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05 - 31 - 2024

③ Part 3:クラウドフレア / NET:エッジ・コンピート分野のファストリー(FSLY)との競合&強み(優位性)分析

コンヴェクィティ  コンヴェクィティ
  • ファストリー(FSLY)のネットワークは、クラウドフレア(NET)に比べ速度が劣らないが、クラウドフレアに対するアドバンテージは少ない。
  • ファストリーのLucetランタイムは高性能で低レイテンシーのアプリケーションを提供し、セキュリティにも優れているが、ストレージオプションが少ない点が課題である。
  • ファストリーはGlitchの買収により開発者コミュニティを強化しており、今後、エッジコンピューティング分野でクラウドフレアに匹敵する競争力を持つ可能性がある。

※「② Part 3:クラウドフレア / NET:サーバーレス・エッジ・コンピュート分野の競合アマゾンAWSとの比較分析」の続き

クラウドフレア(NET)ファストリー(FSLY)の比較

ファストリーFSLY)のネットワークは、クラウドフレア(NET)の密度には及ばないものの、おそらく世界最速のネットワークだろう。

ただし、この2つのライバルの速度差はごくわずかで、ファストリーの速度は他社に対するアドバンテージにはなっているが、クラウドフレアに対するアドバンテージにはなっていない。

ファストリーのエッジ・コンピュート・プラットフォームはWasm(WebAssembly)モジュールを利用し、高性能で低レイテンシーのアプリケーションを提供する。

同社の超軽量Wasmランタイム(同社はLucetと呼んでいる)は、他社製品に対する主な利点であり、コールドスタートを効果的に排除することで、リアルタイム・アプリケーションの要件に対するレイテンシーをさらに低減している。

軽量なLucetランタイムのおかげで、開発者(エンジニア)のアプリケーションは非常にポータブルであり、動的な需要に対応するための迅速で弾力的なスケールとデプロイの柔軟性という利点がある。

加えて、同社のランタイムのもう一つの大きな利点はセキュリティである。

入ってくるリクエストによって呼び出される関数ごとのわずかなオーバーヘッドとメモリ割り当てにより、各プロセスはサンドボックス化されている。

ハッカーがプロセスに侵入し、横方向に移動して機密データを盗んだり、システム全体を侵害したりする可能性があるため、このようにメモリ空間を分離しないと、アプリケーションはサイバー攻撃に対して脆弱になる。

VM(仮想マシン)やコンテナに関連する長時間のコールド・スタートにより、パブリック・クラウドのサーバーレス・プラットフォームは、こうした遅延を避けるためにコードをウォームな状態に保たざるを得なくなる。

例えば、最初のユーザーがリクエストを送信すると、そのユーザーの「状態」が入力され、環境が起動され、将来のコールドスタートを避けるためにオープンな状態に保たれる。

後続のユーザーの状態も同じ環境に入力されます。

時間が経つにつれて、複数のユーザーが環境を共有するようになり、メモリ共有のリスクが高まり、互いの状態が暴露される可能性も出てくることから、セキュリティ・リスクが著しく高まる。

このようなメモリの欠陥は、メルトダウン(Meltdown)とスペクターSpectreの脆弱性の原因であり、コンピューティング史上最も広範で危険なセキュリティ問題となっている。

ファストリーがLucetと共に開拓したブレークスルー(飛躍的進歩)は、サンドボックスで各プロセスを隔離し、使用後のデータを即座に消去することで、メモリの脆弱性を防いでいる。

一方で、ファストリーがクラウドフレアに遅れをとっている点として、ストレージオプションがある。

ファストリーはエッジでキーバリュー・データベースのみを提供している(クラウドフレアのようにデータのエグレス料金は無料)のに対し、先に示したように、クラウドフレアはキーバリュー、SQL、オブジェクト・ストレージを提供している。

ファストリーはまた、オープンソースのモデルへのアクセス、モデルのインポートやトレーニングのためのツール、推論用のGPUへのアクセスを提供していないため、生成AI開発サービスでも遅れをとっている。

また、同社のベータ版でもこの点に関する情報が何も無いことからも、これはかなり懸念すべき点である。

ファストリーとクラウドフレアのうち、前者はイベント・ストリーミングとストリーム処理の分野で戦略的な動きを見せ、イノベーションを起こした最初の企業である。

2022年3月、ファストリーはリアルタイム・ストリーミング、パブリッシュ・サブスクライブ・メッセージキュー・モデルを提供するFanoutを買収している(買収金額は非公開)。

この買収により、同社はリアルタイム更新と双方向通信を効率的に処理できるようになり、スポーツの実況中継、チャット・アプリケーション、金融市場のフィードなど、瞬時のデータ配信を必要とするアプリケーションに最適となった。

Cloudflare Workersと広範なクラウドフレアのプラットフォームは、特定のイベントドリブンとストリーム処理のユースケースに使用出来るが、クラウドフレアはファストリーが獲得したイベントストリーミング機能に匹敵する機能を備える上で時間がかかっている。

これに対するクラウドフレアの対応は、2022年末にベータ版、2024年4月にGAとしてリリースされたCloudflare Queuesである。

しかし、Cloudflare Queuesは、非同期ジョブを処理するためのメッセージキューの作成と管理のために設計されているが、厳密にはPub-Subシステムではない。

