08/26/2026
やや強気
セレブラス・システムズ
やや強気
少人数・低バッチ向けの高速推論という需要が十分に育てば今後2〜3年は優位な位置にあると評価

Cerebrasは高速タクシー、NVIDIAは大量輸送バス(Part 1)

Main Imageコンヴェクィティ  コンヴェクィティ
記事要約

    ■タクシーとバスという構図
    少人数・低バッチ向けの高速推論に強いCerebrasと、多人数を同時にさばく経済性で勝るNVIDIAのGPUという構図で両者を整理しています。

    ■利用率の分岐点はバッチ3とバッチ160
    WSE-3はバッチ3前後で計算利用率がほぼ100%に達する一方、GPUが経済的な利用率に届くにはおよそ160の同時シーケンスが必要です。

    ■大衆向け市場ではGPUの柔軟性が優位
    SRAMベースの設計はすでに性能向上を使い切っている一方、GPUは低い利用率の裏に将来の改善余地と規模の経済を残しています。

    ■WSEはもともと学習向けの設計だった
    モデルの急速な巨大化でウェハーを超えた拡張性の乏しさが露呈し、Cerebrasは推論・プリフィルデコード混在型の展開へ転換しました。

    ■有望さの条件は高速推論への需要の育ち方
    低コスト・大量生産型の需要ではなく、割増価格を払ってでも高速推論を求める需要が今後2〜3年でどれだけ育つかが鍵だとみています。

この記事は約 24 分で読むことができます。(記事文字数:約 12,200 文字)

Cerebras(CBRS)は2026年5月に新規上場しました。結論を先に言うと、今後2〜3年は概ね有望と見ていますが、それがあなたにとって有望かどうかは、市場の需要をめぐるいくつかの変数について、あなた自身がどう認識し判断するかに左右されます。本稿では大枠の論点を扱い、より高度なサービング(提供方式)の数理はPart 2に譲ります。


誤解の正体

私たちが「State of GenAI 2023」レポートで有望と位置づけたAI-ASIC系のスタートアップの評価額が上昇していくのを見るのは喜ばしいことです。汎用GPUからASICへという関心のローテーションは、当時私たちが予想した通りに進んでいます(同レポートの2026年改訂版も準備中です)。

意外なのは、NVIDIA(NVDA)の歴史的な上昇相場が始まって3年が経ち、この分野がこれだけ盛り上がっているにもかかわらず、市場が今なおAIコンピュートそのものをうまく理解できていないことです。私たちの見立てでは、その根本原因は「今、誰が値付けをしているか」にあります。半導体分野のテック・グロース投資は、依然としてソフトウェア中心のファンドがハードウェアへ事業を拡張してきたケースが主流であり、これが半導体という株式市場の一角における脱プロフェッショナル化、いわば個人投資家化を招いています。

その結果、Cerebras(CBRS)をめぐっては、この分野を長年専門としてきたプロフェッショナルが引き続き主役であれば考えられないような誤解が生まれています。そこで本稿では、CBRSを大局的な視点で取り上げ、投資対象として有望かどうかについての私たちの考えを整理します。


タクシーとバスという思考モデル

大まかに言えば、Cerebrasのウェハースケールエンジン(WSE)がユーザー向けにトークンを生成することは、タクシーに乗るようなものです。同じ仕事をNVIDIAのGPGPU、HuaweiのNPU、GoogleのTPU(GOOGL)、あるいはその同業でこなすことは、バスに乗るようなものです(以下では効率のため、後者をまとめて「GPU」と呼びます)。

CBRSをめぐる混乱のほとんどは、「どちらの乗り物についてレビューしているのか」を取り違えていることから生じています。ただし注意すべきなのは、両方の乗り物とも、レース中に設計変更を受け続けているという点です。チップ設計には多くの変化する変数があり、タクシー側の堀を侵食しかねない新技術や、純粋な少人数・低バッチ向け高速推論を後押しする構造的な追い風も存在します。


第一原理:行列演算ユニットのレベルでは、みな平等

私たちがコンピュータチップを分析する際の思考モデルは、常に第一原理に基づいています。まずAIチップの根幹となる演算ユニット、すなわちモデルの算術演算のほぼすべてを構成する乗算・累積演算を行う配列である「行列乗算ユニット」から出発します。ここでは、誰もが平等です。与えられたシリコン面積の中で、各社が行列演算ユニットを設計する能力は本質的に同じであり、物理法則も算術も全員に共通だからです。


