9月の踊り場と10月のサプライズ:中間選挙を前にした市場シナリオ

■PPI鈍化で最高値更新
2回連続で落ち着いたインフレ指標を受け、S&P500は最高値を更新しました。7月のコアPPIは前月比0.2%と予想を下回り、FRBは政策運営で忍耐強く臨めるとみられます。
■9月の勝率はわずか15%
過去データでは、今年のように6月・7月が下落した年の9月の勝率は15%にとどまります。ただし8月が上昇した年は9月も上昇しやすく、現状はやや心強い形です。
■中間選挙とイラン情勢が重なる
9月16日のFRB会合に加え、中間選挙前の政治的緊張やイラン情勢がボラティリティを押し上げやすい時期に入ります。原油・金利ともに高止まりが続いています。
■10月のサプライズと年末までの強気相場
筆者は中間選挙前にホルムズ海峡再開の合意が発表されると見ています。9月の踊り場を挟みつつ、ブル相場は年末まで続くとの見立てです。
生産者物価指数の鈍化が支えた最高値更新
インフレはピークを越えたという確信
2回連続で落ち着いたインフレ指標が発表されたことを受け、S&P500(SPY)は最高値を更新しました。FRBによる利上げ観測が後退し続けているためです。原油価格は下落し、金利もイールドカーブ全体で低下しました。これらはリスク資産の価格上昇を後押しする材料がそろった形です。投資家の間では、インフレ率のピークはすでに過ぎたという確信が強まりつつあると筆者は見ています。絶対水準そのものよりも、時間とともにどの方向へ向かっているかの方がはるかに重要です。市場が好むのは、この変化の方向がプラスであることです。
8月13日の取引では、S&P500に加えてNASDAQ(QQQ)が+0.81%、ダウ平均(DIA)が+0.13%と、主要3指数がそろって上昇して取引を終えました。

(出典: Finviz)
PPI内訳に見える減速の中身
生産者物価指数(PPI)の発表は、安堵材料となりました。予想より強い数字が出るのではないかと懸念していたためです。実際には、7月のPPIは前月比横ばいとなり、前年比の伸び率は5.5%から4.7%へ低下しました。食品とエネルギーの価格低下が寄与しています。この2項目に加えて貿易サービスを除いたコアPPIは7月に前月比0.2%上昇し、市場予想の0.3%を下回りました。前年比の伸び率は5%から4.7%へ低下しています。特に注目すべきは、運輸・倉庫コストが7月に1.8%低下したことで、これは2023年4月以来最大の下げ幅です。燃料コスト上昇の影響が和らいでいることを示しています。この結果を受けて、FRB当局者は金融政策の変更に対してこれまで通り忍耐強い姿勢を保てるはずです。

(出典: Bloomberg)
【補足】生産者物価指数(PPI)とは
- PPIとは: 企業が商品やサービスを出荷する段階での価格変動を示す指標です。消費者物価指数より川上の段階を捉えるため、数か月後の消費者物価の動きを先取りするシグナルとして注目されます。
- なぜ「コア」を見るのか: 食品とエネルギーは天候や地政学リスクで大きく振れやすいため、これらを除いた数値の方が基調的な物価動向をつかみやすいとされています。
- 本節の論点: PPIの伸び率鈍化は、消費者物価にも波及しやすいという見立てにあたります。
過去データが示す「9月の勝率」の低さ
6月・7月が下落した年のアノマリー
以下では、先月共有したデータを改めて振り返ります。秋を迎え、11月上旬の中間選挙に近づくにつれて、市場がどう動くかを考え続けているためです。株式投資家にとって、ここまでは素晴らしい1年でした。しかし2026年はまだあと4か月残っており、この先はより難しい局面を乗り切る必要があるかもしれません。1950年まで遡るデータでは、今年のように6月と7月にS&P500が下落した年、8月の成績は五分五分でした。今年の同指数は8月時点ですでに4%超上昇しています。問題は9月で、勝率はわずか15%にとどまります。過去に9月が上昇した2つの年は、いずれも8月も上昇しており、これは現状にとって好材料といえます。それでも、目の前にあるマクロ経済・地政学リスクを踏まえると、過去と同様に調整局面につながるリスクがあると筆者は見ています。

