インテル / INTC:米国CHIPS法に関する同社の資金調達セレモニーへの考察と今後の見通し・将来性(Intel)
ウィリアム・ キーティング- インテル(INTC)は、アリゾナ州で大規模なイベントを開催し、建設の遅れやサプライヤーの問題が報告されているにもかかわらず、米国でのチップ製造を増やすことを目的とした資金調達を祝った。
- インテルの計画には、数千人の雇用創出が期待される大規模な投資が含まれており、多額の政府資金と税額控除によって支えられている。
- 一方で、祝賀会とは裏腹に、インテルの新工場の建設遅れや地元サプライヤーの準備状況が懸念され、米国でのチップ生産拡大に課題があることが示された。
インテル(INTC)のCHIPS法セレモニーの概要
インテル(INTC)は先週、バイデン大統領とジーナ・ライモンド商務長官がともにアリゾナに訪れ、先進的なチップ製造を米国に取り戻すための官民パートナーシップの歴史的な節目を祝った。
具体的には、ライモンド長官によれば、2030年までに最先端チップの米国での製造を現在のゼロから20%達成することが目標だという。
このイベント自体は、巧みにコーディネートされたもので、実際、地域社会とのつながりという点において傑作だったと言える。
加えて、バイデン大統領による選挙演説もうまく(そして素早く)組み込まれていた。
ただし、インテルにとって少々恥ずかしいことに、このイベントと同時に2つの報道がなされた。
ひとつは、インテルがオハイオ州に建設する2つの新工場の建設が2年遅れるというもので、もうひとつは、インテルとTSMC両社の複数のサプライヤーが、両社が建設中の新工場を支援するための現地での生産能力増強計画を縮小するか、一時的に延期しているというものだった。
以下は、インテルのCHIPS法のセレモニーと、インテルの晴れの日に影を落とした2つの報道についての私達の見解である 。
インテルが長い間約束していたCHIPS法の資金援助が今週ようやく実現し、アリゾナ州オコティロに建設予定の2つの新工場の建設現場を背景に、注目のイベントが開催された。(詳細はこちら)
そして、資金調達の主な内容は以下の通りである。
米商務省は、アリゾナ州、ニューメキシコ州、オハイオ州、オレゴン州におけるインテルの商用半導体プロジェクトを推進するため、CHIPS法(CHIPS and Science Act)を通じて最大85億ドルの直接資金拠出を提案している。
インテルはまた、1,000億ドルを超える適格投資に対して最大25%の米財務省投資税額控除(ITC)の恩恵を受け、110億ドルを上限とする連邦融資の資格も得られると見込んでいる。
これにより、インテルは 、5年間で1,000億ドル以上を米国に投資し、米国のチップ製造能力を拡大し、経済および国家安全保障に不可欠な能力を高め、AIなどの新興技術を加速させる義務がある。
さらに、雇用に関しても、地域社会への恩恵は計り知れないものである。
「インテルの投資により、1万人以上の企業雇用と2万人近くの建設雇用が創出され、サプライヤーや支援産業による5万人以上の間接雇用が支援されると予想されている。」
2022年9月にセレモニーが行われた オハイオ州の新製造拠点が加わり、インテルは米国内に4つの製造拠点を持つことになる。
そして、インテル・マーケティング・チームが自身のボーナスの支払いを正当化する必要があるため、これら4つの拠点にはすべてシリコンを意味するニックネームが付けられている。
Arizona: Intel’s U.S. Manufacturing Powerhouse (Silicon Desert fact sheet)
New Mexico: Intel’s U.S. Advanced Packaging (Silicon Mesa fact sheet)
Ohio: Intel’s New Leading-Edge Manufacturing Site (Silicon Heartland fact sheet)
Oregon: The Heart of Intel’s Semiconductor R&D (Silicon Forest fact sheet)
ニューメキシコの地形に詳しくない人のために説明しておくと、ニューメキシコにはメサ(スペイン語でテーブルの意味)が点在している。メサとは、孤立した比較的平らな頂を持つ自然の高台のことで、通常はビュート(butte)よりも広く、プラトー(plateau)よりは広くない。
そのようなメサのひとつが、有名なアコマ・プエブロのある場所である。
この4つの拠点に付けられたニックネームには、とても興味深い点がある。
それが何かわかるだろうか。
ヒントは、それはSilicon Mesa/Forest/Desert/Heartlandというラベルの部分についてではないということである。
まだお分かりになっていない方のために、後でもう一度この点に触れることとしよう。
この資金調達を記念して、インテルは3月20日にイベントを開催し、ジョー・バイデン大統領やジーナ・ライモンド商務長官をはじめ、地元の要人が出席した。
イベントの模様は、こちらでビデオ再生が可能です。
アリゾナの気温はまだ真夏のような暑さにはなっておらず、イベントは屋外で行われた。
そして、念のために、参加者には昔ながらの非電動タイプのインテルブランドの手持ち扇風機が用意された。
ビデオ再生から判断すると、セレモニーの間、観客はこの扇風機を大いに活用したようである。
私はこのようなイベントを企画したインテルに敬意を表したい。
そして、このようなイベントは包括的でなければ意味がない。
実際に、当イベントでは、たとえば、地元のネイティブ・アメリカンのコミュニティ・リーダー、地元の労働組合のリーダー、建設現場の板金工のスピーチがあった。
さらに、シークレット・サービス風のサングラスをかけたパット・ゲルシンガーCEOも本領を発揮していた。
ジョー・バイデンもサングラスの選択肢を選び、1つか2つの些細なミスはあったものの、力強いスピーチを行った。
