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06 - 08 - 2024

中立
クラウドフレア
中立
現在の同社の株価はフェアバリューの範囲内で取引されていると見ているが、可能性としては、現水準からのアップサイドよりもダウンサイドの方が遥かに大きいと見ているため、同社の株価に急激な調整が見られるまでは引き続き様子見スタンスを継続したい。
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② Part 4:クラウドフレア(NET):GTM(市場進出)/マーケティング戦略とSASE市場における競争力&競合分析

コンヴェクィティ  コンヴェクィティ
  • ②では、クラウドフレア(NET)がエンタープライズ(企業向け)・ネットワークセキュリティにより適した新たなGTM戦略を実行せざるを得ない市場におけるダイナミクスについて論じていく。
  • 同社はSASE市場に参入し、フォワードプロキシ機能を導入しているが、エンタープライズ市場でのシェア獲得に苦戦している。
  • 同社のGTM(市場進出)戦略は、中小企業向けのボトムアップ型からエンタープライズ向けのトップダウン型への転換が必要である。
  • 同社は、エンタープライズ顧客へのアプローチを強化し、チャネルパートナーとの関係構築を進めているが、製品の成熟度とサポート体制の構築には時間がかかると見ている。

※「① Part 4:クラウドフレア(NET):2024年1Q決算速報・財務分析と今後の株価見通し(Cloudflare)」の続き

※専門用語の解説に関しては、「① Part 1:クラウドフレア / NET:サイバーセキュリティ銘柄のテクノロジー上の競争優位性(強み)分析と今後の将来性(前編)」をご覧ください。

GTM戦略:プリンスCEOとクラウドフレア(NET)はエンタープライズ・セグメントで成功出来るのか?

クラウドフレア(NET)は技術的、あるいはアーキテクチャ的にSASE(Secure Access Service Edge)の世界に適応し、リバースプロキシ(インターネット上の外部脅威からWebアプリケーションを保護し、パフォーマンスを向上させるためにWebアプリケーションの前方に配置される)としてのみ動作することから、フォワードプロキシ機能を組み込むことに移行している。

この後者の機能は、従業員とインターネットの間に位置し、ユーザーとその組織の両方をオンラインリスクから保護している。

そして、このことは、ガートナー社やフォレスター社のような業界からの評価によって証明されている。

しかし、市場におけるモメンタムという点では、クラウドフレアはまだ長い道のりを歩んでいる。

同社は、パンデミック発生直前の2020年にCloudflare for Teams(社内アプリケーションへのセキュアなアクセスはZTNA / Zero Trust Network Access、従業員のインターネットへのアクセスはSWG / Secure Web Gateway)を発表し、SASE市場、あるいはより広範な企業のネットワーキングとネットセキュリティ市場に正式に参入した。

そして、ガートナー社がSASEコンセプトを発表したのは2019年8月であったため、彼らが市場に出遅れたわけではない。

したがって、すべてのNetSec(Network security / ネットワーク・セキュリティベンダーは、既存の製品を再利用するか、ゼロから新しいものを構築するために奔走していた。

つまり、ほとんどのベンダーが2019年後半から2020年前半にかけてSASEの最初のイテレーションをリリースしていたのである。

しかしながら、ゼットスケーラー(ZS)は例外であり、なぜなら、同社は既に自社開発のクラウドベースのZTNAとSWGを持っており、2018年にはTrustwaveというCASB(Cloud Access Security Broker)の新興企業を買収していたためである。

そのため、既存の製品群に加え、創業者兼CEOのジェイ・チャウドリー(Jay Chaudhry)が率いる同社の優れたトップダウンGTM(市場進出)アプローチのおかげで、ゼットスケーラーはSASE市場で素晴らしいスタートを切ることとなった。

一方で、クラウドフレアは事実上、他のSASE候補と同時にスタートラインに立つこととなった。

パロアルトネットワークス(PANW)は2019年後半にPrisma SASEの最初のイテレーションをリリースしたが、当時はまだグーグル(GOOG/GOOGL)のグローバル・ネットワークにPoPを設置するのに必死であった。

そして、パロアルトネットワークス等の競合他社に対するクラウドフレアのアドバンテージは、すでに広範なグローバルリーチを持つ独自の高密度ネットワークを持っていたことだ。

そのため、クラウドフレアは初期から製品とネットワークを持っていたのである。

では、その様な状況であったにもかかわらず、なぜクラウドフレアはパロアルトネットワークスやブロードコム(AVGO)、Netskope、フォーティネット(FTNT)に比べて市場シェアの獲得が遅いのだろうか?

