Part 1:AI(人工知能)がもたらす未来とは?テクノロジー企業のAI投資は失敗?AIの発展によるメリットとデメリットを徹底解説!
ダグラス・ オローリン- 本稿では、米国の大手テクノロジー企業を中心とした、AI(人工知能)への投資における投資収益率(ROI)に関して解説していきます。
- AIへのROIは、トレーニングコストや最先端モデルの開発コストが影響して、明確に説明するのが難しいです。
- メタ・プラットフォームズやマイクロソフト等、多くの大手テクノロジー企業がAI分野で過剰に投資している可能性があります。
- しかし、「競争力を維持するためにはリスクを伴うものの、投資を続けるべきだ」という見解が、それらの大手テクノロジー企業の経営陣からは示されています。
- AIテクノロジーに対する投資において、「次世代技術の競争で後れを取るリスクを回避するため、過剰投資を選択する」という企業の戦略は、ドルオークションのように進行しているように見えます。
AI(人工知能)におけるROI(投資収益率)とは?
AI(人工知能)のROI(投資収益率)を正確に説明するのは非常に難しい問題です。AIモデルを使用して収益を得るという観点では、ある程度の価値があり、利益を上げることができると主張するのは容易です。しかし、トレーニングコスト、特に最先端モデルのスケールアップにかかるコストに目を向けると、ROIを明確に説明するのがますます難しくなってきます。では、ROIとは一体何なのでしょうか?
さらに、最近では、ハイパースケール企業やAIラボが最先端モデルを開発するために行っている多額の支出に対して、疑問を投げかける声が初めて聞かれるようになりました。いったいどういうことなのでしょうか?本稿では、これまでのハイパースケール企業のキャピタル支出を振り返りつつ、この問題に対する私の考えを述べたいと思います。ただし、先にお伝えしておきますが、明確な答えがあるわけではありません。
※ROI(投資収益率): 投資によって得られた利益を、その投資にかかった費用で割ったもので、投資の効率性を示す指標。高いROIは、投資が成功し、効率的であったことを意味する。
※ハイパースケール企業:非常に大規模なデータセンターを運営し、クラウドサービスやインターネットサービスを提供する企業のこと。代表的な例として、アマゾン(AMZN)のAmazon Web Services(AWS)、マイクロソフト(MSFT)のAzure、アルファベット(GOOG/GOOGL)のGoogle Cloudなどがある。
※AIラボ:人工知能(AI)に関する研究や開発を専門に行う研究施設や部門のこと。企業や大学に設置され、最先端のAI技術の開発や応用に取り組んでいる。
AI(人工知能)投資に関するROIに対する最近の市場の疑問とは?
まず、メタ・プラットフォームズ(META)のマーク・ザッカーバーグ氏がブルームバーグのインタビューで、AIがバブルかもしれないと率直に認めたコメントが話題になりました。AIには確かに価値があるが、過剰な支出のリスクが現実に存在すると指摘しています。
(原文)I think bubbles are interesting because a lot of the bubbles ended up being things that were very valuable over time and it's just more of a question of timing, like you're asking, right? Even the dot com bubble, you know, it's like there's all this fiber laid and it ended up being super valuable, but it just wasn't as valuable as quickly as people thought.
(日本語訳)バブルというものは面白いもので、多くの場合、時間が経つにつれて非常に価値があるものになることが多いんです。それは単にタイミングの問題に過ぎないということです。例えば、ドットコムバブルも、多くの光ファイバーが敷設され、最終的には非常に価値があるものとなりましたが、当初予想されていたほど早くはその価値が現れませんでした。
(原文)So, is that gonna happen here? I don't know. I mean, it's hard to predict what's gonna happen in the next few years. I think Al is gonna be very fundamental. I think that there's a meaningful chance that a lot of the companies are overbuilding now and that you look back and you're like, Oh, we maybe all spent some number of billions of dollars more than we had to. But on the flip side, I actually think all the companies that are investing are making a rational decision because the downside of being behind is that you're out of position for, like, the most important technology for the next 10 to 15 years.