唯一のレバーは数値精度

このレベルで唯一意味を持つレバーは、数値精度です。業界はFP64からFP32、FP16、FP8、そして今やFP4へと、モデルの重みや活性化に使うデータ形式のビット幅を着実に縮小させてきました。乗算器のシリコン面積はおおむねビット幅の2乗に比例するため、ビット幅を半分にすると各乗算器の面積は劇的に小さくなります。これにより設計者は、同じシリコン面積により多くの演算ユニットを詰め込めるようになり、優秀な設計チームであればこれに伴うオーバーヘッドを5%未満に抑えられます。この精度の縮小を除けば、ただで手に入るものはありません。


【補足】数値精度(FP8・FP4)とは

コンピュータは数値を「ビット」という単位の並びで表現します。FP32は1つの数値を32ビットで、FP8は8ビットで、FP4はわずか4ビットで表現する方式です。ビット数を減らすほど1つの数値を格納する回路が小さくなるため、同じ面積のチップに、より多くの演算回路を詰め込めるようになります。その代わり、表現できる数値の細かさ(精度)は粗くなりますが、AIモデルの多くの計算は多少の精度低下を許容できるため、この「精度を落として個数を増やす」というトレードオフが業界全体で進んでいます。


上位レイヤーで差がつく

チップのより上位のレイヤーへ移ると、ようやく差別化が生まれます。チップ内外のコンポーネントがどう通信するかという「ネットワーキング/I/O」、実行中に演算ユニットをどう管理・編成するかという「スケジューラー」、そして計算の前後でデータをどう保存・読み込むかという「メモリアーキテクチャ」です。

これはちょうど飲食店経営に似ています。使う食材の根本は同じでも、調理の仕方、厨房スタッフの編成、顧客需要への対応の仕方は各社で異なります。

GPU/NPU/TPUというアーキテクチャが主流である理由は、それが最も大きな公約数となる需要に応えるアーキテクチャだからです。一般大衆は、高いスループットと低コストで生成されるトークンを絶えず求めており、より高速な推論への需要も確かに存在しますが、それは大衆需要ほど大きくはありません。大衆需要に応えるため、GPUのようなバッチ処理型のAIプロセッサは、高価で貴重な論理ウェハー面積にできる限り多くの演算能力を詰め込み、顧客に費用対効果を提供する一方で、スケジューリングとI/Oのために相応の面積を確保します。これこそが、このチップを大規模クラスタへ拡張可能にし、開発者にとって扱いやすいもの——コーディングや実行、実験がしやすいもの——にしている理由です。


SRAMと「サパ」——主流チップがオンチップメモリを避ける理由


古代ローマの教訓

GPUクラスのアーキテクチャは、意図的に大量の高価なオンチップSRAMを使わない選択をしてきました。この規律がなぜ重要かを理解するために、少し歴史をさかのぼります。古代ローマ人は、鉛製の壺でぶどう果汁を煮詰め、「サパ」と呼ばれる甘味料を作り、これをワインに加えていました。短期的には美味しかったのですが、長期的には鉛が甘味料に溶け出し、住民をゆっくりと蝕んでいきました

SRAMは、ハードウェアにおける「サパ」です。お金で買える最速のメモリであり、演算ユニットのすぐ隣に配置されますが、物理的に大きく、ビット単価も高価です。だからこそ業界は、オンチップには薄い層だけを残し、大量のデータは密度が高く安価なオフチップメモリ(DRAM、そしてAI時代版であるHBM)に保存してきました。


【補足】SRAM・DRAM・HBMとは

SRAMはチップの演算ユニットのすぐ近くに置かれる、最も高速だが高価で大きなメモリです。DRAMはそれより安価で大容量ですが速度は劣り、チップの外側に置かれます。HBM(広帯域幅メモリ)は、AI向けにDRAMを積層して帯域幅を高めたもので、GPUがオンチップのSRAMだけでは足りないデータ移動需要を補うための仕組みです。SRAMを増やせば速くなりますが面積とコストがかさみ、HBMを使えば大容量かつ安価になりますが、データを行き来させる際の帯域幅がボトルネックになりやすくなります。