市場シェア獲得が遅い理由は、製品やネットワークにあるのではなく、クラウドフレアのGTM戦略にある。

同社は歴史的に、ボトムアップ型のセルフサービス・モデルで評判と顧客基盤を築いてきており、それは中小企業にとって非常に好都合であった。

このアプローチが中小企業と相性が良いのは、中小企業の技術スタックやネットワークがそれほど複雑でなく、ほとんどの場合、既存のソリューションを持っていないからである。

そのため、SMB(中小企業)の要件はシンプルで、CDN(Contents Delivery Network)やDDoS(Distributed Denial-of-Service分散型サービス拒否)プロテクションを初めて導入するような中小企業でも、クラウドフレアのセルフサービスモデルを活用すれば、比較的簡単にソリューションを導入することができる。

しかし、クラウドフレアがエンタープライズ(大企業向け)セグメント、特にプリンスCEOが照準を合わせるSASE市場をターゲットとするににつれ、同社はGTM戦略における戦略的転換を必要とする重大な課題に直面した。

第一に、企業顧客は複雑なネットワーキング環境にあり、同類または類似の製品が既に多数存在している。

そのため、それらの企業は、既存のソリューションの廃止または置き換えを検討し、クラウドフレアの製品と彼らのベンダー・エコシステムとの統合も検討する必要があることから、クラウドフレアのセルフサービス・モデルを単純に使用して自社で容易に導入するということはできない。

そのため、システムインテグレーターやコンサルタントなどのチャネルパートナーや、POC(概念実証)の実施を支援するセールスエンジニアやソリューションアーキテクトで構成されるベンダー独自のプリセールス・サポートチームの支援が必要となる。

また、ベンダーのカスタマーサクセスチームによる販売後のサポートも必要である。

なぜなら、カスタマイズや慎重な対応が必要な、導入後に発生する特異な問題が必ずあるからである。

そのため、同社はチャネルとの関係やプリセールス、ポストセールスサポートのインフラが整っていない中で、既存のオンプレミス中心のネットワーキングとネットセキュリティーを置き換えることを目指しているため、導入が複雑となり、SASE市場で苦戦を強いられる展開となっている。

企業顧客とのPOCへの参加は、これらの企業が持つ複雑で特殊なニーズのために、同社のリソースを特に消耗する。

複雑で長時間に及ぶ評価プロセスでは、ベンダーは企業独自の要件を満たすよう正確に製品を調整し、既存システムとのシームレスな統合を確保する必要がある。

しかしながら、このような実践的アプローチはクラウドフレアのDNAには根付いておらず、それをサポートするリソースを用意し、インフラを構築するには長い時間がかかる。

クラウドフレアの市場導入が遅れているもう一つの理由は、SASE製品の成熟度である。

同社のボトムアップ・アプローチでは、新機能や新製品を迅速に導入することで、中小企業の技術者との関係を維持する必要があった。

このため、同社の製品開発チームは、ある機能や製品を0%から80%まで素早く引き上げ、ユーザーからのフィードバックを取り入れて90%まで改良を重ねることには長けているが、製品を100%弾丸のように強固なものにするには至っていない。

ほとんどの中小企業にとって、製品を80%にすることは、よりシンプルな要件と低いトラフィック・レベルを満たすことになるので、十分である。

しかし、80~90%では、より包括的なソリューションを必要とする特殊なコーナーケースや、企業のトラフィックの要求に確実に耐えられる、より実戦的な製品、一般的にはより洗練された製品を必要とする企業にとっては十分ではない。

SMBと企業のニーズを比較する例えとして、ビュッフェとミシュランの5つ星レストランを挙げることができる。

SMBの顧客は提供されるものなら何でも喜んで食べるが、企業の顧客は特定の嗜好を満たすために特別な食事のリクエストをするかもしれないといったところだろうか。

それとは対照的に、ゼットスケーラーは新機能/製品のリリースが非常に遅いが、新製品を発売する際には、それが100%エンタープライズ対応であるように仕上げきている。

なぜなら、最も要求の厳しい顧客は、何千人もの従業員が何百もの異なるアプリケーションやシステムに接続し、毎日何テラバイトものデータをやり取りする大企業だからである。

もうひとつの理由は、すでに触れたが、NETが歴史的にチャネル・パートナーとの関わりを最小限にしてきたことである。

シスコ・システムズCSCO)やパロアルトネットワークスのようなハードウェア中心の競合とは異なり、クラウドフレアのソフトウェア中心のアプローチは当初、伝統的なパートナーモデルとうまく合致していなかった。

パートナーは多くの場合、ハードウェア製品の販売とサポートから大きな収益を得ており、クラウドフレアの製品は実際に目に見える製品ではないため、ネットワークとNetSec向けのクラウドフレアのソリューションに投資することを正当化するのが困難となっていた。

また、SASEは顧客から見ればハードウェアを必要としないアプローチであるにもかかわらず、チャネル・パートナーは、既にハードウェア/オンプレミスの関係を持っているベンダーのSASEソリューションを選択する可能性が高い。

なぜクラウドフレアがまだチャネルとの強い関係を築けていないのかについて、さらに考えを広げると、ゼットスケーラーは実装が難しいため、チャネル・パートナーは自然とクラウドフレアよりもゼットスケーラー等の製品を好む傾向がある。

