09/04/2026

投資家にとっての「適温相場」が続く:鳩派発言と底堅い経済指標が両立する理由

Main Imageローレンス・ フラーローレンス・ フラー
記事要約

    ■鳩派発言を受けS&P500の主要セクターがそろって上昇
    ウォラー理事の発言により債券利回りが低下し、株価を押し上げました。

    ■ウォーシュ議長とウォラー理事は悪玉と善玉を演じ分けている
    タカ派的な発言で長期金利を抑えつつ、鳩派的な発言で利上げ観測を後退させるという役割分担だと筆者は分析しています。

    ■PMI・小売売上高とも力強い伸びを記録
    総合PMIは4年ぶりの高水準、Redbook小売売上高指数も過去3年で最高水準の伸びとなりました。

    ■経済成長の原動力はAI投資だけではない
    個人消費の成長寄与度はむしろ拡大しており、成長の弱さの主因は貿易赤字にあると筆者は指摘しています。

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昨日の株式市場は、エネルギーセクターを除くS&P500(SPY)の全セクターが上昇する、幅広い銘柄を巻き込んだ上昇となりました。この強気ムードのきっかけは、ロイター主催のワシントンでのイベントにおける、FRBのクリストファー・ウォラー理事による鳩派的な発言です。この発言を受けて債券利回りはイールドカーブ全体で低下し、それが株価を押し上げました。ウォラー氏は、5月以降ディスインフレ(インフレ鈍化)の短い局面が続いていると述べ、今後2週間後のFOMC会合までに発表されるデータがこれを裏付けるものであれば、政策金利の据え置きを支持すると表明しました。

S&P500・NASDAQ・ダウ平均のザラ場推移(9月3日)

(出典: Bloomberg)


悪玉と善玉を使い分ける、FRB高官たちの駆け引き

これは、1週間前のジャクソンホール経済政策シンポジウムにおけるウォーシュ議長の基調講演のタカ派的なトーンと矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、私はこれを計算されたものだと見ています。この2人は、市場に対する影響力を保つために悪玉と善玉の役回りを演じ分けようとしています。ウォーシュ議長(悪玉)は、インフレ率がFRBの目標である2%まで「明確かつ十分な速さで」低下しない場合には行動を辞さないと強調しましたが、これは長期金利を口先介入によって押し下げる狙いがあったと私は見ています。とはいえ同議長には短期金利を引き上げる意図はなく、そこでウォラー氏がより鳩派的なトーンの善玉役を引き受け、市場が織り込む利上げ確率を下げようとしたわけです。

S&P500は「Fed-Hike Bets」(利上げ観測)の後退を受け、月間で最大の上昇を記録

(出典: Bloomberg)

私の見立てでは、ウォーシュ議長は年末まで政策金利を据え置くことで、綱渡りを成功させようとしています。トランプ大統領を満足させるには、実現不可能な利下げには動かないまでも、利上げをしないことが必要です。一方で利上げを織り込む市場を満足させるには、タカ派的な発言と政策面での忍耐強さを組み合わせる必要があります。ただし後者の方が難しいかもしれません。債券市場の方が「知能指数が高い」と私は考えているからです。株式投資家は喜ぶかもしれませんが、債券投資家は反発するかもしれません。ウォーシュ議長がインフレ抑制における信頼性を失ったとして、投資家が長期国債により高い利回りを要求し、イールドカーブがスティープ化(急勾配化)するような展開になれば、その過程で株価が傷つく可能性があります。私はこちらの方がより起こりやすいシナリオだと見ていますが、市場の反応が悪化すれば、それが大統領を中東での戦争終結へと動かす動機にもなり得ます。それは株式・債券の両投資家にとって歓迎すべきニュースになるでしょう。いずれにせよ、これは投資家にとっての「適温相場」が続いている状況です。


イールドカーブとは


【補足】イールドカーブとは

  • 意味: 満期までの期間が異なる国債の利回りを結んだ曲線のことです。横軸に期間(2年債、10年債、30年債など)、縦軸に利回りをとって描きます。
  • 通常の形: 通常は期間が長くなるほど利回りが高くなり、右肩上がりの曲線になります。将来の不確実性が大きい分、長期の国債ほど高い利回りが求められるためです。
  • スティープ化とは: 短期金利と長期金利の差が広がり、曲線の傾きが急になることです。ここでは、短期金利が抑えられたまま長期金利だけが上昇していく状況を指しています。


