03/20/2025

【Part 3】ネビウス・グループ(NBIS:Nebius Group)決算分析:前年比で約5倍の収益を記録も、資金消費ペースが課題?

a white toy with a black noseイアニス・ ゾルンパノスイアニス・ ゾルンパノス
  • 本編は、注目の米国上場AI企業であるネビウス・グループ(NBIS:Nebius Group)の将来性を詳細に分析した4つの章から成る長編レポートとなります。
  • 本稿は「Part 1:ビジネスモデルとプロダクト分析」「Part 2:競争環境分析」「Part 3:財務パフォーマンスとリスク分析」「Part 4:バリュエーション分析」の4つの章で構成されています。
  • 本稿Part 3では、ネビウス・グループの2月20日発表の最新の2024年第4四半期決算分析を通じて、同社の財務パフォーマンスとリスク要因を詳しく解説していきます。
  • ネビウス・グループはAIクラウド事業を中心に急成長を遂げ、2024年には前年比で約5倍の収益を記録しましたが、設備投資も売上の7倍に達し、資金消費が持続可能性の課題となっています。
  • 現時点では潤沢な現金を保有しているものの、成長が鈍化すれば追加の資金調達が困難になる可能性があり、収益の安定化と費用管理が重要な焦点となっています。
  • 技術進化や規制、大手クラウド企業との競争など多くのリスクに直面しており、今後は差別化されたプラットフォーム戦略と堅実な経営資源配分が求められます。

※「【Part 2】ネビウス・グループ(NBIS:Nebius Group)の競争優位性とは?競合環境とテクノロジー上の強みを徹底分析!」の続き

前章では、ネビウス・グループの競争優位性を探るべく、同社を取り巻く競合環境とテクノロジー上の強みに関して詳しく解説しております。

本稿の内容への理解をより深めるために、是非、インベストリンゴのプラットフォーム上にて、前章も併せてご覧ください。

4️⃣ ネビウス・グループ(NBIS:Nebius Group)の財務パフォーマンス:成長と持続可能性

ネビウス・グループ(NBIS)は、2月20日に最新の2024年第4四半期決算を発表していますが、爆発的な収益成長を遂げており、前年同期比(YoY)で8.7倍の増加を記録しました。収益は、2023年第2四半期の500万ドルから2024年第3四半期には4,300万ドルへと急増しています。この急成長は、同社のAI特化型クラウドインフラによるものであり、高性能コンピューティングを必要とする企業や開発者からの需要の高まりが追い風となっています。

(出所:ネビウス・グループの2024年10月の投資家向け資料)

2024年の年間収益は1億1,750万ドルに達し、前年から462%増加しました。特に2024年後半には成長が加速し、第4四半期の収益は前年同期比+466%の3,790万ドルとなりました。これにより、2023年第4四半期の収益は約670万ドルに過ぎなかったことが示されています。この成長率は業界平均を大きく上回っており、スタートアップのような急速な拡大を遂げていることがわかります。

(出所:ネビウス・グループの2024年第4四半期決算資料)

この成長を支えているのは、主に以下の2つの事業です。

1️⃣ AIクラウド(Nebius.AI) – 第4四半期にはNebius Group全体の収益の半分以上を占めました。特にコアとなるクラウド事業は、前年同期比602%の成長を遂げています。これは、AIモデル開発企業や機械学習ツールのプロバイダーなど、AIを活用する顧客の急増と、計算能力の拡大によるものです。

2️⃣ AIサービス(Toloka) – Tolokaは、生成AIのトレーニングデータに対する需要の急増を背景に、2024年の収益が前年同期比+140%成長しました。また、世界最大級の基盤モデル研究機関と複数の契約を締結したことも成長を後押ししました。

