① Part 3:クラウドフレア / NET:エッジ・コンピュート分野における同社のテクノロジー面での強み&競争優位性

- Part 3では、クラウドフレア(NET)とエッジ・コンピュート分野における競合他社とのテクノロジー面での比較分析について解説していく。
- また、同社がコネクティビティ・クラウドになるというプリンスCEOのビジョンの魅力、並びに、ハイパースケーラーに匹敵するIaaSサービスを提供する上での同社の課題とGenAIの限界についても議論する。
- 本稿にて取り上げる企業は、AWS(AMZN)、ファストリー(FSLY)、アカマイ・テクノロジーズ(AKAM)、Vercel、Netlify、エッジオ(EGIO)となっている。
Act 3 / 第3幕
第3幕は、クラウドフレア(NET)のエッジ・コンピュートに関してであり、この分野はまだインキュベーション・モードが非常に強いが、第3のS字カーブとして将来の大きな成長が約束されている分野のように見える。
第3幕は同社の事業の中で最も発展途上の分野だが、第1幕と重なる部分も多く、多くの点で第1幕の延長線上にあると言える。
これは、デジタル・コンシューマー体験の向上に対するニーズが高まる中、CDN(Contents Delivery Network:コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)の限界に端を発し、エッジ・コンピュートに対する需要が進化してきたためである。
2000年代初頭、インターネットはかつてない勢いで成長し、ウェブサイトやオンライン・アプリケーションはますます複雑化し、リソースを大量に消費するようになった。
そして、このデジタルコンテンツの急増が、CDNの誕生につながった。
CDNの主な役割は、エンドユーザーにより近い場所でウェブコンテンツをキャッシュすることで、配信を高速化することであった。
アカマイ・テクノロジーズ(AKAM)のような企業がこの分野を開拓し、コンテンツの配信と消費の方法に革命をもたらした。
これらの初期のCDNはインターネットの静かな主力であり、ユーザーが世界のどこにいても、ウェブサイトがより速く、より確実に読み込まれるようにした。
そして、年月が経つにつれ、デジタルの状況は進化し続けた。
ウェブサイトは静的なページから動的でインタラクティブな体験へと変貌を遂げた。
さらに、モバイルインターネット、ソーシャルメディア、ビデオストリーミングの台頭は、CDNにできることの限界をさらに押し広げることとなった。
ネットワークエッジで静的なコンテンツをキャッシュするだけの従来のモデルは、動的なコンテンツやパーソナライズされたエクスペリエンスを扱う上で限界を見せ始めた。
例えば、静的なコンテンツ、主にテキストベースのコンテンツは数キロバイトしかなく、キャッシュして配信するのは非常に簡単である。
しかし、インターネットがよりビジュアルなコンテンツへと進化するにつれ、CDNは10メガバイト(単純なテキストベースのコンテンツより1000倍以上もデータが多い)からなる画像や、1000メガバイト(つまり1ギガバイト)からなる短い動画を扱わなければならなくなり、ページのロード時間が桁違いに長くなった。
このため、より多くのデータを処理することによるレイテンシを相殺するために、エンドユーザーの近くでコンテンツをキャッシュする需要がさらに高まったため、この時点でCDNの重要性がさらに高まった。
データの増加は、ユーザー生成コンテンツ(ブログ記事のコメント欄やeコマースサイトの商品レビュー)、パーソナライズされたコンテンツ(パーソナライズされた商品の推奨やパーソナライズされたニュースフィード)、リアルタイムコンテンツ(スポーツのライブスコア更新やスポーツイベントのライブストリーミング)等の動的コンテンツに対する需要の高まりに伴っていた。
そのため、リアルタイムのデータ処理と低遅延のインタラクションに対する要求がより顕著になり、従来のCDNでは対応できなかった新たな課題が浮き彫りになった。
そして、2010年代後半からエッジコンピューティングの時代が到来した。
エッジコンピューティングのコンセプトは、CDNモデルの自然な進化として登場した。
CDNがネットワークのエッジでコンテンツをキャッシュできるのであれば、そこでデータを処理することもできるのではないか?