CPUで有効な発想がGPUでは裏目に出る

CPUの時代には、単純にSRAMを増やすことは容易で効果的なアップグレードでした。CPUは一度に少数のタスクしか処理しないため、より多くの高速オンチップメモリを与えれば、その少数のタスクがより速く完了します。しかしGPUクラスのチップでは事情が異なります。これらのプロセッサは一度に数千のタスクを処理しており、最も重要なのはチップにできる限り多くの演算能力を詰め込むことです。大きなSRAMは、本来より多くの演算ユニットを収められるはずの面積を奪ってしまうため、CPUには有効な同じアップグレードが、GPUでは全体の性能をむしろ悪化させます

面積コストの問題を超えて、この手法はそもそもスケールしません。SRAMを際限なく拡大し続けることはできず、1メガバイト増やすごとに、不釣り合いなほど高価なチップ面積を消費します。さらに重要なのは、SRAMはすでに成熟し尽くした最適化構造であり、そこからさらに引き出せる工夫はもう残っていないという点です。したがって、真に積み上がっていく進歩は、すでに自然な限界に達した部品にひたすら面積を注ぎ込むことからではなく、より優れた全体アーキテクチャから生まれるはずです。


プロセス経済性がさらに不利にする

プロセス経済性が、この状況をさらに悪化させます。最先端の論理ノードはPPAC(電力・性能・面積・コスト)の改善を提供し続けていますが、それは演算に関わるトランジスタに限った話です。SRAMのようなコンポーネントについては、PPACの改善は事実上7nmで止まっています。そのため、3nm以下のような最先端ノードでSRAMを増やすことは、経済的に大きく割に合わなくなります。高価なノードのプレミアムを払う見返りは密度の向上ですが、その密度の恩恵は主に演算側に帰属し、SRAMには及ばないからです。つまりSRAMを使えば使うほど、死重損失を多く抱え込み、プロセスノードが本来もたらすはずの恩恵を実際には取り逃がすことになります。


【補足】プロセスノードとPPACとは

「プロセスノード」とは、半導体の製造技術の世代を指し、7nm・3nmのように数字が小さいほど最先端で、同じ面積により多くの回路を詰め込めます。PPACとは、Power(電力)・Performance(性能)・Area(面積)・Cost(コスト)の頭文字で、最先端ノードへ移行することでどれだけこれらが改善するかを示す業界共通の物差しです。演算回路はノードを進めるたびにPPACが着実に改善する一方、SRAMのような記憶回路は7nm世代あたりで改善が頭打ちになっており、最先端ノードに投資してもSRAM部分ではその投資に見合う恩恵を得にくくなっています。

主流のCPUやGPUメーカーが、優れたI/O・スケジューラー・演算の設計ではなく、単純にSRAMを追加するという安易な性能向上を選んでしまうと、行き止まりに陥ります。競合他社はより先端のノードへ移行することで改善を続ける一方、自社がそのノードへ移行しても得られるROIはより小さくなります。つまり、もはや同業他社と同じムーアの法則という追い風に乗れていないのです。短期的には先行できても、長期的には遅れを取る運命にあります。


Cerebrasの物語:学習用に生まれ、推論に救われた

私たちは「State of GenAI 2023」レポートの中で、Cerebrasを、Tenstorrentに次いで有望なAIチップ・スタートアップの一社として簡単に紹介していました。当時はまったく異なる投資テーマであり、私たちもCBRSの経営陣も、その後のLLMの進化がこれほど急速になるとは見抜けていませんでした。当時の一般的な通念は単純なもので、より強力なAIチップとクラスタは学習に、より非力なチップとクラスタは推論に使うというものでした。WSEの設計は学習向けを意図していました。当時のモデルはまだはるかに小さく、ネットワークとメモリ帯域幅がモデル学習における決定的なボトルネックに見えていたからです。


