a computer chip with the word gat printed on it
07 - 08 - 2024

Part 1:アップル(AAPL)主催のWWDCで発表されたChatGPTの力を借りたApple Intelligenceを徹底分析

ウィリアム・ キーティングウィリアム・ キーティング
  • アップル(AAPL)は先月の同社主催のWWDC(Worldwide Developers Conference)で、OpenAIとの提携を発表し、待望のAI戦略を初めて公開した。
  • WWDCでの発表において、アップルはすでにAI機能を多くの製品に組み込んでいることを強調。
  • 特にM3チップを搭載したMacBookや、Apple Watchの規則的なリズム通知や転倒検出機能など、消費者向けラップトップやスマートウォッチでのAI活用が紹介されえている。
  • 新しいAI戦略の中核には、SiriのアップグレードやMacBook、iPad、iPhone製品にまたがる新機能、そしてOpenAIとの提携によるChatGPTの活用が含まれている。
  • これに加え、アップルはアプローチのセキュリティとプライバシーを強調し、「Apple Intelligence」としてブランド化を図っている。

アップル(AAPL)主催のWWDCにおけるOpenAIとの提携発表に関して

先月のアップル(AAPL)が開催したWWDC(Worldwide Developers Conference)初日に、同社は待望のAI戦略を発表した。従来のアップルらしく、このテーマに関してはこれまでほとんど言及していなかった。この姿勢は、ChatGPTが登場して以来、積極的に取り組んできたマイクロソフト(MSFT)の高いプロファイルとは対照的であった。

5月の第2四半期の決算発表の際、アップルのCEOであるティム・クック氏は、アナリストからのAI戦略に関する3度の質問を下記の様に軽く受け流していた。

(原文)I don’t want to get in front of our announcements, obviously. I would just say that we see Generative AI as a very key opportunity across our products. And we believe that we have advantages that set us apart there. And we’ll be talking more about it as we go through the weeks ahead.

(日本語訳)当然のことながら、我々の発表に先立って話すつもりはない。ただし、生成AIを当社の製品全体における非常に重要な機会と見なしており、そこにおいて我々が他と一線を画す利点があると信じている。これから数週間にわたってさらに話をすることになるだろう。

しかし、同じ決算発表での準備発言では、アップルは既にAI機能を製品やサービスに組み込んでいると考えていることが伝わってきた。

(原文)The world’s most popular laptop is the best consumer laptop for AI with breakthrough performance of the M3 chip and it’s even more powerful neural engine.

(日本語訳)世界で最も人気のあるラップトップは、M3チップの画期的なパフォーマンスとさらに強力なニューラルエンジンを備えた、AIに最適な消費者向けラップトップである。

(原文)Customers are loving the incredible AI performance of the latest MacBook Air and MacBook Pro models.

(日本語訳)顧客は最新のMacBook AirおよびMacBook Proモデルの驚異的なAIパフォーマンスを非常に気に入っている。

(原文)Across our watch lineup, we’re harnessing AI and machine-learning to power lifesaving features like a regular rhythm notifications and fall detection.

(日本語訳)我々のApple Watchラインアップ全体にわたり、AIおよび機械学習を利用して、規則的なリズム通知や転倒検出のような生命を守る機能を提供している。

これはブランディングおよびポジショニングの観点から興味深い。WWDCの発表前から、アップルは既にAI PC、つまりマイクロソフトが呼ぶところのCoPilot+ PCを持っていると主張していたのである。さらに、Apple Watchの既存の機能、リズム通知や転倒検出が「AI」によって強化されているとのことである。

では、WWDCへと話を移そう。約2時間にわたるオープニングセッションのうち、およそ半分がアップルのAI戦略に割かれていた。要約すると、彼らの戦略には以下の3つの基本要素が含まれている:

1. Siriのアップグレード / オーバーホール

2. MacBook、iPad、iPhone製品にまたがる新機能の数々

3. OpenAIとの提携により、ユーザーのクエリに最適な方法で対応するためにChatGPTを呼び出せるようにし、各ケースでユーザーにアクションの確認を求める

これら3つの要素に加えて、アップルはアプローチのセキュリティとプライバシーを強調することに多くの努力を注いだ。また、「人工知能」の「A」を自らのものとした、つまり「Apple Intelligence」としたのである。おそらく、これにより、アマゾン(AMZN:Amazon)やアルファベット(GOOG/GOOGL:Alphabet)はこの機会を逃したと自分たちを叱っているに違いない。

