ジョン・テンプルトン(Sir John Templeton)は、20世紀を代表する投資家の一人であり、群衆と反対の行動を取る「逆張り(コントラリアン)」の実践者として知られています。
本稿では、テンプルトンが実践した逆張り戦略とグローバル分散投資の考え方、そして彼が残した代表的な5つの名言について、それぞれの背景と意味を解説します。

ジョン・テンプルトンとは何者か
テンプルトンは1912年に米国テネシー州で生まれ、イェール大学とオックスフォード大学で学んだのち、投資の世界へ進みました。彼の名を決定づけたのは、1939年、第二次世界大戦の開戦直後の行動です。
市場が総悲観に沈むなか、テンプルトンはニューヨーク証券取引所に上場する1株1ドル未満の銘柄104社を、各100株ずつ機械的に取得しました。うち34社は破綻手続き中の企業でした。数年後、この104社のうち100社以上が利益をもたらし、投資額は約4倍になったと伝えられています。
テンプルトン・グロース・ファンドの設立
1954年、テンプルトンはテンプルトン・グロース・ファンドを設立します。当時の米国では自国株のみに投資するのが一般的でしたが、彼は早くから国外に目を向け、国際分散投資の先駆者となりました。
同ファンドは1992年にフランクリン・リソーシズ(BEN)へ売却され、現在のフランクリン・テンプルトン・インベストメンツの一部となっています。テンプルトン自身の運用哲学は、同社の国際分散・バリュー志向の運用姿勢に受け継がれています。
【補足】逆張り(コントラリアン)とは
市場参加者の大多数と反対の行動を取る投資姿勢を指します。多くの投資家が悲観して手放している局面で取得し、多くの投資家が熱狂している局面で保有を減らす、という考え方です。
前提にあるのは「価格は短期的には感情で動き、長期的には企業の価値に収れんする」という見方です。感情によって価格と価値が乖離した局面を、機会として捉えます。
テンプルトンの投資アプローチ
テンプルトンの手法は、大きく4つの柱で整理できます。
1. 投資対象を国内に限定しない
テンプルトンは、自国だけに投資対象を限定することを「視野が狭く、かつリスクが高い」と考えていました。国外に目を向けることで、現地の投資家が見落としている企業を見つけられるというのが彼の主張です。
特に彼が注目したのは、不人気な市場、あるいは経済的に困難な状況にある市場でした。1960年代の日本株への投資はその代表例で、当時の日本市場は米国の投資家からほとんど注目されていませんでした。
2. 地域分散によるリスクの低減
複数の国・地域へ投資対象を分散させることで、特定国に固有のリスクを抑えられます。
- 政治リスクの分散 — ある国で政変や規制強化が起きても、他地域への投資が影響を緩和します
- 景気循環の分散 — 国ごとに景気の局面は異なるため、同時に低迷する可能性を下げられます
- 通貨の分散 — 自国通貨が下落した局面でも、他通貨建て資産が価値を保つ場合があります
3. 経済サイクルのずれを利用する
国や地域によって、景気の拡大期と後退期が訪れるタイミングは異なります。テンプルトンは、ある地域が低迷している間に別の地域の成長を取り込むことで、運用成績の平準化を図りました。
4. 価格ではなく価値を基準にする
テンプルトンはバリュー投資家でもありました。株価そのものではなく、企業の本源的価値に対して価格がどの位置にあるかを判断基準としています。この考え方の源流はベンジャミン・グレアムにあり、詳細はバリュー投資入門:ベンジャミン・グレアムとは?で解説しています。
また、価値と価格の差を安全余裕率という指標で捉える方法については、安全余裕率(Margin of Safety)とは?をあわせてご覧ください。

テンプルトンの名言5選
1.「強気相場は悲観の中で生まれ、懐疑の中で成長し、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく」
Bull markets are born on pessimism, grow on skepticism, mature on optimism, and die on euphoria.
テンプルトンの言葉のなかで最も広く引用されるものです。相場を投資家心理の4つの局面として捉えています。
| 局面 | 市場心理 | 典型的な状況 |
| 悲観 | 誰も市場に関心を持たない | 下落が続き、報道も否定的 |
| 懐疑 | 上昇が始まるが信じられない | 「一時的な反発だ」という見方が支配的 |
| 楽観 | 上昇が当然と受け止められる | 新規参入者が増え、報道も好意的に転じる |
| 陶酔 | 誰もが強気になる | 「今回は違う」という説明が広がる |
重要なのは、最も条件が良い局面と、最も気分が良い局面は一致しないという点です。

