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1. 企業向けAIの拡大には、使える公開モデルが必要
NVIDIAが公開モデルに力を入れる理由
NVIDIA(NVDA)が公開型のAIモデルに力を入れる背景には、企業向けの需要を広げる狙いがあります。企業は高度なAIモデルを自力で開発できません。NVIDIAの計算資源を調達し、自社の設備で独自の業務システムを作るには、利用できる公開モデルが必要です。
【補足】公開モデルとは
AIの学習で得た設定値を公開し、利用条件の範囲で、自社の設備でも動かせるようにしたモデルです。
中国勢が先行する公開モデルと信頼性の問題
問題は、最先端の公開モデルが中国勢に集中していることです。AIモデルの性能を比較するArenaのテキスト分野のランキングでは、10月8日時点で、設定値を公開するモデルの上位7つを中国製が占めています。欧米で最も上位のモデルは75位です。
こうしたモデルを信頼できるかどうかは、議論の対象になっています。普段は正常に動いても、特定の条件では利用者に不利益な行動を取るよう学習されているかもしれません。たとえば、生成するプログラムにセキュリティ上の欠陥を埋め込む行動です。
ただし私たちは、このリスクが現実になるのはまだ先だと考えています。現在のモデルには、そうした行動を確実に実行する能力がないためです。
文章の下書き、要約、顧客からの問い合わせへの回答などでは、大きな問題にならないと見ています。私たちの推計では、こうした使い方が企業の用途の90%超を占めます。モデルは自社のサーバーで動き、失敗した場合の影響も限定的だからです。
一方、Palantir(PLTR)の防衛・政府向け業務では事情が異なります。改ざんの可能性が少しでもあれば、受け入れられません。政府の調達では一般に、中国由来の技術をそもそも使えないという制約もあります。
Palantirは、欧米の公開モデルの開発を支援するか、利用できるモデルを探す必要があります。NVIDIAは自社モデルNemotronへの投資を増やしており、両社が組むことには合理性があります。
NVIDIAが最近まとめた大きな取引2件にも、この狙いがあると私たちは見ています。9月には、従業員の引き留め報酬を含め、約129億ドルでHugging Faceを取得することに合意しました。8月には、Poolsideのモデル構築技術のライセンス取得に60億ドルを支払い、同社の従業員109人を採用し、さらに10億ドルを出資することに合意しています。
最先端のモデルを生み出す研究チームとは
それでも私たちは、NVIDIAが近い将来に世界最先端の公開モデルを作れるとは楽観していません。これまでの同社の最高モデルであるNemotron 3 Ultraも、同じランキングでは120位です。世界の先頭に立つモデルを作るには、その開発に専念する研究所を築く必要があります。
Google(GOOGL)、Meta(META)、xAIの事例から私たちが学んだのは、大企業の組織と、創業者が直接率いる少数精鋭のチームでは文化が違うということです。先を見通せる指導者の下で、適切なアルゴリズムを選び、失敗のリスクがあっても大きな成果につながる実験に挑む必要があります。時間と計算資源が限られるなかで、的確に判断する力も欠かせません。決断力がなければ、資金や人員の多さが、かえって不利に働くこともあります。
Metaはその教訓を踏まえ、Llamaのチームを解散しました。代わりに、スタートアップに近い形で超知能の開発に専念する社内チームを作り、初期的な成果が見え始めています。Googleはなお組織の立て直しを進めており、再び先頭集団に追い付けるかは、まだ判断できません。
xAIにも同じ構図が見られます。イーロン・マスク氏は当初、同社に集中していました。しかし、その後はSpaceXやTesla(TSLA)などにも注意を向けざるを得なくなり、xAIは焦点を失って後れを取りました。今は、マスク氏が再び同社に力を注ぐ必要があります。
Grok 4.6と4.7の出来はよく見えますが、4.7の登場は1カ月以上遅れ、Grok 5の予定も後ずれし続けています。xAIは現在、その前にGrok 4.8を投入する予定です。最先端に追い付き、その位置を保つための苦戦が続いています。
NVIDIA固有の組織上の課題