GPUが抱える2つの製造上の限界

Cerebrasが乗り越えようとした制約を理解するには、まずGPUの回避策から見ていく必要があります。GPUアーキテクチャがスケールアップ/スケールアウト型のネットワーキングを多用しているのは、2つの厳しい製造上の限界があるからです。第一に、露光限界です。1台の露光装置がスキャンできる範囲はおよそ800平方ミリメートルに限られるため、どのGPUの論理ダイもこれより大きく作ることはできません。第二に、先端パッケージングの限界です。論理ダイを無制限に束ねることはできず、パッケージング技術が対応できるのは露光倍率にして例えば4倍程度までであり、無限ではありません。

この制約の中で、GPUアーキテクチャは薄いオンチップSRAMの層を一時データのキャッシュに使い、大半のデータをHBMに保存します。HBMそのものも一種の回避策であり、AIコンピュートが必要とする膨大なチップ内外のデータ移動需要に、帯域幅の低いDRAMだけでは対応できないことへの代償です。根本的には、SRAMだけですべてをオンチップに保存するのは非常に高価で、容量にも限りがあるからです。しかしHBMにも限界があります。主に1つのHBMダイに積層できるスタック数と、GPU論理ダイと同一パッケージに収められるHBMダイの数によるもので、これも同じ先端パッケージングの露光倍率の限界に行き着きます。


【補足】露光限界とスケールアップ/スケールアウトとは

半導体チップは、シリコンの円盤(ウェハー)に光で回路パターンを焼き付ける「露光」という工程で作られます。1回の露光でカバーできる面積には物理的な上限(露光限界)があるため、1個のチップの大きさもそれ以上にはなりません。この上限を超える規模の計算をこなすため、業界は複数のチップを1つの基盤上で密に連結する「スケールアップ」と、複数のサーバーをネットワークでつないで束ねる「スケールアウト」という2つの拡張手法を組み合わせています。


ウェハースケール集積という答え

Cerebrasの答えは、ウェハースケール集積です。300ミリのシリコンウェハー全体から作られる、単一の巨大なモノリシック・プロセッサです。相互接続される前のレイアウトを見ると、WSE-3は84個の露光サイズの領域——機能ダイ領域——として製造され、それらが製造工程中にシリコン表面上でカスタム接続され、1つの巨大な論理チップとして機能します(これほどの大きさのウェハーを欠陥ゼロにすることは不可能なため、設計には予備の演算ユニットが組み込まれ、配線網が不良箇所を迂回します。これこそがこの手法全体を成立させている工夫です)。TSMCとこの新しいプロセス・パッケージング・設計を共同で成熟させることで、Cerebrasは1つのパッケージにより多くのチップダイを実質的に詰め込み、スケールアップ/スケールアウト型ネットワーキングへの需要を圧縮しています。

典型的なGPUアーキテクチャとさらに差別化し、より高い性能を追求するため、WSEはI/Oとスケジューリングに割く面積を減らし、SRAMに割く面積を増やしています。これにより、HBMよりおよそ1桁高い帯域幅を持つオンチップSRAMで、メモリ帯域幅のボトルネックに挑んでいます。Cerebrasが信じたトレードオフは、より少ないチップパッケージを連結させるだけで済み、より多くの演算を1つの大きな一貫したドメインの中でウェハースケールのもと効率的にこなせるという、学習にとってより良いトレードオフでした。これはChatGPTのブームが始まり、誰もがスケーリング則を追いかけるようになるより何年も前の話です。


学習から推論への転換

ChatGPTの瞬間が訪れ、誰もがスケーリング則を追いかけ始めると、Cerebrasはすぐにこの変化に気づき、この熱狂に乗ろうとしました。しかしNVIDIA、Google(GOOGL)&Broadcom(AVGO)、Huaweiのアーキテクチャが本質的にスケーリング則を後押しできる設計だったのに対し、WSEのアーキテクチャは本質的にウェハーを超えたスケーラビリティに乏しく、より高い柔軟性を伴うその未来に備えられていませんでした。Groqと同様、Cerebrasはいくつかの回避策を試みました。まず相互接続ドメインをより多くのチップへ広げようとしましたが、限られたI/Oと、SRAMアーキテクチャが要求する高い通信帯域幅のため、この設計はそもそも大規模クラスタの相互接続需要向けには作られていませんでした。次にマルチラックのシステムレベル展開へ移行しましたが、エンジニアリング上の回避策そのものを別にしても、こうしたシステムを効率的に運用する方法は誰にも分かっていません——成熟したNVIDIAのGPUクラスタでさえ運用は大きな課題であり、CerebrasやGroqのものはなおさらです。だからこそ両社とも、中東の政府系ファンドの資金支援を受けて、自らクラウドサービスへ事業を広げざるを得ませんでした。

