先週の株式市場は、原油価格の急騰と金利上昇という二つの打撃を同時に受けました。なかでも被害が大きかったのは小型株と中型株の指数です。
これは私が9月相場について書いてきた見立てのとおりですが、水曜に控えるFOMCによって、賭け金は一段と上がりました。

(出典: T. Rowe Price)
イランでの軍事行動の激化と、中東全域への紛争の広がりが、投資家の心理を重くしています。消費者はガソリン価格の再上昇に苦しみ、企業は記録的な高値のディーゼル価格に直面しています。
インフレへの懸念と膨らむ財政赤字を背景にした長期金利の上昇が、強気相場の安定性と勢いに対する不安を煽っているのも無理はありません。
逆風と追い風の綱引き
地政学的なリスクを打ち消しているのが、底堅い経済と目覚ましい企業利益の伸びです。AIインフラへの旺盛な設備投資と、それが経済のさまざまな分野にもたらしつつある生産性の向上がこれを支えています。
雇用も堅調を保っています。新規失業保険申請件数は過去最低の水準近くで推移しており、失業率は完全雇用に近いことを示しています。
それでもインフレは5月の天井から改善したとはいえ粘り強く、市場参加者はFRBの利上げをほぼ確実と見ています。この逆風と追い風の綱引きにおいて、当面の相場の方向を決めるのは、FRBの政策決定とその理由の説明になるでしょう。

物価の実態は改善している
先週のインフレ指標はおおむね予想どおりでしたが、それでも投資家の総意は利上げの織り込みを9割近くまで引き上げました。
- 消費者物価指数(CPI)は8月に前年比3.4%で、7月から横ばい
- ただし変動の大きい品目を除いたコアは2.4%まで低下し、これは2021年3月以来の低さ
- 生産者物価指数(PPI)は5.4%、コアは4.6%で7月の4.3%から上昇
犯人はエネルギーコストの高さです。5月の天井のあと始まった物価の減速そのものは、まだ崩れていません。
【補足】コアCPIとヘッドラインCPIの違い
ヘッドラインは生活実感に近く、食品とエネルギーを含んだ全体の物価です。コアはそこから値動きの荒い食品とエネルギーを除いたもので、物価の基調的な流れを見るために使われます。 今回はヘッドラインが3.4%で高止まりする一方、コアは2.4%まで下がりました。つまりいま物価を押し上げているのはエネルギーであって、経済全体の過熱ではないということです。この違いが、FRBが何をすべきかの判断を分けます。
問題は需要ではなく、ディーゼルの供給
市場の総意が心配しているのは、これまでではなくこれからです。
理由は、ディーゼル燃料が1ガロン6ドルという記録的な水準まで急騰したことにあります。ディーゼルは産業経済の血液です。発電、農業機械、トラック輸送、海運、商用輸送を動かしています。
このコスト上昇は食品価格に、そして輸送を必要とするほぼすべての商品に現れています。この秋には消費者の暖房費を大きく押し上げる可能性もあります。
中東での戦争が供給を細らせ、精製能力を削りました。ドナルド・トランプ大統領はいま、ウクライナに対してロシアのディーゼル関連施設への攻撃をやめるよう求めていますが、ロシアとウクライナの戦争は世界のディーゼル供給をおよそ3%減らしたとされます。
ただし危機の主因は、イランとの戦争とホルムズ海峡の封鎖です。この燃料価格の上昇が収まらなければ、インフレはさらに広い範囲へ波及します。責任をウクライナに向けようとしてはいても、この点はトランプ政権のイラン戦略に確実に織り込まれているはずだと私は見ています。
供給が細るとはどういうことか
【補足】ホルムズ海峡が塞がると何が起きるか
ペルシャ湾の出口にあたる細い海峡で、世界の海上輸送される原油と石油製品の大きな部分がここを通ります。 産油国が油を汲めても、船が通れなければ市場には届きません。だから海峡が使えなくなると、地面の下にある埋蔵量の多さとは関係なく、実際に届く量が減って価格が跳ね上がります。今回のディーゼル高が需要の強さではなく供給の話だ、というのはこの構造によるものです。
0.25%の利上げでエネルギー問題は解決しない
FRBが0.25%利上げすれば、私たちのエネルギー問題は解決するでしょうか。まったくしません。 だから私は、FRBは政策を維持して辛抱すべきだと考えています。これは供給の問題であって、需要の問題ではないからです。
AI投資に伴う部材や資材の需要が引き起こしているインフレについても、利上げで超大型ハイテク企業の支出が鈍ることはありません。
大統領は輸入品の価格を押し上げてきた関税を撤回することもできますが、それは望み薄です。
K字型の経済で信用を締めると誰が傷つくか
さらに言えば、K字型の経済のもとで信用を引き締めることは、FRBがもっとも助けたいはずの消費者を傷つけます。
金融引き締めのもとで経済成長が鈍り、中低所得の世帯が借入コストの上昇と職を失う可能性に直面するなら、FRBは一方の使命を果たすためにもう一方の使命を損なうことになります。
【補足】FRBの二つの使命と「K字型」
FRBは法律で物価の安定と雇用の最大化という二つの使命を負っています。普段は両立しますが、供給側の要因で物価が上がっている局面では、利上げが雇用だけを削って物価には効きにくくなります。K字型というのは、同じ経済の中で上向く層と下向く層に分かれている状態を指します。資産を持つ層は資産価格の上昇で潤う一方、借入に頼る層は金利上昇の負担をそのまま受けます。だから同じ0.25%でも、痛みの出方は層によってまったく違います。
それでもFRBは、そこまで後手には回っていない
政策を据え置く場合のリスクは、戦争が年末まで続き、エネルギー価格がさらに上がり、他の財やサービスへの波及が強まることです。
私は利上げ観測が強まる中でも、今年は政策変更なしという見方を一貫して保ってきました。 ただしそれは、原油と金利のもう一段の上昇が、トランプ政権に中東からの部隊撤収と長い交渉プロセスへの転換を促すだろう、という前提の上に立っていました。
中間選挙が迫っているにもかかわらず、それは明らかに実現していません。
それでも米2年債利回りの水準を踏まえれば、FRBはそこまで後手に回っているわけではありません。