その代わり、Cloudflare Queuesは単一のコンシューマーが処理する必要のあるタスクを順序付けるためのシステムであり、複数のコンシューマー/サブスクライバー(つまり、ユーザーがチェックアウトに進む、あるいはIoTセンサーの読み取り値などのイベントデータを入力として必要とするアプリケーションやシステム)にリアルタイムでメッセージを配信するように設計されたPub-Subシステムとは対照的である。

つまり、ファストリーは、ライブアップデート、通知、ストリーミングデータなど、複数のコンポーネントがリアルタイムでイベントに反応する必要がある、イベントドリブン・アーキテクチャを作成したい顧客にとって、現時点ではより適していると言える。

クラウドフレアと同様、ファストリーも開発者エクスペリエンスで高得点を獲得している。

これは主に、同社が2011年に設立された当初から、他の企業よりもずっと早く開発者向けにサービスを開始していたことに起因している。

しかし、クラウドフレアがファストリーよりも早くエッジ・コンピュート向けGTM戦略(市場進出戦略)のペダルを強く踏み込んだため、クラウドフレアはよりアクティブな開発者コミュニティを蓄積している。

しかし、2022年にファストリーがGlitchを買収したことで、その差は縮まり、開発者コミュニティは強化され、クラウドフレアの強固なエコシステムに匹敵するものとなった。

Glitchのプラットフォームは、Webアプリケーションの作成と共有の使いやすさで知られており、ファストリーに充実した開発者ベースをもたらしている。

また、Glitchのプラットフォームは、これまでファストリーに欠けていた使いやすいフロントエンド開発スタックも提供している。

しかし、この買収は、ターゲットとする開発者層の違いによる相乗効果について、いくつかの疑問を投げかけている。

ファストリーのエッジ・コンピュート・プラットフォームはプロの開発者向けであるのに対し、Glitchはアマチュア開発者に大きな支持を得ている。

しかし、この買収がうまく実行されれば、ファストリーにとって戦略的なチャンスとなる。

Glitchのユーザーフレンドリーで共同作業しやすい環境を統合することで、同社は新しい開発者を引き付け、育成することができ、彼らのスキルやプロジェクトの複雑さが増すにつれて、最終的に同社の高度なエッジコンピューティング機能の利用にスムーズに移行できるような一連のフローを提供することができる。

この動きにより、同社のユーザーベースが拡大し、初心者からプロフェッショナルまで、包括的な開発者コミュニティが育成されるはずである。

GitHubのようなプラットフォームを彷彿とさせるGlitchのコラボレーション機能は、開発者がプロジェクトを共有し、リミックスすることを容易にし、コミュニティへの参加を促進することができる。

このコラボレーティブな雰囲気は、活発な開発者コミュニティの育成という点で、ファストリーがクラウドフレアに追いつくのに役立つだろうと見ている。

Cloudflare Workersは強力なツールだが、JavaScript、TypeScript、WebAssemblyに重点を置いているため、経験豊富な開発者向けであり、Glitchに比べるとやや閉鎖的で、本質的な共同作業性は低い。

したがって、ファストリーがGlitchのオープンでコミュニティ主導のアプローチを統合することで、競争力を高め、あらゆるレベルの開発者にとって魅力的なプラットフォームとなり、エッジコンピューティング分野でクラウドフレアの強力なライバルとなる可能性があると見ている。

クラウドフレアに対するファストリーの強み

・クラウドフレアのランタイムがV8アイソレートをベースにしていることを考えると、ランタイムの軽量化はあまり感じられない。ファストリーのLucetが高い模倣に対する障壁を築いているのに対し、クラウドフレアのV8アイソレートの使い方はすでに模倣されており、例えば、アカマイ・テクノロジーズAKAM)はクラウドフレアを模倣したベンダーの一社である。

・リアルタイム・データ処理のためのPub-SubシステムであるFanoutを買収したことにより、イベント・ストリーミングやストリーム処理の機能がより高度になった。

・同様の高品質な開発者体験。

・プロの開発者に関しては、クラウドフレアよりも開発者コミュニティが小さいが、Glitchはファネルの幅を広げ、将来的にファストリーがより大きなプロの開発者コミュニティを形成できるようサポートする可能性がある。

クラウドフレアに対するファストリーの弱み

・クラウドフレアに比べ、ネイティブ・ストレージのオプションが少ない。

・生成AIの面では何も提供していない。

・企業文化的に、ファストリーはベータ版、アルファ版、GA版をリリースする前に製品や機能を完成させることに集中しすぎている。一方、クラウドフレアは、未完成の製品を市場にリリースし、ユーザーからのフィードバックを素早く反映させることに専念しているため、同社はシェアを拡大し続けるだろうと見ている。現在ベータ版だが、一般に公開されているクラウドフレアのVectorizeは、その典型的な例と言える。

次のレポートでは、クラウドフレア(NET)とアカマイ・テクノロジーズAKAM)との比較について深堀していきたい。

※続きは「④ Part 3:クラウドフレア / NET:エッジ・コンピート分野のアカマイ・テクノロジーズ(AKAM)との競合&強み(優位性)分析」をご覧ください。