そして、ある告白がなされました。あらゆる回避策を使い切っても、最先端モデルの学習を支えることはできない——モデルがあまりに巨大化し、Cerebrasが対応できるのは推論のみになっていたのです。Cerebrasが学習用ラックを供給し、Qualcomm(QCOM)が推論用ラックを供給するという提携を発表してからわずか半年後、Cerebrasは推論システム全体のサプライヤーへと方針転換しました。

物語はこう変わりました。高価なNVL72——それぞれ2基のBlackwell GPUと1基のGrace CPUを搭載する36台のGB200ノードを、NVSwitchトレイでNVLink経由で連結したもの——を使う代わりに、84個のダイをNVLinkなしで直接1つのウェハースケール・パッケージに結合すればいいのではないか。そもそもHBMを維持する必要すらあるのか——それを帯域幅が10倍大きいはるかに巨大なオンチップSRAMに置き換えれば、そもそもトークン生成におけるメモリ帯域幅のボトルネックは存在しなくなるのではないか、と。この問いに正直に答えるには、続く4つのセクションが必要です。


速度・スループット・バス運行者の問題

ここからは実際の数字に踏み込みます。CBRSのWSE-3とNVIDIAのBlackwellを比較することは、実は非常に複雑です。多くのパラメータに左右され、どちらが安くて速いかを一言で言い切れる単一の指標は存在しません。

一般的な原則はこうです。1つのバッチに150人以上の同時ユーザーをまとめられ、各ユーザーがそこそこの推論速度で満足するのであれば、NVIDIAは今なお最も安価なトークン生成工場です。逆に、1人あたりの秒間トークン数を最大化したいのであれば、より小さなバッチで運用する必要があり、これは全体としてのシステムスループットを押し下げます。トークンあたりの収益を最大化するという観点からは非効率であり、単一ユーザー向けの高速なTPS(秒間トークン数)に対してより高い料金を課すことで補わない限り、割に合いません。

これはバス運行者になるようなものです。収益性を最大化したいなら、1回の運行にできるだけ多くの乗客を乗せる必要がありますが、乗客が多いほど停車回数を増やさざるを得ず、1人あたりの移動時間は延びます。逆に平均的な乗客の移動速度を上げたいなら、乗客数を減らし停車を減らす必要があり、収益は減ります。

Cerebrasは単一ユーザー向けのスループットは高速ですが、大規模なトークン生成工場として運用したときの経済性は劣ります。最適な効率に達するのはユーザー数が4人程度のときです。これはタクシーです。目的地まで停車なしで極めて速く到達できますが、座席数が少ないため、コストを効果的に分散できず、乗客1人当たりのコストは想定通り高くなります。

大局的に見ると、AIチップにおけるSRAM型、つまりタクシー型のアーキテクチャは、はるかに柔軟性の乏しい選択です。バス運行者は常に、より多くの乗客を乗せることで座席を埋め効率を高める方法を見つけられますが、少人数しか運べない高価なタクシーの車列にはそれができません。SRAMベースの設計は、すでに利用可能な性能向上の大部分を使い切っています。バス、すなわちGPU/NPU/TPUベースの設計は、今日では低い計算利用率で稼働していることが多いものの、その非効率さこそが将来の改善余地と規模の経済をもたらす余白であり、柔軟性・拡張性に乏しいアーキテクチャに高価なSRAMという先行コストを固定化してしまうこととは対照的です。

WSE / Cerebras(タクシー)とGPUクラス(バス)の比較

(出典: Convequity社)


データを動かすコストは、計算するコストをはるかに上回る


1000倍という非対称性

これまで述べてきた構図の根底にあるのは「計算利用率」です。私たちはこれまでも各種レポートでこの概念を取り上げてきました。GPUの多くは、カタログスペック通りの浮動小数点演算速度では稼働していません。ボトルネックが別の場所、典型的にはネットワークとメモリのI/Oにあるからです。GPUは論理ダイの中に演算ユニットを高密度に詰め込んでいるため、1回の実行でデータを素早く処理できますが、その後は次のデータのバッチが届くのを待ち、計算し、送り出し、また新しいバッチを受け取る必要があります。