このように、同社の収益成長は、産業全体に広がるAIモデル開発の急拡大によって支えられています。

しかし、すべての事業セグメントが同じように貢献しているわけではありません。EdTech(教育テクノロジー)分野のTripleTenは成長しているものの、まだ規模は小さい状況です。2024年第4四半期には学生登録数が倍増し、新たに4,000人の学生が加わり、前年同期比+100%の成長を記録しました。この増加が収益成長を後押ししていますが、絶対的な収益規模はクラウド事業やTolokaと比べると小さいと考えられます。

また、自動運転技術を手がけるAvrideは依然として研究開発(R&D)段階にあり、収益はほぼゼロの状態です。そのため、全体の急激な収益増加は、主にAIクラウド事業に集中していることがわかります。これは、同社が最も成長の可能性が高い事業に注力している点ではプラスですが、もしAIクラウド市場の成長が鈍化した場合にはリスクとなる可能性があります。

また、特筆すべき点として、同社の統合成長率(+462%)は、業界内の他の高成長企業を大きく上回っています。参考までに、2024年の世界のクラウドインフラ市場全体の成長率は約20〜30%程度でした。この異例の成長率は、同社がカーブアウト(事業分離)後にゼロに近い状態から急拡大している段階にあることを反映しており、長期的に持続可能な成長率とは言えない可能性があります。

ネビウス・グループ(NBIS:Nebius Group)は驚異的な成長を遂げるも、大規模な資金消費が持続可能性に疑問を投げかける

当社は、ネビウス・グループ(NBIS)の成長ストーリーを経営陣の発表と事業セグメントごとの開示情報を突き合わせて検証しました。その結果、両者の内容は整合性が取れていることが確認できました。経営陣は第4四半期の主要成長エンジンとしてNebius.AIを挙げており、実際に同事業は全体収益の50%以上を占め、前年同期比602%の成長を達成しています。また、Tolokaの事業転換(GenAIデータへの注力)についても、定性的な説明に加え、3桁成長という実績が裏付けています。

総じて、収益認識に関して大きな懸念は見られず、この急成長は実際のものであると判断できます。顧客数と利用量が急増していることも、その証拠となっています。ただし、過去の基盤が小さかったため、この成長率は異例に高いものの、収益基盤が拡大するにつれて成長率は次第に落ち着くと考えられます。とはいえ、同社のガイダンスによると、2025年も引き続きハイパーグロースが見込まれています(詳細は「今後の見通し」にて説明します)。

しかし、「AI革命の鉄道」を構築する企業であるNebiusが、大規模な投資フェーズにあり、収益性を確保できていないことは驚くべきことではありません。2024年の営業損失は大幅に拡大し、GAAPベースの営業損失は約–4億4,300万ドル(継続事業の純損失–3億9,690万ドルに加え、純利息・その他の利益を考慮)に達しました。また、調整後EBITDAも–2億6,640万ドルとなっています。

(出所:ネビウス・グループの2024年第4四半期決算資料)

EBITDAと営業損失の大きな乖離は、主に大規模な株式報酬(SBC)および一時的な費用によるものです。同社は、これらの項目を調整後の指標から除外していますが、ひとつ注意すべき会計上の特徴があります。それは、一部の旧YandexのRSU(譲渡制限付き株式ユニット)を現金で支払ったため、それに関連する費用を調整後EBITDAに含めた点です(つまり、それらの費用を差し引いていません)。その結果、SBCをすべて除外した場合と比べて、調整後EBITDAはやや保守的(低め)な数値となっています。

それでも、調整後の損失は非常に大きく、2024年の調整後EBITDAマージンは–227% となりました。この数値は、他のクラウド系スタートアップと比較しても極端な水準です。