このアイデアは、計算をユーザーに近づけ(ビデオストリーミングなど)、待ち時間を減らし、リアルタイムのデータ処理を可能にすることを約束した。
クラウドフレア(NET)やファストリー(FSLY)のような企業は、早くからこの可能性に着目し、CDNインフラを拡張してエッジ・コンピュート機能を含めるようになった。
例えば、Cloudflare Workersは、開発者がエンドユーザーに近いクラウドフレアのPoP(Point of Presence:ポイント・オブ・プレゼンス)のエッジで直接実行するJavaScriptコードをデプロイすることを可能にした。
そして、このシフトは、単にコンテンツ配信を高速化するだけでなく、まったく新しいタイプのアプリケーションを可能にするものだった。
実際に、リアルタイム分析、パーソナライズされたコンテンツ、セキュリティー対策(ユーザー認証など)が、集中型サーバーではなくエッジで実装できるようになり、ユーザー体験が大幅に向上した。
結果、開発者は、ミリ秒単位で実行される複雑なロジックを構築し、より高速で応答性の高いアプリケーションを提供できようになった。
同様に、ファストリーのCompute@Edge(現在はFastly Computeにリブランドされている)は、カスタムコードをエッジで実行するための強力なプラットフォームを導入した。
また、WebAssembly(C++のような高級言語がコンパイルできる低レベル言語。バイナリ形式であるためマシンコードに近く、高級言語コードよりも高速に実行できる)を活用することで、ファストリーは、開発者が高性能で安全なアプリケーションを書くことを可能にし、グローバルネットワーク全体に優れたスケーラビリティで展開できるようにした。
これは、従来のCDNの役割から大きく逸脱し、これらの企業を新興エッジ・コンピュート市場の重要なプレーヤーとして位置づけた。
そして、次世代CDNとエッジ・コンピュートへの需要の背景には、ウェブサイトの所有者が、遅延の増大によって増幅される直帰率(バウンスレート)を抑える必要があることが挙げられる。
より多様なコンテンツ(テキスト、画像、動画、ダイナミックなど)をより高速に配信できれば、直帰率を下げ、コンバージョンを増やすことができる。
また、CDNからCDN+エッジ・コンピュートへの移行は、イノベーションの新たな機会ももたらした。
例えば、超低遅延で高速なデータ処理を必要とするゲーム、IoT、拡張現実(AR)などの業界は、こうした進歩の恩恵を受け始めた。
より具体的には、オンラインゲームプラットフォームは、ゲームロジックをクラウドではなくエッジで処理することで、よりスムーズでラグのない体験を提供できるようになった。
IoTデバイスはローカルでデータ処理を実行できるようになり、集中型サーバーに膨大な量のデータを送り返す必要性が減った。
さらに、COVID-19の大流行は、エッジ・コンピューティング技術の採用を加速させた。
そして、リモートワークやオンライン教育からストリーミングやバーチャルイベントまで、オンライン活動の劇的な増加に伴い、効率的でスケーラブルなインターネットインフラの必要性がかつてないほど重要になった。
すでにエッジコンピューティングに投資していた企業は、突然の需要急増に対応し、ユーザーに信頼性の高い高性能なサービスを提供するのに有利な立場にあった。
エッジ・コンピューティングの魅力は、サーバーレスであること、つまり開発者が基盤となるインフラの設定に煩わされる必要がないことにもある。
このため、エッジ・コンピュートでは、需要の増加に応じてアプリケーションのホスト数を迅速に自動拡張できるため、拡張性が高い。
そして、開発者は、インフラリソースの設定やプロビジョニングに時間を費やす代わりに、アプリケーションコードの付加価値の向上や差別化に集中できる。
一般的に、ウェブサイトやその他のオンライン・インタラクションのデジタル化が進むにつれて、エッジ・コンピュートはますます重要な役割を果たすようになるだろう。
しかし、この数十年のトレンドはまだ始まったばかりだ。
AI、産業用IoT/OT、デジタル・ツイン、メタバース、自動運転車などのトレンドが融合するにつれ、エッジ・コンピュートが重要な役割を果たすようになるだろうと見ている。
次のレポートでは、クラウドフレア(NET)とアマゾン(AMZN)のAWSとの比較について深堀していきたい。
※続きは「② Part 3:クラウドフレア / NET:サーバーレス・エッジ・コンピュート分野の競合アマゾンAWSとの比較分析」をご覧ください。