「適温相場」という言葉


【補足】「適温相場」とは

  • 意味: 景気が過熱も冷え込みもせず、企業業績にも金融政策にも都合の良い「ちょうどいい」状態が続く相場環境を指す言葉です。童話「3びきのくま」で、熱すぎず冷たすぎない「ちょうどいい」スープにたとえた表現に由来します。
  • なぜ今回そう言えるのか: インフレは落ち着きつつあり、FRBは利上げに動かず、それでいて景気指標は底堅く推移しているという、投資家にとって都合の良い組み合わせが続いているためです。


製造業・サービス業とも拡大が続く

S&P Globalによる8月の製造業・サービス業企業への調査では、PMI(購買担当者景気指数)の総合指数が56.0まで上昇し、これは4年以上ぶりの高水準です。製造業の伸びは先月やや鈍化したものの拡大基調は続いており、サービス業に至っては、事業活動が20カ月ぶりの高水準で推移するなど絶好調です。新規受注と雇用の両面で強さが記録される一方、投入コストの上昇率は2025年4月以来で最も低い水準となり、価格面の圧力も和らいでいます。この内容は、第3四半期のGDP成長率が3%になることと整合的であり、これは上半期からの大幅な加速を意味します。

米国総合PMIとGDP成長率の推移

(出典: Yardeni Research)

サービス業の強さを裏付けるように、Redbookの既存店売上高指数によれば、全米およそ9,000店舗の総合小売店における売上高は、先週9.6%増加しました。これは過去3年で最も強い伸び率の一つです。消費者は口では弱気なことを言いながら、行動は強気というわけです。

Redbook既存店売上高指数(前年比)

(出典: MacroMicro)


全体で見れば、伸び率はなお前向き

ある層の経済が別の層ほど好調ではないという点に焦点を当てれば、米国経済について厳しい絵を描くこともできます。苦戦しているセクターを取り上げることもできますし、逆風だけを強調して追い風を無視することもできます。しかしこの手法の問題は、市場は成長がどこから来ているのか、誰または何がその責任を負っているのかを気にかけないという点にあります。投資戦略や経済・市場の見通しを組み立てる際に重要なのは、データを総合的に見て、全体としての変化率に注目することです。そしてその変化率は、依然としてプラスです。

今日、多くの論者が犯している誤りの一つは、AI投資ブームが今の経済拡大の主たる燃料であり、それがなければ景気後退に陥っているはずだという思い込みです。これは事実からかけ離れています。実際には、設備投資と知的財産生産物への支出が成長に寄与する割合は、今年の第1〜第3四半期を通じて1.2〜1.5%の水準で安定して推移しています。一方、個人消費支出(PCE)による成長への寄与は、0.37%から2.31%へ、そして直近ではおよそ2.37%と推定される水準まで強まっています。

アトランタ連銀GDPNowによる2026年第3四半期の成長率寄与度予測

(出典: アトランタ連銀 GDPNow)

たしかに、AIへの投資サイクルがなければ、経済成長率はトレンドの2%を大きく下回っていたでしょう。しかし成長の弱さの主因は、悪化を続ける貿易赤字にあり、消費者にあるわけではありません。個人消費は依然として経済全体の成長のおよそ70%を占めており、現時点で消費支出の伸び率が悪化している兆候は見当たりません。


寄与度という考え方


【補足】GDP成長率への「寄与度」とは

  • 寄与度の意味: GDP全体の成長率のうち、設備投資や個人消費、政府支出などの各項目が、それぞれどれだけ押し上げ(または押し下げ)に貢献したかを示す数値です。
  • 本節の論点: AI関連の設備投資の寄与度がここ数四半期ほぼ横ばいである一方、個人消費の寄与度がむしろ拡大していることは、経済成長の原動力がAI投資だけに偏っているわけではないことを示しています。