04/14/2024

TSMC / TSM:台湾半導体・AI銘柄、インテル同様に米CHIPS法で補助金獲得、アリゾナ州に第3工場建設 - 後編

city skyline under blue sky during daytimeウィリアム・ キーティングウィリアム・ キーティング
  • TSMC(TSM)は、アリゾナ工場を安定性と安全性の理由から旧式の5nm技術でスタートさせることを選択し、より高度な技術に後でアップグレードすることを計画している。
  • 同社はプレスリリースの中で、堅調な成長と高い収益性という財務目標を再表明し、インテルの経営難とは対照的に、自社の事業力を強調した。
  • AMD、アップル、エヌビディアのような大手ハイテク企業はTSMCの米国進出を支持しており、業界との強力なパートナーシップと、TSMCおよび半導体部門にとってのCHIPS法資金の重要性を示している。

※「TSMC / TSM:台湾半導体・AI銘柄、インテル同様に米CHIPS法で補助金獲得、アリゾナ州に第3工場建設 - 前編」の続き

TSMC(TSM)のプロセス技術の選択

TSMC(TSM)が2020年にアリゾナに工場を建設することを最初に約束したとき、彼らが最新のプロセス技術で工場を賄うつもりがないことは明らかだった。

当時執筆したレポートにおいて、我々は下記の様に述べている。

原文:There's a lot of important information to unpack in this press release. Perhaps the most significant is the fact that the fab will use TSMC's 5nm technology. While this sounds good on the surface, the simple fact of the matter is that when the fab begins production in 2024, 5nm will actually be a lagging process node, with 3nm having taken the lead in 2021 according to TSMC's process node roadmap.

日本語訳:このプレスリリースには多くの重要な情報が含まれている。おそらく最も重要なのは、この工場がTSMCの5nm技術を採用するという事実だろう。これは表面的には良いことのように聞こえるが、単純な事実としては、ファブが2024年に生産を開始するとき、5nmは実際には遅れているプロセスノードであり、TSMCのプロセスノードロードマップによれば、2021年には3nmがリードしているとのことである。

※ファブ:製造工場

TSMCが最初のアリゾナ工場を最先端プロセスでスタートさせたくなかった理由はいくつかあるだろう。

しかし、最大の理由は、このファブ立ち上げのリスクを可能な限り軽減したかったことだろう。

そのため、より古く、より確立されたプロセスノードを選択することが安全策だった。

また、最先端のプロセス技術の詳細がアリゾナで悪用されることを懸念していた可能性も高い。

結局のところ、アリゾナに拠点を置くプロセス・エンジニアの少なくとも何人かは、すぐ近くにいるインテルのプロセス・エンジニアの元同僚である可能性が高い。

ただし、一見したところ、TSMCのプレスリリースは、第2工場と第3工場に最新のプロセス技術を導入することも視野に入れているように見える。

原文:TSMC Arizona’s first fab is on track to begin production leveraging 4nm technology in first half of 2025. The second fab will produce the world’s most advanced 2nm process technology with next-generation nanosheet transistors in addition to the previously announced 3nm technology, with production beginning in 2028. The third fab will produce chips using 2nm or more advanced processes, with production beginning by the end of the decade.

日本語訳:TSMCアリゾナの第1工場は、2025年前半に4nm技術を活用した生産を開始する予定である。第2工場では、先に発表された3nm技術に加え、次世代ナノシートトランジスタを用いた世界最先端の2nmプロセス技術を生産し、2028年に生産を開始する。第3の工場では、2nmまたはそれ以上の先端プロセスを使ったチップを生産し、2030年までに生産を開始する。

しかしながら、「世界最先端」と銘打たれているが、これらのプロセスはすべて、アリゾナで展開される前に、少なくとも1年半は台湾で大量生産されるというのが現状である。

TSMC(TSM)の年平均成長率 / 売上総利益率 / ROEの詳細

TSMC(TSM)はプレスリリースの中で、これらの詳細を発表している。

原文:The company remains committed to its long-term financial goals, which are 15-20% revenue compound annual growth rate (CAGR) in USD terms, 53% and higher gross margin, and 25% and higher return on equity (ROE).

日本語訳:同社は引き続き長期的な財務目標に取り組んでおり、米ドルベースで15~20%の売上高年平均成長率(CAGR)、53%以上の売上総利益率、25%以上の株主資本利益率(ROE)を掲げている。

米国CHIPS法の資金調達に関するプレスリリースの最中に、これらの財務目標を改めて説明する理由は特にない。

そうしたのは、彼らのビジネスモデルの成熟度、成長の見通しに対する自信、そしてもちろん、約束された成長を高収益の方法で実現する能力を、海外の聴衆に強調したかったからだろう。

もちろん、インテル(INTC)との比較対照の問題もある。

なぜなら、特に、インテルのファウンドリービジネスの損益が実際にどれほど赤字であるかが、最近明らかになったからである。

TSMC(TSM)に対する顧客からの声

TSMC(TSM)の顧客重視の姿勢は素晴らしく、米国を拠点とする3大顧客であるAMD(AMD)、アップル(AAPL)、エヌビディア(NVDA)から温かい賞賛の言葉を受け取ることに何の苦労もなかったことは明らかである。

原文:“Today’s announcement highlights the strong commitment from Secretary Raimondo and the entire administration to ensure the U.S. plays a central role creating a more geographically diverse and resilient semiconductor supply chain,” said AMD Chair and CEO Lisa Su. “TSMC has a long track record of providing the leading-edge manufacturing capabilities that have enabled AMD to focus on what we do best, designing high-performance chips that change the world. We are committed to our partnership with TSMC and look forward to building our most advanced chips in U.S.”

