意外なことに、ダウ工業株30種平均(DIA)を除く主要な株価指数は先週いずれも上昇し、9月を良い形で始めました。それでも私は慎重な姿勢を崩していません。

(出典: T. Rowe Price)
投資家を勇気づけたのは、複数のハイテク企業が示した力強い決算と、FRBのクリストファー・ウォラー理事によるハト派的な発言でした。理事は次回会合での利上げに反対の立場へ傾いていると示唆しています。この発言がイールドカーブ全体の金利上昇を食い止め、株価を支えました。
そのぶん、金曜日に発表される消費者物価指数(CPI)の重みが一気に増しました。 市場予想は、食品とエネルギーを除いたコア指数が2.5%から2.4%へ鈍化するというものです。
逆風の中でも、企業業績が相場を支えている
一方でイランでの戦争は再び激化しており、WTI原油とブレント原油はいずれも1バレル90ドルを超えました。レイバーデー週末のガソリンとディーゼルの給油価格は、過去最高を記録しています。
この大きな逆風にもかかわらず、景気拡大は止まっていません。 そして相場の底堅さは、ひとえに記録的な企業業績によるものです。第3四半期の最初の2か月間で、アナリストは業績予想を1.2%引き上げました。下の図を見ればわかるとおり、これは極めて異例のことです。変化率がプラスであることが、マクロ経済と地政学のあらゆる逆風を押し切っています。

(出典: FactSet)
雇用も底堅さを示した
景気の底堅さを示すもう一つの材料が、雇用統計でした。先月の雇用者数は16万2000人増え、それ以前の2か月分も合計5万5000人分、上方修正されています。労働参加率は上昇し、失業率は4.1%で横ばいでした。これは、ISMとS&P GlobalのPMI調査で見られた雇用関連の改善とも整合的です。

(出典: Bloomberg)
雇用市場の強さを、9月16日の会合でFRB当局者が利上げに傾く兆しだと解釈する向きもありました。しかし私は、そうなるにはCPIが上振れる必要があると考えています。
利上げ確率58%は、五分五分まで下がると見る
先物市場は現在、FRBの政策金利が0.25%引き上げられる確率を58%と見ています。ただし私は、インフレ指標を受けてこの確率がコイン投げに近い水準まで下がると予想しています。

(出典: CME FedWatch Tool)
そうなれば、ケビン・ウォーシュFRB議長には金利を据え置く余地が生まれます。市場の総意からそれほど大きく外れずに済むからです。
金曜のCPIが分岐点になる
【補足】コアCPIとは
消費者物価指数のうち、値動きの激しい食品とエネルギーを除いた指数です。原油価格や天候で振れる部分を取り除くことで、物価の基調的な動きを見やすくする狙いがあります。今回のように原油が急騰している局面では、総合指数とコア指数で示す方向が食い違うことがあり、FRBは基調を映すコア指数のほうを重く見ます。
それでも債券市場は利上げを求めている
とはいえ債券市場は、インフレを抑え込むには利上げが必要だとFRBに告げています。2年債利回りが4.4%まで上昇したことが、その表れです。

(出典: StockCharts.com)
債券利回りを言葉で押し下げるには、卓越した話術が要ります。ウォーシュ議長は、5月のピーク以降は物価上昇の鈍化が続いていること、そして関税と高いエネルギー価格によるインフレ圧力は今後数か月で薄れていくはずだという点を強調すると私は見ています。
戦争がどれだけ長引くかは読めない要素です。ただ、ドナルド・トランプ大統領が中間選挙を前にエネルギー価格を下げるため、紛争からの早期離脱を探しているのは明らかです。
さらに、先週の雇用統計では賃金の伸びが3.1%へ鈍化しました。2021年以降で最も弱い伸びであり、購買力を抑える方向に働きます。
長期のインフレ期待は落ち着いている
最後に、長期のインフレ期待は落ち着いた水準にとどまっています。これは投資家が、インフレは定着するのではなく時間をかけて和らいでいくと見ていることを示します。ウォーシュ議長は、この点も強調する可能性が高いでしょう。

市場が織り込むインフレ期待
【補足】ブレークイーブンインフレ率とは
普通の国債の利回りから、物価連動国債の利回りを差し引いて求める数値です。債券市場の参加者が、その期間にわたって平均どれくらいの物価上昇を見込んでいるかを表します。この数値が跳ね上がればインフレ期待が定着し始めたことを意味しますが、落ち着いたままなら、目先の物価上昇は一時的だと市場が判断していることになります。
長期金利は年初来高値を試す可能性がある
FRBが金利を据え置いたとしても、その決定が全会一致になる可能性は低く、3人の反対票が出ることも考えられます。 これに、より引き締め的な政策を求める債券市場が重なれば、長期金利は年初来の高値を更新するかもしれません。
10年債利回りは先週4.82%まで上昇し、2025年1月に付けたピークに並びました。今後のデータと、金利決定後のウォーシュ議長の発言次第では、2023年の高値である5%を試す展開もあり得ると私は考えています。ただし5%を超えていくとは見ていません。

(出典: StockCharts.com)
反対票が意味するもの
【補足】FOMCの反対票とは
FRBの金融政策は、FOMC(連邦公開市場委員会)の投票で決まります。全会一致が通例で、反対票が出ること自体が異例のシグナルとして受け止められます。3人が反対するとなれば、委員会の中で見解が大きく割れていることを意味し、市場は「次の会合で方向が変わるかもしれない」と読み取ります。据え置きという結論が同じでも、反対票の数によって債券市場の反応は変わります。
債券は「長いもの」に乗り換える好機にある
実のところ、これは債券の運用において、満期までの期間が長いものへ乗り換える絶好の機会に見えます。次のFRBの動きが利上げではなく利下げであることを前提とすれば、1〜5年の短期ゾーンの利回りはピークを打ちつつあるからです。
なぜ満期の長い債券なのか
【補足】満期までの期間が長いほど、価格は大きく動く
債券は、満期までの期間が長いほど、金利の変動で価格が大きく動きます。金利がこれから下がると考えるなら、満期の遠い債券を持つほど値上がりを大きく取れます。 逆に金利が上がったときの下げも大きくなります。この「期間の長さがもたらす価格の振れやすさ」を、専門用語ではデュレーションと呼びます。「1〜5年の短い債券は利回りがピークを打った」という見立ては、この判断の前提にあたります。
一方で、イールドカーブ全体でさらに利回りが上がれば、主要な株価指数、とりわけ成長株の重荷になりそうです。9月中に3〜5%の下落が起こることは十分あり得ます。
ただし、金利上昇と株価下落がトランプ大統領にイランでの戦争からの離脱を促すのであれば——私はそうなると見ています——第4四半期に史上最高値を更新する上昇への土台を作ることになります。それが私の基本シナリオです。