2022年との違い
米2年債利回りは、投資家が将来のFF金利をどこだと見ているかを映す指標として扱われます。
2022年には利回りが急激に、しかも速く上昇し、FRBは遅れて追いかける形になりました。多くの人がその対応を遅すぎたと見ています。
今日の背景はやや異なります。上昇はより緩やかで、動きも遅い。それでも市場は一つのメッセージを送り続けています——利上げが必要だ、というものです。
【補足】満期までの期間が短い国債が示すもの
米国債には満期までの残り期間がさまざまなものがあります。満期が2年先の国債の利回りは、その2年間にFRBが政策金利をどう動かすかという市場の予想を、もっとも素直に映します。 満期が10年、30年と先に延びるほど、インフレや財政の見通しといった別の要素が混ざってきます。だから「FRBが後手に回っているか」を測るときは、2年のものと現在のFF金利の差を見るわけです。
ウォーシュ議長に逃げ道はない
これはケビン・ウォーシュFRB議長を、勝ち目のない立場に追い込みます。
彼が決定票を握ると仮定すれば、市場を失望させるか、利下げを強く求めるトランプ大統領を失望させるかのどちらかを選ばなければなりません。
据え置いた場合
私は、FRBが金利を据え置き、同じ3人が反対票を投じると予想しています。
そうなれば債券市場は長期金利の上昇という形で反発する可能性が高く、その後に株価が当面下げる展開が続きやすいでしょう。ただし長期金利のさらなる急騰は、トランプ政権に緊張緩和を促す力にもなり得ます。
利上げした場合
ウォーシュ議長が債券市場をなだめるために0.25%の利上げに票を投じれば、長期金利は下がりやすく、株価は上がりやすくなります。これが市場が望み、そして予想している姿です。
その場合、ウォーシュ議長は弁護士を立て、大統領の怒りに向き合う準備が必要になるかもしれません。
過去の「中間段階での利上げ」はどうだったか
0.25%の利上げは、それが多数回の一回目でない限り、マクロ経済の環境を大きく変えるものではありません。そして多数回になる可能性は極めて低いと見ています。
過去、FRBが景気サイクルの途中で利上げに踏み切ったとき、市場は1〜3か月の期間では小幅な下落を被りました。しかし6か月後に株価が上昇していた例のほうが、圧倒的に多いのです。
大きな損失が出た唯一の例は、FRBが11回の利上げを行った2022年でした。

(出典: Refinitiv、Bloomberg、ソシエテ・ジェネラル)
表の見方
【補足】表の読み方
左半分が初回利上げの前、右半分が後の値動きです。右側の1か月では7回中6回がマイナスで、平均もマイナス3%です。ところが6か月後の欄では、上昇した割合が71%まで戻り、平均も4%のプラスに転じています。利上げそのものより、そのあとに利上げが何回続くかが結果を分けていることが、2022年の行だけ突出して悪いことから読み取れます。
水曜の結果にかかわらず、私がすること
したがって、水曜にFRBが何をするかにかかわらず、私は相場の下落局面を株式市場へのエクスポージャーを増やす機会として使うつもりです。
企業利益は目覚ましいままで、景気の拡大も軌道に乗っているからです。