また、経営陣は「調整後純損失(Adjusted Net Loss)」も開示しています(継続事業の純損失から、事業売却や特定の再評価項目を除外)。2024年第4四半期の調整後純損失は–8,530万ドルで、GAAPベースの継続事業純損失(–1億3,660万ドル)よりも小さい値となっています。この調整の主な要因は、ロシア事業の売却損失や為替影響による約5,100万ドルの損失を除外したことであり、調整後の純損失は継続事業の実態をより正確に反映していると考えられます。これらの調整は合理的であり、損失を意図的に隠すような積極的な会計処理の痕跡は見られませんでした。同社は、成長のために多額の資金を投入していることを率直に開示しています。

キャッシュフローの観点からも、同社の投資規模の大きさが浮き彫りになっています。 2024年の営業キャッシュフロー(CFO)は–3億1,960万ドルであり、運転資本の変動を考慮するとEBITDAの赤字とほぼ同水準となっています。また、設備投資(CapEx)は8億810万ドルに達し、データセンター、GPUハードウェア、プラットフォーム開発への大規模な支出が行われました。この設備投資額は、年間売上(1億1,750万ドル)の約7倍 に相当し、現在の需要を大きく上回るインフラ整備を前倒しで進めていることを示しています。

成熟した企業においては、このような投資と収益の大きなミスマッチは典型的なリスク要因ですが、同社の場合は長期的な需要獲得戦略と一致しています。実際、経営陣の発言からもその意図が明確です。第4四半期だけで、エヌビディア(NVDA)の高性能GPUの導入数をほぼ倍増させ、さらに2025年には次世代GPU「NVIDIA Blackwell」22,000基を導入する計画を発表しました。これは、顧客の需要が本格化する前に十分な計算能力を確保するための、大規模な設備投資戦略といえます。

投資家にとってのネビウス・グループ(NBIS:Nebius Group)の重要な課題は、資金消費の持続可能性

2024年のフリーキャッシュフロー(営業キャッシュフロー + 設備投資)は約–11.3億ドルとなり、ネビウス・グループ(NBIS)の売上を大幅に上回っています。しかし、同社は2024年12月に7億ドルを調達し、年末時点で24.5億ドルの現金を保有していました。この潤沢な資金は、主にYandexの売却益によるものであり、現在の資金消費ペースを考慮すると、2〜3年分の運営資金を確保している計算となります。さらに、同社はこの現金による利息収入も得ており、2024年には約4,700万ドルの純損失の軽減に寄与しています(営業損失と純損失の差額から推測)。この利息収入が、営業損失の一部を補填している状況です。

キャッシュフローや費用に不自然な点がないかを確認したところ、大きな懸念は見られませんでしたが、注視すべき点はいくつかあります。

1️⃣ 費用の資本化

同社は、研究開発(R&D)やソフトウェア開発費用の一部を設備投資(CapEx)に計上している可能性があります。たとえば、同社がゼロから構築している「AIネイティブクラウドプラットフォーム」は、この対象となる可能性が高いです。仮に過剰な資本化が行われると、EBITDAが実態よりも高く見えることになります。今後の財務報告で詳細を精査する予定ですが、現時点では巨額の損失が発生しているため、成長関連のコストのほとんどは損益計算書(P&L)で計上されていると考えられます。

2️⃣ 関連当事者取引や一時的な費用

同社はYandexから分離した際に、手数料や補償費用が発生している可能性があります。しかし、決算報告ではそのような項目は特に指摘されていません。これは、Yandexとの関係が完全に断たれたことを示唆しており、ロシアへの継続的な資金流出はないと考えられます(同社の発表でも、全ての関係が断絶されたことが強調されています)。

まとめ:成長加速、資金消費、積極投資のバランス

ネビウス・グループの財務状況は、急成長、高い資金消費、大規模な投資という経営陣の説明と整合性があります。唯一の異常点として挙げられるのは、売上1ドルに対して約1ドルの設備投資を行っている点です。これは意図的な戦略であり、同社は時間との戦いに挑んでいるといえます。つまり、キャッシュが尽きる前に、巨額の設備投資を収益成長につなげられるかが勝負となるでしょう。