NVIDIAも、大企業ならではの同じ課題を抱えています。加えて、同社はハードウェアを中心に発展してきた企業です。多くのソフトウェア開発者は、主にシステムを支える基盤ソフトウェアを作っています。最先端のAIモデル開発とは、必要な文化が異なります。
大胆で先見性のある経営陣が直接指揮し、優秀な人材が開発に集中するチーム。私たちは、最先端の研究所に不可欠なこうした要素を、NVIDIAが備えているとは考えていません。
今後数四半期から数年の間に、NVIDIAが世界最先端の公開モデルを作る確率を、私たちは約20%と見積もっています。欧米勢のなかで最も優れたモデルを作る確率ではなく、中国勢も含めて世界の先頭に立つ確率です。
まず比較的平均的なモデルが登場し、期待外れとなった後、MetaやGoogle、xAIのような立て直しに向かうと予想します。近い将来の成果には、慎重な見方をしています。
企業が自力でAIを運用する難しさ
中国の公開モデルは、今後も多くの用途で使えます。ただし、企業の業務で運用できる状態にするには、用途に合わせた追加学習が必要です。結果を評価しながら応答を調整する強化学習なども、その作業に含まれます。
大規模クラウド事業者や独自モデルの提供企業に頼らず、企業がこうした調整を自力で行うのは、なお困難です。企業が独立してAIシステムを運用する形が広く普及するまでには、まだ時間がかかると私たちは見ています。
2. AI事業への出資と株主還元をどう評価するか
AI研究所への出資はどれほど大きいか
NVIDIAは、フリーキャッシュフローの多くを、自社のAI事業を支える企業群へ再投資しています。フリーキャッシュフローとは、事業で得た現金から設備投資などを差し引いた後に残る資金です。
直近の決算説明会では、最先端のAI研究所へすでに500億ドル近くを出資したと説明しました。ジェンスン・フアンCEOは、唯一の後悔は、もっと早く、もっと多く出資しなかったことだと述べています。
今会計年度の上期には、株式の取得に420億ドルを支出しました。フリーキャッシュフローの約60%に当たります。保有株式の価値は、1月の350億ドルから7月には940億ドルへ拡大しています。
還元より事業投資が先になる方針
同社には、フリーキャッシュフローの少なくとも半分を株主へ還元する計画があります。ただしCFOは、今後の還元対象を「戦略的な用途に充てる分を差し引いた余剰フリーキャッシュフロー」と説明しました。事業を支える企業群への資金配分が、株主還元に先立つということです。
還元方針が評価倍率に及ぼす影響
投資家にとって、事業への再投資に回る1ドルは、そのまま還元されない1ドルです。私たちは、これがNVIDIAのPERの低さを説明する、大きな理由の1つかもしれないと考えています。利益を株主に還元しない企業では、ほかの用途より還元比率を優先する姿勢が明確になるまで、PERの回復は進まないと見ています。
参考になるのはApple(AAPL)です。2013〜2015年ごろのAppleは、巨額の現金を生み出し、その多くを銀行に残していました。カール・アイカーン氏ら、経営に働きかける投資家の活動によって、ティム・クックCEOは方針を変えることになりました。
Appleが積極的に株主還元を増やすと、その後、PERは数倍に上昇しました。当時は約10倍でしたが、最近は約30倍、38倍、あるいはそれ以上です。私たちの見方では、これはAppleの成長と製品革新がピークを過ぎた後に起きました。
投資家は、売上高や技術面での優位性だけでなく、還元も重視します。NVIDIAが5月に配当を25倍へ引き上げ、9月に自社株取得枠を1,500億ドル増やしたことは、その第一歩です。ただし、Appleが行ったほどの方針転換には、まだ至っていないと私たちは考えています。
【補足】PERと株主還元は別の指標
PERは、株価が1株当たり利益の何倍かを示します。利益のうち、どれだけを配当や自社株取得に回すかとは別の数字です。
事業基盤を守るための出資
技術者は、NVIDIAの戦略を好意的に見ています。特定のAI用途に合わせて設計する専用チップに対抗するには、周辺企業も含めた事業基盤を築く必要があるためです。AI向けの新興クラウド事業者などへの投資も、その一環です。
私たちは、こうした支出の多くを、競争力を守るための費用と捉えています。出資しなければNVIDIAに不利となり、出資して初めてその不利を打ち消せる、という見方です。多くの強気派が考えるような、大きなプラスの効果は見込んでいません。
Groqへの投資判断とタイミング