(日本語訳)では、今回も同じことが起こるのでしょうか?正直言って、私は分かりません。今後数年間に何が起こるかを予測するのは非常に難しいです。しかし、AIは非常に基本的な技術になると思います。多くの企業が現在、過剰に構築している可能性があり、後になって振り返ってみると、数十億ドルも無駄に使ってしまったと思うかもしれません。しかし、その一方で、今投資している企業は合理的な判断をしていると考えています。なぜなら、遅れを取るリスクは、今後10年から15年の間で最も重要な技術の一つに関して、競争力を失うリスクに直結するからです。
このコメントは、AI投資における短期的なROIが悪い結果になる可能性があることをほぼ確定させるものですが、長期的に見れば、やはり投資を続けるべきだということを示唆していると言えます。
さらに、アルファベット(GOOG/GOOGL)のCEOであるサンダー・ピチャイ氏は、決算報告で「リスクは過剰投資ではなく、むしろ投資不足にある」と述べました。
(原文)I think the one way I think about it is when we go through a curve like this, the risk of under-investing is dramatically greater than the risk of over-investing for us here, even in scenarios where if it turns out that we are over-investing, we clearly -- these are infrastructure which are widely useful for us. They have long useful lives, and we can apply it across, and we can work through that. But I think not investing to be at the front here, I think, definitely has much more significant downside.
(日本語訳)このような成長曲線を迎えたとき、私が考える一つの方法は、私たちにとって、過小投資のリスクは、過剰投資のリスクよりもはるかに大きいということです。たとえ過剰投資であったとしても、それは私たちにとって非常に有用なインフラであり、長期的に活用できるものです。私たちが最前線に立つための投資を怠ることは、はるかに大きなデメリットをもたらすと考えています。
そして、より優れたモデルを作るために、スケーリングの法則に信頼を置くことが不可欠です。もしこれが改善されなければ、全てのキャピタル支出は無駄になってしまう可能性があります。
※スケーリングの法則(Scaling laws):システムやモデルのサイズを拡大することで、その性能や特性がどのように変化するかを示す法則のこと。特にAIや機械学習の分野では、モデルの規模(パラメータ数やデータ量など)を増やすと、性能(例えば、精度や予測能力)が向上するという傾向があり、これを説明するのがスケーリング法則。ただし、無限に効果が上がるわけではなく、拡大による効果が減少するポイントもある。
(原文)To your second question on whether -- how do the scaling laws hold? Are we hitting on some kind of wall or something? Look, I think we are all pushing very hard, and there's going to be a few efforts which will scale up on the compute side and push the boundaries of these models. What I would tell is regardless of how that plays out, I still think there is enough optimizations we are all doing, which is driving constant progress in terms of the capabilities of the models. And more importantly, taking them and translating into real use cases across the consumer and enterprise side, I think on that frontier, I think there's still a lot of progress to be had. And so we are pretty focused on that as well.
(日本語訳)スケーリングの法則がどのように機能するかについてのご質問ですが、壁にぶつかっているのではないかという点について、私たちは全力で努力しており、コンピュート領域でいくつかの試みがスケールアップし、これらのモデルの限界を押し広げると思います。結果がどうであれ、モデルの能力向上のための最適化が進んでおり、消費者や企業の側面での実際のユースケースに転換することにおいても、まだまだ進展があると考えています。そのため、私たちはその点にも注力しています。
一方、マイクロソフト(MSFT)は、需要のシグナルに基づいて投資を行っており、「まだ供給が追いついていない」ことを強調しています。多くの疑問がある中で、少なくともマイクロソフトは市場の動向に迅速に対応していると主張しています。
(原文)So as we begin FY '25, we will continue to invest in the Cloud and AI opportunity ahead. aligned and if needed, adjusted to the demand signals we see. We are committed to growing our leadership across our Commercial Cloud and within that, the AI platform, and we feel well positioned as we start FY '25.
(日本語訳)2025年会計年度を迎えるにあたり、クラウドとAIの成長機会に向けた投資を継続していきます。需要シグナルに合わせて、必要に応じて調整していきます。商業クラウドとその中のAIプラットフォームでリーダーシップを強化し、2025年会計年度のスタート時点で良好なポジションにあると感じています。
(原文)This includes both AI demand impacted by capacity constraints and non-AI growth trends similar to June. Growth in our per user business will continue to moderate.
