中東情勢が再びリスク要因に浮上
第2四半期の決算シーズンがほぼ一巡したのを見計らったかのように、投資家の関心は再び地政学リスクへと向かいました。トランプ大統領が、同盟国であるオマーンに対し、米国がイランを交渉の席に着かせようとする動きを妨げるのであれば爆撃も辞さないと威嚇したことが、この動きに火をつけました。原油価格は上昇し、長期金利は年初来の高値を更新し、S&P500(SPY)・NASDAQ(QQQ)・ダウ工業株30種平均(DIA)はいずれも下落しました。
8月の残り期間は、プロの投資家が休暇を取り取引量が細るため比較的静かに推移する可能性がありますが、9月はより波乱含みの月になりそうです。過去の統計を見ても、9月は特に中間選挙を控えた年においてパフォーマンスの悪い月とされてきました。ただし、そこでの下落は、第4四半期にかけての良好なパフォーマンスへの地ならしになるはずだと私は見ています。

(出典: Finviz)
トランプ大統領の姿勢を変えうる2つの要因
トランプ大統領には、イランと交渉する意向を示す気配が今のところありません。60日間の停戦期限は失効しましたが、軍事行動は再開されていません。一方、レバノンでの戦闘は再び激しさを増しています。
私の見立てでは、大統領に方針転換を強いる要因は2つあります。1つ目は、現在の水準から原油価格が意味のある形で上昇することです。2つ目は、インフレ懸念を一因とする長期金利の上昇が続くことです。この2つの上昇が9月に入っても続き、株価の重荷になるようであれば、大統領は中間選挙を控えて、これまでよりもかなり融和的な姿勢を取るようになると私は考えています。

(出典: Bloomberg)
【補足】ホルムズ海峡と中東情勢が相場に与える影響
ホルムズ海峡は世界の海上輸送される原油の約2割が通過する要衝で、この海域を巡る緊張が高まるほど、原油価格と、原油高が誘発するインフレ懸念を通じて長期金利の双方に上昇圧力がかかりやすくなります。逆に情勢が緩和に向かえば、この2つの重荷が同時に軽くなるため、株式市場にとって好材料として働きやすい構造になっています。
FRBの利上げ観測は後退、VIXの低下は強気のサイン
中間選挙前にFRB(米連邦準備制度理事会)が短期金利を引き上げることについては、私はさほど心配していません。労働市場の指標が軟化していることと、2カ月連続でインフレ指標が落ち着いた数字となっていることを踏まえると、FRBは年末にかけて忍耐強く様子見を続ける余地があるはずです。利上げの確率は低下し続けており、これは9月を通過した後のリスク資産価格にとって、静かな追い風になります。
ボラティリティ・インデックス(VXX)は先週、年初来の最低水準まで下落しました。これは一部の弱気派が言うような売りシグナルではありません。主な理由は、個別銘柄間の値動きの相関性が非常に低くなっていることにあります。ある日にある銘柄群が上昇し、別の銘柄群が下落するという状況になれば、指数全体としての値動きの幅は小さくなります。これは、投資家が銘柄の選別を進めているということであり、油断ではなくむしろ強気の表れです。景気拡大が持続するという見方に対する自信が強いからこそ、投資家は勝ち組と負け組を選り分けているのです。

(出典: Bloomberg)
【補足】株式の相関性とVIXの関係
株式の相関性とは、個別銘柄の値動きがどれだけ同じ方向に揃って動くかを示す度合いです。相関性が高いときは、ある日に市場全体が一斉に上昇・下落しやすく、指数全体の変動幅(=VIXが示すボラティリティ)も大きくなりがちです。逆に相関性が低いときは、銘柄ごとの明暗が分かれるため、指数全体としての値動きは小さくなり、VIXは低めに出やすくなります。VIXの低下だけを見て「相場が油断している」と判断するのではなく、その背景にある相関性の水準を確認することが重要です。
中間選挙にかけて想定するボラティリティ上昇シナリオ
とはいえ、VIXは長期平均である19に近づき、中間選挙が近づくにつれてそれを上回る水準まで上昇する可能性があると私は見ています。トランプ大統領がイランとの戦争を9月まで長引かせ、原油価格と金利の双方に上昇圧力がかかる展開になれば、この見立ては現実味を帯びます。仮にこうした逆風がなかったとしても、これは中間選挙の年に繰り返し見られてきた過去の前例でもあり、先週示したチャートの通りです。

(出典: Bloomberg)

(出典: Barclays Equities Tactical Strategies(BETS)、Bloomberg)
【補足】VIXの長期平均という基準
VIXの長期平均はおおむね19前後で推移してきました。現在の水準がこれを大きく下回っている場合、市場が相対的に落ち着いていることを意味しますが、過去の中間選挙年の季節性パターンでは、夏の終わりから秋にかけてVIXがこの平均値へ向けて上昇し、選挙直前にピークを付ける傾向が繰り返し観測されています。
9月の調整は、第4四半期に向けた仕込みの好機
ボラティリティの急上昇は通常、株価の下落を伴います。だからこそ私は、9月にS&P500(SPY)が再び調整局面を迎えると見ていますが、それは第3四半期決算発表を控えた時期に、ポートフォリオのリスクを積み増す好機になるはずです。
相場の回復のきっかけとなるのは、トランプ大統領が再び方針を転換し、ホルムズ海峡の再開につながる展開です。楽観的すぎると思われるかもしれませんが、これまで原油市場と債券市場が米国経済にとって好ましくない方向へ動くたびに、大統領は事態を沈静化させ交渉に応じる理由を見出してきました。同氏の発言だけを見ると強硬に映るかもしれませんが、軍事行動を威嚇するときの大統領は、実際に行動を予言しているというよりも、姿勢を誇示しているだけであることの方が多いというのが私の見立てです。