出資先の選び方にも改善が必要です。私たちは、説得力のある成功例を、まだ確認できていません。Groqは候補かもしれませんが、NVIDIAは以前、同社の取得や出資をためらっていました。
私たちの記憶では、Groqは昨年、最終的な取引価格の約半分で売りに出されていましたが、引き受け手がいませんでした。その後、CerebrasとOpenAIの取引がまとまりそうになると、NVIDIAは慌て、1〜2週間のうちに約200億ドルを支払いました。Groqの技術ライセンスを取得し、同社の経営陣を採用するためです。
出資が成功しても、株価に反映されるとは限らない
こうした出資には、利益を生む可能性と、株主がその利益を十分に受け取れない問題の両方があります。私たちは、OpenAIとAnthropicへの出資価値は数倍になると考えています。ただし、その利益がNVIDIAの株価や企業価値に、そのまま反映されるわけではありません。
Alibaba株を大量に保有していたYahooと、そのインターネット事業を手放した後に残った持株会社Altabaが参考になります。Altabaの保有資産は、ほぼAlibaba株だけでした。それでも両社の評価額は、保有するAlibaba株の価値を大きく下回っていました。
別の会社を通じて資産を保有すると、利益が直接株主へ渡らないことがあります。資産を処分すると税金が発生する可能性もあり、経営陣が回収資金を別の用途に使う場合もあります。そのため投資家は、企業の内部にある資産を、その資産自体の価値より低く評価するのです。
投資先の収益と、株主が受け取る価値の差
NVIDIAがフリーキャッシュフローのすべて、あるいは大半を再投資するなら、求められる収益率は高くなります。私たちは、AI設備投資が約30%の投下資本利益率を生むと想定しています。NVIDIAのリスクの高い投資群には、平均で30%を超える内部収益率が必要だと考えています。
しかし、投資家が出資先の価値を70%差し引いて評価するなら、33%の収益率も、株主の立場では約10%にしかなりません。私たちは、それほど魅力の大きい水準とは見ていません。
【補足】投資収益率の読み方
投下資本利益率は、事業に投じた資本に対する利益の割合です。内部収益率は、将来の資金回収も含めて投資の収益性を測ります。本文の33%から約10%への換算は、出資先の価値を70%差し引くという筆者の仮定です。
帳簿上の利益が現金になるまで
利益を現金として回収できないリスクもあります。出資先の評価額には、過熱による上乗せが含まれています。NVIDIAが投資を回収しない限り、利益は帳簿上のものにとどまります。
現金化までに長い時間がかかるかもしれません。その待ち時間を考えると、Alibaba株を保有していた持株会社の例よりも、さらに大きく差し引いて評価される可能性があります。
CUDAの弱まりを資金面から補う
私たちは、NVIDIAが出資と金融支援を通じて、新たな競争上の防壁を築こうとしていると考えています。GPUを動かすソフトウェア基盤CUDAの優位性が弱まる分を、資金面の支えで補う戦略です。
金融支援も拡大しています。NVIDIAはApollo、Blackstone、KKRなど6つの投資会社と資金調達の枠組みを設けました。第三者から5,000億ドル超を集めることを目指しています。総合すると、私たちはこれを株主にとっての新たな強気材料とは見ておらず、効果は比較的中立だと捉えています。
3. 光接続では、ラックを超えた競争が始まっている
銅線を重視するNVIDIAへの懸念
私たちがもう1つ懸念するのは、光接続と、システム全体の性能でNVIDIAが大きく遅れていることです。昨年のHuaweiに関する分析でも指摘したとおり、光接続への姿勢が、競合に対する最大の弱点になる可能性があります。特にBroadcom(AVGO)や、GoogleのAI専用チップTPUとの競争で問題になると考えています。
Huaweiは、光技術を積極的に導入すれば、システム全体の性能を高められることを示しています。一方、NVIDIAは銅線に重点を置く道を選びました。私たちは、将来の中心は光接続だと見ています。銅線は目先の課題には有効でも、長期にわたる全体の最適解にはならない、という考えです。
72基の接続と、数千基をつなぐシステムの違い
光信号を送受信する装置や、機器同士の光接続、光の経路を切り替える仕組みなどで、NVIDIAは大きく遅れていると私たちは考えています。チップの近くに光部品を置く技術も同様です。比較対象は、Broadcomと組むGoogleのTPUやHuaweiです。