ただし、スピーチの中で特に注目すべきミスとしては、"前任者(predecessor)"、つまりトランプ前大統領のことを指すつもりが、誤って"教授(professor)"と口にしたのは訂正すべき点だろう。
当然ながら、バイデン大統領はこのイベントを最大限に活用して、選挙キャンペーンに向けたメッセージを訴えた。
また、工事現場を背景にしたセッティングは印象的だった。
バイデン大統領が現場の建設チームのメンバーに先導されて演壇に上がったり降りたりするなどの絶妙な選択は、当イベントにおける完璧な振り付けだったと言える。
CHIPS法への資金提供が発表されたら、TSMC(TSM)はアリゾナでどのようなイベントを開催するのだろうか。
インテルが今週開催したイベントよりも控えめなものになるのではないだろうか。
アリゾナのインテル(INTC)向け半導体サプライヤーによる遅延
3月19日、インテルCHIPS法資金調達が発表される前日、日経アジアは、インテルとTSMCのアリゾナ半導体サプライヤーが、両社の生産能力増強計画に対応するため、アリゾナでの設備建設を延期していると報じている。
台北:台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング社とインテル社のサプライヤー少なくとも5社が、アリゾナ州での施設建設を延期している。これは、アメリカのチップ・サプライ・チェーンの再建が予想以上に大きな課題であることを示している。
この報告書で本当に興味深いのは、1社や2社ではなく、複数の施設サプライヤーが施設建設を延期していると主張していることである。
遅延の主な理由は2つある。
1つ目の理由は、インテルとTSMCの両社が推進している新ファブ・プロジェクトのスケジュールに関する懸念である。
「サプライヤーはまた、インテルとTSMCの拡張工事の進捗が予想以上に遅いことも延期の理由に挙げている。」
2つ目の理由は、コスト高騰と労働力不足への懸念である。
「影響を受けた企業の多くは、建設資材や労働力の高騰、建設労働者の不足が延期の原因だとしている。チップや自動車など幅広い分野への投資が州内に殺到し、建設部門を圧迫している。」
この報告書のタイミングを考えると、現実には、これらのサプライヤーは、米国内の他の施設、あるいは海外にある他の施設からガスや化学物質を輸送することで、その間の需要を(いつ発生しても)満たすことができるだろう。
ただし、言い換えれば、TSMCとインテルにとっては少々恥ずかしいことではあるが、致命的問題といったほどではないだろう。
インテル(INTC)のオハイオ工場の遅れ
原文:NEW ALBANY, Ohio — Construction on Intel’s silicon chip factories just outside Columbus is under way, but a report sent to state officials shows that they’ll start production at least two years later than originally expected. Both of Intel’s semiconductor chip plants won’t be finished until 2026 or 2027, and they won’t be operational until 2027 or 2028, the company said in a report to the state. During a ceremonial groundbreaking in September 2022, Intel said the plants would be operational in 2025.
日本語訳:コロンバス郊外にあるインテルのシリコンチップ工場の建設は進んでいるが、州当局に送られた報告書によると、生産開始は当初の予想より少なくとも2年遅れることになる。インテル社の半導体チップ工場は、いずれも2026年か2027年まで完成せず、操業開始は2027年か2028年になると、同社は州への報告書で述べている。 2022年9月の起工式で、インテルは工場が2025年に稼働すると発表した。
現実には、着工から3年というのは、グリーンフィールド半導体工場を立ち上げるのに十分な時間である。
インテルのオハイオ工場の場合、その起工式は2022年9月に行われ、ジョー・バイデン大統領も出席していた。
報告されている2年以上の遅れから、私達はどのような結論が導き出されるだろうか?
インテルは、少なくともあと3~4年は、これらの工場が追加する生産能力を必要としていない。
2つの工場用地は準備され、ユーティリティ設備も整い、シェルも建設されるかもしれない。
しかし、インテルがオハイオの工場を埋める顧客を見つけるまでは、オハイオの工場はそのままである。
つまり、インテルがオハイオの工場を埋める顧客を見つけた時初めて、ツールが発注され、設置されることになる。
ここで、インテルが米国に持つ4つの製造拠点のニックネームについて、先ほどの私の質問に戻りたい。
オハイオとアリゾナの表示を比較してみよう。
Arizona: Intel’s U.S. Manufacturing Powerhouse (Silicon Desert fact sheet)
Ohio: Intel’s New Leading-Edge Manufacturing Site (Silicon Heartland fact sheet)
そして、オハイオ州がインテルの新たな「Leading-Edge(リーディング・エッジ)」拠点となるのに対し、アリゾナ州は「Leading-Edge(リーディング・エッジ)」の言及はないが、インテルの「Powerhouse(重要製造拠点)」となるとされていることに注目してほしい。
ここでは、「Leading-Edge(リーディング・エッジ)」の達成は、オハイオ工場が稼動することと連動している、というインテルからのサブリミナル・メッセージでもあるのだろうか。
そしてその建設は今、2年遅れていると言われている。
おそらく、この表現は単なる偶然だろうが、今後の同社の進展には引き続き注目したい。