5️⃣ ネビウス・グループ(NBIS:Nebius Group)のリスク評価:克服すべき最大の課題

一方で、ネビウス・グループ(NBIS)の直面する競争リスクは非常に大きいように見えます。

1️⃣資本力のあるクラウド企業との競争

ネビウス・グループは、資本力のあるクラウド企業との競争に直面しており、AI技術の急速な進化に対応し続ける必要があります。例えば、新しいAIチップアーキテクチャやソフトウェアのパラダイムが登場した場合、同社も迅速に適応しなければなりません。また、Yandexとの関係に由来するイメージの影響を払拭し、グローバルな顧客と信頼関係を築く必要もあります。

2️⃣資金消費 & 実行リスク

最も大きなリスクはキャッシュフローの持続可能性です。 ネビウス・グループは数年間にわたってプラスのキャッシュフローを確保できる保証がないため、運営資金を手元の現金に依存している状況です。すでに述べたとおり、2024年のフリーキャッシュフローの流出額は11億ドル超となっています。

仮に、収益成長が期待を下回り、2025年に想定している年間経常収益(ARR)の一部しか達成できなかった場合、資金不足に陥る可能性や、市場環境が不利な中で追加資金調達が必要になるリスクが考えられます。

2024年12月の資金調達は、AIブームが強い追い風となり、同社の成長期待が市場にアピールできる状況だったため、成功裏に終わりました。しかし、今後の成長が期待を裏切るような結果となれば、次回の資金調達は現在ほど順調には進まない可能性があります。そのため、2025年の営業実績と製品の確実な提供が極めて重要になります。

良いニュースとして、Nebiusはすでに2025年第1四半期時点で2億2,000万ドルのARRを確保しているため、四半期ごとの収益は急速な成長を示すと予想されます。しかし、年末までにARR7億5,000万ドル以上に到達するためには、大型顧客との契約や利用拡大が不可欠です。

また、新たなデータセンターの稼働が遅れるリスクもあります。たとえば、NVIDIA製GPUの供給遅延や施設の建設が計画より遅れると、収益の成長がボトルネックに直面する可能性があります。このリスクについて、経営陣も明確に認識しており、Blackwell GPUの早期確保を進めることで対策を講じています。

3️⃣ オペレーショナルリスク:新たなインフラ統合の課題

ネビウス・グループは、新たなハードウェア拠点を複数の大陸にわたって同時に立ち上げるとともに、顧客を新しいソフトウェアプラットフォームへ移行させています。

物理インフラの拡張とソフトウェアのスケールアップを同時に進めることで、管理が不十分な場合、サービスの信頼性に問題が生じる可能性があります。このようなトラブルは、企業顧客が高い稼働率を求めるクラウド市場において、信頼の低下につながるリスクがあります。

現時点では、同社はこの移行を順調に進めており、2024年末までに全顧客を新しいAIクラウドプラットフォームへ移行させました。大きな障害が報告されていない点は評価できます。しかし、今後顧客基盤が拡大する中で、稼働率や顧客満足度の指標(ユーザーレビューや公表される障害報告など)を継続的に監視することが重要です。

4️⃣ 競争リスク & 市場リスク

競争面では、大手クラウド企業がネビウス・グループの市場を狙って積極的に攻勢をかけるリスクが考えられます。

例えば、アマゾン(AMZN)、マイクロソフト(MSFT)、グーグル(GOOG)はすでにAI特化型クラウドインスタンスを提供しており、それぞれ独自のAIチップ開発も進めています(AWSはTrainium/Inferentia、グーグルはTPU)。

これらのチップが一般的なAIワークロードにおいてエヌビディアのGPUと同等以上の性能を持ち、かつコスト面で優位性がある場合、同社は価格競争圧力にさらされる可能性があります。

