1997年型の地合いが戻ってきた——成長懸念の解消と、9月をどう見るか


■GDPのヘッドラインは実態と逆
第2四半期GDPは1.5%へ鈍化したが、貿易と在庫を除いた実質民間国内最終需要は3.9%へ加速し、押し下げ要因の輸入の多くはAI関連の設備だった。
■インフレは四半期と月次で正反対
GDPデフレーターは前年比4.3%と高いが、6月のコアPCEは0.13%。年初のエネルギー高を引きずる四半期平均より、月次のペースが先行きを示す。
■長期金利がすでに引き締めを代行
FRBは9対3で据え置いたが、10年債4.7%とナスダックの11%調整が実質的な利上げとして機能し、FRBは信認を損なわずに時間を得た。
■リスクは原油・円・ハイパースケーラーの資金調達
ホルムズ合意の崩壊、円の165突破、設備投資を証券発行で賄う構図の三つが、この見立てを反転させうる。
3月に私は「これは1997年の再来だ」と書きました。ただし「イランが現れるまでは」という条件付きでした。ほかの点では底堅い景気拡大を壊しうる唯一の変数が、エネルギーだったからです。
あれから5か月。ホルムズ海峡を再開させる計画が出て、原油は下落し、S&P 500は均等ウェイト指数とそろって最高値を更新しました。成長懸念は、1998年と同じかたちで解消に向かっています。私は前向きに見ていますが、それでも9月に向けてこの上昇を追いかけるつもりはありません。
第2四半期のGDPは1.5%で、前期の2.1%から鈍化しました。どのヘッドラインもこれを「減速」と呼びましたが、実際は違います。
貿易と在庫を取り除いた指標である実質民間国内最終需要は、3.9%まで加速しました。

(出典: LSEG Datastream, Yardeni Research, Bureau of Economic Analysis)
GDPから輸出入と在庫変動を差し引き、国内の家計と企業が実際にどれだけ支出したかだけを取り出した指標です。貿易と在庫は四半期ごとの振れが大きいため、景気の基調を見るときはこちらのほうが素直に読めます。
2023年初め以来の強さです。個人消費は0.5%から3.2%へ、設備投資は8.4%の伸びとなりました。
では、何がヘッドラインを押し下げたのか。輸入です。輸入が急増し、およそ1.5ポイントを差し引きました。そしてほとんど誰も口に出していないことがあります。その輸入のかなりの部分がAIの構築投資そのものだという点です。サーバー、チップ、ネットワーク機器、冷却システム。米国はそのいずれも十分に自国で作れないため、海外から買っています。
国民経済計算は、このサイクルを動かしているまさにその支出を、統計上はマイナス要因として扱う仕組みになっているのです。前四半期、需要はむしろ強くなりました。
ここが、多くの解説が雑になっているところだと私は考えています。
四半期のデータで見るかぎり、インフレの姿はかなり悪く映ります。GDPデフレーターは前年同期比4.3%上昇で、2023年第1四半期以来の高さ。コアPCEDも3.3%と3年ぶりの水準です。

(出典: LSEG Datastream, Yardeni Research, Bureau of Economic Analysis)
GDPデフレーターは経済全体の物価水準を示す指標で、輸入品を除く国内生産のすべてを対象にします。一方のコアPCEは家計の消費支出に絞り、変動の激しい食品とエネルギーを除いた指標で、FRBが政策判断で最も重視する物価指標です。同じ「インフレ」でも対象範囲が違うため、動きが食い違うことがあります。
月次のデータで見ればインフレは問題ありません。6月のコアPCEは0.13%の上昇で、住居費を除くサービスはマイナスに転じました。どちらも正しいのです。
前年同期比の四半期平均は、バックミラーを見ているようなものです。年初のエネルギー価格の急騰を、いまも引きずっています。次の統計がどこに着地するかを教えてくれるのは月次のペースのほうであり、ウィリアムズ総裁は月0.2%が安全圏だと明確に述べています。
FRBは3.50〜3.75%で据え置きましたが、採決は9対3。2016年以来最も大きな分裂で、ハマック、カシュカリ、ローガンの3氏がそろって25bpの利上げを求めました。声明文はほとんど動いていません。委員会の主流派が、この3人に何かを譲る必要をまったく感じていなかったということです。
実際、譲る必要はありませんでした。政策金利が据え置かれたまま、10年債利回りは4.7%近辺にあります。実質金利は上昇しました。ナスダックは7月を通じて11%の調整を経ていますが、経済はそのすべてを吸収しました。

(出典: CNBC)
呼び名こそ利上げではありませんが、これは長期ゾーンが代わりに実施した引き締めであり、しかもFRBの信認を一切損なわずに実現しています。ウォーシュ議長はフォワードガイダンスを完全に撤廃したため、市場はFRBがどう反応するかを教えられるのではなく、自ら推し量って値付けするようになりました。FedWatchは年内1回の利上げを織り込んでいますが、私はそれは来ないと考えています。
準備預金の管理を目的とした買い入れは、月400億ドルから100億ドルまで縮小しました。加えて第4四半期のTGA目標が9,500億ドルから8,500億ドルへ引き下げられたことで、第3四半期に買い入れを止めても何も壊さずに済むだけの流動性が戻ってきます。FRBは、支払わずに済む時間を手渡されたことになります。
米財務省がFRBに置いている預金口座です。ここに資金が積み上がると民間の銀行から資金が吸い上げられ、逆に取り崩されると市場に資金が戻ります。TGAの目標引き下げは、それだけ市場に流動性が供給されることを意味します。
中央銀行のおよそ30%がいま引き締めに動いています。そしてそのほとんどは、米国以外の中央銀行です。

