります。
世界 – OECD CLI拡散指数 vs. MSCI ACWI指数 — スコア:3/10
(出所:MacroMicro)
OECDの先行指数拡散指数は、経済活動の広範な減速を示唆しています。
特に月次の低下幅が拡大しており、成長鈍化の初期警告サインといえます。現時点では世界市場はまだこの動きを完全には織り込んでいませんが、先行指標の悪化が続けば、今後のリスク要因となる可能性があります。
米国 – マージンデット残高 — スコア:3/10
マージンデット(信用取引の借入金)残高は再び増加傾向にあり、金融市場の安定性にリスクをもたらす可能性があります。
過去の市場動向を振り返ると、過度なレバレッジ(信用取引の拡大)は市場の下落に先行するケースが多く、強制的な売却が売りを加速させる要因となることがあります。
現時点では極端な水準には達していませんが、上昇トレンドが続く場合は慎重に見極める必要があります。
米国 – LEI(景気先行指数)前年比 — スコア:8/10
(出所:MacroMicro)
景気先行指数(LEI)は依然としてマイナス圏にあり、経済成長の勢いが鈍化していることを裏付けています。
過去のデータを見ると、LEIの継続的な低下は景気後退の前兆となることが多く、重要な警告サインといえます。
このトレンドが反転しない限り、成長の下振れリスクは依然として高い水準にあると考えられます。
米国 – クレジットスプレッド(リスクプレミアム) — スコア:5/10
(出所:MacroMicro)
クレジットスプレッドは安定しており、クレジット市場が現時点でリスクの高まりを織り込んでいないことを示唆しています。
これはポジティブな要素ですが、スプレッドの拡大が始まると、金融環境にストレスが生じている兆候となる可能性があります。
現時点ではクレジット市場は比較的バランスが取れた状態にあると考えられます。
修正後のリセッション・スコア
✅ 前回のリセッション・スコア:48/120
✅ 今回の修正後リセッション・スコア:44/120
景気見通しはやや改善しました。企業の利益予想の上方修正や半導体需要の堅調さが、強固な基盤を提供しています。
しかし、流動性の制約、先行指標の悪化、マージンデットの増加が、今後のリスク要因となっています。
消費者心理と労働市場が安定すれば、景気は引き続き底堅さを維持する可能性がありますが、流動性環境がさらに悪化すれば、景気減速へと傾くリスクも高まるでしょう。
引き続き、米国含む、グローバル経済の動向には目が離せません!
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・ EOW(エンド・オブ・ザ・ワールド)ポートフォリオとは?
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EOWポートフォリオ
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