アメリカの8月雇用統計の株価への影響とは?米国失業率の推移は堅調?失業率は低下傾向で米国経済はソフトランディング目前!
ローレンス・ フラー- 本稿では、9月6日に発表されたアメリカの8月の雇用統計と失業率の推移、並びに、9月5日に発表された新規失業保険申請件数への詳細な分析を通じて、今後の米国市場の株価への影響を詳しく解説していきます。
- 米国株式市場は、投資家がインフレやFRBの金利政策を懸念し、雇用統計の発表を控えて神経質になっていたため、9月5日まで3日連続で下落しました。
- 8月の雇用統計では雇用増加数が予想を下回りましたが、失業率は低下し、賃金の伸びもインフレ率を上回っており、労働市場は安定しています。
- ソフトランディングは順調に進行しており、サービス業の拡大やGDP成長率が示すように、経済は適度なペースで成長しています。
S&P500を中心に米国株式市場は9月5日の木曜日まで3日連続で下落しましたが、これは、9月6日金曜日の寄り前に発表された8月の雇用統計を控え、投資家たちは神経質になっていたためです。
市場の投資家は、インフレとの闘いでFRBが短期金利の引き下げを始めるのが遅すぎたのではないかと懸念しています。
数ヶ月前には多くの投資家が求めていた労働市場の弱さが、今では歓迎されなくなっています。
同時に、人工知能(AI)ブームの恩恵を最も受けていた大手テクノロジー企業からの予想を下回るガイダンスが、ボラティリティを高め、市場における不安感を煽っています。
最近ではブロードコム(AVGO)が売上見通しで市場を失望させましたが、これは驚くべきことではありません。テクノロジーセクターの大手企業における売上および利益成長率が今年末までに減速することは、以前から予想されていたことです。
(出所:FINVIZ.com)
FRBが金融引き締め政策を進めているため、雇用減少や賃金の伸び鈍化も予想通りの展開といえます。
そして、9月6日の寄り前に発表されたアメリカの雇用統計によると、労働統計局の推定では、先月の雇用増加数は14万2,000人で、予想されていた16万5,000人を下回りました。
また、過去2カ月のデータが合計で8万9,000人の下方修正が行われたことで、直近3カ月の平均雇用増加数は11万6,000人となりました。
しかし、この数字は、毎月およそ10万人とされる労働力人口の増加を吸収するには十分な数字と言えます。
米国の失業率に注目が集まる
最近の上昇がウォール街で成長に対する懸念を引き起こす
(出所:Bloomberg)
また、失業率は4.3%から4.2%に低下し、過去90%の期間と比べても低い水準にあります。
依然としてほぼ完全雇用に近い状態です。
さらに、賃金の伸び率は3.6%から3.8%に上昇し、インフレ率が3%を下回っていることを考えると、実質(インフレ調整後)の賃金が増えていることを示す良いニュースです。
そして、これは、経済成長の原動力である実質消費支出の成長にとって非常に重要です。
(出所:Bureau of Labor Statistics)
さらに、木曜日に発表された新規失業保険申請件数のニュースも好意的に受け止められています。
その理由としては、過去3週間連続で申請件数が減少し、過去12カ月の水準と一致しているという、よりタイムリーな指標を示しているからです。
米国の新規失業保険申請件数(季節調整済み)
2022年〜現在
(出所:U.S. Employment and Training Administration)
ソフトランディングは簡単ではありません。
なぜなら、経済成長率が適度に鈍化し、インフレ率がFRBの目標である2%に近づく一方で、経済活動の縮小(リセッション)を引き起こさないようにする必要があるからです。
この過程で、投資家はインフレへの懸念と景気後退への不安の間を揺れ動きます。
そして、今まさに、投資家の関心が変化しているこの状況が進行中です。
私の見解では、今回の雇用統計は、FRBが経済のブレーキを緩める前に景気が過度に減速しているという懸念を和らげるものだと見ています。
労働市場は、必要な範囲で冷え込んでおり、ディスインフレ傾向を強化していますが、消費支出が減少するほどではありません。
私は、サービス業がどれだけ雇用を生み出しているかの初期推計よりも、その経済活動自体に重要性を置いています。
過去1週間、供給管理協会(ISM)とS&Pグローバルは、サービス業の幹部を対象とした調査で、8月には経済が緩やかなペースで拡大していることを示しました。
そして、ISMの購買担当者指数(PMI)は51.5で安定しており、S&PグローバルのPMIは55.7に上方修正されました。
これは、アトランタ連邦準備銀行のGDPNowによると、第3四半期の成長率が2.1%のトレンド成長に相当します。
そのため、ソフトランディングは順調に進んでいると見ています。
アトランタ連邦準備銀行のGDPNowによる2024年第3四半期実質GDP予測の推移
季節調整済み年率換算(SAAR)での四半期毎の変化率
(出所:Blue Chip Economic Indicators and Blue Chip Financial Forecasts)
アナリスト紹介
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ローレンス・フラー氏は、1993年にメリルリンチ証券でファイナンシャル・コンサルタントとしてキャリアをスタートしました。その後、ファースト・ユニオン・ブローカレッジ、モルガン・スタンレー証券、INGグループで同職を務め、30年以上にわたり個人投資家顧客の投資ポートフォリオを管理してきました。
その後、2005年には長期的な目標であったFuller Asset Management LLCを設立し、独立を果たしました。さらに、2013年より米国金融ニュースサイトSeeking Alphaにて、米国投資家に対してマクロ経済・投資リサーチの提供を開始しており、現在では14,000人以上のフォロワーを獲得しております。
フラー氏は、ノースカロライナ大学チャペルヒル校を卒業し、政治学の学士号を取得しております。
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