日本語訳:AMDのリサ・スー会長兼最高経営責任者(CEO)は、「本日の発表は、米国がより地理的に多様で強靭な半導体サプライチェーンを構築する中心的な役割を果たすというライモンド長官と政権全体の強いコミットメントを浮き彫りにするものだ」とコメントをしている。「TSMCは、世界を変える高性能チップの設計というAMDが最も得意とすることに集中できるよう、最先端の製造能力を提供してきた長い実績があります。我々はTSMCとのパートナーシップに全力を尽くし、米国で最先端のチップを製造することを楽しみにしています。」

原文:“TSMC is at the leading edge of advanced semiconductor technology — and when that expertise is paired with the ingenuity of American workers, incredible things are possible,” said Apple CEO Tim Cook. “We are proud to play a key part in the expansion of TSMC’s U.S. production, and we’ll continue to invest in America and support a new era of American advanced manufacturing.”

日本語訳:「TSMCは先端半導体技術の最先端にあり、その専門知識と米国の労働者の創意工夫が組み合わされば、信じられないようなことが可能になります。」とアップルのティム・クックCEOは語った。さらに、ティム・クックCEOは「我々は、TSMCの米国生産拡大において重要な役割を果たせたことを誇りに思うとともに、今後も米国への投資を続け、米国の先端製造業の新時代を支援していく」と述べた。

原文:“We congratulate TSMC for its historic investment and applaud the Commerce Department for its support. TSMC has been a long-standing partner of NVIDIA since we invented the GPU and accelerated computing, and our ongoing innovation in Artificial Intelligence (AI) would not have been possible without them. We are excited to continue our partnership with TSMC as it brings cutting-edge facilities to Arizona.” Jensen Huang, founder and CEO of NVIDIA.

日本語訳:「TSMCの歴史的な投資を祝福し、商務省の支援に拍手を送ります。TSMCは、当社がGPUとアクセラレーテッド・コンピューティングを発明して以来、長年のパートナーであり、人工知能(AI)における当社の継続的なイノベーションは、TSMCなしでは実現できなかったでしょう。我々は、アリゾナに最先端設備をもたらすTSMCとのパートナーシップを継続できることに興奮しています。」エヌビディアの創業者兼CEO、ジェンセン・フアン。

これらの証言からすると、これら3社のいずれもが、すぐにTSMCと袂を分かつつもりである可能性は極めて低いと思われる。

インテルはTSMCへの証言の提出期限に間に合わなかったようなので、我々はGoogle Geminiに彼らの代わりに証言を作成するよう依頼してみた。

下記がGoogle Geminiからの返答だが、まずまずといったところだろうか。

原文:"Intel congratulates TSMC on securing funding under the CHIPS Act and their bold decision to expand manufacturing in the United States with a third fab in Arizona. This is a significant win for the entire semiconductor industry and a major step forward for domestic chip production. As a leader in the industry, Intel recognizes the importance of a strong and collaborative ecosystem. TSMC's commitment to the US market will undoubtedly strengthen the domestic supply chain and foster a healthy environment for innovation. We look forward to continued collaboration with TSMC and other industry partners to ensure a reliable and secure supply of chips for years to come."

日本語訳:「インテルは、TSMCがCHIPS法の下で資金を確保し、アリゾナに第3の工場を建設して米国での製造を拡大するという大胆な決断を下したことを祝福します。これは半導体業界全体にとって重要な勝利であり、国内でのチップ生産にとって大きな前進である。業界のリーダーとして、インテルは強力で協力的なエコシステムの重要性を認識しています。TSMCの米国市場へのコミットメントは、間違いなく国内サプライチェーンを強化し、技術革新のための健全な環境を促進するでしょう。我々は、TSMCや他の業界パートナーとの協力関係を継続し、今後何年にもわたって信頼できる安全なチップ供給を確保することを楽しみにしています。」

TSMC(TSM)とCHIPS法のインテルへの影響

米国CHIPS法の資金提供の恩恵を受けるのは、競合他社の中でインテルだけではないことは、かなり以前から明らかだった。

TSMC(TSM)は常に恩恵を受ける可能性があったし、サムスンも今にも割り当てを受けそうだ。

ある意味で、米CHIPS法はインテルにとって諸刃の剣である。

米国で新たな生産能力を構築するための資金を得ることができる一方で、競合他社が米国への投資を倍増させるインセンティブにもなっている。

例えば、CHIPS法がなければ、TSMCがアリゾナでのプレゼンスを拡大することはなかっただろう。

さらに、最近の報道によれば、サムスンも米国でさらなる新工場の計画を発表するようである。

要するに、米政権は自国内での半導体製造の拡大を望んでおり、その拡大は国内外すべての主要プレーヤーに利益をもたらすということである。

いわば裏庭に店を構える競合他社の存在がますます大きくなっていることとは別に、ファウンドリー損益の収益性に関しては、インテルには不安定な財務状況という厄介な現実がある。

前述の通り、TSMCがプレスリリースで財務目標を説明する必要はなかった。

インテルにとっては、特にアリゾナの太陽に照らされた晴れ舞台から間もないこの時期に、TSMCがこのような発表を行ったことは恥ずべきことだったに違いない。