「1回の乗算はおよそ1ピコジュールです。HBMからチップへデータを移動させるコストは、その約1000倍かかります。この1000倍という差が、機械学習で私たちが行っていることの多くを形づくっています。もしこの差がなければ、そもそもバッチ処理をする必要すらなかったでしょう」——ジェフ・ディーン氏(Convequityの投稿より引用)


【補足】ピコジュールと「データ移動のコスト」

ピコジュールとは、エネルギー量を表す非常に小さな単位です。半導体の中では、演算そのものにかかる電力よりも、データをメモリからチップへ運ぶ電力の方がはるかに大きいことが知られています。この引用は、1回の掛け算に使うエネルギーを1とすると、そのための元データをHBMから運んでくるエネルギーは1000にもなる、という意味です。この非対称性こそが、AIチップの設計を「計算そのもの」ではなく「データをどう動かすか」を中心に考えなければならない理由になっています。

大衆にLLMを提供するということは、まさにこの根本的な弱点を中心に最適化することを意味します。昨年のDeepSeekのカバレッジでも触れた通り、重要なのはモデル自体だけではありません。DeepSeekは、他のオープンソースの選択肢と比べて桁違いに効率的な推論フレームワークをオープンソース化しました。これにより一般の人々も、OpenAIやAnthropicがすでに社内で運用していた独自の提供基盤に匹敵する高性能なサービング(提供)システムを利用できるようになったのです。


プリフィルとデコードという2つの工程

その核心にあるのが、プリフィル・デコード分離アーキテクチャです。これはモデルの推論を2つの工程に分けます。プリフィル——プロンプトの取り込み——は、より多くの演算、より少ない帯域幅、より大きなメモリサイズを必要とします。デコード——回答の生成——は、より少ない演算、より多くの帯域幅、より小さなメモリサイズを必要とします。プリフィルでは、HBMの帯域幅で演算を稼働させるのに十分なデータを供給できます。デコードでは、HBMの帯域幅は空いている演算ブロックを埋めるほど高くありません。トークンを1つずつ生成するということは、KVキャッシュ(それまでのシーケンス全体の記憶——それまでの各トークンのキー・バリュー・テンソル)に加えて直近に生成されたトークンをGPUへ送る必要があるということです。次のトークンが生成され、HBMへ書き戻され、更新されたシーケンスが再度送られて次のトークンを生成します。このデコード中に繰り返される往復は帯域幅を非常に消費し、ボトルネックになります。これを緩和する——完全に解決するわけではありません——一つの方法が、複数のデコードをバッチ処理で並行実行することです。


【補足】プリフィルとデコード、KVキャッシュとは

AIモデルが文章を生成する処理は、大きく2段階に分かれます。まず入力されたプロンプト全体を読み込んで理解する「プリフィル」、次にそれを踏まえて答えを1語(1トークン)ずつ生成していく「デコード」です。デコードでは、それまで生成した全トークンの情報(KVキャッシュ)を毎回チップへ送り直す必要があり、この繰り返しがデータ移動の負荷を生みます。プリフィルは演算量が多くデータ移動は少なくて済むのに対し、デコードは演算量が少ない一方でデータ移動が頻繁に発生するため、両者は異なるボトルネックを抱えることになります。

Cerebrasはモデルの重み・KVキャッシュ・出力を演算ユニットのすぐ隣、チップ上に直接保持しているため、デコード時にGPUを制約するのと同じ帯域幅の制約に直面しません。ただしどのシステムにも制約要因は存在し、Cerebrasではその制約先が移動するだけです。プリフィル時には、チップはむしろ生の演算能力に制約されるようになります。高価で高帯域幅のSRAMは、行列演算ユニットが消費できるより遥かに速くデータを供給できる状態にあるため、SRAMは十分に活用されず余ってしまいます。対照的にGPUクラスのチップは、帯域幅は低いもののより大きく安価なメモリを、同じフェーズでほぼフル稼働に近い演算利用率を維持できる程度には忙しく保てます。だからこそCBRSやGroqのようなSRAMベースのAIチップは、単独では使われなくなり、Amazon(AMZN)のTrainiumのような他のアクセラレータと組み合わせ、プリフィル・デコードを分離したクラスタの中でペアで使われるようになっています。各アーキテクチャは、シリコン当たりのリターンが最も高くなるフェーズに割り当てられているのです。