(日本語訳)これには、キャパシティの制約によるAI需要の影響と、6月と同様のAI以外の成長トレンドの両方が含まれます。ユーザー単位のビジネスの成長は引き続き緩やかになるでしょう。
これだけの支出と、次世代のプラットフォームで遅れを取らないための競争が繰り広げられる中で、AIの資本サイクル(またはバブル)をよりシンプルに捉えるならば、それはドルオークションのようなものだと言えるでしょう。
※ドルオークション(Dollar Auction):経済学のゲーム理論で知られる競りの一種で、参加者が1ドルを落札するために競り合うもの。最も高い入札をした人が1ドルを獲得しますが、2番目に高い入札者もその金額を支払わなければならない。この仕組みのため、入札者は競争が激化する中で損失を避けようと入札額を上げ続け、結果として最初に考えていた以上の額を支払うことになる場合が多い。この状況は、無益な競争や過剰投資の象徴として使われることがある。
ハイパースケール企業の設備投資をドルオークションとして捉える
一部の支出は、次世代技術から締め出されることへの不安から来ていると思います。アルファベット(GOOG/GOOGL)のCEOであるサンダー・ピチャイ氏氏が言ったように、投資が不足するリスクは、過剰投資のリスクよりもはるかに大きいのです。次のプラットフォームを競合に取られてしまうと、AIの時代において自社のビジネスが二番手に甘んじることになります。
SIGGRAPHでのメタ・プラットフォームズ(META)のマーク・ザッカーバーグ氏の発言が一番的確だと思います。彼は、他社のプラットフォームで自社製品を販売することの苦労について詳しく語り、自分のビジネスで他社のモデルを使わなければならないと考えるだけで、「そんなの絶対嫌だ」と言い切りました。それほどまでに、他社のプラットフォームに縛られることに対して強い拒絶感を持っていたのです。
問題は、誰もが次の「大きな成功」に向かって競争していることです。もし誰かが、情報処理(マイクロソフト:MSFT)、情報検索(グーグル)、またはオンラインでの情報共有(おそらくメタ・プラットフォームズ)を過去のものにしてしまうような決定的なアプリを最初に作り出したら、その時点でAIの設備投資はドルオークションとして説明するのが最も適切となるでしょう。そのため、十分な投資をしなかった場合のリスクは、少し多めに投資するリスクよりもはるかに大きくなると言えます。
勝者はすべてを手に入れるでしょうが、損失を最小限に抑えるためには1ドル以上を支払っても良いと思うかもしれません。例えば、95セントで入札して負けるかもしれないと感じたら、1ドル15セントを支払って1ドルを確実に手に入れ、15セントの損失を受け入れる方が合理的かもしれません。1ドル未満で入札して負けるリスクを冒すことで、全額を失う可能性があるのです。ドルオークションの入札の論理については、この便利な恐竜のイラストを参考にしてください。
※SIGGRAPH(シーグラフ):コンピュータグラフィックスやインタラクティブ技術に関する国際会議および展示会の名称。毎年、研究者や業界の専門家が集まり、最新の技術や研究成果を発表・共有する場として知られている。正式名称は「Special Interest Group on Computer GRAPHics and Interactive Techniques」。
(出典:コーネル大学のブログ)
競争のダイナミクスは、損失を避ける観点から見ると、多くの悪影響を引き起こします。世界最大の5つのテクノロジー企業は、失うものが多く、得られるものが少ないため、この競争がオークションの仕組みを歪めることがあります。「過小投資」のリスクは、ドルオークションで負けることと捉えられており、たとえ支払いすぎたとしても、何も手に入らないよりは確実に勝つ方がはるかに良いと考えられています。そして、このことは、マーク・ザッカーバーグ氏やサンダー・ピチャイ氏の発言からも明らかです。
しかし、この歪んだドルオークションの論理とは別に、私が常に考えていることがあります。それは、AIが本当に多くの人が予想するような革命的な変化をもたらすのかという点です。この疑問に対して、私は悩んでいます。私たちは本当に1ドルを競り合っているのでしょうか?歴史に戻って考えると、この点に関して今日、少し歴史の教訓をお話ししたいと思います。これは、以前のテレコムバブルに関する私の投稿を、より現実的な視点で更新したものと考えてください。
歴史を振り返るとき、当時使われていた不完全な比喩や懐疑論者たちがどのように考えていたかを思い起こすことが重要です。今、ようやく懐疑的な見方が出てきています(これはありがたいことです)ので、これによって現在の資本サイクルの中で「私たちがどこにいるのか」をより理解しやすくなります。
私が何度も思い返すのは、インターネットの「情報スーパーハイウェイ(Information Superhighway)」時代です。あの時代もまた、世界はインターネットがどのような影響を及ぼすのかを模索していました。
そして、次章では、「情報スーパーハイウェイ(初期のインターネット)」、「AI投資への批判と、テクノロジーに逆行するリスク」に関して詳細に解説していきます。
※続きは「Part 2:AI(人工知能)の進化が社会にもたらす影響とは?インターネットとAIの進化の歴史を比較し、今後のAIの発展の可能性に迫る!」をご覧ください。
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