中立ウェブトゥーン・エンターテインメントすべて表示【注目の米国IPO】ウェブトゥーン・エンターテインメント(WBTN:Webtoon)の財務分析と今後の株価見通し・将来性
ドノヴァン・ ジョーンズ- 本稿では、注目の米国IPO銘柄、ウェブトゥーン・エンターテインメント(WBTN:Webtoon)の財務分析を通じて、同社の今後の株価見通しと将来性を詳しく解説していきます。
- ウェブトゥーン・エンターテインメント(WBTN)は、オンラインでコミックやアニメのストーリーテリングプラットフォームを構築しているテクノロジー企業で、IPOを通じて約2億9300万ドルを調達する計画である。
- 同社は創業者兼CEOのJunkoo Kim氏が率いており、プラットフォームは世界150カ国以上で2,400万人のクリエイターと約1億7000万人の月間アクティブユーザー(MAU)を繋いでいる。
- 同社は、デジタルコンテンツ制作市場で成長を見込んでいるが、足元の売上高成長率が鈍化しているため、同社IPOに対する私の見通しは「中立」としている。
ウェブトゥーン・エンターテインメント(WBTN)の概要
ウェブトゥーン・エンターテインメント(WBTN)は、オンラインでコミックやアニメのストーリーテリングプラットフォームを構築しているテクノロジー企業である。
修正されたSECへの登録届出書によると、ウェブトゥーン・エンターテインメントは、IPOによる普通株式の売却を通じて、約2億9300万ドルを調達する条件案を提出している。
同社には潜在的な競争相手が存在し、新しいAI技術によるビジネスチャンスもあるが、経営陣は収益性を重視して会社を運営しているようであることから、その結果、足元では売上高の伸びは著しく鈍化している。
そのため、同社のIPOに対する私の見通しは「中立」としている。
ウェブトゥーン・エンターテインメント(WBTN)の事業内容に関して
カリフォルニア州ロサンゼルスを拠点とするウェブトゥーン・エンターテインメント(WBTN)は、個人がアニメーションや関連ストーリーを世界中で発表できるプラットフォームを提供するために設立された。
経営陣は創業者兼CEOのJunkoo Kim氏が率いており、同氏は2016年の創業時から同社に在籍し、以前は2004年から韓国のNAVERで開発者を務めていた。
そして、同社が提供する主なサービスは以下の通りである。
ウェブコミック(グラフィック媒体)
ウェブ小説(テキスト媒体)
コミュニティ
タイトルの翻案
2024年3月31日時点で、同社はNAVERおよびLY Corporationを含む投資家から、公正市場価値(FMV:Fair Market Value)ベースで計17億ドルの出資を受けている。
また、同社は、主にウェブやモバイルアプリ等のオンライン手段、或いは、口コミを通じて自社のオンラインサービスをマーケティングしている。
同社の経営陣によると、同社のプラットフォームは「世界150カ国以上で、2,400万人のクリエイターと約1億7000万人の月間アクティブユーザー(MAU)を繋いでいる」とのことである。
さらに、以下の数字が示すように、総売上高に占めるマーケティング費用の割合は、売上高の増加とともに低下している。
期間 | マーケティング費用対売上高 (比率) |
2024年1月1日から3月31日までの3ヵ月間 | 6.0% |
2023年会計年度 | 9.4% |
2022年会計年度 | 16.7% |
(出典:SEC)
マーケティング効率倍率(Marketing Efficiency Multiple)は、マーケティング費用1ドルにつき何ドルの追加的新規売上高を生み出したかで定義されており、下記に示すように、直近の報告期間では0.8倍にまで低下している。
期間 | マーケティング効率倍率 |
2024年1月1日から3月31日までの3ヵ月間 | 0.8倍 |
2023年会計年度 | 1.7倍 |
(出典:SEC)
また、40%ルールとは、ソフトウェア業界の経験則であり、売上高成長率と営業利益率の合計が40%以上であれば、その企業は、ソフトウェア企業として、許容できる成長と営業利益率の軌道に乗っていることを示すものである。
下表のように、同社の直近の調整前40%ルールの計算値は、2024年3月31日時点でわずか10%であったため、この点で大幅な改善が必要であると言える
40%ルール・パフォーマンス | 2024年3月31日時点 |
直近の売上高成長率 | 5% |
営業利益率 | 4% |
営業利益率 | 10% |
(出典:SEC)
ウェブトゥーン・エンターテインメント(WBTN)の対象市場に関して
Grand View Researchの2023年市場調査報告書によると、デジタルコンテンツ制作の世界市場は2022年に推定256億ドルで、2030年には705億ドルに達すると予測されている。
これは、2023年から2030年までの年平均成長率が13.5%という堅調な予測に相当する。
この成長の主な要因は、デジタル・メディア・ツールの高度化と利用可能性の拡大、AIの台頭、クラウド・コンピューティングの採用拡大、興味深いコンテンツに対する消費者の継続的な強い需要等が挙げられる。
また、下記の図は、世界市場の一部である米国のデジタルコンテンツ制作市場の2020年から2030年までのコンテンツ・フォーマット別の過去の成長トレンドと将来の成長予測を示している。