イベント後には、予想通り多くのメディアが取り上げた。そのほとんどは好意的で、「Apple Intelligence」をこの複雑な技術的背景に対する思慮深く、熟慮された、成熟したアプローチと表現する者もいた。特に、OpenAIとの提携に驚愕する者が多かった。また、いくつかのメディアにおいては、彼らがその意味を理解しようとするのを諦めたケースでは、「これはAppleによる天才的な一手である」と見なされていることが多い印象を受ける。では、果たして、彼らの見解は正しいのだろうか?より広い視点で、「Apple Intelligence」をどのように捉えるべきかを考察しよう。

アップル(AAPL)主催のWWDC:イントロダクション

アップル(AAPL)のティム・クックCEOは、以下のビデオのスクリーンショットに示される特徴を厳粛に列挙し、同社のAI戦略の序章を述べている。

最初にこの戦略を「パーソナル・インテリジェンス(Personal Intelligence)」と呼んだ後、「Apple Intelligence」と改名し、次にクレイグ氏という人物にバトンを渡して、実際にそれが何を意味するのかを説明させた。

注:クレイグ・フェデリギ氏は、アップルのソフトウェア・エンジニアリング担当上級副社長である。ティムは親しみを込めて彼をクレイグ氏と呼んでいる。

クレイグ氏はまず、「世界の知識を用いてさまざまなタスクをこなす印象的なチャットツールがすでに存在する」ことを認めた。しかし、その後、「これらのツールはあなたやあなたのニーズについてほとんど知らない」と述べ、「Apple Intelligence」を「パーソナル・インテリジェンス・システム」と説明した。

これは非常に巧妙な仕掛けである。彼が実際に言っていることは、「ChatGPTは素晴らしいが、ChatGPTはあなたについては何も知らない」と言い換えることができる。彼は基本的に、ChatGPTには私たちが知らなかった問題があると指摘し、その問題をAppleが解決するという構図を作り出している。もちろん、そんな問題は存在しない。私がChatGPTを使用する際、「その回答が素晴らしいが、もっと私について知っていればさらに良くなるのに」とは考えない。

クレイグ氏の紹介で興味深いもう一つの点は、アップルのAI戦略を説明する際に「embarking(乗り出す)」という言葉を使ったことである。「この旅に乗り出すことに興奮している」というように。このことから、私たちは現時点でアップルに過度な期待をすべきではない、という暗示が読み取れる。アップルはAI戦略を策定するのに数年の時間があったが、今になってもまだその旅に乗り出している段階なのか?

いずれにせよ、最終的にクレイグ氏はApple Intelligenceの実態、その能力、アーキテクチャ、そしてそれがもたらす体験について説明することを約束した。

アップル(AAPL)主催のWWDC:Capabilities / 能力

「Capabilities」のセクションで、クレイグ氏はApple Intelligenceが「言語や画像を理解し作成する」能力を持ち、「アプリ全体の操作を簡略化するために行動を起こす」と伝えている。

彼はさらに、「Apple Intelligenceには大規模言語モデル(LLM)が組み込まれ、自然言語の理解を高め、多くのタスクをより迅速かつ容易にする」と述べている。

アップルからは、これらの大規模言語モデルに関する詳細、パラメータの数、トレーニング内容、他のLLMとの比較などについては何も説明されなかった。最後に、クレイグ氏はこの技術が実際に何を意味するのかの最初の例として、通知の優先順位付けを挙げている。

この瞬間、ピンときた。ここでようやく本質が見えてくる。これは、私には全く問題ではないことへの解決策であり、おそらくあなたにとっても同様だろう。

そして、次の例は、「文章を書き直し、校正し、要約することで、あなたの文章に自信を持たせる」編集ツールに関してであった。

これは魅力的に聞こえるが、既に様々な方法で行っていることと非常に似ているように見える。次に、クレイグ氏はApple Intelligenceが画像に対して何ができるかについて説明した。例えば、友人にメッセージを送る際に使用する絵文字を個別にカスタマイズでき、さらには、その友人の写真を使って絵文字のベースにすることも可能であるとのことである。