現時点では、最先端AIモデルの開発には依然としてエヌビディアのエコシステムが支配的であり、同社はその流れに乗ることで優位性を維持できています。しかし、2〜3年のスパンでは、大手クラウド企業がAI計算リソースを大幅な割引価格で提供し、同社のような特化型クラウド事業者の競争力を削ぐ可能性も否定できません。

5️⃣ テクノロジー業界の市場環境が変化する可能性

現在の「AIブーム」の楽観的な雰囲気が、もし企業のAIプロジェクトのROI(投資収益率)が期待ほど早く実現しなかった場合、冷え込む可能性もあります。

すでに、その兆候はデータラベリング業界で見られます。例えば、Appenは、大手テック企業が実験的なAIプロジェクトへの支出を削減したことで業績悪化に直面しました。同様に、もしAI投資が一時的な調整期に入れば、ネビウス・グループはコスト構造の正当化が求められるタイミングで成長の鈍化に直面する可能性があります。

とはいえ、今後数年間はAIインフラへの需要が堅調に推移する可能性が高いと考えられます。ソフトウェア全般にAI機能が組み込まれる流れが加速しており、新しいAIモデルの計算負荷が高まることで、AIインフラ市場の成長は続く見込みです。

6️⃣ 市場リスク:規制の影響

もう一つの市場リスクとして規制の影響が挙げられます。現在、欧州ではAIに関する規制(EU AI法など)の制定が進められており、AIサービスプロバイダーに対する要件が課される可能性があります。

ネビウス・グループは欧州の企業であるため、米国の競合他社よりも早く、あるいは厳格な規制に対応する必要が生じる可能性があります。これにより、モデルの透明性やデータ管理などに関する追加コストが発生する可能性はありますが、一方で、規制産業向けの信頼できるプロバイダーとしての地位を確立できれば、ビジネスチャンスにもなり得ます。

7️⃣ 地政学的リスク & ガバナンスリスク

ネビウス・グループはロシアとの関係を断ち切っていますが、地政学的要因は間接的に影響を及ぼす可能性があります。

例えば、米中のテクノロジー対立がAIチップの供給に影響を与えるリスクがあります。もし先端GPUの輸出規制がさらに強化されれば、オランダ企業である同社も規制の影響を受ける可能性があります。ただし、現在のところエヌビディアは欧米企業への販売が許可されており、現実的なリスクは低いと考えられます。しかし、エヌビディアのサプライチェーンに影響を及ぼすような世界的なショックが発生した場合、同社の事業にも影響が及ぶことは避けられません。

ガバナンス面では、同社はYandex時代のデュアルクラス株式構造を維持しています(Arkady Volozh氏や経営陣がクラスB株を保有していた可能性が高いため)。

取引完了後、発行済株式数は1億9,900万株となり、Arkady氏は依然として大きな議決権を保持していると考えられます。

このため、一般投資家(少数株主)は、経営権が特定の株主に集中している点を認識しておく必要があります。この構造は創業者主導の強力なリーダーシップという点ではプラスですが、一方で経営判断がインサイダー寄りになるリスクもあります。

ただし、同社はオランダ法人であり、取締役会の議長を独立した人物(John Boynton氏)が務めていることから、一定のガバナンスが確保されていると考えられます。また、定期的な6-K報告書の提出や株主向けレターの発行など、透明性の確保にも努めています。

とはいえ、Yandex時代の複雑な経営状況の影響を引きずる可能性もあるため、投資家は引き続きガバナンス面に注意を払う必要があります。特に、経営陣の報酬、関連当事者取引(現時点では確認されていない)、戦略の変更などに注視することが重要です。

8️⃣ 経営資源の分散リスク

ネビウス・グループは実質的に4つの事業を同時に運営しており、経営資源が分散するリスクがあります。

例えば、Avrideのような小規模事業が大幅な追加資本を必要とした場合や、特定の事業部門が業績不振に陥った場合、経営陣の負担が増し、全体の意思決定が遅れる可能性があります。