そして、ウェブトゥーン・エンターテインメント(WBTN)の主な競合他社やその他の業界参入企業は以下の通りである。
Kakao Webtoon
Kidari studio
Piccoma
Jump Toon
Tapas
Manta
KakaoPage
Radish
GoodNovel
Dreame
Major social media platforms
OTT platforms
Gaming companies
Video streaming services
また、Fortune Business Insightsの市場調査報告書によると、デジタルコンテンツ市場のサブセットとしてのウェブコミック市場は、2023年には推定70億ドルで あった。
市場規模は2032年までに130億ドルに達し、2032年までの推定年平均成長率は6.92%と予想されている。
ウェブトゥーン・エンターテインメント(WBTN)の最新の決算に関して
ウェブトゥーン・エンターテインメント(WBTN)の最新の決算は以下の通りである。
トップライン売上高の伸びの鈍化
売上総利益は増加しているが、売上総利益率は一定ではない
営業利益への転換
営業キャッシュフローの増加
以下は、同社の有価証券届出書に基づく財務パフォーマンスのサマリーである。
期間 | 総売上高 | 対前年同期比 |
2024年1月1日から3月31日までの3ヵ月間 | $ 326,744,000 | 5.3% |
2023年会計年度 | $ 1,282,748,000 | 18.8% |
2022年会計年度 | $ 1,079,388,000 | |
期間 | 売上総利益(損失) | 対前年同期比 |
2024年1月1日から3月31日までの3ヵ月間 | $ 82,359,000 | 25.1% |
2023年会計年度 | $ 295,490,000 | 8.2% |
2022年会計年度 | $ 273,011,000 | |
期間 | 売上総利益率 | 対前年同期比 |
2024年1月1日から3月31日までの3ヵ月間 | 25.21% | 4.0% |
2023年会計年度 | 23.04% | -8.9% |
2022年会計年度 | 25.29% | |
期間 | 営業利益(損失) | 営業利益率 |
2024年1月1日から3月31日までの3ヵ月間 | $ 14,188,000 | 4.3% |
2023年会計年度 | $ (36,358,000) | -2.8% |
2022年会計年度 | $ (114,719,000) | -10.6% |
期間 | 純利益(損失) | 売上高純利益率 |
2024年1月1日から3月31日までの3ヵ月間 | $ (22,465,000) | -6.9% |
2023年会計年度 | $ (162,916,000) | -12.7% |
2022年会計年度 | $ (161,723,000) | -15.0% |
期間 | 営業キャッシュ・フロー | |
2024年1月1日から3月31日までの3ヵ月間 | $ 23,856,000 | |
2023年会計年度 | $ 14,804,000 | |
2022年会計年度 | $ (140,608,000) |
(出典:SEC)
2024年3月31日現在、同社の現金は2億1,870万ドル、負債総額は4億1,860万ドルとなっている。
また、2024年3月31日までの過去12ヶ月間のフリー・キャッシュフローは6,090万ドルとなっている。
※米国株式投資、並びに、IPOに関連する用語集に関しましては、こちらのリンクより、ご確認いただければと思います。
ウェブトゥーン・エンターテインメント(WBTN)のIPOに関して
ウェブトゥーン・エンターテインメント(WBTN)は、1株当たり19.50ドルの中値で1,500万株の普通株式を売却する予定であり、これにより約2億9,250万ドルの資金調達が見込まれている(慣例的な引受証券会社によるオプションの売却は含まれない)。
ブラックロック(BLK)は、IPO価格で最大5,000万ドル相当を購入することにNon-binding Interest(法的拘束力のない関心)を示している。
また、既存の投資家であるNAVERは、同時に行われる第三者割当増資において、5,000万ドル相当の株式をIPO価格で購入する契約を締結している。
そして、IPO時の企業価値(引受証券会社によるオプションを除く)は約20億ドルとなり、発行済み株式に対する浮動株比率(引受証券会社のオプションを除く)は約11.8%となる。
同社の直近の規制当局への提出書類によると、資金調達した資金の使途は以下の通りとなっている。
(原文)The principal purpose of this offering is to increase our capitalization and financial flexibility and create a public market for our common stock. We intend to use the net proceeds from this offering for general corporate purposes, including working capital, operating expenses and capital expenditures.