再び、これは私にとって全く必要のない問題や機能であると言える。既に何千もの絵文字が存在しているが、私自身はそのうちの約3つしか定期的に使わず、他の99.9%の意味は理解していない。友人にメッセージを送る前に絵文字をカスタマイズするという考えは、私個人としては全く魅力的ではない。そして、クレイグ氏は、母親に送るためのカスタム絵文字として次のようなものを提案している。

正直なところ、その人の母親がそのような絵文字を受け取った時の反応がどうなるかはわからないが、必ずしも肯定的に受け止められる保証はないだろう。

クレイグ氏は「Capabilities」のセグメントを締めくくる際に、Apple Intelligenceが異なるツール間でシームレスに統合されていることを強調した。彼の主要な例として、会議が再スケジュールされた場合の状況を挙げ、この変更により、娘の劇の公演に間に合わなくなるかもしれないというケースについて解説した。

どうやらApple Intelligenceはこのような問題を解決できるようである。個人的には、この程度のことならすぐに自分で解決できるが、それはどうやら私だけということだろうか。

アップル(AAPL)主催のWWDC:Architecture / アーキテクチャ

次にクレイグ氏はApple Intelligenceのアーキテクチャについて話し始めた。アーキテクチャの第一の重要な原則は、すべての処理がデバイス上で行われるということであり、これはアップル(AAPL)の「デバイス上のインテリジェンスのための高度なシリコンを構築してきた長年の経験」によって可能となっている。

Apple Intelligenceアーキテクチャの第2の側面は、クレイグ氏が「Private Cloud Compute」(PCC)と呼ぶものの使用に関するものである。

これは基本的に、「Appleシリコン」を使って作られたクラウド・コンピューティング・インフラストラクチャであるが、これは非常に興味深い点である。私の記憶が正しければ、アップルはこれまで、独自のサーバーを開発したと公言したことはなかったと思う。しかし、残念ながら、この点についての詳細は明らかにされなかった。

この仕組みは、デバイスが特定のリクエストを処理するのに十分な処理能力がないと判断した場合、代わりにアップルのPCCからそのリクエストを処理できるというものである。さらに、Apple Intelligenceに組み込まれたアップル流のプライバシーが強調された。

アップル(AAPL)主催のWWDC:Experiences / エクスペリエンス

このカテゴリーで最初に紹介されたのはSiriで、ケルシーという人物が教えてくれたところによると、Siriは現在、1日あたり15億件の音声リクエストを処理しているとのことである。

そして、Siriが既に13年間存在している今、Apple IntelligenceはSiriをより自然で、関連性が高く、パーソナルなものにするという。

新しいSiriの最初の機能は、「画面の縁に優雅に輝く光」が表示されることである。しかし、それだけではない。Siriは、あなたが言葉につまづいたとしても理解してくれるようになるのである。

この機能は、少なくともアメリカ大統領候補の一人には特に役立つと思うのだが......。

また、Siriは会話ごとに詳細を記憶するようになった。例えば、特定の場所の天気を聞いた後に、「あそこ」でハイキングのスケジュールを組むようリクエストすると、「あそこ」は先ほど天気を聞いた場所だと認識することとなる。

最後に、Siriにリクエストを「手」で入力するオプションも追加されている。しかし、音声アシスタントという観点は、果たしてこれは本当に画期的な機能と言えるのだろうか。

Siriのほかにも、ライティング・ツールや画像エディタなど、多くの「エクスペリエンス」の例があったが、正直なところ、大半がごく普通のものであったという印象を受ける。また、下記のスクリーンショットは、すべての「エクスペリエンス」セクションを上手くまとめている。

そして、「まだ始まったばかり(We are just getting started)」というコメントに注目していただきたい。これは、今回発表されたApple Intelligenceの能力に対する期待値を下げ、潜在的な批判をかわすための試みであるように私には見える。

※続きは「Part 2:アップル(AAPL)とOpenAIがWWDC 2024で提携を発表:ChatGPT統合のメリットとデメリットを徹底解説」をご覧ください。

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