【補足】表の読み方
- 勝率: その月にプラスのリターンとなった年の割合です。15%であれば、13年のうち2年しかプラスにならなかったことを意味します。
- 「6月と7月が下落した年」: 今年と同じパターン(6月・7月ともにマイナス)をたどった過去13年を抜き出した集計です。
- 「その他の全ての年」: 上記に当てはまらない残り63年の集計で、比較のために並べられています。
FRB会合という不確実性
9月16日にはFRB会合が予定されています。事前のフォワードガイダンスがない中で、当局者が政策について何を語るのか、市場の懸念材料になるでしょう。投資家の間では依然として利上げの確率を40%程度と見る向きがありますが、これは筆者のメインシナリオではありません。それでも、この不透明感が投資家を慎重にさせる要因であり続けるとみています。

(出典: QuiverQuant)
金利・原油・イラン情勢が重なる逆風
ボラティリティが上昇しやすい時期へ
さらに金利は数年ぶりの高水準近辺にあり、原油価格も4月のピークからは下がったものの、開戦前の水準を大きく上回ったままです。トランプ大統領はイランとの交渉に応じる姿勢を見せておらず、現在の路線を維持して体制側への経済的な圧力をさらに強める構えです。同時に、9月にかけて政治的な発言は先鋭化していく可能性が高いとみられます。選挙結果そのものに加えて、どちらが勝利するかによっては、その正当性を巡る疑義も懸念材料となるでしょう。さらに悪いことに、ボラティリティは中間選挙が近づくにつれて上昇する傾向が強く、これらの要因がその動きを増幅させる可能性があります。

(出典: Barclays Equities Tactical Strategies、Bloomberg)
【補足】VIX(恐怖指数)とは
- VIXとは: S&P500オプションの価格から算出される、投資家が予想する今後30日間の値動きの大きさを示す指数です。数値が高いほど、投資家が大きな値動きを警戒していることを意味します。
- 季節性: 中間選挙のような不確実性の高いイベントの前には、この数値が季節的に上昇しやすい傾向があります。
- 本節の論点: 金利・原油・政治情勢という複数の不透明要因が重なることで、この季節的な上昇圧力がさらに強まりかねないという指摘です。
過熱するS&P500と「10月のサプライズ」
移動平均線から見る過熱感
ここで考えたいのは、S&P500が最高値更新を経て、50日・200日移動平均線を大きく上回る水準まで伸びきっているという点です。今から10月の決算シーズンまでの間に一定の踊り場・調整局面が入ることは、むしろ健全といえます。それは上で示した過去のデータとも整合的です。ここからは「10月のサプライズ」について取り上げます。

(出典: StockCharts.com)
トランプ大統領が描くシナリオ
トランプ大統領は制裁とホルムズ海峡の通航妨害を通じてイランに合意を迫りたい思惑があるとみられますが、それによって生じた物価上昇に対する有権者の不満や、米軍・弾薬供給への負担がこれに対抗する力として働いています。筆者は、中間選挙の1か月以上前に、大統領が勝利を宣言する形で紛争を終結させ、海峡再開に向けた何らかの合意を発表すると考えています。これは支持層を勢いづけ、エネルギー価格の上昇を和らげる狙いによるものです。こうした「10月のサプライズ」は、実際に驚きであるかどうかにかかわらず、市場には好感されるはずです。
結論:9月の踊り場はブル相場の一部
したがって、9月を迎えるにあたり、筆者は短期的な警戒感を強めています。ただしそれは、このブル相場が年末まで続くという前提の中での話です。9月の踊り場は、市場が次の最高値更新へ向かうために必要な調整局面になり得ます。企業収益は株価の上昇ペースをはるかに上回って伸びており、これが評価倍率の行き過ぎを抑えてきました。予想PERで20倍という水準は、S&P500の過去5年平均と同程度です。減速したペースであっても収益成長が続くとすれば、次の機会が訪れるはずだと筆者は見ています。

(出典: Bloomberg)