(日本語訳)この増資の主な目的は、当社の資本力と財務の柔軟性を高め、当社普通株式の公開市場を創設することです。この公募増資により調達した資金は、運転資金、営業費用、資本支出を含む一般的な企業の運営目的に使用する予定です。
(出典:SEC)
IPOが完了するまでの間、同社経営陣によるロードショーのためのプレゼンテーション資料はこちらから閲覧することが出来る。
未解決の法的手続きに関して、同社は事業や財務状況に重大な悪影響を及ぼすような法的措置にはさらされていないが、NAVERとLYコーポレーションとの関係から潜在的に法的責任を負う可能性があるとリーダーシップは述べている。
IPOの上場ブックランナー(幹事証券会社)は、ゴールドマン・サックス証券、モルガン・スタンレー証券、JPモルガン証券、エバーコアISI証券、ドイツ銀行証券、UBSインベストメント・バンク、HSBC、レイモンド・ジェームズ証券、ライオンツリー証券となっている。
ウェブトゥーン・エンターテインメント(WBTN)のバリュエーションに関して
以下は、ウェブトゥーン・エンターテインメント(WBTN)に関連するIPO時のバリュエーションの表である。
バリュエーション指標 | 値 |
IPO時の時価総額 | $2,477,850,414 |
企業価値 | $2,000,019,414 |
株価売上高倍率 | 1.91 |
企業価値 / 売上高 | 1.54 |
企業価値 / EBITDA | -830.92 |
実績EPS | -$1.14 |
営業利益率 | -0.19% |
純利益率 | -11.38% |
発行済株式総数に対する流動株数の比率 | 11.80% |
IPO価格の中間値 | $19.50 |
ネット・フリー・キャッシュフロー | $60,912,000 |
一株当たりフリー・キャッシュフロー利回り | 2.46% |
売上高成長率 | 5.31% |
(出典:SEC)
※米国株式投資、並びに、IPOに関連する用語集に関しましては、こちらのリンクより、ご確認いただければと思います。
ウェブトゥーン・エンターテインメント(WBTN)のIPOの詳細に関して
ウェブトゥーン・エンターテインメント(WBTN)は、一般的な事業の拡大と運転資金需要のため、米国株式市場からの投資を求めている。
同社の財務状況としては、トップラインの売上高成長率が低下し、売上総利益率は不安定で変動しているが、売上総利益は増加しており、営業利益への転換、並びに、営業キャッシュフローの増加も実現している。
2024年3月31日時点の過去12ヶ月間のフリー・キャッシュフローは6,090万ドルであった。
また、総売上高に占めるマーケティング費用の割合は、売上高の増加とともに低下しており、マーケティング効率倍率は直近の報告期間で0.8倍まで低下している。
さらに、同社は現時点では無配当を予定しており、必要な事業への再投資のために利益を留保している。
同社の最近の資本支出履歴によると、資本支出は控えめとなっている。
同社の40%ルールのパフォーマンスは比較的低く、売上高の伸び悩みと営業利益率の低さが、この結果に繋がっていると言える。
一方で、デジタルコンテンツ制作とプラットフォーム化の市場機会は大きく、今後数年間は力強い成長率が見込まれる。
ただし、上場企業としての同社の見通しに対するリスクとしては、AIツール・プラットフォームの利用が増加することが挙げられる。
逆に、新たなAIツールが同社の提供するサービスを拡大し、新たなユーザーを獲得する可能性もある。
財務パフォーマンスを見る限り、同社は成長よりも営業利益率を重視して経営されているように見える。
これは、おそらく、将来の投資家に対して、同社は売上高を伸ばしながらも利益を上げられるとアピールするためだろう。
しかし、売上高の伸びは一桁台半ばに落ち込んでおり、印象的とは言い難い。
そして、経営陣は、わずか5.3%という減速した売上高成長率にもかかわらず、企業価値 / 売上高倍率で1.54倍というバリュエーションを求めている。
さらに、ウェブコミック業界は2032年まで比較的緩やかな成長率で成長すると予想されている。
そのため、現在分かっている情報を踏まえると、低成長業界の低成長企業に対して大きな期待をするのは難しいようにも見える。
したがって、売上高成長の鈍化を理由に、ウェブトゥーン・エンターテインメント(WBTN)のIPOに対する私の見通しは「中立」としている。
上場予定日:2024年6月27日
アナリスト紹介:ドノヴァン・ ジョーンズ
📍IPO&テクノロジー担当
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