原油が再び逆風になっている
「半分だけの交渉」という綱引き
原油が再び逆風になりつつあります。WTI原油価格は昨日1バレルあたり4ドル上昇し、82ドルに達しました。トランプ大統領は、イランへの追加攻撃に代えて、本人が「半分だけの交渉」と呼ぶやり方を進める意向を示しています。正式な交渉の席には着かないまま、経済的な痛みをさらに加えることで、体制側に譲歩を迫れると見ているわけです。
しかしイラン側も同じゲームを戦っています。原油価格と金利の上昇が、トランプ大統領に対してより譲歩的でない条件を受け入れさせることを期待しているのです。
もう一つ考慮すべき要因として、米国の兵器システムの弾薬が残り少なくなっており、補充には数か月を要すると報じられている点があります。これは間違いなく、直近の停戦に至った理由の一つです。

(出典: Finviz)
中間選挙まで100日を切った
もう一つの要因は中間選挙です。投票日まで100日を切りましたが、有権者の大多数はこの戦争に明確に反対しています。エスカレーションとデエスカレーションが、原油価格と金利の上下と一致してきたのは偶然ではありません。
その間にも、米国の戦略石油備蓄は危険なほど低い水準で推移しており、アラブ諸国の同盟国は現状に苛立ちを募らせています。
紛争そのものはこの先も数か月にわたって長引く可能性が高いと見ています。それでも筆者は、自国経済への打撃を和らげたいという思惑から、選挙前に軍事局面を終わらせ、海峡を再開させる何らかの合意が成立すると考えています。より複雑な交渉の詳細は、来年へ先送りされることになるでしょう。

(出典: Bloomberg)
【補足】ホルムズ海峡と戦略石油備蓄
- ホルムズ海峡: ペルシャ湾の出口にあたる海峡で、世界の海上輸送される原油の約2割がここを通過します。封鎖されると産油量そのものは変わらなくても、市場に届く量が減るため価格が跳ね上がります。
- 戦略石油備蓄: 米国が供給途絶に備えて保有する国家備蓄です。放出すれば価格を一時的に抑えられますが、残量が減るほどその手札は使いにくくなります。
- 本節の論点: 原油価格・金利・選挙日程の3つが連動しているという指摘です。政治的な判断が相場を通じて跳ね返ってくる構図になっている、という見立てにあたります。
テック株のバリュエーションは、夏の調整で市場平均に近づいた
1999年型の過剰投資という懸念
この夏の数か月、投資家はテクノロジーセクターのバリュエーションに対する懸念を強めていきました。人工知能に対する3年間の抑制なき熱狂を経た後のことです。
懸念の中身は主に3つあります。過剰な設備投資が1999年型の供給過剰につながるのではないかという恐れ。それを賄うために発行された債務が膨らんでいること。そして収益化までの時間軸に対する疑問であり、これは中国のより安価なAIモデルの登場によって増幅されました。
それでも決算そのものは堅調だった
それでもなお、AI関連テック銘柄の第2四半期の決算の大半は、利益・売上高ともに予想を上回り、受注残高も増加していました。
このサイクルの現段階における違いは、投資家がセクター全体を無差別に買うのではなく、銘柄選別においてより見極めるようになった点にあります。これは健全な変化です。そしてこの変化は、夏の調整局面を経て、テック領域のバリュエーションが全体として市場のそれ以外の部分の水準に近づいたことに続いて起きています。

【補足】バリュエーション「プレミアム」の読み方
- 何を示した図か: テクノロジーセクターの予想PERが、S&P 500全体の予想PERの何倍かを示しています。1.30なら「市場平均より30%高い評価が付いている」という意味です。
- 点線の意味: 過去5年の平均値です。足元の水準はこれを下回っており、テック株に付く上乗せ分が過去5年の平均より小さくなっていることを示しています。
- 注意点: これは相対的な比較であり、市場全体の水準が高ければテック株の絶対的な評価も高いままでありうる、という点は分けて考える必要があります。
債券市場のほうが先に選別を始めている
借入コストに差がつき始めた
さらに、債券市場の投資家は、最大手のテック企業に対して貸し出す資金に対し、より高い金利を要求し始めています。しかもそれぞれの事業計画の中身によって差がついています。
これは最終的に誰が勝者で誰が敗者になるのかを示す、早期の兆候かもしれません。株式市場より先に、債券市場がリスクを織り込み始めているということです。繰り返しになりますが、これも健全なプロセスです。

(出典: Bloomberg、バークレイズ・リサーチ)
【補足】スプレッドとは
- スプレッド: 企業が資金を借りるときの金利が、国債の金利より何%高いかを示す差分です。図の縦軸にある「bp」はベーシスポイントの略で0.01%を表し、100bpなら1%にあたります。
- 拡大が意味すること: 貸し手がその企業のリスクをより高く見積もっているということです。株価が動く前に、債券市場の側で警戒が現れることがあります。
- 図の2枚の違い: 左は信用力の高い投資適格のハイパースケーラー、右は信用力の低いハイイールドのデータセンター・ネオクラウド企業です。どちらも6月以降に拡大しています。
設備投資が鈍化するのは2028年という見立て
市場が織り込み始めるのは来年
筆者は、AI投資というテーマに問題が生じ始めるのは、設備投資の伸び率が劇的に鈍化したときだと考えています。それは2028年の出来事に見えます。つまり市場は来年からそれを織り込み始めるということです。
この結論は、現時点で公表されている投資計画に基づいています。ただしこれは変数です。ハイパースケーラー各社が、この水準の支出に伴うフリーキャッシュフローのマイナスと必要な債務が最適ではないと、この時間軸より前に判断する可能性があるからです。
したがって、AI関連の比率を高めている投資家にとっては、椅子取りゲームのような状況に感じられます。

(出典: Bloomberg)
【補足】ハイパースケーラーとフリーキャッシュフロー
- ハイパースケーラー: 大規模なデータセンターを自前で運営する企業群を指します。この図ではAmazon、Alphabet、Meta Platforms、Microsoft、Oracleの5社です。
- フリーキャッシュフロー: 営業活動で稼いだ現金から設備投資を差し引いた残りです。設備投資が大きすぎると、利益が出ていてもこれがマイナスになります。
- なぜ2028年なのか: 現在公表されている投資計画を積み上げると、支出の伸びが頭打ちになるのがその時期にあたる、という読みです。市場は実際に起きる1〜2年前から織り込み始めるのが通例です。
鈍化は半導体・メモリー・インフラへ波及する
クラウドの40%成長が支えになっている
最終的に、持続不可能な水準からの支出の頭打ちとその後の減少は、半導体とメモリーの供給企業、そしてインフラを提供する企業へと跳ね返ってきます。この1年で最も強いトレードだった領域です。
ただし、AIモデルが利益を生み出せるようになり、ハイパースケーラーがこれらの投資は賢明だったと、売上と利益の成長率の改善によって証明できるのであれば、セクター内でもう一度ローテーションが起こる展開もありえます。
現時点では、Microsoft(MSFT)、Amazon(AMZN)、Alphabet(GOOGL)といった企業のクラウド収入は40%のペースで成長しており、これが支出を正当化しているように見えます。
もしこの成長率が鈍化し始めれば、S&P 500(SPY)において大幅な調整、あるいは弱気相場につながる可能性があります。 これが今後の強気相場にとって最大のリスクである、というのが筆者の見立てです。