これは、チャネル・パートナーはゼットスケーラーを使用する際の複雑な実装を解決することで、彼らの顧客により多くの価値を提供することができるためである。

対照的に、クラウドフレアの導入は比較的簡単であるため、労力やコンサルティングの回数が減り、チャネル・パートナーの収益が減ることになる。

つまり、これまでクラウドフレアは、エンタープライズ・セグメントへの参入のためにチャネル・パートナーが必要であるにもかかわらず、チャネル・パートナーはクラウドフレアを自分たちのビジネスに適しているとは考えていないため、窮地に陥っていたのである。

こうした障害を克服するには、パートナー戦略を再定義することが重要であり、クラウドフレアはそれを実践してきた。

具体的には、システムインテグレーター、MSSP(マネージド・セキュリティ・サービス・プロバイダー)、ソリューション・パートナーとの強固な関係を構築することで、同社のエンタープライズ向け製品のより広範な導入が促進される。

これらのパートナーは、企業顧客が必要とするカスタマイズ、導入サービス、継続的なサポートを提供することができる。

しかし、クラウドフレアにとっては、魅力的なマージンと協力的なGTM戦略を通じて、これらのチャネル・パートナーにインセンティブを与えることは、同社製品のより広範な採用とより強いロイヤリティを推進する上で極めて重要であると言える。

また、同社は、チャネル・パートナーへの新たな注力を行うとともに、先に述べた2つのステージにまたがる製品開発について考える必要がある。

SASEやその他の企業向けネットワーキング/ネットセキュリティ製品については、おそらく同社は、新機能/製品をエンタープライズグレードにするために、別の製品開発部門を設立し、より実践的なアプローチが必要となる企業顧客と緊密に連携して製品を改良する必要がある。

最後に、同社はトップダウンのGTM戦略を実行する必要がある。

同社は2019年にフィールドセールス・チームを発足させたばかりで、営業担当者が現地に赴き、見込み顧客の経営幹部や意思決定者と直接会っている。

また、チャネル・パートナーを開拓し始めたのもこの頃である。

それまでは、営業部門はインサイドセールス・チームとアカウントマネジャーで構成され、既存顧客との取引拡大を図っていた。

そのため、ゼットスケーラーが2007年の創業時にこのトップダウン方式でスタートしたことを考えれば、クラウドフレアの営業組織はまだまだ未熟なのである。

プリンスCEOはこれに懸命に取り組んでおり、2022年11月にマーク・ボロディツキー氏を新しいCRO(Chief Revenue Officer / チーフレベニューオフィサー)に任命した。

※正確なタイトルは「President of Revenue(収益担当社長)」

しかし、プリンスCEOは満足のいく結果を得られなかったため、最近になってボロディツキー氏に代わり、以前4年間クラウドフレアの取締役を務めていたマーク・アンダーソン氏を起用した。

アンダーソン氏は2018年までの6年間、パロアルトネットワークスのエグゼクティブ・バイス・プレジデント兼社長を務め、営業、コーポレート・ディベロップメント、カスタマーサービスなど幅広い部門を統括していたため、クラウドフレアはエンタープライズ・セグメントに関する貴重なノウハウを手に入れたことになる。

その他にも、多くの副社長や役員クラスの交代が行われ、クラウドフレアはSASEとエンタープライズ・ネットワーキング/ネットセキュリティのための正しい軌道に乗ることができた。

まとめると、クラウドフレアは企業顧客に対してトップダウンでハイタッチなGTM戦略を開発し続ける必要がある。

Cレベルやバイス・プレジデント・レベルのエグゼクティブと接触し、最初のミーティングを行い、POC中に優れたプリセールスサポートを提供し、さらに模範的なポストセールスサポートを提供するのである。

また、チャネル・パートナーとの関係を強化することも必要である。

また、セルフサービス型の中小企業と複雑で堅牢な大企業向けでは、製品開発のニーズが異なることも考えなければならない。

しかし、ようやく同社においても進展が見られるようになってきている。

最近の決算説明会における数字とプリンスCEOの説明からは、物事が上手くいき始めていることを示唆しているように見える。

プリンスCEOのコミットメントと忍耐力からも、我々は彼とクラウドフレアが今後さらに成功することを期待している。

しかし、この新しいアプローチに資金を供給するには、S&MとG&Aを増やす必要があり、GAAPベースでの収益性の実現はずっと先のことになるだろう。

※続きは「③ Part 4:クラウドフレア(NET):2024年1Q決算を踏まえた財務・バリュエーション分析&今後の株価予想・将来性」をご覧ください。

その他のクラウドフレアに関するレポート

1. ① Part 1:クラウドフレア / NET:サイバーセキュリティ銘柄のテクノロジー上の競争優位性(強み)分析と今後の将来性(前編)

2. ① Part 2:クラウドフレア / NET:SASEにおける同社の強み&競合分析・比較(PANW、FTNT、ZS)(前編)

3. ① Part 3:クラウドフレア / NET:エッジ・コンピュート分野における同社のテクノロジー面での強み&競争優位性

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