しかし、その一方で、事業ポートフォリオの多様化がもたらすメリットもあります。例えば、TripleTenやAvrideのような中核外の事業をスピンオフ(分社化)したり、持分売却を通じて資金を調達することで、AIクラウド事業に経営資源を集中させることが可能です。このような戦略を取ることで、必要に応じて企業価値を高めることもできるでしょう。

9️⃣ テクノロジーの進化と破壊的変化のリスク

AI分野は急速に進化しており、技術革新による事業リスクも無視できません。

現在、同社は大規模な集中型コンピュートクラスター(クラウドスーパーコンピュータ)を基盤とする戦略を採用しています。しかし、もし技術トレンドが、より効率的または分散型のコンピューティングへと移行した場合、同社の事業に影響を及ぼす可能性があります。

例えば、以下のような変化が起こった場合、同社の主力サービスに対する需要が減少するリスクがあります。

 モデル効率の大幅な向上により、大規模なGPUの計算能力が不要になる

 エッジAIの発展により、ローカルデバイスでの処理が主流となり、クラウド型の計算リソースの需要が低下する

このようなシナリオが現実になれば、同社の事業モデルに大きな影響を与える可能性があるため、今後の技術動向を慎重に見極める必要があります。

技術トレンドの進化と長期的リスク

現時点では、より大規模なモデルやマルチモーダルAIの発展など、クラウドコンピューティングの需要が減少する兆しは見られません。むしろ、高性能な計算リソースの必要性は今後さらに高まると考えられます。

しかし、長期的な視点では、モデル圧縮技術、フェデレーテッドラーニング、新しいチップアーキテクチャ(将来的には量子コンピューティングなど)といった研究分野の動向に注目する必要があるでしょう。これらの技術が進化すれば、AIワークロードの処理方法が大きく変わり、現在の大規模計算リソースに対する需要構造が変化する可能性があります。

ネットワーク効果とプラットフォームの競争力

ネビウス・グループはプラットフォームエコシステムの構築を目指しており、その一環として、モデルのデプロイを簡単にする「Nebius AI Studio」や、サーバーレスコンピューティングの「Tracto」を展開しています。

この戦略が成功すれば、顧客は同社をAIワークフローの中核に組み込み、長期的なロックイン効果が生まれるため、競争優位性の強化につながります。

一方で、同社がプラットフォームとして十分に差別化できず、単なるGPUレンタルサービスにとどまってしまった場合、顧客はより安価で高性能な選択肢が出てきた際に容易に乗り換えてしまうリスクがあります。

クラウドサービス業界では、コモディティ化(競争が激化し、サービスが均質化すること)のリスクが常に存在します。現在のところ、供給不足の影響や、AI特化の最適化による差別化によって、このリスクはある程度軽減されています。

しかし、今後2〜3年の間に業界全体で供給能力が拡大すれば、価格競争が激化する可能性があります。そのため、同社は単なる計算リソースの提供にとどまらず、ソフトウェアやサポート、統合データサービスなどの付加価値を強化し、より包括的なAIインフラサービスとしての地位を確立する必要があります。

マクロ経済要因の影響

最後に、マクロ経済の影響も無視できません。

例えば、金利の上昇は成長株の割引率を押し上げ、ネビウス・グループのような企業のバリュエーションを圧迫する可能性があります。企業の業績に関係なく、金融市場の動向によって株価が影響を受けるリスクは考慮すべきポイントです。

また、同社が2024年に調達した7億ドルは株式発行によるものであり、現在負債はありません。しかし、将来的に借入を検討する場合、現在の金利水準は過去数年よりもはるかに高く、資金調達コストが大きくなる可能性があります。この点も、長期的な財務戦略を検討する上で重要な要素となります。

Part 3は以上となります。Part 4では、同社のバリュエーション分析、並びに、同社の今後の見通しと将来性に関して詳しく解説していきますのでお見逃しなく!


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