(出典: MacroMicro)
先陣を切ったのは韓国で、7月に2.75%まで引き上げました。ECBは6月に予防的な利上げを開始したのち2.25%で据え置いていますが、ユーロ圏のエネルギーインフレは前年比10%で推移し、電力先物は3月の高値を上回っています。BOEは6対3で割れました。
RBAは3回の利上げを経て4.35%で停止しており、台湾とインドはいずれもタカ派に傾いています。
これらの決定はひとつ残らず、同じ1バレルの原油に行き着きます。米国だけがこの圧力を免れているのは、エネルギーの純輸出国だからです。ほかの誰にもその立場はありません。
本稿のどの論点よりもホルムズが重いのは、そのためです。合意が維持されて原油が下がり続ければ、ECB、BOE、RBAの限界的な利上げは実施されずに終わります。この夏ずっと米国以外の株式を圧迫してきたタカ派方向の織り込みは巻き戻り、しかもその動きは速いはずです。崩れれば、逆のことが起こります。
7月30日、日本は1日で8兆4,500億円、およそ530億ドルを投じて円を買いました。

(出典: Yahoo Finance)
単日としては過去最大の介入で、ニューヨーク連銀によるレートチェックが並行して行われ、さらに米財務省の主導でゴールドマンとモルガン・スタンレーを通じたユーロ売りも実施されたと伝えられています。米ドル/円は164から157近辺まで戻りました。
低金利の円で資金を借り、より金利の高い通貨や資産に振り向ける取引です。円安が続くかぎり為替でも利益が出ますが、円が急騰すると損失が一気に膨らみ、世界中の資産を同時に売って手仕舞う動きにつながります。円の水準が世界の株式市場に波及するのは、この経路があるためです。
米国のESF(為替安定基金)が保有するのはおよそ245億ドルと130億ユーロです。これは実弾と呼べる規模ではなく、姿勢を示す程度のものにとどまります。日本はこの負担を単独で背負っています。
日銀の政策金利は1.0%で、半年に25bpというペースでしか動かない一方、政府は積極的に支出しています。金利差は動いていません。介入は時間を買いますが、反転を買うことはできません。
ここからが、ポジショニングにとって本当に重要な部分です。
ハイパースケーラーは設備投資計画を再び引き上げました。Google(GOOGL)は1,950〜2,050億ドル、Meta(META)は1,300〜1,450億ドル、Amazon(AMZN)は2,200億ドル。2027年のクラウド支出は1兆ドルを超える方向にあります。

(出典: Company data, Morgan Stanley Research estimates)
第2四半期のフリーキャッシュフローはサイクルの安値をつけ、GoogleとAmazonではマイナスに転じました。Googleは自社株買いを停止し、700億ドルを調達しています。私はこのリスクを1月に指摘し、5月に論点として組み立てました。
ハイパースケーラーが設備投資の資金を賄うために証券を発行すると、エクイティは恩恵を受ける側ではなく、静かに資金の出し手へと変わります。これによって、この話はエクイティの物語からクレジットの物語へと姿を変えます。1999年よりも、むしろ2008年に近い構図です。壊れるときは、倍率ではなくスプレッドを通じて壊れます。
ただし、これを打ち消す材料も確かに存在します。受注残とARRのカバレッジは、4社のうち3社で改善しました。収益化はおおむね支出のペースに追いついています。これが設備投資サイクルとバブルを分ける線であり、いまのところデータが示しているのはまだサイクルの側だということです。
ARR(年間経常収益)は、サブスクリプション型の事業が1年間に安定して見込める収益です。投じた設備投資に対して、契約済みの収益がどれだけ積み上がっているかを見ることで、支出が需要の裏付けを伴っているのか、それとも先行しすぎているのかを判断できます。
だからこそ、ここまでの内容で私の枠組みが変わるところはありません。私はAIに対して弱気なのではありません。設備投資の発表に対してピーク水準の倍率を払うことに慎重なのです。
私が持ちたいエクスポージャーは、ヘッドラインの1段か2段下——電力、素材、産業向けの資材、つまりソフトウェアの更新では解決できない物理的な制約の側にあります。バブルという判断は、2027年の課題です。
いま注視すべき点をいくつか挙げます。
- ホルムズ合意が崩れ、原油が上方に再評価される。 その場合、ここまでの内容はすべて反転します。
- コアPCEが0.3%を記録する。 3人の反対票が多数派に変わります。
- 円が165を突破する。 キャリーの巻き戻しが、資産を選ばずすべてを引き下げます。
- ハイパースケーラーのクレジットスプレッドが拡大する。 貸し手が、アナリストのすでに見ているものを値付けし始めたときです。
そして季節性は、率直に言って味方ではありません。6月と7月がともに下落した過去13年のうち、11年で9月はマイナスで終わっています。

(出典: Dow Jones Market Data)
1文に圧縮するなら、こうなります。成長懸念は解消に向かい、FRBは対価なしで時間を得た。そして世界の他の地域は、すでに過ぎ去ったかもしれないエネルギーショックに対して、いまも引き締めを続けている。
これは前向きな地合いです。ただし、8月の第1週に最高値を追いかける理由にはなりません。
成長はヘッドラインが示すより強く、インフレは意味のあるペースの側で冷えています。そして3月に「これを壊す」と私が述べた変数は、ようやく正しい方向へ向かっています。ですから私は保有を続け、ナラティブの1段下にとどまり、歴史が来ると告げている局面、すなわち9月に備えて現金を残しています。