【補足】市場心理を数値で見る指標
投資家心理は感覚的なものですが、ある程度は数値でも観察できます。VIX指数(恐怖指数)、信用買残、投資家センチメント調査などが代表的です。
ただし、これらの指標は局面の判断材料の一つに過ぎず、単独で売買のタイミングを決められるものではありません。テンプルトン自身も、心理指標ではなく個別企業の価値評価を判断の中心に置いていました。
2.「悲観が極まった時が最良の買い時であり、楽観が極まった時が最良の売り時である」
The time of maximum pessimism is the best time to buy, and the time of maximum optimism is the best time to sell.
1つ目の名言を実践に落とし込んだ言葉です。ただし実行は容易ではありません。悲観が極まる局面では、報道も周囲の投資家も、市場から離れる理由を提示し続けているからです。
テンプルトンはこの困難に対して、感情ではなく事前に定めた基準で判断する方法を採っていました。具体的には、目標とする価格をあらかじめ指値で置いておき、市場が混乱した際に自動的に約定させるという手法です。
3.「群衆より良い成績を上げたいなら、群衆と違うことをしなければならない」
If you want to have a better performance than the crowd, you must do things differently from the crowd.
構造的に自明な指摘です。市場平均は全参加者の平均であり、全員と同じ行動を取れば、結果も平均に収れんします。
ただしテンプルトンは「違うことをすれば必ず上回る」とは述べていません。群衆と異なる行動は、上回る可能性と下回る可能性の両方を生みます。彼が求めたのは、単なる逆張りではなく、根拠のある逆張りでした。
4.「英語で最も高くつく4語は『今回は違う』である」
The four most expensive words in the English language are, "This time it's different."
相場が過熱した局面では、従来の評価基準では説明できない価格水準を正当化する論理が必ず現れます。「新しい技術だから従来の指標は当てはまらない」「構造が変わったから過去とは比較できない」といった説明です。
テンプルトンは、こうした説明が広がること自体を局面の成熟を示すサインとして捉えていました。過去のバブルとその崩壊のパターンについては、米国株式市場における株価アノマリーとは?でも触れています。
5.「失敗を避ける唯一の方法は投資をしないことだが、それこそが最大の失敗である」
The only way to avoid mistakes is not to invest—which is the biggest mistake of all.
テンプルトン自身、すべての判断が正しかったわけではありません。1939年に取得した104社のうち4社は無価値になっています。
彼が重視したのは、個々の判断の的中率ではなく、全体としての結果でした。一定の失敗を前提に組み立て、それでも全体として成果が残る構成にする、という考え方です。この発想は分散投資の実務にも直結しており、ドル・コスト平均法と一括投資はどちらが良い?で扱う時間分散の議論とも共通します。
テンプルトンと他の著名投資家との違い
テンプルトンの手法は、他の著名投資家と比較すると輪郭がはっきりします。
| 投資家 | 中心的な考え方 | テンプルトンとの相違点 |
| ベンジャミン・グレアム | 定量的な割安判定と安全余裕率 | グレアムは主に米国株が対象。テンプルトンは国際分散を重視 |
| ウォーレン・バフェット | 事業の質と長期保有 | バフェットは能力の輪の内側に集中。テンプルトンは幅広く分散 |
| ジョージ・ソロス | 再帰性理論に基づく大規模なマクロ判断 | ソロスは短中期の相場転換を狙う。テンプルトンは長期保有が前提 |
それぞれの手法の詳細は、バリュー投資入門:ベンジャミン・グレアムとは?、投資の神様ウォーレン・バフェット氏の投資ルールとは?、ジョージ・ソロスの手法と再帰性理論で解説しています。
テンプルトンの考え方を実務に落とし込むには
テンプルトンの手法をそのまま再現することは容易ではありませんが、考え方として取り入れられる要素はあります。
- 判断基準を事前に決めておく — 市場が混乱してから考えると、感情の影響を受けます
- 評価の物差しを持つ — 価格の高低ではなく価値との関係で見るには、指標の理解が前提になります
- 対象を一国に限定しない — 国際分散はテンプルトンの中核的な発想です
- 失敗を前提に構成する — すべてを的中させる前提の組み立ては、一度の誤りで崩れます
評価指標の基礎については、証券分析の基本:内在価値評価法と相対価値評価法とPER(株価収益率)とPBR(株価純資産倍率)とは?で解説しています。