計算利用率:勝敗を決めるのはバッチサイズの分岐点

どのAIチップにも、どれだけの演算能力を発揮できるかと、どれだけ速くデータを動かせるかの間にバランスが存在します。チップがメモリ帯域幅による制約から、純粋な演算能力による制約へと切り替わる地点こそが、決定的な分岐点です。デコードにおいては、この分岐点はおおむねバッチサイズによって決まります。

デコードは、重みの1バイトあたりおよそ2FLOPsの演算を、トークンごとに1回、同時に実行しているシーケンス数に応じてスケールさせながら行います。B300では、テンソルコアがきちんと稼働し始めるのはバッチ160前後からです。WSE-3では、同じ飽和状態がバッチ3前後で起こります。この差1つだけで、この論争で持ち出される主要なベンチマークの差の大部分が説明できます。

(WSE-3の数値はCerebrasが利用率を公表していないための推定値です。ラック規模での参考値としては、NVL72が1台に対しCS-3がおよそ4台に相当します。)


プリフィルでは差がつかない

プリフィルでは、両アーキテクチャとも演算能力によって制約されるため、行列演算ユニットをより密に詰め込んだGPUに分があります。この段階では、ウェハースケールチップの高価なSRAMはほとんど優位性をもたらさず、これがこうしたチップがプリフィル単体ではほぼ使われない理由です。


デコードで状況が逆転する

デコードでは状況が逆転します。対話型利用で典型的な小さなバッチサイズ(1〜5)では、GPUはほぼ空の状態で稼働しています——タクシー1台分の乗客しかいないバスのようなものです。WSEは1人の乗客でもすでに効率的で、3〜4人で完全に稼働します。700億パラメータの高密度モデルでGPUが経済的な利用率に到達するには、およそ160の同時シーケンスが必要です。それだけの規模でも、GPUの利用率は60%を超えることはめったにありません。自らのスケジューラーと制御ロジックが次の制約になるためです。ウェハースケール設計は、オンチップSRAMが増え続けるKVキャッシュを保持できなくなる地点まで、ほぼ100%の演算利用率を維持できます。


本番環境ではさらに厳しくなる

実際の本番環境では、制約はさらに厳しくなります。288GBのHBMを搭載した1台のB300は、700億パラメータのFP8モデルを保持でき、32Kのコンテキストで残りは約42シーケンス分の余裕しかありません。そのバッチサイズでは、利用率は15〜30%のレンジまで落ち込みます——経済的な採算ラインを大きく下回る水準です。これこそが、NVLinkのような高速スケールアップ・ファブリックが存在する理由です。多数のGPUを1台の大きな一貫したデバイスのように機能させ、モデルの重みとKVキャッシュの両方を分散させることで、演算を忙しく保てる実用的なバッチサイズをようやく確保できるのです。

平たく言えば、GPUは多くのユーザーを同時にさばき、その処理を緊密に連結された多数のチップ群に分散できるときに最も効率的です。Cerebras型のチップは、少数のユーザーが非常に高速な応答を必要とするときに最も効率的です。どちらのアーキテクチャもすべてに勝てるわけではなく、だからこそ業界は両者を直接の代替品として扱うのではなく、組み合わせて使う方向へ向かっています。

B300/NVL72とWSE-3の計算利用率比較

(出典: Convequity社)


【補足】計算利用率とバッチサイズ

計算利用率とは、チップが理論上の最大演算性能のうちどれだけを実際に発揮できているかを示す割合です。バッチサイズとは、チップが同時に処理しているリクエスト(ユーザー)の数を指します。バッチサイズが小さいと、GPUのような大量の演算ユニットを持つチップは演算ユニットの多くが遊んでしまい、利用率が低くなります。逆にバッチサイズを増やしすぎると、今度はメモリやスケジューラーが追いつかなくなり、利用率の伸びが頭打ちになります。この記事のバッチ160・バッチ3という数字は、それぞれのアーキテクチャが「経済的に見合う」利用率に達する分岐点を表しています。