NVIDIAは、GPU単体から、サーバーを収めるラック全体の性能向上へ、見事に軸足を移しました。しかしBroadcomとHuaweiは、その先を見ています。複数のラックをつないだ、より大きなシステム全体の性能を高める競争です。
GoogleのTPU 8tスーパーポッドは、光の経路を切り替える技術で9,600基のチップを接続する設計です。今四半期に登場する予定のHuaweiのAtlas 950 SuperPoDは、キャビネット間をすべて光でつなぎ、8,192基のAscendチップを接続します。これに対し、NVIDIAのVera RubinがNVLinkで一体につなぐ範囲は、なお銅線接続の72基のGPUです。
この規模の違いは重要です。銅線はラック内では使えても、はるかに大きなシステムでは十分ではありません。光接続へ向かう将来を考えると、NVIDIAの遅れは大きいと私たちは見ています。
光技術を自社で持つ企業の強み
システム全体の競争では、NVIDIAの選択肢が少ない可能性もあります。BroadcomとHuaweiは、光接続に必要な技術を自社で持っています。NVIDIAには、その一式がありません。
同じようなシステムを作るには、ルメンタム・ホールディングス(LITE)、コヒレント(COHR)、マーベル・テクノロジー(MRVL)などと組む必要があります。私たちは、外部との連携によって利益率が下がり、技術の統合が難しくなると考えています。設計上、折り合いをつける点も増えます。BroadcomとHuaweiには、同じ制約がありません。
光部品をチップと一体化する方式への疑問
NVIDIAが、光部品をチップと同じパッケージに収める方式を推進していることも、私たちは懸念しています。この方式は十分な解決策ではなく、光接続の戦略が劣っていることの表れだと見ています。
私たちは、当面は光部品をパッケージのすぐ近くに置く方式が中心になると考えています。Huaweiは、演算チップ側と、通信を振り分けるスイッチ側の両方で、この方式を積極的に採用しています。
NVIDIAはスイッチ側で光部品の一体化を進めていますが、成果は乏しい状況です。GPU側での一体化は、将来の世代であるFeynmanへ先送りされています。私たちは、この取り組みには問題が生じると予想しています。
Huaweiとの導入時期の差
私たちは、Huaweiが2027年1〜3月期に、スイッチ側と演算チップ側の両方へ、光部品をパッケージ近くに置く方式を導入すると見ています。この時期はHuaweiの公表ではなく、私たちの推定です。
その場合、NVIDIAはチップのパッケージ技術で2年先行していても、光技術ではHuaweiに2年以上遅れる可能性があります。最終顧客が重視するのは、システム全体と光接続の性能です。
ラックとGPUだけを見れば成り立つ優位性も、システムを大きくすると失われるかもしれません。むしろ、大きな不利に変わる可能性すらあります。より大きなシステムへの需要には際限がないためです。
【補足】光部品を置く場所の違い
CPOは光部品をチップと同じパッケージに収める方式です。NPOは、そのすぐ近くに光部品を置く方式です。どちらを重視するかが、筆者の評価の分かれ目です。
4. Huaweiの先行事例から見えるモデル開発の難しさ
早く着手し、技術を持っていても成功するとは限らない
大企業が大規模言語モデルを開発する難しさは、Huaweiの事例にも表れています。同社はChatGPTよりはるかに前から開発を進め、2021年に、パラメーター数2,000億のPanGu-αを公開しました。パラメーターは、AIが学習を通じて調整する数値のことです。
このモデルは、Huawei自身のAI処理用半導体であるNPUの基盤上に作られました。NVIDIAが今試みていることを、Huaweiは何年も前に行っていたのです。
Huaweiは、製品分野を横断して技術を広げる力でも、チップからソフトウェア、システムまで一貫して作る力でも、NVIDIAを上回っているといえるでしょう。たとえば自動運転では、最先端のチップとモデルを持っています。NVIDIAの運転用モデルは、そこから大きく遅れています。
それでもHuaweiは、競争力のある大規模言語モデルを築けませんでした。これほど能力のある組織でも実現できなかったことを考えると、NVIDIAが近いうちに最先端の公開モデルを作れるという見通しには、私たちはさらに慎重になります。